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即死チートが最強すぎて、異世界のやつらがまるで相手にならないんですが。 作者:藤孝剛志

第6章 ACT2

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14話 エルフの森を焼いてみた

 洋子は、胃液を吐き、喉に焼けつくような不快感を覚えてうずくまった。

 これがゲームだなどとは、とても思えなかった。


「てめぇ!」


 盗賊が寄ってきて剣で斬りつけ、槍で突き刺してくるものの洋子は無傷だった。

 盗賊どもとはレベルの差がありすぎて、一切の攻撃が通用しないのだ。

 だが。

 洋子は、ただ震えてうずくまるだけだった。

 血と臓物と吐瀉物の匂いで目眩がする。

 暴力に酔い、顔を歪ませてせまってくる盗賊に怯え、殺す気で叩きつけられる武器の数々に恐怖した。

 そばにいるメイドは、何もしなかった。

 洋子が吐いてうずくまったことは心配しているようだが、盗賊の攻撃をなすがままに受けていることは気にしていないらしい。

 主人がこの程度では、かすり傷も負わないと確信しているのだ。


 ――もういやだ!


 こんなゲームはやめてやる。

 ログアウトしようとシステムウインドウを見た洋子は、TIPSが表示されていることに気づいた。


【TIPS:グロテスクな表現が苦手な方は、残酷表現フィルターのレベルを上げましょう】


 残酷表現フィルターとは、流血や欠損表現などを抑えめにする機能だろう。

 洋子は、フィルター設定画面を開き、すぐさま残酷表現フィルターを最大レベルに設定した。


 ・流血表現オフ

 ・欠損表現オフ

 ・嗅覚オフ

 ・痛覚オフ

 ・ダメージポップアップオン

 ・死体消滅オン

 ・トゥーンシェードオン

 ・点滅演出オフ


 これらの設定がまとめて変更される。

 途端に視界が一変した。

 すべてが、アニメ調の、陰影と境界のはっきりした見映えになったのだ。

 痛みは感じなくなり、攻撃が加えられるたびに、0や1の数字がポップアップするようになっていた。

 臭いも感じなくなり、ようやく不快感が減少してくる。

 洋子は、立ち上がった。

 襲ってくる盗賊たちもリアリティがまるでなくなっていた。十把一絡げのモブキャラといったところで、なんの恐怖も感じない。

 洋子はおそってきた盗賊を適当に蹴り飛ばした。

 盗賊は、一撃で消え失せた。光の煙のようなものに分解され、アイテムを残して消滅したのだ。


「そうだよ。ゲームなんだから、こんなんでいいんだよ」


 洋子は立ち直った。

 生々しい表現はきれいさっぱりなくなり、これはゲームなのだとあらためて認識できたのだ。


「うわあああああぁ!」


 ようやく自分たちが相手にしていた者の異常さに気づいたのか、盗賊どもは逃げ出した。


「逃がすか」


 ターゲットウインドウを表示し、逃げていく三人の盗賊を選択してアイスミサイルの魔法を使用する。

 ロックオンしてしまえば、一定距離までは自動追尾するので、細かな狙いをつける必要はない。

 中空に氷の塊がいくつも生じる。

 それらは、器用に木々をかわしながら飛んでいき、逃げていく三人の頭を直撃した。

 三人は光となって消えた。

 最初に斬り殺した盗賊もいつの間にか消えている。後には、彼らが身につけていた装備だけが残されていた。


「盗賊が光になって消えた……洋介様の様子が普段とは違うと思っていたのですが、これを試しておられたのですか?」

「うん? お前にもそう見えるのか?」

「はい。先ほどまであった、血だまりや死体も急に消えましたが、洋介様がされたのですよね?」


 どうやら、表現フィルターは洋子の視界だけに制限がかかる設定ではないようだった。


「フィルターって、見た目だけのことじゃないのか?」


 洋子は、実験することにした。

 素材検索で、獣の骨を指定し、コンパスに素材までの距離を表示させる。


「おい。あっちに何か獣がいるから、狩ってこい」


 メイドに命じて行かせる。

 メイドも洋子の旅に同行できる程度には強いので、野生動物程度に苦戦することはないだろう。

 しばらくするとメイドが戻ってきて、手に持っていた何かが、白煙を発した。


「きゃっ! え? どういうことですか?」


 メイドが落とした何かを見る。

 地面には、枝肉が転がっていた。よく見れば、大腿骨らしい小さな骨もそばに落ちている。


「これは兎か?」

「はい。先ほどまでは、全身があったのですが……」


 どうやら、洋子の視界に入った瞬間に、フィルターは適用されるらしい。

 そして、適用されれば視線を外しても元には戻らない。


「なるほどな」


 なにもかもが現実のような環境だが、ゲーム設定部分は随分といい加減な仕様らしかった。


「まあ設定の検証はおいおいするとして……これからどうするか」


 ゲームをプレイするにあたって、開発会社から特に指示はなかった。

 長期間に亘ってのVR体験が人体に与える影響の実験とのことで、要求されているのはプレイし続けることのみだ。

 だが、だからと言ってだらだらと何の目的もなくこの世界で過ごすのではあまりにももったいない。

 ゲームのテストプレイをするだけでもかなりの報酬が得られるのだが、洋子はそれだけで終わらせるつもりはなかった。

 このゲームのプレイ動画を編集し、動画サイトに投稿するのだ。

 世界初のFIVRゲームの体験動画だ。人気を博することは間違いないだろう。

 洋子のゲームプレイ状況は全て記録されていて、その内容を公開する許可は得ていた。

 単にFIVRをプレイし続けるだけでも、それは得がたい記録ではあるだろう。

 だが、それだけではつまらない。

 視聴者たちは、常に刺激を求めているのだし、それに応える必要があるだろう。


「うーん。エルフの森を焼いてみた。なんてのはどうだ?」


 ありきたりなネタではあるが、それだけに一般受けはするかもしれないと洋子は考えた。


「エルフ、とはなんですか?」

「ああ。エルフっていねーのか。人間以外の種族って何がいるんだ?」


 洋子はキャラメイキングで種族選択がなかったことを思い出した。

 そのため、種族についてはあまり意識していなかったのだ。


「人間以外ですと、様々な動物の特徴を持った獣人がおりますね。他には魔法に秀でた魔族ですとか、魔力だけはあってもろくに使いこなせない半魔。大人になっても子供の姿のままの幼成族あたりでしょうか。もっとも私が知るのはこの大陸に限ってのことですが」


 獣人は町にいけばそれなり見かけるので、人間と変わりない立ち位置なのだろう。特に集落などはなさそうだ。

 魔族は、魔国にいて魔王に率いられているので、手を出せば国家を相手にするはめになりかねない。いずれはそのルートに進むのもいいが、それはメインシナリオのようなものだろう。やるなら最後にするのがよさそうだ。

 半魔は森の中に集落を作っているらしいのでおあつらえ向きだが、様々な勢力に狙われている。厳重に隠れ潜んでいて、居場所は不明だ。

 なので、洋子は幼成族の村を襲ってみることにした。


  *****


「あ、これだめだわ」


 集落が燃えていた。

 おとぎ話にでてくるような、こじんまりとした可愛らしい家々が炎を上げている。

 家から飛び出してきた幼女が、メイドの攻撃を受けて光になって消えた。

 そして服だけがその場に残される。

 別のメイドは、樽の陰に隠れていた子供を引きずりだして殺していた。

 そんなことが集落のあちこちで行われており、あたりには子供服が散乱していた。


「こういうの海外だと厳しいっていうしな」


 残酷表現フィルターで死体が消えようと、子供のように見える存在を攻撃して殺していることには変わりない。

 冗談めかして、幼成族を殺してみた。などとやろうと思っていたが、実際にやってみるとネタとして成立しそうになかったのだ。

 こんな動画を投稿すれば、おそらくは批判にさらされ炎上することだろう。


「はーい。一旦ストップ! 戻ってこい」


 大声で呼びかけると、武器を手にした十人のメイドが洋子の元に集まった。


「まだ数人残っているようですが」

「もうやらなくていい。これボツだから。じゃあ撤収。お疲れ様でしたー」

「……なんなんだ……お前たちは……」


 帰ろうとしたところで、よろめきながら少年がやってきた。

 頭上のHPバーが減って赤くなっているので、かなりのダメージを受けているようだが、どのような傷を負っているかは洋子にはわからない。


「お! 生き残りの少年勇者発見か?」

「俺たちが何をした……何故こんな目にあわなければならない!」

「いやー、すまんすまん。エルフの代わりになるかなーと思ったけど」

「エルフ……だと? なぜエントに住む少数民族が俺たちに関係ある……」


 少年は、洋子の言葉から合理的な理由を見出そうとしていた。

 ここまでのことをするのだ。

 それなりの、納得出来るだけの理由があるはずだと必死に考えている様子だった。


「エルフの森を焼き討ちしてみた! ってのしようと思ったんだけど、エルフいないからさ。代わりにお前らでやったんだけど、やってみたら思ったより陰惨な絵面になっちまってな。これ使えねーなー、って思ってたとこなんだよ。だから、もう焼き討ちは終わり。なんだったら、消火活動してやろうか?」

「ふざ……ふざけるな! なんなんだよ、お前!」


 少年が、洋子に掴みかかり、その瞬間少年は光となって消えた。

 洋子の周囲に展開する反撃防壁が、瀕死の少年に止めをさしたのだ。


「少年勇者、折角生き残ったのにな」

「彼らは成熟しても子供の姿のままですので、少年だったかはわかりませんが」

「ったく、ロリコンに都合よくできてる設定だよ」

「それはそうと、先程彼が気になることを言っていました。エルフはエントにいると」

「エント……東の方にある島国だったか。そっちの方は行ったことなかったな」


 洋子は、このあたりのめぼしい場所には大体足を伸ばしていたが、海を越えたことはなかった。


「エルフいるんだ……そうかそうか。だったら焼き討ちツアーに行こうぜ!」


 ここでいうエルフがどんな存在なのかはさっぱりわからない。

 だが、とりあえず行ってみればネタになるだろうと洋子は考えていた。

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