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即死チートが最強すぎて、異世界のやつらがまるで相手にならないんですが。 作者:藤孝剛志

第7章 ACT1

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6話 インフィニティシールド! 盾を無限に呼び出せる力よ!

 ビビアンが先を行き、その後ろを夜霧たちは歩いている。

 いつの間にか、夜霧たちは山の中を歩いていた。


「結構遠いね。向かってるのってビビアンの住んでる街なんだよね?」

「走ってきたぐらいだから近いのかと思ってた」


 勾配は緩やかでそう高い山でもなさそうだが、先行きがわからないのは少しばかり辛かった。


「タカトーヨギリ反応を見つけて、つい張り切っちゃっただけよ!」

「そのタカトーヨギリ反応ってのはどんな感じなの?」


 何度も出てくる珍妙な言葉について夜霧は聞いた。


「目をつぶるとね。あんたがいる方向にぼんやりと紫っぽい色が見えるの。それが濃く、はっきりしてるほど近くにいるってわけ」


 そう言ってビビアンは目をつぶって立ち止まった。実演するということだろう。

 夜霧はそっとビビアンの周りを回ってみた。

 ビビアンは目をつぶった状態でも夜霧を追い続けた。


「どう? あんたはもう私から逃げられないんだからね!」

「それも神から与えられた力なのか?」

「ええ! 使徒に与えられる特別な恩寵とは別に基本的な力として、タカトーヨギリ反応は与えられているわ!」

「使徒っていわれると、何人もいるようなイメージなんだけど」


 ビビアンが言う使徒とは関係ないかもしれないが、夜霧は十二使徒を思い浮かべた。


「ええ! 何人いるかは知らないけど、私だけじゃないのは確かね!」


 ――こんなのが何人もいて、つきまとってくるのか?


 元の世界でも命を狙われることは多々あったが、ここまで簡単に居場所を掴まれてしまったことはない。

 しかもそれが神の力だなどというのなら、簡単に逃れる術はないのだろう。

 実に面倒な話だった。


「その力っていつからあるの?」

「今朝、いえ昨日の夜? 夢の中にマルナリルナ様がおいでくださったの! そして、タカトーヨギリという極悪人がこの地へとやってくることをお知らせくださったのよ!」

「……ってことは、その力を持ってる奴は、この国の奴らだけってことなのか?」

「タイミング的にはそういうことやもしれんな」

「しかし、なんだって急に神とやらに目を付けられたんだ?」

「……それは……日頃の行いが神様の目に余ったってことなんじゃ……」


 知千佳が、残念なものを見る目で夜霧を見ていた。


「まあ、殺した中には信徒もいたのかもしれないし、それが神様の気に障ったってことはあるのか」


 しかし、それならば神とやらが直接天罰でも与えればいいだろう。使徒に力を与えて差し向けるなど、随分と回りくどいやりかたに思えた。


 ――あるいは、俺の力を警戒しているのか?


 力を与えられた使徒が向かってくるだけなら、夜霧の力は直接神にまでは届かない。

 それをわかっていて回りくどいことをしているのなら、ますます面倒な相手だった。


「けど、極悪人呼ばわりしてる割には、俺と一緒にいても余裕ある感じだな」


 それが不思議だった。

 神に名指しされるぐらいの極悪人だというなら、夜霧をもっと恐れてもいいはずなのに、自分が犠牲になることはないと確信しているようなのだ。


「だって、何が相手だってへっちゃらなんだから! 各種耐性をとりそろえてるし、どんな攻撃でも跳ね返せるんだから! あ、盾だけのことじゃなくて、私の体自体がもう無敵みたいなもんなのよ!」


 よほど自信があるのか、ビビアンはふんぞり返っていた。


「で、どうなの? 高遠くんの力は通用するの?」

「さあね。試してみるまでわからないよ。まあ、通じなかった相手はこれまでにはいなかったけど」


 知千佳が耳打ちしてきたので、夜霧も小声で返した。


「しかし……随分とだらけた様ね、タカトーヨギリ! この程度の山を登るぐらいで息が上がるなんで、たるんでるんじゃないの!」


 言われて見てみれば、疲れている様子なのは夜霧だけだった。

 知千佳はもともと体力があるようだし、もこもこの操る槐はロボットなので疲れ知らずだ。


「仕方ないだろ。現代人は日常生活の中で山を登ったりしないんだよ。あ、もこもこさんはロボットなんだから疲れないだろ。俺を背負うってのはどうかな?」

「絵面が酷いことになるよ、高遠くん」

「まったく……仕方がないわね。私の盾を貸してあげるわ」

「え、ごめん。意味がわからない」


 杖でも貸してくれるなら使い道もあるが、盾をどう使えばいいのかさっぱりわからなかった。


「あの、それってどこからでてきたの? さっきまで持ってなかったよね?」


 言われてみればビビアンはいつの間にか盾を持っていなかった。


「ふふっ! インフィニティシールド! 盾を無限に呼び出せる力よ!」

「その、なんにでもシールドってつけときゃいいやって感じ、壇ノ浦流にもあるよね……」

「こんなのと一緒にしないでもらいたいのだが」

「で、盾が山を歩くのにどんな役に立つんだよ?」

「投げて飛びのればいいのよ!」

「アホなの!?」


 知千佳があまりにストレートにつっこんだ。


「失礼な! マルナリルナ様による使用例にもあったのよ! 見てなさい!」


 ビビアンは盾を投げると、それに素早く飛び乗った。

 それだけの機動力があるのなら走った方がいいのではと思えるぐらいの身体能力だ。

 盾は勢いよく前へと進んでいき、しばらくして同じ勢いで戻ってきた。


「あぁ! ブーメランシールドの能力が発動するから戻ってきちゃうんだった!」


 夜霧たちの許に戻ってきたビビアンは頭を抱えていた。


「ええと……」


 夜霧は言葉に詰まった。


「あやしい人だからちょっと警戒してたんだけど、今のところ、脅威は感じないかな……」

「油断はできないけどね」


 ビビアンそのものに脅威はなくとも、その背後にいる何かは軽視できなかった。


「……いや? 足にシールドを装着して、車輪みたいに回転させれば……」

「盾の有効活用はおいといてさ。街にはどれぐらいでつくの?」

「この山を越えればすぐよ」

「もっと近くに街はなかったの? 畑とかあったからあれを手入れしてる人たちが近くにいたんじゃ」

「あるけど、極悪人を余所の街に連れていくなんて無責任なことできないわ!」

「どこでもよかったんだけどな……まあ、情報収集が目的だから、とりあえずはビビアンに聞いてみるか」

「なに? 私の情報を収集して、どんな悪事に使おうっていうの! 変態!」

「あんたそのものにはなんの興味もないよ」

「それはそれで失礼極まりないわね!」

「俺が聞きたいのはこの国についてだよ。ここは国全体のどの辺なのか、首都はどこなのか、皇帝はどこにいるのか」

「そんなこと知ってどうするの? まさか帝都に行って皇帝でも暗殺しようってんじゃないでしょうね!?」


 これまでの経緯を考えれば、皇帝である賢者ヨシフミと戦いになる可能性は高いだろう。

 夜霧はすぐに反論できなかった。


  *****


 エント島は東西に細長い形状をしていて、大きくは二つの地域に分かれている。

 東エントと西エントだ。

 元々はその境目ははっきりとしたものではなかったが、賢者ヨシフミがやってきてからその境界は一目瞭然のものとなった。

 島の中央部分に大断裂とでも言うべき亀裂が発生したのだ。

 なので、西と東を行き来する方法はごく限られたものとなった。

 現在の帝都は東エントにあり、夜霧たちは西エントの南側にいるとのことだった。

 ヨシフミがやってきて、エント帝国皇帝を名乗りだしたのは十年ほど前のことだ。

 それまでは、一つの王家がこの地を支配していたが、ヨシフミに敗れその地位を失った。

 それまでこの地で暮らしていた人々のほとんどは、西エントに追いやられたらしい。

 東エントは、西側の民に言わせれば蛮族どもの住み処になったとのことだった。


「だから、私たちはエント帝国なんて認めちゃいないわけなのよ!」


 再び山登りを続行しつつ、ビビアンがこのあたりの事情について簡単な説明を行っていた。


「そんな雰囲気なら、皇帝が死んだら大喜びなんじゃないの?」

「……それもそうね! いや、けど、大悪人に革命を進められるのも問題があるような……」

「まあいいや。西と東を行き来するのが難しいってことだけど、難しいだけで方法が皆無ってわけじゃないんだよね?」

「亀裂があっても、海を行けば簡単なような気がするんだけど」


 知千佳が指摘する。確かに陸路が無理でも海路を行けばいい。


「このあたりの海は巨大海洋生物の巣窟よ。船なんて出したらすぐに沈められるわ!」

「それは倒してきたんだけど……」


 知千佳はどう言ったものかと迷っているようだった。


「まあ、海流の関係で、我が作る船では脱出は厳しいやもしれんな」


 触丸で作り出せる動力では海を自在に移動するのは難しいとのことだった。

 西エントでは海の存在は無視されているため船もろくに存在しないらしい。


「亀裂って、島を真っ二つにしてるのか?」

「いえ。島の中央部だけね。けど、北には山脈が。南にはエルフの森がある。どちらを行くにしても困難な道のりであることは間違いないわ!」

「山は嫌だな……」


 大した勾配でもない山で疲労困憊している夜霧だ。本格的な登山などできる気はまるでしなかった。


「ここってエルフがいるの!?」

「やけに反応するね」

「だってエルフだよ!? ファンタジー的な存在としては王道な感じじゃない! 最近、そーゆーのみてないなーって思ってさ!」

「そうか? 色々出てきてた気はするけど」


 ゾンビや、獣人や、吸血鬼とは遭遇している。だが、知千佳にとってエルフは別格の存在なのだろう。


「で、エルフの森はなんで駄目なの? 我らが神聖な森に立ち入るな、人間どもめ! みたいなノリなのかな!」

「もしかしてエルフ好きなの、壇ノ浦さん?」

「ゲームのキャラメイクで種族が選べるなら、エルフ一択ってぐらいには」

「そんなことを言うのかは知らないけど、基本、森に入れば殺されるわね。興味本位で向かっても命からがら逃げ帰るのが関の山よ。森を抜けて東に行けたって人の話は聞いたことないし。ほいほい通過できるなら、私たちはもっと東側に攻勢かけてるわ」

「……まあ、山よりは森か。どっちも辛そうだけど平地な分ましだろうし」


 それに今いるのは南側らしいので、森に行く方が近いだろう。


「タカトーヨギリ! あんた話聞いてたの!? 危険だって言ってるでしょ!

「俺がどんな危険な目にあおうと、ビビアンには関係ないだろ? 何もしない俺には手がだせないなら、どこかで野垂れ死んだ方が都合よくないか?」

「だから! 勝手に死なれちゃ困るのよ! 私が倒さないと!」

「やけにそこにこだわるね」

「それは――」


 ビビアンが言いかけたところで、山頂付近に到着した。


「ほら! ここをくだればすぐよ! もう街も見えて……なにこれ!」


 確かに街が見えている。

 そして、その街から煙が立ち上っていた。


「火事……かな?」

「日常生活で発生する規模の煙とは思えないな」

「タカトーヨギリ! まさかあんたの仕業なの!? よくもみんなを!」

「なんで、よく知りもしない町を、見もしないうちから攻撃しなきゃいけないんだよ……」


 最初のうちはちょっと面白いと思っていたが、これからもずっとこの調子でつっかかられるのかと思うとうんざりしてくる夜霧だった。

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