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即死チートが最強すぎて、異世界のやつらがまるで相手にならないんですが。 作者:藤孝剛志

第7章 ACT1

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2話 元の世界に帰るには賢者を倒して賢者の石を得る必要があると思っていたが、そんなことはなかったぜ!

 日本や中国で描かれる龍は、様々な動物を混ぜ合わせたキメラだ。

 駱駝の頭部に鹿の角、蛇の体に鯉の鱗、虎の掌に鷹の爪などの特徴をもつのだが、降龍の龍身はそれをほぼ踏襲していた。

 そんな降龍は二人の人間と一体の機械人形を乗せて海の上を飛んでいる。高度はそれほど高くはなく、海上数メートルといったところだ。

 沈みゆく船から脱出した夜霧たち一行だった。


「なんか、こんな日本の昔話なかったっけ?」


 二番目に座る知千佳が聞いた。


「たつのこたろう、かな?」


 先頭に座る夜霧が答えた。


「それ! あれさ、太郎なの? 小太郎なの?」

「言われてみればどっちでもありなのか」

「小太郎だろう。泉の小太郎の逸話を聞いたことがある」


 一番後ろに座る槐が言う。もちろん、その体を操作しているのはもこもこだった。


「あのアニメのオープニングで龍に子供がまたがって飛んでるでしょ? あれ、どんな感じなのかなーって思ってたけど、あんまり乗り心地いいもんじゃないね」

「そりゃね。鱗がチクチク、痛いし」

「跨がるには微妙に大きいしさ」

「俺、どうせ乗るなら西洋型の方がよかったよ。あっちだと、ドラゴンライダーっぽいだろ? こっちなんてほぼ蛇だし。翼もないからどうやって飛んでるかも謎だしさ」

「まあ、それを言うなら小僧がこの世界にきて最初に倒したワイバーンか。あれも、構造的には空を飛べるのか怪しいものだぞ? なんらかの不思議パワーの補助は受けておるはずだ」

「君らね! 乗せてもらっておいて文句が多すぎやしないか!?」


 ここまで黙っていた降龍が吠えた。


「そう言われてもな。どうせ不思議生物なら、乗り心地にもうちょっとステータス振ってもいいんじゃないか?」

「人を乗せるなんてことを前提にはしてないんだよ」

「人型から龍型に変身なんて無茶なことができるんだから、座りやすい形に変身するとか融通きかないの?」

「乗せてもらってる分際で要求が過大だな!」

「乗せてもらってるっていうか、俺たちが海に沈んだらあんたも困るんだろ? 賢者を倒してもらいたいんだよな?」

「別に……どうしてもってわけじゃない」


 降龍の歯切れは悪かった。


「賢者が死んだところで、今さら何が変わるわけでもない。賢者が死ぬのを見たいってのは、ただの憂さ晴らしにすぎないんだよ」

「まあ、俺たちは勝手に賢者の石を集めるけどな。その過程で賢者がどうなるかは知ったことじゃない」

「そういえば、別の帰還手段があるみたいなこと言ってませんでした?」


 思い出したのか知千佳が聞く。

 確かにそんなことを言っていたと夜霧も思い出した。


「あるよ。その方法なら別に賢者を倒す必要も無いし、賢者の石も集める必要は無いね」

「マジで!? てことは、元の世界に帰るには賢者を倒して賢者の石を得る必要があると思っていたが、そんなことはなかったぜ! ってことなの!」

「まるでどこかの打ち切り漫画のような展開だな」

「もちろん、僕は賢者を倒してほしいんだから、すぐに教えたりはしないけどね!」

「おい!」

「いや、別に意地悪で言ってるわけじゃない。おそらく賢者の石を集める方が簡単なんだ。だからそれで済むならその方がいいと思うし、第一僕の言うことが本当なのか確証なんてないだろう?」

「うーん、それはそうなんだけど……」

「だから、君たちは今まで通り賢者を倒していってよ」

「賢者を倒すと世界が危ういとか言われたのに?」

「あははっ。あれは失敗したなぁ」

「こいつの言うことは話半分に聞いとけばいいんじゃないかな。確かにこいつに全幅の信頼をおくわけにもいかないから、俺たちは俺たちで帰還の方法を探すしかない」

「まあ今は、とりあえず陸地までは連れていってくれるって信頼するしかないけどね」


 降龍は、船が向かっていた方向へと進み続けていた。


  *****


「で、これ、本当に目的地に向かってるの?」


 船を脱出してから半日ほどの時間が経っている。

 空を飛んでいるなら船よりは速いはずだろうが、それでもあたりの光景に変わりはなかった。

 陸地はまるで見えず、海ばかりが広がっているのだ。


「知らないけど?」


 降龍があっさりと答えた。


「おい!」

「とりあえずは船が進んでいた方に進んでいるだけさ」

「船はエントへと向かっていたわけだから、間違えておるわけではないが……」


 だが、船がまっすぐに東の島国であるエントへと向かっていたとは限らなかった。


「東はどっち!? あ、太陽を見ればいいのか! って曇ってるんですけど!」

「いや、太陽が見えても、それで方角がわかるのかな? 俺たちこの世界での太陽と方位の関係を知らないだろ?」

「ああ! 当たり前に太陽が昇ってくるのが東だと思ってたけど、そう決まってるわけでもなかった! そのあたりどうなの、降龍さん!」

「ん? 太陽が昇ってくる方角って決まってるの?」

「駄目だ、この人!」

「高度を上げれば陸地は見つかるんじゃないのか?」


 降龍は海の上、数メートルの高さを飛んでいた。

 障害物は何もないのであえて高度を上げる必要はないが、これでは遠くまで見通すことはできない。


「それは駄目だよ。高く飛びすぎると賢者の防衛網に引っかかるかもしれないからね」

「そういや、空を飛ぶと賢者の妨害を受けるって言ってたな。それって低けりゃいいって問題なの?」

「気休め程度の苦肉の策だけどね。見つかりにくくはあるんじゃないかな」

「これまで見つかってないなら大丈夫なんじゃないの?」

「どうだろう? エントに近づけばそこはヨシフミの管轄区域だ。今までみたいにいかない可能性もあるし」


 夜霧が賢者ライザを再起不能にしたため、ライザの管轄区域では飛べるとのことだった。ここまで無事だったのはそのためなのかもしれない。


「あ! じゃあ、もこもこさんが飛べばいいんじゃないのかな! 霊だから見つからないでしょ、多分。前にも上空に飛んで街を見つけたことがあったよね?」

「いや、高速移動中には無理なのだが。座標の問題で」

「使えないな!」

「お主、本当に祖先を敬う心がないな……」

「あ、だったら、降龍さんが速度を落とせばいいんじゃ?」

「遅くすると落ちるんだよ」

「こっちも使えないな!」

「だったら、もう止まればいい。触丸で船を作れるって話だったろ。一旦休憩ということにしてさ」


 触丸とはフレキシブルマテリアルの略だ。

 侵略者のロボットから手に入れた謎の物質で、形状を自在に変えることができる。それで船を作れるともこもこは言っていた。


「うん。それは可能だけど、今はそんなことをしてる場合じゃないね」


 夜霧の提案を、降龍はやんわりと断った。


「なんで?」

「空を見てごらん」


 夜霧たちは言われたように空を見上げた。

 曇りがちな天候だ。

 だが、雲の切れ間から光が伸びている。


「太陽? にしては……」

「なんか光ってる人が降りてきてる?」


 知千佳には見えたのだろう。

 しばらくして、夜霧にもそれが何かがわかってきた。

 翼を備えた人の群れ。武器を手にしたそれらが、夜霧たちの方へと降りてきているのだ。


「天使!?」

「そんな上等なものじゃない。神を気取る愚か者どもが作りあげた、ただの警戒防衛装置だよ」


 よく見てみれば、その表皮は光沢を放っている。全身を鎧で覆っているか、そういった材質で作られた何かなのだろう。


「たまたまピクニック気分で地上に降りてきただけで、私たちをどうこうするつもりはないとか?」

「見渡す限り海しかないここで、僕たち以外が目的である可能性は極端に低いだろうね」

「ですよねー! ってうわぁ!」


 降龍がいきなり進路を変更し、少し遅れて近くの海が派手な水しぶきを上げた。先程までいた位置に何かが落下したのだ。


「え?」


 知千佳の顔が驚きで固まる。


「ええええぇえ! うわ、ちょっと!」


 天使に似た何かは、手に持った槍を次々に投げつけてくる。

 降龍はそれを右に左にかわしはじめた。


「降龍さんって神様なんですよね!? こんなぐらいの攻撃はバリヤーみたいなので簡単に防御できるとかはないんですか!」

「バリヤーなら使ってるよ。君たちが風圧で吹き飛ばされたりしないのは僕が周囲の影響を遮断する結界を張っているからさ」

「でも、攻撃は食らっちゃう?」

「少々の攻撃ならどうにか。けど、これを食らうとやばいね」

「えーっと! 槍投げてるだけなら、投げ尽くせば攻撃は終わる……って、どこから出してんのあの槍!」

「曲がりなりにも天使もどきだ。物質創造ぐらいはやれるんだろう」


 天使もどきは、槍を投げた次の瞬間にはまた槍を手にしているのだった。


「と、これが続くときついので、夜霧くんになんとかしてもらいたいんだけどね!」

「まあ、何個かは当たる軌道みたいだし」


 夜霧に見える殺意の線が少しずつ集束しつつある。

 それは段々と精度を増していき、降龍を捉えはじめていた。


「死ね」


 夜霧はつぶやくように言った。

 途端に天使もどきは力をなくし、落下を始める。

 それらは海面に激突し、次々に水しぶきをあげはじめた。


「なんか前にも見たような光景……って! さっさとやってくれたらよかったのに!」

「そう言われてもな。降龍が攻撃をかわし続けて逃げ切れるなら、わざわざ殺す必要はないし」

「ふむ。結局高度は変えずとも奴らはあらわれた。ということは、高度を上げたところで問題ないのではないか?」


 もこもこが言う。天使もどきは殺し尽くしたので、今なら高度を上げてもいいはずだった。


「それもそうだね。それに奴らがあらわれたのは賢者の管轄区域に近づいたから。ともいえるかもしれない」

「……ってわりには高さ変わらないけど?」

「うん。僕もそろそろ限界だ。先程の高機動がまずかったね」


 高度は上がるどころか、下がり始めていた。


「え? これどうなるの!?」

「落ちるね」

「ちょっとぉ!」


 だんだんと下がっていき、降龍の腹が海面にふれるようになっていた。


「もこもこさん! 船! 船作って!」

「おう!」


 槐が口から黒い固まりを吐き出す。

 それは薄く広がっていき、船を形作った。そう大きなものではない、ボートのようなものが降龍の背に出現したのだ。


「ひどい絵面だな!」

「触丸は中にしまっておくのが手っ取り早いのだ! さっさと乗れ!」


 夜霧たち三人は、慌てて船に乗りこんだ。


「うん。僕はどうすればいいんだろう?」

「降龍さんは、人型に戻ったりできないんですか!?」

「飛びながらは無理だなぁ」

「行くぞ!」


 船が降龍の背から飛び出し、着水する。

 飛んでいた勢いのまま船は進んでいくが、降龍は体のほとんどを海中に沈めていて、ほとんど止まるようになっていた。


「降龍さーん!」


 振り返って知千佳が呼びかける。

 だが、降龍はそのまま沈んでいき、姿はすぐに見えなくなってしまった。


「え? どうなるの、これ!?」

「ま、元神様ならこれぐらい大丈夫なんじゃないか?」


 夜霧はそれほど心配していなかった。


「高遠くん、ドライすぎるな!」

「でも、どうしようもないだろ?」

「確かにね! ここは前向きに行こう! 降龍の可能性を信じて!」

「お主も切り替え早すぎないか?」

「正直、ぽっと出てきたうさんくさい人なので、心配し続けるほどでも……」

「彼の犠牲を無駄にしないためにも、俺らは陸地を目指そう。もこもこさん、空から見てきてよ」

「我が言うのもなんだが、この二人なんなのだ……」


 ぶつくさ言いながらも、槐から離れた霊体のもこもこが空へと飛んでいく。


『うむ! 陸地があったぞ!』


 そこが目的地であるエントなのかはわからないが、とりあえずはそこへと向かうことになった。

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