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即死チートが最強すぎて、異世界のやつらがまるで相手にならないんですが。 作者:藤孝剛志

第6章 ACT2

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15話 肉を内に秘めることができず、外にあふれでた姿

「何者だ!」

「もうちょっと、気の効いたセリフは言えねえもんかね。これだからNPCはよー」


 突然、ドアを開けてホーネットたちの部屋に男が入ってきた。

 イゼルダが鑑定スキルで見たところ、男の名はヒイラギ・ヨースケで、クラスはVRRPGプレイヤーだ。

 イゼルダは、そのクラス名からはなんの情報も読み取ることができなかった。プレイヤーは参加者や競技者といった意味だろう。だがVRRPGがなにを表すのかは見当もつかなかった。

 レベルは99で、ギフトを得ただけの普通の人間ならそれが上限だ。ステータスもレベルに応じた値であり、スキルにも特筆したものはない。

 鑑定の結果を見ただけなら、まるでホーネットの敵ではないだろう。

 だが。この男をただの雑魚だと切り捨てていいのか。

 この男は、特等船室の厳重に施錠された扉を開けたのだ。

 それを為す方法はいくつか考えられるが、どれにしたところで男になんらかの力があることは間違いない。

 名前の雰囲気からすると、異世界からやってきた可能性があった。

 ならば油断はできない。

 異世界由来のスキルの場合、その存在を認識できないこともあるし、特殊な効果を発揮するものもあるからだ。


「まさか、海賊か……!?」


 ホーネットが剣を手にして立ち上がる。

 だが、いきなり攻撃したりはしない。相手が闖入者であっても、とりあえず様子をみるぐらいの慎重さをホーネットは持っていた。


「違うよ。全然違うよ」

「なら、なんのつもりなんだ。人の部屋に勝手に侵入してくるなんて」

「あ、けど似たようなもんだった。俺、部屋に入るとめぼしい物は根こそぎもって帰るから」

「なんのつもりだと聞いてるんだ」

「特等船室のチケットが買えなかったんだよ。俺、欲しいものは奪ってるから現金はそんなに持ってなくてな。ま、金も奪えばいいだけだから用意することは可能なんだけどさ。けど、別に二等船室のチケットで乗船して、勝手に特等に行けばいいんじゃねーの? って思いついたわけなんだよ。街だと衛兵が鬱陶しいけど、ここにはいないしな!」

「わかった。強盗の類ということだな!」


 ホーネットには、ヨースケの言動が支離滅裂に思えた。あるいは正気を失っているのかもしれないが、なんにせよ狼藉者であることには違いない。

 ホーネットは、動くことなくその場で剣を振った。

 ある程度以上のレベルになれば、剣士の攻撃に距離は関係なくなる。ましてや勇者と剣皇を兼ね備えるホーネットにすれば、数メートルの距離などなきに等しい。

 剣閃から放たれる斬擊は、ヨースケの腕を切り飛ばすはずだった。


「やっべ。こいつ無茶苦茶つえーじゃん! さすが勇者様?」

「何!?」


 ヨースケは斬擊を、壺を構えて防いでいた。

 部屋に入ってすぐに置いてあった、インテリアとしての壺だ。高級ではあるのだろうが、それほど頑丈とは思えない。むしろ繊細な造りであろうそれが、ホーネットの斬擊を完全に受け止めていた。

 ホーネットは、ヨースケが壺を構えるところを見ていなかった。いきなり壺をかまえる体勢になったようにしか見えなかったのだ。

 だが、中にいるイゼルダには見えていた。彼の探索調査に特化した感覚は、ヨースケが常軌を逸した速さで壺を手にする瞬間を捉えていたのだ。

 それはレベル99の人間にできるような動きではなく、イゼルダは警戒を強めた。


「だよなー。はじめて見るとびっくりするよな。視聴者の皆さんはわかってると思うけど、戦術支援システム(TSS)からバレットタイムを発動して壺を取って、壺にロックをかけて壊れないようにしたんだよ」


 壺になんらかの強化を施したのだろうとホーネットは判断した。

 だが壺は片手で持てる程度の小さなものだ。それがいくら頑丈だろうが、それだけで攻撃を凌ぐには限界がある。


「千滅斬!」


 先ほどまでは、手足の一本も切り落とし、拘束すればいいと思っていたホーネットは手加減をやめた。

 単発の攻撃が防がれるなら、防ぎきれず、躱しきれないほどに攻撃すればいい。

 飛ぶ斬撃を幾重にも重ねて、面で制圧すればいい。

 ホーネットは、縦横無尽に剣を振るった。

 まともに食らえば細切れになり、跡形も残らない。そんな技だが、ホーネットは違和感を覚えた。

 今まで重さなど気にしたこともなかった聖剣がやけに重いのだ。

 切り返しの反動で腕を持っていかれそうになり、軌道の制御に余計な力を使わされる。

 だが、そんな苦労も一瞬のこと。技を出し切ったホーネットは、息を切らしながらヨースケを見つめた。

 またしてもヨースケは無傷だった。

 余裕の顔をしているヨースケの前には、老人が倒れている。

 イゼルダは見ていた。その老人が、ヨースケの盾となって攻撃を食らったのだ。


「やっばいなー。これ勝てっかなー。あー、解説いれといた方がいいか。このジジイは薬草を孫に届けたいって人で、そーゆークエストのキャラなんだけど、クエスト中は不死身なの。だから盾として使うには最適。こーやってクエスト終わらせずに連れ回せば、便利に使えるんだよ」


 老人は倒れてはいるが、特に怪我をしているようには見えなかった。

 千滅斬を正面からまともに喰らって、五体満足なのだ。


「で、千滅斬とか言ってたけど、今の百滅斬ぐらいじゃなかった?」

「……何をした?」


 思わせぶりなヨースケの言葉に、ホーネットは聞かずにはいられなかった。

 無視できない、あまりにも異常な事態が発生していたからだ。


「何ってゆーか、難易度をベリーイージーに下げただけなんだけどな。ま、今度はこっちの攻撃行くぜ!」


 ヨースケがナイフを投げた。

 それなりの速度で飛んでくる、それなりの攻撃だ。

 ホーネットはそれを躱し、攻撃に転じようとした。

 だが。

 ナイフは、ホーネットの右肩に突き刺さった。

 躱したはずだったし、当たったとしてもなんの変哲もないナイフなど服に弾かれるはずだったのにだ。

 想定外の事態に困惑し、ホーネットの動きが止まる。

 だが、ダメージはたいしたことが無い。一瞬の遅滞の後、そのまま攻撃しようとしたホーネットだが、突然の激痛に停止を余儀なくされた。


「ホーくん!」


 母親が、血相を変えてホーネットを見ていた。

 脇腹への攻撃。

 どこからあらわれたのか、中年の男がホーネットに剣を深々と突き刺していた。

 こうなってはヨースケへの攻撃どころではない。まずはこの男に対応するべきだが、そう思ったところで男の姿は消えていた。


「あー、さすが勇者様。ベリーイージーでも即死ってわけにはいかないかー」


 ホーネットはこの程度ではやられない。

 内臓をえぐられたぐらいなら、戦闘続行は可能だ。

 だが、ホーネットは戸惑っていた。

 この男は、今まで戦ってきたような相手とはまるで違う。どう対応していいのかがわからないのだ。

 そして、イゼルダにとってもこの男は不可解だった。まるで、次元の違う存在であるかのような不気味さを感じていた。


「今のも解説しとこっか。おっさんの方はスキルだな。攻撃時に確率で、どこからともなく謎のおっさんが出てきて、助けてくれるってゆーふざけたのがあるんだよ。これ、俺にもいつ発生するかはわかんねーから、俺の動きを見ててもかわしようがないぜ?」


 召喚術の一種なのだろう。

 だが、そうと知れたところで、ここまで前触れがないと、対応のしようがなかった。


「ナイフの方は単なるクリティカルだよ。必中防御貫通効果が発生する。で、クリティカルなんて確実に出せるわけないって思うかもしんないけど、クリティカルをストックするスキルがあるんだよな。だから事前にクリティカルを貯めとけば、任意にクリティカルを発生させられるんだよ」


 その説明もイゼルダにしてみれば意味不明だった。

 たまたまうまくいった攻撃をクリティカルと表現することはあるが、それは回避しても追尾してきて、伝説の装備である勇者の衣を貫くような攻撃であるはずがないのだ。


「面白いな……」


 ホーネットは気圧されていた。

 力量差ははっきりしていて負けるはずなどないのに、為す術がないのだ。

 もちろん、全力をだせばどうにでもできるはずだった。

 だが、そうすれば船は無事ではすまず、多数の乗客を巻き込むことだろう。

 ホーネットにはそこまでの覚悟はできない。

 なので、イゼルダが表に出はじめていた。

 まるで理解できない、想定外の攻撃を繰り出してくる男。

 その力を是非とも我が物としたい。

 イゼルダの興味は己を強化することにしかなく、その為になら船の乗客がどうなろうと知ったことではなかった。

 イゼルダが一度表にでてしまえば、ホーネットとしての人格、社会的地位は崩壊するだろう。

 だが、イゼルダにとって、ホーネットは数多くある踏み台の一つにしか過ぎず、予備はいくらでも存在していた。

 ホーネットを温存するよりは、無理をしてでもヨースケの確保をする。イゼルダはそう決めたのだ。


「ホーくん?」


 母親が怪訝な顔になる。

 これまでイゼルダは表に出てきたことはなかった。

 雰囲気が変わったことを察したのだろう。


「餓鬼魂」


 イゼルダが魔法を使う。

 途端に黒い球体が現れ、老人を覆い尽くした。

 球体には、無数の光点が散りばめられている。

 夜空を凝縮したかのような球体はすぐに消え、球体のあった部分そのものも消え去った。

 部屋の一部が球状に抉れ、同時に老人の姿もなくなったのだ。


「不死身だと言っていたが、亜空間転移には対応できないようだな」

「はぁ? なにそれ? そんなのずるいじゃん!」


 これをいきなりヨースケに喰らわせれば勝負は決したことだろう。

 だが、イゼルダの目的はどこともしれない亜空間にヨースケを放逐することではない。

 研究のためには、どうにかして生け捕りにする必要があるのだ。

 イゼルダはガスを使うことを思いついた。麻痺効果のある気体で覆い尽くしてしまえば躱しようもないだろう。

 だが、イゼルダはそんな、都合のいい魔法は知らなかった。

 なので、代替手段を取ることにする。


「霞の如く舞い散る蟲よ」


 イゼルダは左手をヨースケへと伸ばす。

 左手は紐が解けるようにばらけていき、先から黒い靄の如くなってあたりに拡散していった。


「なにそれ? 虫!? 虫はだめなんだってば!」


 それは極小さな蟲の群れだった。

 十分に小さな虫を、大量に用意すればガスの代わりになるだろう。

 覆いつくし、どこからか人体内部に侵入できれば、昏倒させるも、麻痺させるも自在だ。

 だが、ヨースケの判断は早かった。

 下手に対抗しようとはせず、あっさりと逃げ出したのだ。

 あるいは、本人が言うように、ただ虫が嫌いなだけだったのかもしれない。


「ホーくん? それは……」


 ホーネットの母親が恐る恐る聞いてくる。

 ホーネットだったものの身体は、見た目だけならかなり痛々しい状態になっていた。

 イゼルダは腕をもとの状態に戻した。

 だが、先程の魔法でごっそりと減った魔力まではそう簡単には戻らない。

 この身体はいまだ発展途上であり、大魔導士であったイゼルダの器としてはまだまだ物足りない状態なのだ。


「ふむ。このままでは魔力が足りん」


 イゼルダは、復活した左手で母親の顔をつかんだ。


「運が悪かったな、母上。何事もなければ、愛しい息子とともに生を全うできたのだが」


 だが、この母親も用意された器の一つ。器の製造機兼非常食でしかなく、イゼルダは大した感慨は抱かなかった。


「親素体としてはガタがきていたしな。代役は姉上か、乗船前に出会った女にでもさせるとするか」


 ホーネットの身体では、イゼルダの顕現に長時間は耐えられないだろう。

 この身体が崩壊する前に、やるべきことは全てやっておかなくてはならない。

 母親から魔力を搾り取ったイゼルダは、逃げ出したヨースケを捕らえるべく廊下へと歩き出した。


  *****


 知千佳は、プールサイドでビーチベッドに寝そべり、リゾート気分を満喫していた。

 当然、水着姿であり周囲の注目を集めていたが、じろじろと見られることには慣れたもので堂々としたものだ。


「ふふっ。ただのエロボディと思って凝視しておる輩は知らぬのだ。全身をぽよぽよと覆う脂肪の内には凶悪な筋肉を秘めておることをな!」


 知千佳の隣に寝そべるもこもこが自慢げに言った。

 もちろん槐に憑依し、水着も着た状態だ。


「脂肪言うな!」


 ただ柔らかいだけに見える知千佳の身体は、柔軟さと強靱さを兼ね備えていた。

 知千佳自身はこれまで特に意識はしていなかったが、これこそが長い年月をかけて作り上げた壇ノ浦の身体だともこもこは言う。


「そして、肉の密度が高いため、見た目よりも体重が重いのだ!」

「重い言うな!」

「いやいや、戦闘において重さは重要なファクターだろうが」

「だったらさ、お姉ちゃんの方が、壇ノ浦にむいてるんじゃないの?」


 もこもこはそっと目をそらした。


「なぜ目をそらす」

「あれは、たまに生まれる失敗作……壇ノ浦のなり損ないだ……。肉を内に秘めることができず、外にあふれでた姿なのだ……」

「軽く聞いてみたら、一族の闇を明かされてんだけど! え? だったら、もこもこさんの姿はなんなの!? 失敗なの?」

「我の場合は、血統管理に着手する前なのでノーカンだ!」

「お姉ちゃん、ただの先祖返りなんじゃ……」


 だが、思い返してみれば、家族や親類に姉のように丸々とした姿の者はいない。

 やはり姉は特殊な体形のようだった。


「まあ。それはいいとして。海の上を行く船の上で、真水のプールで遊ぶってなんか背徳的な感じもするよね」

「まあ、贅沢な水の使い方ではあるな。もっとも、この世界だと魔法で水を生み出せるのかもしれんが」


 ビーチパラソルの下で、トロピカルジュースを飲みながら、知千佳はのんびりと過ごしていた。

 今の所、旅は順調そうでなんの問題もなさそうだ。

 ちなみに夜霧は寝続けているので放っておいて、知千佳ともこもこで船旅を楽しんでいた。


「ねえ? このまま何事もなく行けそうな気がしてこない?」

「……お主……それは、フラグではないのか?」

「いやいや、ないでしょ。船でちょっと移動してるだけだよ?」

「ちょっと移動してるだけの列車でも、トラブったな」

「いやー、海の上だよ? 何がくるっての?」

「乗客に何かおるかもしれぬがな」


 知千佳は立ち上がり、舷側から海を見渡す。

 晴天だ。

 見える範囲には障害物となるようなものは見当たらず、波も穏やかで航海に滞りはない。


「少なくとも外から何かはこない――」


 知千佳がそこまで言ったところで、突然船が揺れた。


「え?」


 何が起こったのかと戸惑っていると、海から何かが飛び出してきた。

 白く、長く、巨大な何か。

 上空から船を目がけて落ちてくる、それは吸盤を幾つも備えた触手だった。

 触手が船に叩き付けられて、再び船が揺れ、絶叫が響き渡る。


「やはりなんぞきおったな」

「こんなことになる気はなんとなくしてたよね!」


 もう何かが起こると最初から想定しておいた方がいいのではと思う知千佳だった。

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