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即死チートが最強すぎて、異世界のやつらがまるで相手にならないんですが。 作者:藤孝剛志

第7章 ACT1

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5話 ミジンガクレ! マンセンシュウカイ! イヅナオトシ! ヘンイバットウカスミギリ!


 諒子にはこの世界に適応して生きていくという選択肢もあり、それは十分に魅力的なものだった。

 なにせ実家は時代錯誤も甚だしい忍者の一族であり、高校生とはいってもまだ子供である諒子を命の危険のある特殊任務に放り込むような人でなしの巣窟なのだ。

 元の世界に戻ったところで幸せな人生を送れるとはとても思えない。

 全てを放り出して逃げたとしても、抜け忍として地の果てまで追われることになり、安息の日々が訪れることはないだろう。

 だが、この世界でなら話は別だ。

 実家の手が届くことはないし、忍者の掟だなどといった旧態依然のしがらみから解き放たれる。

 自分の意思で自由に生きていくことが可能なのだ。


 ――そうは言ってもここはあまりにも危険すぎる。


 結局のところ、諒子が元の世界に戻ろうと考えるのは身を守るためだった。

 元の世界にも危険はあるだろう。だが、それは諒子にとって、忍者にとっての常識の範囲内で発生する危険だ。

 この世界のように、賢者やアグレッサーや魔神などという常軌を逸した化け物の危険性とは違いすぎている。

 もちろん元の世界にも高遠夜霧のような化け物が存在していたわけだが、それらは表向きには隠蔽されていて一般人はそんなことはなにも知らずに毎日を過ごしている。

 実態が同じだったとしても、それが公になっているのといないのではまるで違うことだろう。

 公になっていないのなら、それらに関することが闇から闇へと葬られているのだとしても、最大限それらを隠そうとする圧力が世の中すべてにかけられているということだ。

 少なくとも、人をゴミのように思っている賢者が大手を振っていられる世界ではない。この違いは大きかった。


 ――問題は帰れたとしても、ここでのことをどう説明するかですが……。


 ありのままを説明したところで信じてもらえるかどうか。


「ナルヨウニナルンジャナイデスカネ?」


 考え込んでいると、隣を歩くキャロルが片言で言った。


「帰ったらどうしようかなー? みたいなことでしょ? ああ、私も同じようなことを考えてただけで、心を読んだとかじゃないよ?」


 驚いたことが顔に出たのだろう。キャロルが補足した。


「でしょうね。そんな力があるなら見せびらかす必要がありませんし」


 深夜。

 諒子とキャロルは、元は闘神都市であり今は半魔の拠点となっている街を歩いていた。

 旅の準備を整え、街の外へと向かっているところだ。


「もし帰れたんなら、正直に全部言っちゃえばいいのよ。隠したところでさ、どうせ自白させる方法ぐらいあるわけでしょ? だったら下手に隠そうとすると印象悪くなるじゃない」


 忍者は古より諜報機関としての活動を行っている。

 当然、尋問の術に長けており、対象から情報を引き出す様々な手を持っていた。


「微妙なところですね。自白させる方法に長けているのは当然なのですが、身を守る手法にも長けているわけですから」


 忍者が他の組織に捕らえられることは想定内のことだ。

 その際に機密情報をぺらぺらと喋ってしまっては話にならない。当然、拷問の類から情報を守るための訓練も受けていた。

 なので、正直に全てを伝えたとしても、忍者たちは疑いに疑うだろう。

 異世界に行っていたなどと、正気を疑うようなことを言えば洗脳でもされているのかと思われ、尋問は苛烈なものになるはずだ。


「だったらうちに来る? うちはゆるい感じですよ? 私の任務も高遠くんの監視だけど、そっちみたいに見失っても切腹させられるって感じじゃないですから」

「忍者は切腹なんてしませんよ」

「オー! そうなんですか?」


 だが、諒子の任務は高遠夜霧の監視と安全の確保だった。

 異世界にいきなり転移するなど予見できるわけがないのだが、結果として夜霧は失踪してしまったのだ。

 そばにいた諒子が無罪放免で済むわけがない。なんらかの処罰がくだされるはずだった。


「本物の忍者ならみんな大歓迎ですよ? ミジンガクレ! マンセンシュウカイ! イヅナオトシ! ヘンイバットウカスミギリ!」

「キャロルの組織はなんなんですか?」

「入ってくれるなら教えるよー?」


 なんとなくキャロルの所属しているのは米国の諜報機関関連かと思っていたが、そうとも言い切れない。

 だが、今知ったところでたいした意味もないだろう。

 通りを歩いていくと、門が近づいてきた。

 この世界の街は基本的に城壁で囲まれていて、夜には門が閉ざされる。

 なので、このまま門を通って外へ出ていくことはできない。


「そもそも、夜に出ていく必要があるんですか?」

「あれこれ準備してたら夜になったからってのあるんだけど、一晩ぐっすり眠って、夜明けとともに旅立つってニンジャらしくないじゃないですか?」

「いいですけどね。城壁ぐらいはどうということもないですから」


 ちょっとした忍具を使えば城壁をよじ登る程度は造作も無いし、この世界に来てギフトを得てからは身体能力が向上しているので飛び越えるのも簡単だった。

 どうするかは城壁に近づいてから決めようと考えていると、門の側に人の姿が見えた。


「ちょっと! あなたたちはどうして誰も彼も黙って出ていこうとするんですか!」


 まだ幼い少女と、褐色の美女。

 リズリーとエウフェミアだった。

 リズリーは賢者レインの分体で、エウフェミアは吸血鬼でもあるレインに吸血されて眷属になった半魔の女だ。

 諒子たちは、彼女らの事情についてはぼんやりとしか聞かされていないが、現在も二人は主従関係にあるらしい。


「特に親しいわけでもないですし、出ていくのは勝手かと思うのですが」


 少しばかり一緒に行動しただけだし、どこに行くにしてもリズリーや半魔に断る必要はないと諒子は思っていた。


「そうですけど!」

「あなたたちも夜霧さんを探しに行かれるのですよね?」


 リズリーは頬を膨らませていたが、隣のエウフェミアは冷静なものだった。


「そうですが、ということはエウフェミアさんたちも。ということですか?」

「ええ。リズリー様がどうしても高遠さんを探しにいくとおっしゃるので」

「なるほどね。で、ここにいるということは私たちを待っていたんだよね?」


 一応は気配を消してこっそりとここまでやってきた諒子たちだが、エウフェミアは吸血鬼だ。

 人間にはない超感覚で諒子たちの動向を感じ取ったのだろう。


「はい。協力できたほうがなにかと便利かと思いましたので。夜霧さんたちの行き先をご存じなんですよね?」


 諒子とキャロルは顔を見合わせた。

 どう答えるか。この二人と同行するべきか。

 諒子は構わないだろうと考えた。

 彼女らに裏はないはずだ。リズリーは夜霧に会いたいだけだろうし、エウフェミアはその意思を尊重しているだけのことだろう。

 ギフト持ちが二人いればこの世界を旅するだけならどうにでもなる。だが、何が起こるかわからない世界だ。吸血鬼のような強力な存在が味方にいればなにかと便利ではあるだろう。

 キャロルも同意見なのか、軽く頷いた。


「はい。具体的な目的地まではわかりませんが、距離と方角はだいたいわかります」


 諒子は、夜霧たちが東へと向かっていることを告げた。


「高遠さんたちは、賢者のもとに向かっているんですよね?」

「賢者の石を求めていると聞いています。もしかして、エウフェミアさんには賢者の居場所に心当たりが?」

「残念ながら、ごく一般的なことしかわかりません。東であればすぐに思いつくのは、エント帝国の賢者ですが」


 エウフェミアはレインの記憶の一部と力を受け継いでいる。

 だが、それはあくまで吸血鬼としてのレインの記憶と力だ。

 賢者に関する記憶はブロックされているのか、ひどく曖昧なものでしかないとのことだった。


「高遠くんたちが持ってる情報も似たようなものだとしたら、次の目的はエント帝国を支配する賢者ヨシフミってことよね」


 この街にくるまでに得られた情報で考えればそんなところだろうと諒子も考えていた。


「高遠さんたちがすでに船でエント帝国に向かっているとすれば……追いつけないかもしれませんね。エント帝国行きの船はあまり出ていないのです。次の出航は何日後になることか」

「あー、もうちょっと急いで追いかけた方がよかったかなー」


 だが、なんの準備もなしに追うわけにもいかなかった。すぐに追いつける保証もなかったし、旅が長くなる可能性があるなら最低限の物資の用意は必要だったのだ。


「なので我々には移動手段が必要でしょう」

「んー。この世界で移動手段っていっても馬車ぐらいしか思いつかないんだけど、なにかあるわけ?」


 一時期、夜霧たちは装甲車を利用していたらしいが、それはこの世界においてかなりの例外だ。

 入手できる可能性は極めて低い。


「レインは世界の各地に隠れ家を持っていました。そこに転移装置があると、レインの記憶は言っています」

「え! 初耳なんだけど! だったら私たちの旅っていったい!?」


 リズリーが驚いていた。


「リズリー様が最初におられた屋敷は念入りに秘匿されていましたので、他の屋敷と行き来できる転移装置はあえて設置されていなかったようですね」

「そうなんだ……」

「それに隠れ家はどこにでもあるわけでもありませんので、こちらの思惑通りに移動できるとも限りませんから」

「この近くにもあるわけ?」

「はい。まっすぐ港へ向かうよりは遠回りになりますが。そこからエントへと転移できる可能性がありますから、立ち寄る価値は十分にあるかと」

「そうですね。このまま追ってもすぐに追いつけるわけではないなら、一度そちらを確認してみるのもいいかもしれません」


 転移と言われても俄には信じがたいが、賢者シオンは自力で瞬間移動のような技を使っていた。

 この世界でならそれはありえるのかもしれない。


「夜霧さんも、逃げるように出ていかなくても、私たちに相談してくれていれば……」


 そうすれば皆で簡単にエントに行けたのかもしれない。

 リズリーはそう思ったようで、諒子も同感だった。


「よっぽどリズリー様から離れたかったんでしょう」

「そ、そんなことないもん! 夜霧さんは賢者の石が優先だっただけだから!」

「でも、その賢者の石は元の世界に帰るために使うとか。そうなると二度と会えなくなるわけですし、ということは高遠さんはリズリー様のことをどうでもいいとお考えのような」

「言わないで! 立ち直れなくなるから!」

「二人って主従関係? なんだよね?」


 キャロルが不思議そうに聞く。

 エウフェミアは案外容赦がなかった。

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