このうち政府が集団免役の達成を明言したのが、スウェーデンだ。

 同国の公衆衛生庁は7月17日の記者会見で、首都ストックホルム市では住民の抗体獲得率が17.5~20%に達し、これにキラーT細胞などを介した免疫を合わせると40%近くが免疫を獲得したと判断でき、集団免疫をほぼ達成したと推定できると発表した(注3、注4)

 同国の新型コロナによる死者(1日当たり)の動きを見ると、4月には40人を超える日もあったが、5月、6月と減少し、7月以降は数人以下の日がほとんどで、報告なしの日もある(注5)

 同国が集団免疫を達成していることは、死者数の動きからも確認できるわけだ。

 集団免疫達成の発表から1カ月余り、人々の暮らしはどう変わっただろうか。ストックホルム市在住の宮川絢子医師(カロリンスカ大学病院泌尿器外科)にメールで尋ねた。

 新型コロナに対しスウェーデンは、他の欧米諸国のような「ロックダウン(都市封鎖)」は実施しなかった。

 具体的には、「高齢者施設の訪問と50人以上の集会の禁止」および「飲食店で客同士の距離をとる制限」だけを法律で定め、「可能な限りのリモートワーク」「不要不急の旅行の自粛」「社会的距離の確保」などは「勧告」ということで、実施するかどうかは国民の自主的な選択に委ねる方法をとった。

 宮川医師によれば、禁止されていた50人以上の集会は10月から500人以上になるなど規制が緩和され始めた。住民たちはためらいなく外出するようになり、街はにぎわいを取り戻しつつある。

 バカンスシーズンなので、人々は自由に国内を旅行している。例年なら国外でバカンスを過ごす家族が多いが、今年は国外へ出かける家族はほとんどいないようだ。

 海外渡航は控えるべきとした勧告は、欧州連合(EU)圏内の一部の国に対しては解除され、国境を越えた移動が再開されたが、スウェーデン国内では感染の再拡大はいまのところ見られないという。

 宮川医師は「(100万人当たりの死者数がスウェーデンより2桁も少ない)日本の人たちが、スウェーデンよりはるかに不安に思っているのはなぜかなと思ってしまう」「スウェーデンには徹底した情報の透明性やトップのブレないリーダーシップがあり、それらが政府への信頼につながっている」などと話している。

 日本で新型コロナウイルスはいまなお感染が拡大中なのか、それとも集団免疫状態になったのか、政府も東京都や大阪府などの自治体も、急いで調査すべきだろう。

注3 宮川絢子『スウェーデン式新型コロナ対策の「真実」』前・後編(『メディカルトリビューン』2020年8月5日、6日)。
https://diamond.jp/articles/-/244438
https://medical-tribune.co.jp/rensai/2020/0805531103/
https://medical-tribune.co.jp/rensai/2020/0806531104/?fbclid=IwAR2M70KDMGvvsozVSC3QouJ0lKjxfYHS8gpfA5-Yaa7cw6ozfWSYCb5XSYA
注4 泉美木蘭『政策がナチュラルに無秩序な日本で、スウェーデンのコロナ対策を素直に見てみる』(幻冬舎plus2020年8月5日)。
https://www.gentosha.jp/article/16250/?fbclid=IwAR2xiYPH9EQr-jfS8qpNsxQk0sQ7Tg1OdJ6HtPsy9oz7AEpwMebUy2dpdGQ
注5 武者リサーチ『ストラテジーブレティン』(258号)に図表が載っている。
http://c.bme.jp/18/1961/352/

(ジャーナリスト 岡田幹治)