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即死チートが最強すぎて、異世界のやつらがまるで相手にならないんですが。 作者:藤孝剛志

第7章 ACT1

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4話 ちょろすぎて不安になってくる子だな!

 ビビアンは、根っからの悪人というわけではなさそうだが、神とやらの言葉を鵜呑みにして自分のしていることの是非は深く考えていないようだった。


 ――苦手なタイプだな……。


 襲ってくるなら返り討ちにするしかないが、こういった裏がなさそうで能天気な相手を殺してしまうのはどうにも気が引ける。そう夜霧は感じていた。


「世界を脅かしてるって点を否定はできないけど、俺が何者かとか知ってるの?」


 問答無用というわけでもなさそうなので、夜霧はとりあえず話をすることにした。

 神の啓示を受けたようなことを言っているし、夜霧を探す方法もあるらしい。

 できるだけ情報は引き出しておくべきだろう。


「ろーにゃくなんにょ関係なく、なんでもかんでも殺しちゃう大量殺人鬼でしょ?」

「それだけ?」

「それだけって! あんたが始末されるには十分な罪状でしょうが!」


 夜霧の即死能力を伝えずに、始末を命じているのならひどい話だった。

 何の対策もなしに夜霧に立ち向かうなど、自殺行為でしかない。


「俺が殺人鬼だとして、その証拠は? あんたは俺が人を殺してるところでも見たっていうのか?」

「……ほんと、しれっとゆーよなー高遠くんは……」


 知千佳が呆れたように言うが、夜霧としては心外だった。

 確かに人を殺しているが、それは突然現れたビビアンとは関係のない話であり、彼女に断罪されるいわれなどない。


「証拠も何も、マルナリルナ様がおっしゃるんだから、ひゃくパー真実じゃない!」


 マルナリルナ。

 マルナリルナ教の主神であり、この世界で最も有名な神の名だった。

 マルナリルナ教は宗教組織としての規模は枢軸教会に次ぐ二位の立場だが、枢軸教会は世界の中心に存在するとされる巨大な柱を崇める宗教団体であり、意思や感情を有する神を崇めているわけではない。

 なので、マルナリルナはこの世界で最も多くの人々が崇拝する神であり、その神託があったのならば信者でなくともその内容を疑いはしないだろう。


 ――そいつが本当に神なのかとかは疑ってもしかたがないか。


 信仰心の問題には踏み入ってはいけないような気がして、夜霧はそれ以上問いただすのはやめた。


「それにタカトーヨギリ反応があるから人違いなわけもないし、疑いようがないんだけど?」

「いやいやいや! さっき思いっきり人違いしてたよね!?」


 我慢できなかったのか、知千佳がツッコんだ。


「しかたないでしょ! 反応が大雑把なんだから! けど、他の人たちが死んだのに反応が残ってて、男はこいつ一人なんだから消去法でこいつがタカトーヨギリなわけよ!」

「それで、始末ってのは具体的には俺を殺すってこと? その割にはぐだぐだやってるようだけど?」

「ふん! 私はあんたみたいな殺人鬼じゃないんだから、何もしてない相手を一方的に殺したりできるわけないでしょ!」

「馬車は吹っ飛ばしてたよね!」

「あ、あれは、私に対する攻撃とも言えるでしょうが! さあ! かかってらっしゃい! 私のこの盾がどんな攻撃も受け止めて跳ね返してあげるから! タカトーヨギリ! あんたは自分の力で死ぬのよ!」

「やだよ」

「な、なんで!?」

「俺だって、攻撃してこない人に力を使ったりしないよ」

「……あー、どっちも攻撃しないなら、お開きってことでいいんじゃないかな?」


 知千佳が呆れたように言った。


「そんなわけにいかないわ!」

「じゃあどうするつもりなんだよ?」

「それは……あんたがなんの罪もない人を殺そうとした時に、わりこんで妨害するのよ! そう! これなら人の命を守れるし、同時に殺人鬼の息の根も止められるって寸法よ!」

「随分とまわりくどいな。じゃ、今俺をどうこうするつもりはないってことだな?」

「そう言われれば!」

「すさまじいまでのぐだぐだっぷりよの」


 もこもこも呆れていた。


「おいおい、何をもめてんだよ?」


 とりあえず放っておいてもいいのだろうかと夜霧が考えていると、男の声がした。

 すっかり忘れていたが、馬車の荷を物色していた男たちの作業に一段落がついたのだろう。道端で騒いでいる夜霧たちに注目する余裕ができたようだ。

 ビビアンが生き返らせた、柄の悪い男たちが夜霧たちのところへとやってこようとしていた。


「へへっ。行きがけの駄賃ってのはこのことか。若い女が三人もいやがるぜ」

「うん、なんのひねりもなく悪党が馬車を襲ってただけなんだね!」

「俺は可能性を提示しただけだよ」


 なんとなく批難されているような気がして、夜霧は言い訳めいたことを口にした。


「どうする?」

「多分襲ってくるんだろうし、そしたら反撃するしかないんだけど」


 その場合、ビビアンが割り込んでくるのだろう。

 夜霧の力は、夜霧が対象としたものにしか効かないはずだが、能力発動時に割り込まれた経験はない。対象とした相手が死ぬことは確信している夜霧だが、巻き添えで殺さない自信はなかった。


「男はどうするよ?」

「連れてくだけ無駄だろ」

「だったらさくっとやっとくか!」


 殺意が膨れ上がる。

 それは死の可能性だ。夜霧は相手が何を考えているのかを読めるわけではない。

 だが、夜霧を殺そうと相手が考え、行動に移そうとすることによって死の確率が変動することを察知することができる。それを黒い靄や線のように見ることができるのだ。

 しかし、男の一人から伸びた死の線は夜霧の横を通り抜けてかすりもしていなかった。

 つまり、男の攻撃は外れる。

 殺意を向けられているのだからとりあえず殺してもいいのだが夜霧は少しばかり躊躇った。

 それではビビアンの思惑通りになるからだ。

 なので夜霧は様子をみることにしたのだが、なのにビビアンは動いた。

 夜霧と男の間に入り込み、男の投げたナイフを盾で弾いたのだ。

 ナイフは、投げた男の胸を貫通した。背後にいた男をも貫いて地平の彼方へと飛んでいく。

 男の投げたナイフにここまでの威力があるようには思えなかったので、食らった攻撃を増幅して相手に返すような能力なのだろう。


「タカトーヨギリを倒すのはこの私よ! あんたらなんかお呼びじゃないわ!」

「後で仲間になる少年漫画のライバルみたいなこと言い出したよ、この人!」


 さすがに男たちもこれ以上絡もうとは思わなかったのだろう。

 生き残った三人は慌てて逃げ出した。


「で? 俺は反撃でしか力を使わないんだけど、あんたが俺を守ってしまうなら俺は力を使う機会がないし、あんたの目的は達成できない気がするんだけど?」


 揶揄するつもりはなく、純粋に疑問に思えたので夜霧は聞いてみた。


「で、でも! あんたは極悪人なんだから、いつか人殺しの性を抑えきれなくなって、その本性をむき出しにするはず!」


 どうしたものかと夜霧は考えた。

 今のところは襲ってくるつもりはなさそうだが、どこに行っても付いてきそうだ。夜霧の位置をなんとなく把握できるらしいので、撒くのも難しい。


 ――まあ、害がないなら付いてきたっていいのか。


 どうせなら利用しようと夜霧は考えた。


「ビビアン。ここはエント帝国なのか?」

「さあ? どこからどこまでが帝国なのかは知らないけど、この島にあることはあるわね」

「このあたりに街とかある? あるなら連れてってくれよ。俺たちはこのあたりのことわかってないから、人がいるところがどこかわからなかったんだ」

「はぁ? なんで私があんたの道案内なんてしなきゃなんないのよ!」

「でも、俺が本当に殺人鬼なのかどうかは人がいるところに行かなきゃわからなくないか? ここでにらみ合ってたところで、俺は誰も殺したりしないけど?」

「そ、それもそうね。いいわ! 連れてってあげる!」

「ちょろすぎて不安になってくる子だな!」


 ビビアンは扱うのは実に容易かった。

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