挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
ブックマーク登録する場合はログインしてください。
即死チートが最強すぎて、異世界のやつらがまるで相手にならないんですが。 作者:藤孝剛志

第6章 ACT1

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました
123/202

6話 時をさかのぼること一億年前

 往来で話をし続けるわけにも行かず、知千佳たちは目的地であった高級ホテルのロビーに移動していた。

 知千佳と夜霧が並んでソファに座り、向かい側にはエーデルガルト、ジョルジュ、降龍を名乗った少年が座っている。


「いきなり裏切ったりしないですよね?」


 うさんくさいものでも見るようにして知千佳が言う。

 降龍は飄々とした態度の少年で、まるで信用できなかったのだ。


「どうだろう。敵かな? 味方かな? みたいなのがウリなところがあるからね」

「めんどくさい人だな!」


 いきなり敵対しないだけましかもしれないが、それでも面倒なことには変わりなかった。


「なぜ、こんな犯罪者どもと和気藹々とせねばならんのだ! さっさと確保拘留すればいいではないか!」


 エーデルガルトは不満いっぱいの様子だった。


「俺たちは、無罪放免されたはずだろ? なぜ追いかけられてるのかもわかんないんだけど」


 しれっと夜霧は言った。

 犯罪組織の者達を殺したのは夜霧なのだが、そんなことはおくびにも出さない。


「なに? ではなぜ、レイン様がお前らを追えと言われたのだ! 犯人だからだろうが!」

「その、エーデルガルト様。確かに、彼らがやった証拠はなくてですね」

「レイン様に鳩は送った。だが、送った以上は彼らをここに足止めせねばならん! 見つけましたが、よそに行きました。そんな報告ができるわけなかろうが! そうでなければ発見したなどとは言えぬではないか!」

「足止めは困るな。俺たちは、東の島国に行く予定なんだけど」


 めんどくさい。眉をひそめる夜霧の心情は手に取るようにわかるものだった。


「エーデルガルト様。ここは他国ですし、我々に彼らの行動を制限できる権限はないかと思いますが……」

「なに!? では、どうすればよかったというのだ!」


 彼らの話は堂々巡りになっている。

 知千佳は、うさんくさいと思いつつも、降龍に目を向けた。

 彼の方がまだ話は通じるだろうと思ったのだ。


「そのー、ざっくりと事情を説明してくださるとありがたいんですけど」

「そうだね。そんなに難しい話でもないんだけど、どこから話そうかな。じゃあ、時をさかのぼること一億年前」

「そんな前から話す必要あるの!?」

「あれ? 僕の初恋の話に興味はない?」

「逆に聞きますけど、なんで初対面のあなたのプライベートなことを聞きたがるとおもってるんですか?」

「それは関係あると思ったら聞くとして、こっちの質問に答えてくれないかな」

「いいよ。それで全ての事情が網羅できるかは質問次第ってことになるけどね」

「質問しても雑にはぐらかされてるだけのような……」

「なんの用があって俺たちのところにきたの?」

「秘密」

「おい!」


 知千佳はつい声を荒らげてしまった。

 思わせぶりに出てきてそれはないだろうと思ってしまったのだ。


「なあ? もう行っていい? 俺らもあまり暇じゃないんだけど」


 夜霧も腰をあげかける。

 どうしても彼らと話をしなければならない理由などない。

 ろくに説明しないなら時間の無駄だろう。


「謎の少年の目的は、謎ってわけにはいかなかったか」

「なんで、それでいいと思った」


 降龍は実に真面目な顔で言った。


「いや、別に大した話じゃないんだ。君たちに、今までどおり活躍してもらいたくて、そのために手助けをしたいんだよ」

「というと?」

「賢者が死ぬと飯がうまい。できればそれを近くで見たい。そのために助力を申し出たい」

「なんとなく韻を踏んでてムカつくのは私だけ?」

「助力って?」

「僕はこの世界に詳しい。きっと役に立てると思うよ」

「詳しい、か。で、あんたは何者なんだ?」

「降龍って言ってましたよね。それが名前なんですか?」

「種族名という感じかな。この世界を管理していた龍が新たな神に敗れ、地に降った際につけられた蔑称とでもいうか」

「やたらスケールでかいな! ほんとなの、それ?」

「ほんとだよ。だから、この世界では肩身が狭いんだ」


 降龍は仰々しく肩をすくめて見せた。


「降龍が種族名なら、あんた個人の名前は?」

「僕が最後の一人だから、降龍は僕だけだ。だから、降龍と呼んでもらって差し支えないよ」

「さっき、空を飛んで来たみたいな話をしてたよね。それはあんたが?」

「そうだよ。龍身に変化すれば、空を飛べる。それで彼女らをつれてきたんだ」

「だったら、東の島までつれてってもらえないですか?」


 それができるなら、船を待つ必要も、のんびり船旅をする必要もない。


「空を飛ぶだけなら可能だけど、東の島までは無理だね」

「なぜですか?」

「空は賢者の世界だ。地上と同じようにそれぞれの賢者が管理する領域が存在している。賢者は人が空に行くことを禁止しているんだ」

「飛んでる人に心当たりありますけど?」

「それは、短時間の話じゃないかな? 遠距離を飛べば必ず、賢者の警戒網にひっかかる」

「でも、エーデルガルトさんたちは、飛んで来たんですよね?」

「うん。けど、今はこのあたりを管轄していた賢者がいない。君が殺しちゃったからね」

「なるほど。つまり、あんたは賢者より弱いってことなんだな」

「それは素直にうなずきたくないけど、墜ちた神なんてこんなものだと察してくれないかな」

「賢者より強くて、さくさく倒してくれるならありがたかったんだけどな」


 夜霧がぼやいた。

 夜霧の力で賢者を殺してしまうと、賢者の体内にある賢者の石は力を失ってしまう。

 そのため、少しずつ力をそぐような面倒な対応が必要なのだ。


「む! 鳩が戻ってきた! が、既読になっていない! これはどうしたことだ!」


 知千佳たちが降龍と話している間も、エーデルガルトとジョルジュはあれこれと言い争っていたが、どこからか鳩がやってきた。


「えっと、それ、鳩ですよね? 既読って……」

「うむ! これは魔法の伝書鳩でメッセージを伝えることができるのだ! 宛先に届きメッセージを再生したなら既読状態になるに決まってるだろ!」

「あ、はい」

「しかし不思議だ。よほどのことでも無い限り届くはずなのだが……」

「それは当然だね。レインは死んだんだから」


 首をかしげるエーデルガルトに、降龍はあっさりと告げた。


「なんだと! あのレイン様が死ぬわけなかろうが! 私は見たぞ! 全身を焼き尽くされようと、即座に復活されるのだ!」

「ついでに言うと、君たちが住んでいた町は滅びたよ」

「そんなわけがあるか!」


 立て続けに言われ、エーテルガルトは怒りとともに立ち上がった。


「信じないのは勝手だけど、だったら他の信頼に足る人物に鳩を送って確認してみればいい」


 エーデルガルトと、ジョルジュは一旦席を外した。

 事実確認に出向いたのだろう。


「ちょっと待ってください! だったら、他の町も……」


 言われてみれば腑に落ちる話だった。

 町は賢者の加護に守られ、列車での移動にも結界が必要な危険に満ちた世界。

 賢者がいなくなれば、危ういのはわかりきった話だったのだ。


「もしかして、そんな覚悟もなく賢者を殺してきたのかな?」


 知千佳は夜霧を見た。

 夜霧は、落ち着いたものだった。

 知千佳は何も考えていなかったが、夜霧はこの事態も考慮していたのだろう。


「気休め程度に言っておくとハナブサの町は無事だ。あそこは賢者アリスが引き継いだ。マニー王国の王都はもともと壊滅状態だけど、聖王と剣聖がいるからどうにかなる。闘神都市は戦力が充実してるから、しばらくは持ちこたえるんじゃないかな」


 そう言われてもあまり慰めにはならなかった。


「だからと言って賢者の石を諦める理由にはならない。それとも、別の帰還手段を提示できるの?」


 夜霧は元の世界に帰ることを最優先に考えている。

 その点でぶれることはないのだろう。この世界にどれほどの被害が出ようと諦めるつもりはまるでないのだ。


「あー、なんとなく覚悟を問うてはみたものの、賢者を殺して欲しいんだから余計なことを言うべきじゃなかった」

「あんた、気分で物言いすぎだろ……」

「謎の少年ムーブを優先しすぎだよ……」

「とにかくだ。別の帰還手段も含めて、僕は色々と知っているから、君たちについて行っていいかな?」

「それは今教えるつもりはないんだな」

「もちろん小出しにするよ。全部教えたら用済みになっちゃうだろ?」

「わかったよ。仲間にするつもりはないけど、ついてきたいなら勝手にしたらいい」


 知千佳も特に異論はなかった。


  *****


 翌日の朝。知千佳たちは港へとやってきた。

 船は、ホテルのコンシェルジュを通して簡単に手配できたのだ。

 停泊しているのは、巨大な豪華客船だった。


「なんか……どっかで見たような気がするんだけど……」

「氷山にぶつかって沈没しそうだ」

「思ってたけど、言わないで!」


 知千佳は、不吉な予感しかしなかった。

  • ブックマークに追加
ブックマーク登録する場合はログインしてください。
ポイントを入れて作者を応援しましょう!
評価をするにはログインしてください。

感想は受け付けておりません。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。