集団免疫とは、特定の集団や地域で、特定のウイルスに対する「総合的な免疫力(人が生まれつき持っている自然免疫と、特定のウイルスに感染してできる獲得免疫を合わせたもの)」を持つ人が一定の割合に達し、その人たちが壁になって感染が拡大しなくなった状態を指す。

「総合的な免疫力」については後で説明するが、日本ではすでに感染が拡大しない状態になっていると、奥村教授は言う。

 ただ、この状態になっても、高齢化したり基礎疾患を持っていたり、あるいは体調が不調だったりして総合的な免疫力が弱い人は、ウイルスに感染して重篤な肺炎などになり、ごく少数の人は死亡する。

 しかし死者の数は感染拡大期に比べてきわめて少なくなる。

「一定の割合」とはどの程度なのか、新型コロナの場合、当初は人口の70%程度と考えられていたが、最近はもっと低いと考える研究者が増えている。

 ニューヨークタイムズ(NYT)の取材に10人を超す科学者が「50%以下」と答え、中には「10~20%」と回答した専門家もいたという(注1)

 スウェーデンの公衆衛生庁は「40~45%」としており、宮坂昌之・大阪大学招聘教授は「20%程度」ということもあり得るとしている(注2)

注1 「一部科学者が集団免疫は5割で十分と考える訳」(NYT=東洋経済オンライン2020年8月27日)
https://toyokeizai.net/articles/-/371565
注2 宮坂昌之『「抗原検査」でスーパースプレッダーを検出せよ』(『文藝春秋』2020年8月号)

1日当たり死者数の急減が根拠
医療資源は重症者の治療に集中

 集団免疫が達成されたことを確認するにはどうしたらよいか。

 一つは、無作為で抽出した住民を対象に「抗体検査」を実施する方法だ。

 人が特定のウイルスに対する免疫を獲得すると、「抗体(免疫グロブリンというタンパク質)」ができるので、血液検査でその有無を調べるものだ。

 抗体検査をきちんと実施するには、微小な抗体でも検出する検査機器が必要だ。また、抗体検査で確認できるのは獲得免疫だけなので、自然免疫についても調査する必要があるが、これが難しい(後述するスウェーデンの場合はこの方法をとった)。

 そこで奥村教授と、やはり集団免疫を研究している上久保靖彦・京都大学特定教授は新型コロナによる死者数の動きに着目した。

 1日当たりの死者数は、感染の拡大とともに増加するが、集団免疫状態になると急減し、その後、低いレベルが続く。

 日本の場合、1日当たりの死者は4~5月に急増し、4月22日には91人に達したが、6月になると減少し、6月中旬~7月中旬には1~2人となり、報告なしの日もあった。

 従って日本では7月中旬ごろには「集団免疫」状態になっていた可能性が大きいという。