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即死チートが最強すぎて、異世界のやつらがまるで相手にならないんですが。 作者:藤孝剛志

第6章 ACT2

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17話 ネタバレにきたよっ!

 洋子はこの世界において無敵の存在ではない。

 その能力がゲームシステムに依存する以上、様々な制約がそのシステムからもたらされる。

 その一つが衛兵だ。

 街中での犯罪行為を取り締まるそれは、人目に触れる場所での犯罪を確実にとらえ、どこからともなく洋子の前へと現れる。

 衛兵は無敵ではないので、洋子でも倒せるのだが、衛兵は倒される度に強くなっていく。

 犯罪行為を繰り返せば繰り返すほど、衛兵は強くなっていきやがては倒しきれなくなっていくのだ。

 衛兵に捕らえられてもゲームオーバーというわけではないが、一定期間牢に閉じ込められ、その間ステータスが下がり続ける。

 なので、洋子は街中では平凡な冒険者として振る舞っていた。

 好き放題やるのもいいが、それによって普段の生活が脅かされてはたまらないからだ。

 では、好き放題できないのかといえば、それは単に衛兵がいない場所でやればいいというだけのことだった。

 例えば密室だ。

 普通に考えて衛兵がやってこない場所であれば問題はない。屋敷を占拠し、全ての出入り口を施錠したうえで犯行に及べば衛兵に事が露見することはないのだ。

 あるいは、衛兵は大きな街にしかいないので、地方の村でもいいだろう。街道を巡回している衛兵もいるのだが、あまり数はいないので、注意していれば大丈夫だ。

 そして、衛兵がいないのは船の上もだった。

 船を外敵から守る傭兵のような存在はいるようだが、システムによって保護されている衛兵はここにはいない。衛兵は国家に属するので、民間の客船は対象外なのだ。

 なので、船の上でなら、衛兵に煩わされることなくやりたい放題だと洋子は思っていた。

 だからこそ、適当に二等船室を予約し、特等船室を奪えばいいと思っていたのだ。いっそのこと船内の人間を皆殺しにして、幽霊船にしてしまうのも面白いなどと思っていた。

 だが、とんだ伏兵が隠れていた。

 適当に選んだ特等船室の扉をピッキングスキルで開けてみれば、そこにいたのは勇者だったのだ。

 ただの勇者ならどうにでもなるかと思っていたら、どういうわけか勇者は第二形態とでもいうべき姿へと変身した。

 連れていたNPCを消され、まずいと思っていたところに、大量の蟲まで現れたのだ。

 これも洋子の弱点の一つだった。

 TSSには敵を捕捉する機能があるが、あまりに敵が大量にいる場合は全てを捕捉しようとしてフリーズしてしまうのだ。

 なので、洋子はすぐさま逃げだした。

 洋子の戦闘はTSSに頼り切っている。あのままでは為す術もなくやられてしまったことだろう。

 TSSを使わずに戦闘をすることも可能だが、それには頭を切り替える必要がある。

 洋子は逃げ出してすぐに隠密スキルで気配を消し、そのままかなりの距離を取ってから適当な部屋に身を隠した。

 隠密は様々な場面で活躍するので、スキルレベルを上げに上げている。本気で隠れている洋子を見つけるのは至難の業だろう。


「面倒だなー。あいつはほっといたほうがいいかなぁ」


 洋子は戦闘狂ではない。敵を倒すのは好きだが、それは簡単に圧倒的に勝てる場合に限られる。とんでもない強敵を相手にして、戦略を練り、ギリギリの勝利を得るなど洋子の趣味ではないのだ。


「んー、どっかに閉じ込めるとか? けど、ワープとかしそうな気もするしなー」


 NPCを閉じ込めるのは、洋子が好きでよくやっていることだった。

 適当な密室におびき寄せて、部屋を破壊不能にし、出入り口を破壊不能オブジェクトで塞ぐ。

 NPCがどうにか脱出しようとあがき、あげくの果てに絶望で正気を失うのを見るのが好きだったが、果たしてあの勇者にこの手段が通用するのかどうか。

 亜空間転移などを使ってくる相手では不安が残る。


「本来の目的は、エントにいってエルフの村を焼くことだし、ここはスルーでもいいんだけど……倒せなくてもいいから、おちょくれるだけおちょくってみるか?」


 ただ逃げ隠れするというのも癪に障る。

 どうせなら、ネタになるようなことをしてみようと洋子は考えた。

 具体的なネタを考えるために、どこの誰が泊まっているかもわからない部屋の中をうろつく。

 洋子は違和感を覚えた。

 最初はそれが何かわからなかったが、答えは鏡の中に見つかった。

 そこには痩せぎすの、目ばかりがぎょろりとした女の姿があったのだ。


「え?」


 見覚えのありすぎる女の姿を見て、洋子は固まった。

 それは、アバターとしての柊洋介ではない、本来の柊洋子の姿だった。


「どういうこと……」

「あー、もうちょっとドラマチックにばれてほしかったなー」


 呆然としていると、背後から声が聞こえてきた。

 振り向けば、同じ顔の少女が二人立っていた。みすぼらしい自分とは違い、実に愛らしい姿の少女たちだ。


「マルナです!」

「リルナです!」

「二人合わせてっ! マルナリルナです! いぇい!」


 二人は息のあった動きで、手を叩き合わせた。


「な……なんなの、あんたら……」

「神です!」

「ネタバレにきたよっ!」

「自分で気付く前に驚かせにきたよっ!」

「実はここはゲームの中の世界」

「ではありません!」

「なんと異世界なんです!」

「洋子ちゃんは元の世界では死んじゃってます!」

「は?」


 二人で交互にまくしたてられ、洋子は混乱した。

 何を言われているのかを、すぐには理解できなかった。


「全感覚疑似再現の実験で頭に針をぶすぶすさされて電流を流されて」

「脳みそばーんってなっちゃいました!」

「けれど、ゲームだと思ってるなら面白そうだし」

「じゃあ、そーゆーことにしといたら面白いかなって」

「こっちで身体を用意して、魂を引っ張り込んで」

「ゲームっぽい能力を与えてみたよ!」


 洋子は、この二人に攻撃を加えようと思い、システムウィンドウを表示するジェスチャーを行った。

 何も表示はされなかった。


「今ねぇ。能力無効化能力使われちゃってるから」

「洋子ちゃんの能力は戦詩バトルソングってシステム上のスキルとして実装されてるので」

「強力な無効化能力を使われると、何にもできなくなっちゃうんだよね!」


 何度ジェスチャーを繰り返しても、ウィンドウは表示されなかった。

 TSSは発動しないし、魔法も使えない。

 ゲーム設定を変更することも、ステータスを確認することもできなかった。

 しかし、洋子はそれでも、二人の言うことが事実だとは信じることができなかった。

 ここが異世界で、現実には存在しないようなモンスターが棲息していて、魔法のような不思議な力が使えるなどと言われても信じられるわけがないのだ。

 それよりも、すべてがゲームだと説明された方がよほど納得がいく。

 今の状況も、システム上のトラブルでコマンドが使用できなくなったと解釈できる。

 この二人は開発側の人間であって、この状況を説明するためにあらわれた。

 先程の説明は、ちょっとした冗談であり、これから本当の説明が行われるとも考えられる。


「あのさ。常識的に考えて、ここまでリアルなゲームを作るのが可能だと思う?」

「で、でも! 未公開の先進技術だって! 軍事関連技術は世間とは隔絶した進歩を遂げてるって!」

「いやー、それ聞いて信じたの? 無理があるって思わなかった?」


 薄々は思っていた。

 だが、プレイを開始してシステムウィンドウが表示されたことで、これはゲームなのだと信じられたのだ。


「実現難易度から考えると、すべてをVR(仮想現実)で構築するより」

「異世界でAR(拡張現実)を適用した方が簡単でしょ」

「まあ、この世界の異能の大半がバトルソング上で動いてて」

「もともとゲームっぽいシステム採用してるから」

「勘違いはさせやすかったんだけどね!」

「な、なんで、あんたらは、異世界の神のくせに、ゲームだなんだって、そんなこと知ってるの? おかしいよね? やっぱりあんたら、開発側の人間なんでしょ!」

「そりゃゲームの詳しいところまではわかんないけど」

「異世界を覗き見て、どんな文明で、どんな娯楽が流行ってるかぐらいはわかるよー」

「わ、私が死んでるっておかしくない!? だって、現に生きてるわけじゃない!」

「そこはほら」

「神様だから」


 途端にマルナとリルナが後光を放ち、洋子はその場に跪いた。

 洋子が感じたのは、原初的な畏怖だ。

 あまりにも巨大なものを見た際に、自然とこみあげてくる本能に根ざした感情。

 それが、洋子に立っていることを許さなかった。

 そして、この世界がゲームではないと、否応なく信じるしかなくなっていた。

 洋子を生き返らせこの世界に連れてくるぐらい、この存在になら可能なのだと心底理解できてしまったのだ。


「だからね。洋子ちゃんがこれまでに殺したのは」

「NPCなんかじゃないよ」

「この世界で生まれて育って」

「苦痛を感じもすれば、お腹も減る」

「恋をして、結婚して、子供を産んで」

「ただ生きていただけの普通の人たちだよ」


 そう言われても、すぐに罪悪感は湧いてこなかった。

 残酷表現フィルターにより戯画化された死の演出は、可能な限りコミカルに描かれていた。

 それが人の死だと言われても、なんの実感もないのだ。


「……それで……私はどうすればいいんですか……」

「え?」

「え?」


 洋子は祈るように神を名乗る存在にすがったが、返ってきたのは気の抜けたつぶやきだった。


「特に何といってないけど?」

「ネタバレされたらどんな顔するのかなーって思っただけで」

「意外な真実のつもりだったんだけど、反応微妙だったねー」

「じゃあ、そういうことで!」

「そうそう。今の状況は一時的なものだから」

「能力無効化能力の人が能力をストップしたり」

「効果範囲外にいったりしたら、またゲームみたいに楽しめるよ!」

「じゃあね!」


 そう言ってマルナリルナの二人は、あっさりとその場から消え去った。

 洋子は、呆然と跪いたままだった。

 与えられた情報をうまく飲み込めず、どう整理していいのかもわからない。

 そうやってただぼんやりとしていると、何かが変わった感覚が訪れた。

 洋子の身体が、細身ではあるがしなやかに鍛えられた男の身体へと変化したのだ。

 先程までの頼りない感覚が嘘のように、身体に力が満ちあふれていた。

 指先でジェスチャーを描くと、システムウインドウが視界に表示された。

 力が戻ったようだった。


「くそっ! なんだったんだよ、あれは!」


 だが、力が戻ったとしてもまったく油断はできない。

 能力無効化能力。

 それを使っていた者がこの船にいたのだ。

 その能力者がどこかへ行ったのか、能力の使用をやめただけなのか。

 確認しないことには、不安で仕方がない。


「とりあえず、同行者コンパニオンを呼び寄せるか」


 システムから仲間を呼び出す。

 すると、自分の部屋に待機させていた三人のメイドがすぐにやってきた。

 呼び出しを行えば、どこにいても洋子のもとにやってくるのだ。


「お前ら、戦闘の心得はあるよな」

「それはまあ、バトルメイドですからね」


 能力が無効化されるのなら、素の戦闘力が頼りだ。

 彼女らとは雇用による主従関係なので、洋子の能力が無効化されたとしても問題はないだろうと考えた。


 ――ただ、私の姿が元に戻っても有効なのかは疑問だけど。


「よし。じゃあ、今から船内を探索して、能力者を始末する」


 勇者のことなど今となっては二の次だった。


「能力者って誰なんですか?」

「わかんねーよ。適当にそれっぽい奴を殺す。そいつの攻撃で俺の姿が変わるかもしれないが、気にするな。そいつを殺せば元にもどるはずだ」

「承知いたしましたー」


 メイドを引き連れて部屋を出た。外は、どことなく騒がしかった。

 小太りの男が慌てて駆けていく。

 洋子はTSSを発動し、アイスニードルの魔法を放った。

 男は光になり、高級そうな服を残して消えた。

 洋子はむしゃくしゃしていた。なんとなく、その男の走る姿にむかついたのだ。

 今さら、反省も後悔もない。

 洋子にとってこの世界はゲームだ。そう思い込むしか、生きていく道はなかった。


「もともとそのつもりだったんだ。出会う相手を片っ端から殺すぞ!」


 皆殺しにすれば、いずれは無効化能力者に辿り着くだろう。そう考える洋子は短絡的になっていた。


「承知いたしましたー」


 メイドたちが元気よく返事をし、さっそく角を曲がってやってきた少年へと駆け寄る。

 そして、倒れて動かなくなった。


「何やってんだよ、お前ら」


 なぜ、そんな何もないところで、転けるのか意味がわからない。


「どっかで見た顔だ。ああ、ゲームがどうとか言ってた人か」


 洋子は、船に乗る前に少しばかり話したことのある少年だと思い出した。

 だが、その程度の関わりで、見逃してやるほどの情などありはしない。

 片っ端から殺すと決めたのだ。

 ならばさっさと殺してしまおう。

 洋子はTSSを発動した。


  *****


「この人が海賊だったのかな?」


 ほぼ無関係のはずの人間から殺意を向けられて、夜霧は首を傾げた。

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