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即死チートが最強すぎて、異世界のやつらがまるで相手にならないんですが。 作者:藤孝剛志

第6章 ACT2

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16話 そのうち氷山まで出てくるんじゃないの!?

「ふむ。クラーケンの類いやもしれんな。海魔としては定番か」

「何これ!? 巨大イカなの!? それともタコ?」


 知千佳は船体を確認した。

 巨大な触手のごときものが何本も海から伸び上がり、船に巻き付いている。

 豪華客船を絡め取るほどの長大な触手だ。これが頭足類だとするなら、その本体はさらに巨大なのだろう。


「ふむ。触手は八本以上あるし、タコではないようだな。それとも、何体かおるのか?」

「これって航海のトラブルとして想定の範囲なの?」

「こんなのが来る可能性を想定しておったら、こんなリゾート感全開にはしておらんだろ」

「ですよねー!」


 乗客は恐慌状態におちいっていた。

 豪華客船での優雅な旅が、一転して海魔による恐怖劇に転じたのだ。

 これで落ち着いていろというのも無理な話だが、冷静になって見てみれば、触手は船に絡みついて以降動きを見せていなかった。

 そのまま船を締め潰したり、触手を叩きつけたりはしていないのだ。


「いや、これどうしたらいいんだ……」


 海の上なのでどこにも逃げ場がない。知千佳の手にはあまる事態だった。


「おい小僧。起きておるか!」

『いま、起きた』


 もこもこがどこへともなく話しかけると、返事がきこえた。

 これは、アグレッサーから得た武器、触丸を分離して通信機器として使用しているのだ。


「トラブル発生だ。クラーケンが襲ってきた!」

『外を見てみる……ああ、イカっぽい触手? 触腕があるね』

「合流したい。今からそちらに向かう」


 どこに行こうと特別安全な場所はないだろう。ならばまずは合流をめざすべきだと知千佳も判断した。


『今どこ?』

「船の先端あたりのプールだ」

『こっちは船の後ろの最上階だね。じゃあ真ん中あたりを目指せばいいか』


 船は巨大だ。

 お互いに動いた方が集合までの時間は短縮できるだろう。


「高遠くん。これは倒す?」

『殺意は感じないからなあ。今のところは野生動物がじゃれついてきたって感じ? それで殺すのも可哀想な気がする』

「じゃれつきって……触手の一撃食らったら死んじゃうんだけど……」

「野生動物にしては動きが不自然な気もするが……」


 絡みついた後のクラーケンは、特に何をするわけでもない。

 だが夜霧としては、ここはとりあえず様子見なのだろう。


「皆さん、おちついてください! 私たちは、紅蓮の絆の者です。この船の守護を任されています」


 水着姿の少女が、周囲の乗客たちに話しかけていた。

 紅蓮の絆は知られた存在のようで、乗客たちも随分と落ち着きを取り戻している様子だった。


「皆さんもご存じのように、紅蓮の絆は勇者ホーネットが率いる傭兵団です。この程度のモンスターはホーネットなら問題なく対処できます」


 とんでもない巨大モンスターのように思えるが、勇者なら倒せるらしく、それは皆が共有している事実らしい。


「紅蓮の絆って、船に乗る前に話しかけてきた人のなんかだったよね?」


 知千佳は、ホーネットが氷山でも一瞬で蒸発させると言われていたことを思い出したが、それは冗談ではなかったようだ。


「うむ。母親と一緒にやってきた少年だったな。船の護衛をする傭兵団とのことだったが」

「……護衛してたのかな、あれ……」


 水着姿の少女二人は、全身が濡れているので泳いでいたのだろう。

 先程から皆に話しかけているのは剣を持った少女で知千佳と同年代ぐらいに見えた。

 もう一人の少女は杖を持っていて、剣の少女よりも年上のようだ。

 武器を持っているので職務を忘れているわけではないようだが、それでも十分にリゾートを満喫していたようだった。


「まあ、ここはあの人たちに任せて私たちは急ごうか」


 ここに知千佳がいても役に立つことはないだろう。

 避難などは紅蓮の絆とやらにまかせればいい。

 そう思ったところで、また船が小刻みに揺れだした。

 何事かとあたりを見てみれば、近くにある触手がぐねぐねと動いている。

 そして、触手の吸盤が裂けて、中からずるりと何かが出てきた。


「え?」


 知千佳は、目を疑った。

 それは階段で、触手から飛び出して船へと伸びてきたのだ。

 金属製の簡易な階段だ。

 そして、そんな物を使う存在は限られている。

 下りてきたのは人間だった。


「こんにちは。私たちは海賊です」

「ほんとに海賊まできたよ! そのうち氷山まで出てくるんじゃないの!?」


 近くの触手から下りてきたのは十人だ。

 他の触手からも階段が下りてきているので、他所でも同じようなことが起きているのだろう。

 海賊を自称する集団の構成は雑多なものだった。

 最初に出てきて自己紹介した男は、騎士のような鎧を纏った姿で物腰も柔らかい。

 だが、その後ろに続く者たちは、見るからに海賊という者に、無骨な戦士風の男。職人らしき女と変化に富んでいた。


「私たちの目的はあなた方を人質にして身代金を得ることです。ですので、大人しくしていてくだされば危害を加えることはいたしません。賢明な判断をしてくださることを期待しております」

「あれ? なんか逃げ出せない雰囲気になってる?」

「うむ。下手に動けば、戦闘になるであろうな」

「もこもこさん、突っ込んで自爆とかできない?」

「できるか! 先祖をなんだと思っておるのだ!」


 すると、海賊の前に紅蓮の絆の二人が立ちはだかった。


「私たち紅蓮の絆がいることを知らなかったのかしら? この船を襲うとは運が悪かったわね」


 そう言うのは杖を持った年長の少女だ。剣の少女よりも、気性が荒いらしい。


「いえ、事前に調査はしておりますので。そして、乗客ではない戦闘要員は始末するようにと仰せつかっております」

「そう。だったら遠慮はいらないわね!」


 少女が杖を掲げる。

 途端に、いくつもの燃えさかる球が少女を取り囲むように現われた。

 この魔法の規模を想定していなかったのか、海賊たちの顔色が変わった。


「この船に手を出したことを後悔するといいわ! 骨の髄まで燃やし尽くしてあげる!」


 だが、その炎球群は少女が想定するような効果を発揮することはなかった。

 炎球は発射されることなく、全てが何事もなかったかのように消え去ってしまったのだ。

 少女は愕然とした様子で、何度も杖を振り下ろす。

 だが、彼女の魔法が発動することは二度と無かった。


「お嬢様、心臓に悪いですよ……」


 騎士風な海賊は、新たに階段から下りてきた人物に話しかけた。


「いや、お前ら俺に頼りすぎてっから、たまにはこーゆーのもいいかと思ってな」

「私たちの作戦は、お嬢様の力あってのものですよ。気まぐれにこのような事をされては困ります」


 戦士のような出で立ちの、男装の少女だった。

 騎士風の男がこの一団を指揮しているようだったが、少女の立場はさらに上らしい。


「この!」


 杖の少女が無力化されたと判断し、剣の少女が動いた。

 だが、あっけないほど簡単に、剣の少女は返り討ちにあった。

 見るからに海賊風の男が、カットラスで少女の首筋を斬り裂いたのだ。


「馬鹿な……ミルナが……」


 杖の少女は戦意を喪失していた。

 二人で十人を相手どれると思っていたようだが、いまやその自信は見る影もない。


「ふむ。紅蓮の絆の方は剣術単体ではそれほどでもなかったか。ギフトを併用して戦っていたのだろう」

「ギフトが使えなくなってるってこと?」

「うむ。我の力もかなり抑えられておる。幸い槐は電波操作なのでどうにかなるが、触丸の変形は無理そうだ」

「そういや、今水着だけど触丸はどうなってるの?」


 普段は衣服の一部に擬態しているが、この姿でそれは無理があると知千佳は思ったのだ。


「槐の中には結構なデッドスペースがあるので、そこに格納しておる」

「じゃあ、高遠くんとの連絡は?」

「小僧に渡した触丸は単なる受信機として使っておるのでどうにかなるな」

「違いがわからん!」

「とにかく、我らは、触丸なしでどうにかせねばならんということだ」


 幸い、知千佳たちもただの乗客だと思われているのだろう。

 だが、ここから移動するなら、海賊どもをどうにかする必要があった。


「おかしらー! もう一人はどうしやす?」

「殺せ」


 即答だった。


「いつも思うんでやすが、女なら利用価値はあるんじゃないすかね?」

「ないな。俺たちの仕事は金持ちを誘拐して身代金を得ることだ。金にならない女を相手にしている余裕はない。女が欲しけりゃ、仕事が終わってからプロの女を買え」

「へーい」


 海賊風の男が、杖の少女を斬った。

 杖の少女は棒立ちだった。近接戦闘の心得はほとんどなかったのだろう。


「さて、みなさん。我々の誘拐はビジネスです。無理な金額を要求したりはいたしません。それぞれの方に、お支払い頂けるだけの額を請求させていただき、入金を確認できれば解放いたしますのでどうかご安心を」

「……鳩、大活躍だね……」


 知千佳は、魔法の伝書鳩に決済機能があることを思い出していた。

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