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即死チートが最強すぎて、異世界のやつらがまるで相手にならないんですが。 作者:藤孝剛志

第6章 ACT2

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21話 結構な蛮族ムーブをしとったので耳が痛い

 見える範囲にいる死霊は全て倒れていた。


「一応言っておくと、これらは全て死体が動いておっただけだ。まあ、小僧は気にせんのだろうが」


 だが、知千佳の罪悪感はその言葉で多少は和らいだ。

 死体がこれだけあるという時点で悲惨には違いないが、それでも夜霧は操られているだけの乗客を殺したのではないのだ。


「高遠くんの言ってた操られてるっぽいってこんなやつら?」

「どうだろう。ここまで死体が動いてます。って感じでもなかったな」

「これ、海賊を探してる場合なのかな……」

「ふむ。かと言って他にやりようも……そうだな。操舵室へ向かうか。先ほどおかしな放送があったが、海賊の首領の声だった気がする」


 首領の声である確証はないし、操舵室からの放送かもわからない。

 だが、大した方針もなく適当に部屋を見て回るよりは、一旦目的を定めた方が良いだろう。

 知千佳たちは操舵室に向かうことにした。

 途中、何度も死霊が襲ってきたが、夜霧が難なく返り討ちにした。


「死霊って馬鹿なの!? 学習能力ないわけ?」

「奴らにあるのは生への渇望と嫉妬だけだ。そもそも霊なんぞろくな思考能力もっとらんしな」

「もこもこさんはなんなんですかね」

「我は神霊にまで昇華しとるからな。記憶の永続性にも、演算能力にもなんら問題はない」


 しばらく歩き、船体中央部にある操舵室に辿り着いた。

 中に入ると、男装の女が仰向きで倒れていた。

 他には誰もいないので、船員は逃げ出したのだろう。


「この人だよ、海賊のボス」


 海賊たちにおかしらと呼ばれていた女なので、間違いないだろう。


「意識はあるみたいだな」


 夜霧がしゃがんで顔を覗き込むとにらみつけてきた。

 だが身体が麻痺しているのか、横になった状態から身動きはできないようだった。


「なんだ、てめえらは……」

「乗客だよ。この状況に困っててね。撤収して船が動くようにしてくれるとありがたいんだけど」

「はっ。このありさまの俺になにができるって?」

「もこもこさん、この人の状態わかる?」


 夜霧に促され、もこもこの操る槐が海賊の身体を確認した。


「ふむ。わかるのは外傷がないことぐらいだな。何かされたのか?」

「さてな。変なガキがやってきて気づけばこうなってた。動けねぇが、さっきは身体が勝手に動いて思ってもいねぇことを喋ってた」


 女海賊は案外素直なものだった。何もできないのだから、下手に逆らっても意味がないと判断したのだろう。


「操られたのかな。だとすると、この人の中にも寄生虫みたいなのがいるかもしれないけど」

「なんだよそれ、気持ちわりぃな」

「他の奴は、寄生虫を殺せば自由になったみたいだけど」

「殺せるのか?」

「いや、どうだろう? 俺に殺意むけてくるわけじゃないしな。確実にとはいかないけど」

「やってくれ。動けるようになったら、おめおめと逃げ帰ってやるよ」

「もう一つ。能力無効化を解除してくれないかな」

「……いいだろう」


 少し考えて女海賊は解除を受け入れた。


「頭の中にいるのを殺すんだ。何か副作用があるかもしれないよ?」

「かまわねぇよ。このままじゃどうしようもねぇからな」

「じゃあやってみるよ」


 夜霧が女海賊の額に手を置き、少し経ってから手を放した。


「結構あっさりだね」

「ウイルスとかと同じ扱いをしてみた」


 夜霧は、近づいてきたウイルスの類は自動的に殺しているとのことだった。

 その際には、殺意の有無は判定せず存在自体が危険だとして処理しているらしい。

 なので、女海賊の中にいる何かについても同じように考えたとのことだった。


「なんなの、その消臭除菌気分の能力……」


 知千佳が呆れていると、女海賊がぴくりと動いた。

 ゆっくりと上体を起こし、屈伸をし、そして立ち上がる。夜霧の適当な対処は無事成功したようだ。


「念のために言っておくと、俺たちを攻撃したら殺すからね」


 落ちていた剣を拾う女海賊に夜霧が警告した。


「そんなことしねぇよ。海賊にも仁義ぐらいはあるからな。約束通り撤収してやる」

「じゃあ、これで船は元通り……じゃない! 船員さんたちがいないと動かないんじゃ!」

「どういうことだ?」


 夜霧が状況を簡潔にまとめて女海賊に伝えた。


「マジかよ。この船なんなんだ」

「もしかして、もこもこさんが操縦できるとか?」

「クルーザー程度ならどうにかなるが、これほどの大型船舶は一人でどうにかできるものではないだろ」

「じゃあ駄目じゃん!」

「だから無効化の解除も頼んだんだよ。触丸で船を作れるだろ?」

「ねえ。あの触手みたいなのに乗せてもらって安全な所まで連れてってもらえばいいんじゃないの?」

「海賊だよ? いわば犯罪者だ。同行するのは違うんじゃないか?」

「そういうものなの!?」

「俺も状況によっては、人を殺すし奪いもする。けど、それと海賊を生業にしてる奴と仲良くするのは話が別だろう?」

「そう言われると……」


 知千佳はいい考えだと思ったのだが、感覚が麻痺していたらしい。


「……そう言われると、我も生きておる頃は結構な蛮族ムーブをしとったので耳が痛いのだが……」

「……うちの祖先って……」

「落ち込むのは後にして、とりあえず移動しよう。ここにくる廊下は一本道だろ。何かやってきたらめんどくさい」


 操舵室の出入り口は一つで他に道はなく、そこを押さえられると身動きがとれなくなる。

 知千佳たちは急いで廊下に出たが、一足遅かった。


「あいつだ……俺に何かしやがったのは……」


 女海賊が唸るように言う。

 廊下の先は、人で塞がれていた。

 その中に、先ほど知千佳に声をかけてきた少年が立っていた。

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