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即死チートが最強すぎて、異世界のやつらがまるで相手にならないんですが。 作者:藤孝剛志

第6章 ACT2

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11話 私たち働いてないよね!?

「ねえ。私たち、贅沢しすぎなんじゃないの?」


 部屋に案内された知千佳は、特等船室の偉容に圧倒されていた。

 たっぷりと余裕のある広々とした部屋に、素人目にも贅の限りが尽くされているとわかる調度類。

 しかもそんな部屋が、特に使い道もないのに複数連なっている。

 そこは、知千佳のような庶民が及び腰になってしまうような、贅沢な空間だった。


「いいんじゃないの。金ならあるし。下手にケチると、現代文明になれきった俺たちだと耐えられないような環境になるかもしれないし」


 夜霧は、部屋の豪華さについては特に思うところがないようだった。

 槐の表情も変わらないが、これはもこもこがわざわざ表情まで制御していないためで、何を思っているかまではわからない。

 もこもこは、槐に重なるように動いていた。いわば憑依している状態だろう。

 遠隔操縦の場合は隙が増えるが、この状態なら自然に動かせるらしい。


「それはそうだけど、お金は大丈夫なわけ? ここまでもかなり使ってる気がするんだけど」

「増えてるし大丈夫だよ」

「なんで!? 私たち働いてないよね!?」

「コンシェルジュの人に資金運用を任せてたら、とんとん拍子にうまくいってすごいことになってる」

「ああ……そういや、そんなこと言ってたよね……でも、そんなことがわかるの?」

「たまに、鳩が飛んできてレポートを報告してくれるよ」


 この世界での遠距離通信手段として主に用いられるのは伝書鳩だった。

 通信手段は様々なものがあるが、魔法生物の鳩はどこででも使えて安定運用が可能なので、よく使われているらしい。


「でも、お金が増えてるのはわかっても、どうやって使うの?」

「鳩で決裁もできるよ。情報の暗号化が可能で、銀行に取り引きの指示ができる」

「鳩、便利すぎだな!」


 この世界の金融システムについて知千佳はよくわかっていなかったが、どうやら鳩がその中枢を担っているらしい。


「まあ、元々が花川の金だから、あいつにも感謝しないとね」

「いやあ、今さら感謝されてもって感じだと思うけど……」


 いつまでも入り口に突っ立っているわけにもいかないので、二人は部屋の中へと入った。

 入ってすぐがリビングになっている。

 夜霧と知千佳は手荷物を置いて、ソファに座った。


「あとは、何事もなければ一週間ぐらいで到着らしいけど」

「何事もなければ、ね」

「まあ、何かあっても小僧がどうにでもするんだがな」

「いや、俺は無敵ってわけでもないし、船の上は厄介だよ」

「へー、そうなんだー」


 今さらこいつは何を言っているんだ。知千佳はそんな目で夜霧を見た。


「船が何かのトラブルでいきなり沈没したらどうしようもないよ」

「そうゆうものなの!? いつもの殺意予報みたいなのは?」

「俺を狙ってるわけでもない、環境そのものが変わるタイプの危機は対応しづらいね」


 そもそも夜霧は異世界転移させられてしまっているし、魔界でも崖崩れに巻き込まれている。

 全ての危機を察知できるわけでもないのだ。


「だったら優雅に船旅なんてしてる場合じゃないんじゃないの!」

「まあ、最悪は、触丸ふれまるで船でも作ればどうとでもなるだろう。それほど心配せずともよいのではないか?」


 もこもこが言う。


「ん? それってあの、ロボからもらったアレのことだよね? そんな名前だったの?」


 普段は服の一部に擬態している、侵略者のロボからもらった謎の物質のことだろう。

 形状は自在に設定でき、武器にも防具にも翼にもなる。

 かなり使い勝手のいい道具だった。


「うむ。名称がないと据わりが悪い。毎回ロボのアレ、とかゆーのもなんだしな」

「それは、なにか謂われのある名前なの?」


 何々丸。というのは日本刀によくある名称だろう。平安生まれのもこもこ特有の名付けかと知千佳は思ったのだ。


「フレキシブルマテリアルの略だな」

「これっぽっちも謂われはなかった!」

「まあ、船に関しては何事もないことを祈るしかないかな」


 そう言うと夜霧は立ち上がり、奥にある寝室へと向かった。


「まだ昼間だけどもう寝るの?」

「特にすることもないしね。壇ノ浦さんはどうする?」

「そうだなー。ちょっと船の中でも見てこようかな」


 豪華な室内とはいえ、閉じこもりきりでは暇なだけだ。これからしばらく世話になる船について見ておくのも悪くはないだろうと知千佳は考えた。


「小僧」


 もこもこが何かを軽く放り、夜霧はそれを受け取った。


「これは?」

「触丸の一部だ。何かやばそうであればそれで連絡する。スマホよりはタイムラグが少なくてすむ」

「わかった。壇ノ浦さんに危害を加える奴がいたら教えて」

「そんなことできるなら、前からしとけばよかったんじゃない?」

「触丸の分割制御はなかなか難しくてな。できるようになったのは最近なのだ」


 これまでも硬質化した触丸を飛び道具として扱うことはできたが、分離した後は制御できなかったらしい。

 それが、少しなら分割しても制御可能になったとのことだった。


「って、寝るの早いな!」


 知千佳がもこもこの解説を聞いている間に、夜霧は寝息を立て始めていた。


  *****


 甲板の端には救命ボートが用意されていた。

 頑丈そうなので万が一の際に役立ちそうだが、思っていたよりも数が少ない。


「これ、全員は乗れないんじゃ……」

「氷山にぶつかったアレもまるで足りんかったそうだぞ?」

「特等のお客様は心配しなくても大丈夫ですよ。一等船室までは全員乗れますから」


 通りすがりの船員がそう告げて去っていった。

 特等船室の客は要人扱いなのだろう。船員に顔を覚えられていても不思議ではなかった。


「おおう。貧乏人は死ねってか……」

「二等でもかなりの料金のはずだがな」


 知千佳ともこもこはぶらぶらと船内を見て回った。

 もこもこは槐憑依状態で、こうしているのは自然に会話しやすいからだ。

 小声でも、目に見えない相手と話していては不自然に思われることもあるだろうとの判断でこうしている。


「色々あるから一週間ぐらいはなんとかなりそうだね」


 スポーツジム、テニスコート、プール、大浴場、カジノ、高級レストラン、コンサートホール。

 暇つぶしになりそうなものが、船内にはたくさん用意されていた。


「で、どうする? やはり船で行くのか?」


 出航は夕方頃なのでまだ時間はある。

 今ならキャンセルも可能だ。


「それねー。なんか嫌な予感はするんだよね。氷山はないと思うけどさ」


 氷山があるのは遥か北の海なので、この航海で遭遇することはまずないとのことだった。


「怪しげな輩も乗り込んでおったが、何か仕掛けてくるなら小僧で対応可能だろう」

「そもそもさ。賢者を倒して、賢者の石を集めるのをどうしてもしなきゃ駄目なのか……って、そこから考えちゃうんだよね」

「ふむ。だが、今のところ帰還できる可能性が一番高い手法がそれだが?」

「うーん。この世界の人に迷惑かけまくってさ。そこまでして帰らなきゃ駄目なのかな。とも思うんだよ」


 もちろん知千佳も帰れるものなら帰りたい。

 だが、それには多大な犠牲を伴うのだ。賢者が死ねば、この世界を外敵から守る戦力が減っていく。そのうち侵略者に対応しきれなくなり、この世界は滅びに瀕するだろう。

 賢者はろくな奴らではない。人を人とも思っていないし、大勢の人間をあっさりと殺しもする。だが、それでも侵略者の被害に比べればましといえるのだ。

 必要悪とはまさにこのことで、賢者がどれほどたちの悪い存在だとしても、この世界には必要なのだ。

 けれど、夜霧にはこの世界を滅ぼしてでも帰ろうという決意がある。

 しかし、知千佳にはそこまでの覚悟はなかった。

 そこまでしなければならないのなら、帰還は諦めてもいいのではと思うのだ。


「ほら、前に花川くんにサイコパスコンビよばわりされたじゃない? 二人そろってなんでもかんでも殺しながら突き進むってのもどうかと思ってさ」


 この世界を生き抜くには覚悟が必要だ。

 だが、それは何もかもを見捨てて、何も感じないということなのかといえば、それは違うのではないかとも知千佳は思っている。


「だが、帰還を目指すことが、この世界への被害に直結しているわけでもないぞ。賢者を倒さなくても賢者の石は手にはいるかもしれないし、賢者の石の必要数はそれほどでもないかもしれない。それに降龍が帰還方法について何やら知っておるようだしな」

「なんにしろすんなり行くとは思えないけどね」

「まあ、帰らないというなら、それはそれでよいぞ」

「いいんだ!?」

「我は壇ノ浦の一族を護るため、子孫繁栄のために永らえておるし、その為にお主を守っておる。ならば、場所は関係ないともいえるな。もっとも、帰還できたほうが繁栄しやすいとは思っておるが」

「まあ、ここで暮らしていくにしても、それならそれでちゃんと考えないと駄目とは思うけどね」

「それほど不自由はないと思うがな。日本からやってくる者が多いせいか、それなりに日本語も通用するし、場所を選べば現代日本人でも不便はないしの」

「今さらだけどさ。日本語が普及してるのって、日本から来る人が多いってことだよね?」

「理由はわからんがそういうことだろうな。日本特有の何かがあるのやもしれんが」

「いや、だからなんだってことだけどね。日本人がいるからってこの世界で暮らしていけるかはわかんないし」


 今すぐ帰還をあきらめるというわけではない。

 だが、この世界で暮らすというのも選択肢の一つとしてはあるのだと知千佳は考えはじめていた。

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