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即死チートが最強すぎて、異世界のやつらがまるで相手にならないんですが。 作者:藤孝剛志

第6章 ACT2

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12話 知らない人の話に勝手に混ざらない。いいね?

 遥か昔、七人の大魔導士は大賢者を名乗る男に敗れた。

 戦うに至る経緯を、イゼルダは覚えていない。

 ただ、為す術もなく敗れ去ったのだということだけは強烈に覚えている。

 その長い人生においての初めての、決定的なまでの敗北。それは、最強だと思っていた、七人の中でも一番だと思っていた、これ以上強くなる必要などないと確信していたイゼルダにとって驚天動地の出来事だった。

 その戦いにおいて、五人の大魔導師が生き残った。

 大賢者にとって、大魔導師などどうでもいい存在だったのだろう。

 適当にあしらったらその過程で死者が二人出てしまった。その程度のことなのだ。

 生き残った大魔導師のその後は様々だった。

 一人は全てを諦めた。大魔導士としての栄光も、富も、権力も、魔力も。その全てをかなぐり捨てて隠遁したという。なのでとうの昔に死んでいるはずだった。

 一人は大賢者の軍門に下り、賢者となった。彼は力を得ようとしたのかもしれないが、イゼルダからすれば、逃げたようにしか見えなかった。それでいくら強くなろうとも大賢者に勝てはしないだろう。

 残りの三人は大賢者の打倒を心に誓ったが、そのアプローチはそれぞれで異なるものだった。

 一人は、ただ愚直に修業を行った。最強だと慢心していた己に活を入れ、さらなる力を模索したのだ。だが、大魔導師とまで呼ばれるようになった者たちは、すでに限界に達していた。どれほどの克己心を発揮しようと、ぼろぼろになるまで己の身体をいじめ抜こうと、成長の余地などすでになくなっていたのだ。

 その後、彼がどうなったのかをイゼルダは知らない。再び、大賢者に挑んだとも聞いたが、それは破れかぶれのなんの成算もないものだっただろう。

 一人は、別の力を求めた。

 古代法術、竜言語魔法、魔神の加護、神の恩寵などがそれだ。

 その研究はそれなりの成果をあげたらしく、今もその名が残っている。イグレイシアというのがそれだ。

 魔神を封印し、マニー王国王都の城壁を作ったなどいくつもの伝説があるが、大賢者に届くには至っていない。

 そして、イゼルダは、従来知られている力では大賢者には太刀打ちできないと考えた。

 大賢者に食らいつくには、大賢者が用いている力。ギフトを利用するべきだと思ったのだ。

 それは、いつのまにか世界を覆い尽くし、世界の理を変えてしまっていた力だった。

 ギフトの継承により、役割クラスが与えられ、クラスに応じた特殊能力スキルが発現する。

 その力は、この世界において圧倒的なものになっていた。

 イゼルダは、降龍と呼ばれる存在から、ギフトを手に入れた。

 降龍は、システムの根源ルートに繋がる最上位のギフト保持者であり、賢者とは無関係の存在だ。

 大賢者であろうとも、別系統のギフトに干渉することはできない。

 ギフトを入手するなら、より根源ルートに近いところから。それはうまくいったのだが、一つ問題があった。

 ギフトは、世代が下る毎に、その性能を特化していく傾向がある。

 つまり、根源に近いということは全ての可能性を孕んでおり、それが故に有用な力が発現するとは限らないのだ。

 そして、イゼルダが得た力は、とても大賢者に対抗できるようなものではなかった。

 そこでイゼルダは、転生を試みた。

 クラス発現の法則は謎に包まれているが、それでも、継承元のクラスと継承先のクラス性向によりおおよその方向性は決まるとされていた。

 クラス性向は生まれつきだし、継承元は降龍とするしかない以上、何度繰り返そうと、同じようなクラスが増えていくだけのことだろう。

 それにその方法には限界がある。ギフトをインストールできる領域には限りがあり、無駄なギフトで領域を埋め尽くしてしまえばそれで終わりなのだ。

 だが、クラス性向が生まれつきのものであるならば、生まれ変わればいいだけのことだ。

 それで領域の問題は解決するし、何度でもやり直すことができる。

 都合のいいギフトが発生したならその子孫へ転生し、より強力なギフト系統を作りあげていくことも可能になるだろう。

 イゼルダは、転生を繰り返した。

 今もイゼルダは、最強へと至る道の途上だ。

 だが、その成果は確実に出ている。

 いずれは大賢者に届きうるのだと、イゼルダは確信していた。


  *****


 船は問題なく夕刻に出港した。

 紅蓮の絆の団長であるホーネットは、船の護衛についての打ち合わせを終え、自室へと戻ってきた。


「ただいま」

「ホーくん、お帰りー」

「あれ? 姉さんたちは?」


 ホーネットの母親は優雅にお茶を飲んでいる。だが、一緒にいるはずの姉妹の姿は見当たらなかった。


「船の中を探険してるわー」

「……自室待機も仕事のうちなのに……」


 愚痴りながら、ホーネットはテーブルについた。


「大丈夫よー。何があっても、ホーくんがいれば!」

「いや、一人じゃどうしようもないケースだってあると思うんだけど」

「海賊がきたぐらいじゃ、対応しないんでしょ?」

「うん。海賊は、別の部隊が対応することになってる」


 紅蓮の絆に割り振られる仕事はほとんどない。

 周辺警戒も、海賊の撃退も専門の部隊が行うことになっている。

 紅蓮の絆は、いざという時のための切り札だった。

 その為、主な任務は自室で待機することだったのだ。

 この船では、箔付けのためだけに、高名な戦士を雇っているのだった。

 紅蓮の絆のホーネットはこの界隈では有名だった。

 勇者と剣皇と大魔導師とハーレムマスター。

 単独でも最上位に位置するクラスを四種も合わせもっている戦士として、高い評価を得ているのだ。


「それこそ、氷山でもやってこないと、私たちの仕事はないわねー」

「母さん。知らない人の話に勝手に混ざらない。いいね?」


 ホーネットは、乗船前のことを思い出した。

 なぜかこんな南の海で、氷山の心配をしている少女がいたのだ。


「でも、あの人たち船は初めてって感じだったわ! 不安だったと思うのよ!」

「それはそうかもね。そういや可愛い子だったな」

「えぇ!? ホーくんにはそんな話はまだ早いと思うわ!」


 イゼルダは、ホーネットの意識をさりげなく誘導した。

 ホーネットは、イゼルダの転生体の一つであり、イゼルダとしての意識はホーネットの内に存在しているのだ。

 ホーネットはそのことを知らない。

 彼は、ホーネットとして産まれ、ホーネットとして成長してきた。

 これからも何事もなければ、このまま何も知らずに人生を送り死んでいくことだろう。

 イゼルダにとって、ホーネットは最強へと至る道の通過点に過ぎなかった。

 何度もの転生を繰り返したイゼルダは、今さら人生を体験することに価値を見出してはいなかった。

 ホーネットがしなければならないのは子孫を増やすことだけであり、その程度のことは全てホーネットに任せておけばいい。

 だが、イゼルダは今、その意識を活性化させていた。

 少しばかり気になる人物がいたのだ。

 イゼルダは、周囲の人物を調査し、よりすぐれたギフト系統が存在しないかを常に確認している。

 すぐれた血統があるのなら、そちらに転生するなり、混ぜ合わせて新たな血統を作りあげるなりするためなのだが、その調査において不思議な人物を見つけたのだ。

 先程、ホーネットの母親が話しかけた少女だ。

 少女にギフトが発現していないため、クラス性向はわからなかったが、その肉体そのものが興味深かった。

 あまりにも効率のいい感覚器と神経系と筋肉を兼ね備えていたのだ。

 それは、自然に生まれるはずなどない、なんらかの実験の成果のように思われた。

 イゼルダは、少女に興味を抱いた。

 最強を目指すイゼルダが求める力は、ギフトだけではなかった。大賢者を打倒するためには、あらゆる要素を検討する必要があるのだ。


「そんなんじゃないよ!」


 ホーネットはそう言うが、内心では少女に関心を持たせ、接触をはかるように行動させる。

 めぼしい人材を血統に取り込み、より強力な転生素体を生み出すのだ。

 それは、イゼルダがこれまでに散々やってきたことだった。


「ん? なんだろ?」


 イゼルダが今後どうホーネットを誘導するかと考えていると、ホーネットが何かに気付いた。


「帰ってきたのかしら?」


 玄関のドアノブが、ガチャリと動いたのだ。

 二人が不自然に思ったのは、鍵がかかっているというのにノブを動かす音がしばらく続いたからだ。

 姉妹は当然、鍵を持っている。施錠されていてもすぐに気付いて鍵を開けるはずなのだ。


「母さん。気を付けて!」


 しばらくして、ドアが開いた。

 見知らぬ男が立っていた。


「鍵がかかってるから、誰もいないのかと思ったけど、ここってオートロックだったか?」

「何者だ!」

「もうちょっと、気の効いたセリフは言えねえもんかね。これだからNPCはよー」


 イゼルダは、いつものように鑑定処理を行った。

 やってきた男のクラスは、VRRPGプレイヤーという、わけのわからないものだった。

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