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即死チートが最強すぎて、異世界のやつらがまるで相手にならないんですが。 作者:藤孝剛志

第6章 ACT1

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4話 三魔将って言われるとなんとなく手抜き感がする(後編)

「我、苦しんでるのに、小僧がおっぱいを堪能して嬉しそうなのが納得いかんのだが!」

「異世界に来て一番楽しいと思ってる」

「異世界特に関係ないな!」


 密着するのはもう仕方がないと知千佳は諦めていた。

 そんなことでごねていて、もこもこが消滅してしまっては取り返しがつかないからだ。

 急ぐなら馬に乗るしかないし、三人で乗るなら、知千佳が夜霧の後ろから馬を操るしかないのだった。


「えーと、このまま駆け続けて、もこもこさんを助けたらそのまま目的地だった港へ向かう。でいいんだよね」


 崖沿いで勇者と魔王の決戦は行われていた。

 そのあたりまで行き、もこもこを捕らえている何かを倒し、そのまま駆け抜けて去る。

 実に行き当たりばったりな計画だった。


「問題は、もこもこさんを捕まえてる奴をうまく倒せるかどうか……チャンスは一度だな」

「いや!? 何度でもやりなおしてくれていいのだが!」

「もこもこさんさー。槐ちゃんの制御をやめて本気を出したら自力で逃げ出せるとかないの?」

「掴まれる前ならどうにかなったのだがな。今は消滅を免れるために防御に全力を集中している状態だ」


 そんなことを言っている間にも馬は全力で駆けていき、崖が見えてきた。

 同時に、もこもこと魔族たちの姿を知千佳の優れた視力はとらえている。

 まだ気付かれてはいないようだった。


「無理そうだな。もこもこさんは見えてきたけど、掴んでるって奴が見えない」


 しばらくいくと夜霧にも見えてきたようだ。


「じゃあどうする? もこもこさんほっといていく?」

「我がいないと元の世界に帰れないことを忘れておらんか!?」

「話をしてみよう。元々勇者と魔王なんて俺らに関わりのない話だ。納得してくれたら、もこもこさんを解放してくれるかもしれない」

「うっわぁ……なんかうまく行く気がまるでしない……」


 夜霧の交渉力に疑問を抱いていると、途端に大地が大きく揺れた。


「え?」


 さすがの無敵装甲馬もこの異常事態には動きを止めた。


「攻撃……ってわけでもなさそうだけど……」


 夜霧が言うのなら間違いないのだろう。


「……正直、もう近づきたくないんだけど……」

「なんというか、内輪で揉めておるので今がチャンス感はあるのだが」


 しばらくして地震はおさまった。

 嫌な予感はするが、それでも知千佳は馬を再び進めるのだった。


  *****


「で、魔王は倒れたんだから、約束通り魔王軍に受け入れてくれるんだよな?」


 魔族は徹底的な階級社会であり、上位者に対して直接危害を加えることができない。

 その攻撃抑制は種族特性であり、どうやっても上位者への攻撃は実行に移すことはできないのだ。

 どれほど強かろうが、たとえ魔王より強かったとしても、魔王を倒して成り代わることはできない。

 だからこそヨシマサが利用された。

 魔族と無関係の第三者が魔王と戦う。そういうことになってさえいれば、その第三者にどれほど便宜を図ろうと制約には抵触しないのだ。

 なので何らかの思惑のある魔族は、実力に応じた適切な敵を配置して勇者の成長をうながし、伝説の武器をさりげなく与えたりしてきた。

 そもそも人間の勇者などが脅威なら簡単に根絶できる。

 勇者などという脆弱な者どもが存在を許されているのは、魔族のさじ加減一つにすぎないのだ。

 歴史上、何度も魔王は勇者を名乗る人間に倒されている。

 大抵の場合、それは下克上のためであり、今回もその例にもれなかった。

 三魔将によるクーデターであり、魔王のすげ替えが目的だったのだ。


「ええ。お約束した通りです」


 ヨシマサは、オリフェスの言葉に嘘は感じなかった。

 だが、それは誠実であるがためではない。彼にとってヨシマサなど、どうでもいいからだ。


 ――なめくさりやがって……。


 ヨシマサは本来の勇者ではない。万全のサポートを受け、伝説の装備を身につけていたのはヘリオンのほうだった。

 魔族どもが期待していたのはヘリオンであり、ヨシマサは万が一のための代役にすぎなかったのだ。

 ミミルが言い寄ってこなければ、そんなことを知る由もなかっただろう。

 ヨシマサが今、今こうしていられるのはミミルのおかげだった。

 ヨシマサに利用価値などなく、魔族軍に迎え入れたところでなんの益もない。なのにヨシマサを受け入れようとしているのは、ミミルの愛玩動物のようなものだと認識されているからだ。

 少し前までのヨシマサなら、それらを全てわかった上でもこの境遇を受け入れただろう。

 ミミルに甘えていれば、それなりの人生を送ることができるし、他の道などありはしない。

 だが、今のヨシマサは違った。

 力のほとんどを帰還のために死蔵していた状態ではなくなり、本来の力を発揮できるようになったのだ。

 今なら、魔王でも倒せるはずで、魔将ごときに見下されるなど腹立たしいとヨシマサは思っていた。


「なあ、ミミル。オリフェスって何歳だ?」

「そうですね。五百歳ぐらいです」

「じゃあ、五百年分もらうとするわ」


 魔族は千年ほどは生きると聞いたことのあったヨシマサは、無造作にオリフェスから寿命を奪い取った。

 寿命を奪い尽くしてしまうと死んでしまうが、その時は仕方がない。


「馬鹿な!」


 これまで余裕の態度だったオリフェスの顔が驚愕に歪んだ。

 まさか自分が能力の対象になり、それが通用するとは思っていなかったのだろう。


「魔族相手でも、しかも魔将だろうと通用するんだな」


 ヨシマサの掌の上に輝く球が浮かんでいた。

 先ほどリムレットから70年を奪っているので、合わせて570年分の寿命を内に秘めた球だ。

 見た目はさほどかわらないが、内包するエネルギーが違うとヨシマサは感じていた。


「これをどうするかだけどさ、俺は魔法が使えないから、これを魔力として運用はできないわけだ。けど、こうするとどうなる?」


 ヨシマサは光球を、適当に放り投げた。

 それは放物線を描いて飛び、接地したかと思うと、大地へと沈み込む。

 途端に、大地が揺れた。

 そして、地面が盛り上がり始める。

 そこら中に、無数の小山が出来上がり、中から裸の人間があらわれてきたのだ。


「はーっはっはー! どうよ! 寿命を奪うだけじゃなく、与えることもできる! 土塊から人間を作り出せる! すげー! 寿命を操る、いや、これは生死を司るってことか。つーことはあれだ、こんなことができるってことは俺って神なわけ?」

「ヨシマサさん……いきなり力を得て、途端に増長するなんて、小物っぽくて好き……」


 ミミルはうっとりとヨシマサを見つめていた。


「貴様!」

「死ね」


 オリフェスが何かをする前に、ヨシマサは全ての寿命を奪い取った。

 死んだ場合は、寿命を得ることはできないが、ただ殺したいだけなら手っ取り早い方法だ。


「あはははははは! すげー! まさにチート! 即死チート! 反則じゃね? 俺に勝てるやついなくね?」


 倒れたオリフェスを見下ろし、ヨシマサは全能感に浸っていた。


「ミミル……あんた、こうなることを知って……」

「はい。ヨシマサさんが覚醒するとこうなることは予測できましたけど、そのあたりは黙っていましたよ」


 これまで沈黙を保っていたエクシアが問い、ミミルが答えた。


「あー、俺、女は殺さない主義なんだよね。だからあんたは生かしといてあげるよ。もっとも余計なことしたら別だけどな!」

「はい。私、これでも大神官ですし、死霊の類の感知はできますから、下手な事はしかけてこないでくださいね?」


 エクシアは先程、霊がどうのと言っていたので、その類の能力を使うのだろう。

 だが、ミミルには対応策があるのだ。


「あんたが力に目覚めたのはわかった。それで、今後どうするってんだ?」


 エクシアが慎重に問いかけた。


「そーだなー? 魔王になるのもわるかないな。あんたらが魔王になるつもりじゃなかったんだろ? だったら俺でもよくね?」

「ふざけるな! あの方に成り代わるなど許されてたまるか!」

「そー言われてもなぁ、俺って無敵なわけじゃん? 俺が魔王になるのが自然な流れなんじゃ?」

「あー、素敵です! まだろくに力の全貌もわかってないのに、ここまで調子にのれるなんて得がたい才能です!」


 確かにこの力がどこまで使い物になるのかはわかっていない。

 だが、ヨシマサにはなんとなくわかるのだ。

 この力の前には敵がいないのだと。何者もこの力に逆らうことができないのだと。


「……誰か、人間が近づいてくるぞ。お前らの仲間じゃないのか?」


 エクシアが見ている方をヨシマサも見た。

 確かに、何者かが乗った馬が、こちらへとやってきている。


「ん? 本当だな。生き残った兵士……ってわけでもなさそうだけど。ミミルどうしたらいいと思う?」

「めんどくさいから始末してしまいましょう」

「そうだなー、魔王としての初任務に丁度いいかもなぁ。人間とは決別する感じでな!」


  *****


「どうしてこうなった」

『いつも通りとも言えるが』

「この世界の奴ら好戦的すぎるだろ。なんでどいつもこいつも問答無用で攻撃してくるんだよ」


 馬上からあたりを見まわすと、死屍累々といった様子だった。

 何故か大量にいた裸の人間たちがそこら中で倒れている。

 魔将もヨシマサも倒れていて、この場にいたもので生きているのは魔法使いの女、リムレットだけだった。

 結局交渉どころではなかったが、魔将エクシアとやらが倒れると死霊の王は消え去ったので、もこもこは助かったのだ。


「な、なんなの! あなたたちは一体!」


 リムレットは混乱していた。

 彼女からすればわけがわからなすぎる状況だろう。

 だが、夜霧も詳しい説明はできなかった。


「たまたま通りすがっただけだよ」


 その通りではあるが、彼女が求めているのはそんな答えではないのだろう。

 だが、夜霧としてはこれ以上この場の出来事に関わる気はなかった。

 そのまま立ち去ろうと思ったが、夜霧は一言だけ言いたくなった。


「異世界から安易に人を呼ぶのはやめといたほうがいいな。すごい迷惑だ」

「高遠くんみたいなのが来ちゃうこともあるからね……」


 知千佳はしみじみと言った。

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