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即死チートが最強すぎて、異世界のやつらがまるで相手にならないんですが。 作者:藤孝剛志

第6章 ACT1

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3話 三魔将って言われるとなんとなく手抜き感がする(前編)

 ――ふむ。様子を見には来たが、帰還の手がかりにはならぬか。


 魔王と勇者の決戦は、勇者の勝利に終わった。

 実際に魔王を倒したのは夜霧なのだが、まさか勇者たちも遠距離から勝手に魔王を倒されているなどとは思いもしないだろう。

 そのあたりはうやむやのうちに、話は進んでいるようだった。

 先ほどの攻撃が実は効いていたと、勝手に辻褄をあわせているのかもしれない。

 勇者パーティは瓦解し、人類側は魔法使いらしき女、リムレットだけとなっている。

 魔族側は、勇者ヨシマサ、大神官ミミル。それと頭部に角を備えた魔族の男の三人となっていた。


「わ、私が悪かったわ! でも、結局は無事魔王を倒せたわけだし? これで無事に元の世界に帰れるってわけでしょ?」


 リムレットが必死に訴える。彼女がヨシマサとやらを召喚したようだった。


「ふーん。寿命を返せってもっとごねるかと思ってたわー。そんなに俺に帰ってほしいわけか。けど残念だったな。もうどうやって帰ればいいのかわかんねーんだけど? それともあんたが送り返してくれるってか?」


 リムレットが気まずそうに顔を歪める。

 寿命はともかくとして、この場をどうにか納めたかったようだ。

 問題は山積みではあるが、ヨシマサが帰還すればそれで問題は一つ解決するとでも思ったのだろう。

 だが、それも無理な話だ。

 元の世界との縁が切れてしまっている。もこもこが知る限り、その状態で帰還する方法は限られていて、それはとてつもなく困難な手法によるものなのだ。


「元の世界に戻ったってうだつのあがらねぇサラリーマン生活が待ってるだけだ。だったら、こっちで勇者として、いや、魔王軍の幹部としてかな? 楽しく暮らすほうがよっぽどいいよな?」

「まさか、裏切る気なの?」

「裏切るも何も、無理矢理召喚されて、脅されてって状態だぜ? お前らの味方をするとでも本気で思ってんの?」

「ミミル! あなたまでどうして! 大神官ともあろうものが、なぜ魔族になど与するの!」


 形勢が悪いとみたのか、リムレットは矛先をミミルへと変えた。


「すみません。私、もともと魔族なんで裏切ったとかそういうのではないんですが……オリフェスくんに渡りをつけられたのも、同じ魔将だったからで……」


 ミミルは申し訳なさそうに言った。

 隣にいる痩身の魔族がオリフェスというらしい。


「は? え? なぜ大神官が? 魔族ってどういうこと?」


 リムレットが困惑しているのは、少し離れた場所で様子を見ているもこもこにも手に取るようにわかった。


「あー、マルナリルナ教の大神官であるのは本当ですよ。教会で祈ってたら『いいよいいよー、面白そうだから、ユー神官になっちゃいなよー』というお告げが下されまして。マルナリルナ教において神託は絶対ですから、どこの馬の骨ともしれない私でもトントン拍子で大神官にまで上りつめたわけでして」

「……いろいろと疑問に思う点はあるんだけど、それはひとまずいいとして、あなたのどこが魔族なの? 魔族が人の社会に溶け込むなんて……」

「ああ、魔族と人で見た目は変わりませんから申告でもしない限りはばれませんよ。魔族の角は伝統的な髪飾りにすぎませんので」


 ミミルがそう言うと、オリフェスは優雅な動作で頭の角を外した。


「自己紹介が遅れました。私、オリフェスと申します。魔族軍において魔将をやらせていただいております」

「な、なんなの! わけがわからない!」


 とうとうリムレットが思考を放棄した。

 当然、途中から見ているだけのもこもこにも何が起こっているのかはさっぱりわからない。


「前代魔王の娘ってだけで後を継いだ魔王が気にくわないって奴らが多かったらしいぜ?」


 そう言うヨシマサだが、それほど事情に明るいようには見えなかった。


「ああ! 冥土の土産に事情を教えてさしあげましょうか?」


 オリフェスは実に楽しそうだった。


「冥土の土産って本当に言う奴初めてみたわ……」

「一度言ってみたかったのです」


 もちろんそう言う以上は生かして返す気はまるでないのだろう。


「ちょっと待った!」


 オリフェスが喜々として口を開こうとしたところで制止の声がかかった。

 いつの間にか、この場にもう一人が増えている。

 頭に角を備えた派手な格好の女が、オリフェスの隣に立っていたのだ。


「これはこれは。エクシアさんまでどうされました? 期せずして三魔将そろい踏みとなってしまいましたが」

「このまま事が済むなら静観してたけどね。オリフェス、あんた油断しすぎだよ」

「ほう? それは?」

「見られてるよ。別に大した話じゃないけど、それを意識しないで、べらべらくっちゃべるってのは感心できないね」


 ――まずい!


 それが自分のことだともこもこはすぐに悟ったが、その時点で後手に回っていた。

 何かが背後にいる。

 振り向く間もなく、もこもこは頭部を鷲掴みにされていた。


「なんだと!」


 もこもこは霊体だ。

 その存在を知らぬ者には認識しづらいし、物理的に拘束することはできない。

 だが、背後にいる何者かはもこもこに干渉しているのだ。


死霊の王(ロードオブスペクター)。私の持ち霊の一つさ。雑霊ごときにやりすぎたかと思ったけど、なかなかどうして。頑丈じゃないか」


 死霊の王とやらは殺意にあふれていた。

 もこもこの頭を握りつぶし消滅させるつもりなのだ。


 ――うむ! 雑霊呼ばわりは業腹だが、まるで動けんのでろくに言い返すこともできぬ!


 どうしようもなくなったもこもこは、夜霧たちに、助けを求めることにした。


  *****


「三魔将って言われるとなんか手抜き感がするよね。十二神将とまでは行かなくてもせめて四天王ぐらいは」

「我、消滅しそうなのだが気にするのはそれなのだろうか!?」

「て、言われても実感ないしさ」


 夜霧、知千佳、槐の三人は、馬車の外に出て移動の準備をしていた。

 今の所の計画は、馬でもこもこのそばまで移動して回収し、そのまま立ち去るというものだ。


「小僧。あのだな、さくっと我を掴んでる死霊の王とやらを倒してくれるとありがたいのだが!」


 もこもこの口調は悲壮なものだが、槐は淡々と馬車から馬を外しているようにしか見えなかった。


「て、言われてもな。俺がそいつに狙われてるわけでもないから、そんな本当にいるのかどうかもわからない奴を殺したりできないよ」

「普段は、どこにいるやらもわからんのを勝手に殺しておるというのに!」

「せめて目視して、俺がそいつの存在を認識出来ないとどうしようも……ああ、ここからでもできることがあるな」

「おお! それは?」

「もこもこさんなら、どこにいても殺せるから、苦しいならいっそひと思いに……」

「お主が言うとしゃれになってないから、やめてくれないだろうか! それなら一度砕け散って再生を目論んだ方がワンチャンあるのだが!」


 馬の準備はできた。

 馬車をひいていた馬は大柄なので三人でも乗ることはできる。

 無敵装甲は付けたままなので、鞍もそのままだったのだが、問題は三人がどう乗るかだった。


「馬に慣れてない高遠くんが真ん中の鞍に座って前にもこもこさん、後ろが私で手綱を握るって感じ?」


 とりあえずはそうするしかないだろうということで、そのように乗ってみたがやはり問題が発生した。

 密着せざるを得ないのだ。

 夜霧にかなり胸を押しつけることになってしまうので、さすがにそれは知千佳としては躊躇してしまう。


「……あの、当ててんのよ。とかしたいのかもしれんが、そんなラブコメちっくなことしてる間に、我潰されそうなんだが……」


 前に座るもこもこの声は深刻そのものだった。

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