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即死チートが最強すぎて、異世界のやつらがまるで相手にならないんですが。 作者:藤孝剛志

第6章 ACT2

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10話 話が通じない予感しかしないな!

「大丈夫よー! ホーくんの紅蓮剣で、氷山なんて一瞬で蒸発しちゃうわ!」


 豪華客船を見上げていた知千佳の隣から、のんびりとした女の声が聞こえてきた。

 話の内容からすると、知千佳に話しかけているのだろう。

 隣を見てみると、長身の女性が知千佳に微笑みかけていた。


「えーと、それは必殺技かなにかでしょうか?」

「やめてよ、母さん! なんで見知らぬ人の話に割り込んでるんだよ!」


 女性は、少年を後ろから抱き抱えていた。

 少年の頭の上には女性の豊満な胸が載せられていて、ずいぶんと居心地が悪そうだ。

 こんな調子でここまで歩いてきたのなら、かなり目立ったことだろう。


「だってぇ。氷山の心配をしてたから、安心してもらおうと思って。ホーくんはものすごく強いんだから!」

「ほんと、すみません……うちの母、空気が読めないものですから……」

「だから、氷山だろうと海賊だろうと大丈夫よ! 紅蓮の絆のホーくんに任せてちょうだい!」


 自信満々ではあるようだが、とくに敵意をぶつけてくるわけでもない。知千佳は、どう反応していいやらわからなかった。


「すみません、わけわかりませんよね。僕たちは小規模な傭兵団みたいなものなんです。この船の護衛に雇われてるんですよ」

「えーと、そのお母さんと一緒にですか?」

「……はい……他にも姉と妹がいます……」


 少年は遠くを見る目になった。よほど苦労しているのだろう。


「海賊が出るの?」


 夜霧が聞いた。


「はい。でも、この規模の客船が襲われることはめったにありませんし、その為に僕らがいますから。ほら、行くよ! みんな待ってるんだから!」


 少年は母親を促し、そそくさと船へと向かった。


「……海賊出るんだ……」


 知千佳はますます嫌な予感がした。


「でも、船で行く以外にないしな。どうしても嫌なら、別の賢者を探してもいいけど」


 だが、所在がはっきりしているのは、エント帝国の賢者ヨシフミぐらいのものだった。

 以前に滞在したハナブサの街は賢者アリスが支配下においたようだが、ここからはかなりの距離があるし、そこに本人がいるとも限らない。


「まあ、ここまで来ちゃったからねぇ」

「雑なイベントの説明? 前振り、乙」


 思い悩んでいると、またもや声がかけられた。

 振り向くと日本人らしき少年が立っていて、知千佳を見つめている。

 勘違いかとも思ったが、やはりその少年は知千佳に話しかけているらしい。

 知千佳は少しばかり気分を害した。

 少年の口調があざけるような、馬鹿にするようなものだったからだ。


「へぇ? 説明係のモブかと思ったら、違うみたいだな。その見た目からすると、次のイベントのヒロインってとこ?」

「あの。どなたですか?」


 日本人の少年ならクラスメイトかとも思ったが、知千佳の記憶にはなかった。

 だが、この世界にはそれなりに日本人がいる。

 賢者の召喚以外にも、様々な経緯でやってきているのだ。

 なので、日本人がいることはそれほどおかしくはないのだが、初対面にしては馴れ馴れしいし、言っていることが怪しい。

 知千佳はますます怪訝な顔になった。


「俺は柊洋介。会話できるってことはパーティメンバーになるのかな? ああ、気にしないで。こっちのことだから」

「日本人、ですよね。あなたも転移してきたんですか?」

「ふーん。そういう設定なんだ。珍しいNPCだな」

「話が通じない予感しかしないな!」


 知千佳はこの世界にやってきて出会った人々のことを思い出していた。

 大体、この手の自信過剰なやつは人の話を聞かないのだ。


「あんた、もしかしてここがゲームの中だと思ってる?」


 話をするだけ無駄かと知千佳が思っていると、夜霧が洋介に話しかけた。


「おいおい。どーなってんだ。随分とメタな展開だな? 興ざめだぜ。ゲームキャラがゲーム中であることを認識してるって、あれだろ。第四の壁の破壊ってやつだろ? 奇をてらってるだけのしょーもないシナリオライターがやりそうなことだよな」


 洋介が顔をしかめる。どうやら夜霧の話は気にくわないらしい。


「しょーもないシナリオで悪いけど、ちょっとだけ話につきあってくれないかな」

「なんだよ。船で海に出て、なんかイベントがあるんじゃないのか? まあ、これがフラグってんならしかたねーけどよ」

「ここがゲームの中だとして、それはあんたにとってどんな認識になってるの? テレビの前でコントローラーでも握ってる?」

「まさか。なんのためのVRだと思ってんだよ」


 VR。仮想現実バーチャルリアリティのことだろう。

 知千佳もそれがどのようなものかぐらいは、なんとなくわかっていた。


「それはどうやって実現してるの? ここまでリアルな世界を構築できる技術は完成してなかったと思うけど」

「詳しくは知らないけど、プレイの時はカプセルみたいなのに入ってるよ」

「あんたは今を何年だと思ってるんだ?」


 洋介の答えは、知千佳たちが修学旅行に出かけた時期とほぼ同じだった。

 つまり、未来技術の産物ということでもないらしい。


「それはログイン、ログアウトができるようなもの?」

「……もういいだろ。折角のファンタジーRPG世界で、こんなつまんない展開が見たいわけじゃない」


 そう言い捨てて、洋介は船へと向かった。後には、仲間らしき者たちが続いている。

 先程の話を聞いたからか、その仲間たちはどこか、意思のない人形めいてみえた。


「……え? なんなの? どういうこと? 意味わかんないんだけど、さっきの人なに?」

「ゲームの中か。その手のことは考えても仕方がないからその可能性は無視してたけど」

「え? ゲームって嘘でしょ? こんなリアルにできないでしょ?」

「まあ、可能性でいえばありえるんだけど」

「ありえるの!?」

「たとえばとんでもなく未来の高性能コンピューターで、素粒子レベルの動きが全てシミュレーションされてる世界なんて場合だけど。でも、証明しようがないんだよな。胡蝶の夢とか、世界五分前仮説とかと同じでさ」

「まあ、この世界がリアルかっていうと魔法とかあるうさんくさい世界なんだけどさ……」

「だから気にしても仕方がないんだけど、ゲームだとするとログアウトで元の世界に戻れる可能性があるのかなって」


 夜霧の視点からすると、寝ている間に異世界に来てしまっているので、その際にゲームに無理矢理参加させられた可能性はあるのだろう。

 だが、知千佳は異世界にきてしまった瞬間を知っている。バスに乗っていたら突然異世界にきてしまったのであり、VRゲームをプレイさせられているとはとても思えなかった。


『うむ。しかし、それはどこかの時点でゲームをスタートした場合に限られるな。最初からゲーム内のキャラとして創造された存在なら、ログアウトなど無理であろう』


 もこもこも話に加わってきた。

 しかし、知千佳にはこの世界にやってくる前からの膨大な経験と記憶がある。それらが全て作り物だなどとはとても思えない。


「そう。俺らが中の人なら、どうしようもないから気にするだけ無駄なんだけど……気にしなきゃならないのはあいつそのものかな」

「どういうこと?」

「あいつがこの世界をゲームだと思ってるなら無茶苦茶なことをする可能性があるよね」

「ああ! 確かにNPC殺せるゲームだと、ついやっちゃうことあるね!」

「壇ノ浦さん、そーゆータイプか。俺、できないんだよな。だからスカイリムでも暗殺者クエストに行けなくて」

「え? なに、この流れ? 私が残虐非道みたいなことになってる!?」


 これまでに人を躊躇なく殺してきている夜霧もゲームではできないらしい。

 なんとなく理不尽なものを感じる知千佳だった。

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