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即死チートが最強すぎて、異世界のやつらがまるで相手にならないんですが。 作者:藤孝剛志

第6章 ACT1

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2話 魔王って勝手に倒しちゃっていいわけ!?

「って、魔王って勝手に倒しちゃっていいわけ!?」


 一旦は納得しかけた知千佳だったが、やはりこれは問題なのではと思ってしまった。

 先程の会話からすると何やら因縁もありそうだし、こんな決着では勇者側も立つ瀬がないだろう。


「仕方ないよ。巻き添え食らいそうだったんだし」


 そう言う夜霧はあっさりとしたもので、罪悪感を覚えているようには見えなかった。

 だが、これは今更の話ではあるだろう。夜霧はこれまでも力を使うことにまるで躊躇していないからだ。


「というかさ。魔王よりも勇者の方が気にならない?」

「どういうこと?」


 通りすがっただけの最終決戦だ。生き残った勇者のことなど、知千佳たちには関係がないはずだった。


「花川は魔王を倒したら、元の世界に強制送還されたって言ってただろ? だったら、勇者って奴らもこれから元の世界に帰るのかもしれない。帰還のヒントにならないかな」

「でも、勇者だからって異世界からやってきたとも限らないんじゃないの?」

「うむ。少々ややこしいのだが、勇者にもいろいろと種類があるようなのだ」

「え? もこもこさん?」


 御者をやっていた槐がいきなり馬車に入ってきて、知千佳は驚いた。

 いつのまにかもこもこの本体はいなくなっていた。


「ああ。我は勇者の偵察に向かっている。様子は槐を通して伝えてやろうと思ってな」

「それで、勇者の種類って?」


 夜霧が聞くと、もこもこはエンジュの口を通して説明をはじめた。

 まずクラスとしての『勇者』が存在している。これは『剣聖』の関連クラスであり、強大な戦闘力を誇るが魔王退治とは直接の関係がない。

 そして魔王を倒す為に異世界から召喚した者も勇者と呼ばれているのだ。彼らのクラスは『勇者』ではなく、それぞれが個性に応じたクラスになっているらしい。


「紛らわしい! もうちょっとわかりやすくしといてくんないかな!」

「そんなこと我に言われてもな」

「なんにしろ確認しといて損はないってことだろ?」

「うむ。その勇者たちが、我らの世界から来たのであれば、相乗りして帰還する方法があるやもしれぬ。元世界の座標をシオンから聞き出しはしたが、それが正しいとも限らぬしな。別のアプローチを試すのも無駄ではない」


 そう思ったからこそ、もこもこは独断で勇者のもとに向かったのだろう。


「そーいや勇者はまだいるの?」

「あー、確か魔王を倒したら帰還したんだっけ?」


 知千佳は、花川が悔しそうに語っていたのを思い出した。


「なにやらもめておるな。まだ帰還はしておらんようだが……。とにかく現状を解説してやろう」


 もこもこが勇者たちの状況について語りはじめた。


  *****


 ブレア王国の領土に入ってすぐ。街道から離れてしばらく行くと崖があり、そこで魔王と勇者たちが対峙していた。

 魔王は一人だが、勇者側は軍勢を引き連れている。

 だが、実質は魔王と勇者たち四人の戦いになっていた。

 軍勢は、空から降ってくる岩柱に襲われ続けており、為す術がないのだ。

 それは魔王による篩い分けなのだろう。この程度に対処できないのであれば我の前に立つ資格はない。そんな意思が垣間見える所業だった。


『我々は狩りを楽しんでいるだけだ。活動範囲にいる手頃な獲物を狩る。それはお前らもやっていることだろう?』


 崖を背にしているのは、頭部に角を備えた、年端もいかぬ少女だった。

 魔王テスラ。

 ブレア王国を含む一帯を活動領域とする魔族たちの頭領だ。

 魔王は、強制的に心の中に語りかけてくる。

 心の弱い者ならば、それだけで魔王の前にひれ伏してしまうことだろう。

 これもまた、篩い分けだ。これが狩りだとして、楽しめるだけの獲物なのかと値踏みしているのだ。

 魔王による選別を潜り抜け、ここに立っているのは、勇者ヘリオン、勇者ヨシマサ、宮廷魔術師リムレット、大神官ミミルの四人だった。


「ふざけるな! 人間は動物とは違う!」


 勇者ヘリオンの正義感にあふれた口上を勇者ヨシマサはうんざりとした気分で聞いていた。

 異世界から無理矢理召喚されてきたヨシマサにとっては、魔王と魔族が何をしでかそうとどうでもいいことだったからだ。

 ごちゃごちゃ言っていないでさっさと戦え。そして、勇者らしく一人で決着をつけろ。

 そうヨシマサが思っていたところ、リムレットが耳元でそっと囁いた。


「あらあら。なにを他人事みたいな顔してるんですか?」

「魔王退治なら、本物の勇者に任せとけばいいだろ」


 ヘリオンは剣聖の元で修行を積み、クラスとしての勇者が発現した者だ。

 ヨシマサのような限定的で使い勝手の悪い能力ではなく、全ての領域において隔絶した実力を誇っている。

 魔王を一人で倒せてもおかしくはないと、ヨシマサは思っていた。


「あなたって学習能力ないですよね。一緒に戦えって言ってるんですよ」


 ぺきり。そんな音が聞こえたような気がして、ヨシマサは顔を歪めた。

 右手の小指に激痛が走る。

 何度も味わった、骨折の痛みだ。

 実際に折れてはいない。だが、折れた感触と痛みは本物そのものだった。

 召喚時に植え付けられた、ヨシマサを支配下におくための枷。

 リムレットは、ヨシマサを傷つけることなく、苦しめることができるのだ。


「……いくら痛くたってな……死ぬよりはましなんだよ……」


 痛みに青ざめながらもヨシマサは言った。

 異世界人を操るには様々な方法があるが、リムレットがとったのはかなり強引な手法だった。

 苦痛による拷問で無理矢理に言うことを聞かせる。

 数ある手法の中でも、これは悪手とされていた。

 こんなやり方では、実力を十全に発揮することはできないからだ。


「そうですか? 死んだ方がましってこともありますよ? まあ、とりあえずは様子見といきましょうか。もしかしたら、ヘリオンさんがあっさり魔王を倒しちゃうかもしれませんし」


 奉仕者サーバント。それがヨシマサが得たクラスの名だ。

 その能力は寿命を魔力に変換するというもので、当然こんな力を無闇に使いたいわけもなかった。


「行くぞ!」


 ヘリオンが聖剣を抜刀し、その場で横薙ぎにした。

 聖剣から放たれた斬撃が空間を斬り裂き、魔王へと飛んで行く。

 魔王は微動だにしなかった。

 かわすでもなく、受けるでもない。

 突っ立ったまま、その身に斬撃をくらったのだ。


「ふむ。つまらん。これまでの暗殺まがいとは違うのかと思ったのだが」


 魔王は平然としたものだった。

 斬撃は、痛痒すら与えていないのだ。

 次の瞬間、魔王はヘリオンの前に立っていた。

 魔王の手がヘリオンの肩に置かれる。ヘリオンはまるで反応できておらず、そのままぐしゃりと潰された。

 魔王は、手を下へと下ろしただけだった。


「なっ……」


 ヨシマサたちは呆然となった。

 ここまであっさりとヘリオンがやられるとは思っていなかったのだ。

 魔王が強いことはわかっていた。だが、それでももう少しは勝負になると思っていたのだ。


「さて。一人ずつかかってくるということでよいのか?」


 ヨシマサたちは後ずさった。

 魔王にとっては、勇者パーティを全滅させるなど造作もないことだろう。

 だが、魔王はヨシマサたちに襲いかかってはこなかった。


「ヘリオン様が……私たちはどうすれば……」


 大神官のミミルは困惑をあらわにしていた。

 ヘリオンが倒れたとなると戦力が激減する。ミミルは大した攻撃はできないし、ヨシマサの戦力は皆無といっていい。

 こうなると、宮廷魔術師のリムレットが最後の頼みの綱だった。


「やはりあなたを連れてきて正解のようですね。寿命を五十年も使えば勝てるかと思うんですけど」

「無茶言うな! それで勝ててなんの意味があるんだよ!」


 これまでも細々と力を使っていて、合わせれば十年ほどになるだろう。

 さらに五十年も使ってしまえば、寿命を使い切って死んでしまう可能性が高かった。


「魔王と勇者が相打ちになって、世界に平和が訪れる。よくある話じゃないかしら?」


 ずぶり。そんな感触を腹に抱いて、ヨシマサはうずくまった。

 鋭利な刃物を突き刺されたような痛みを感じ、立ってはいられなくなったのだ。


「ま、まってくれ! こんなの無理だ!」


 次の痛みを想像し、ヨシマサは哀願した。

 だがリムレットがやめるはずもない。

 刃物が腹を掻き回す感触がして、ヨシマサは絶叫した。


「うん? 仲間割れか?」


 魔王ですらが、いきなりのヨシマサの狂態に訝しげになっていた。


「次はどうします? 指を一本ずつ千切っていきますか?」

「やめ……もう、やめ……て……あああああぁあああああ!」


 ヨシマサは右眼を押さえた。眼球が引きずり出される感触に耐えきれず、のたうち回る。


「二、二十年! 二十年で勘弁してくれ!」

「……まあ、いいでしょう。五十年だとバーストするかもしれませんしね」


 使用した年数が、寿命を超えると能力が発動しない。

 リムレットからすればヨシマサの命などどうでもいいだろうが、犬死にでは意味がないと思ったのだろう。


「よくわからんが、話はついたようだな」


 魔王は余裕の態度でヨシマサたちを見つめていた。


「ほら。早くやってくださいな。じゃないと、尻から口まで串刺しにしますよ?」

「ちくしょう! やればいいんだろ、やれば!」


 ヨシマサは左手で右手首を掴み、力を込める。

 ずるりと何かが身体から抜けて行くのをヨシマサは感じていた。

 二十年分の寿命。

 それが、掌の上に光球となって現れる。

 リムレットは、力に満ちた光球を横から奪い取った。

 これが、ヨシマサを拷問で支配してもよい理由だった。

 拷問により支配したところで本来のパフォーマンスは発揮できず、戦闘で役立つかは疑問だ。

 だが、ヨシマサの場合はとにかく寿命を吐き出させればいい。

 その魔力の塊は、他者でも運用が可能だからだ。


「二人がかりということか。かまわんがな」

「くらいなさい!」


 リムレットが杖を振るう。

 魔王を中心に円陣が展開され、その内部は瞬く間に豪火に包まれた。

 天まで届くかのような豪炎の柱が、大地から吹き上がったのだ。


「やったのか!?」


 勝った。いくら魔王で耐えられるはずがない。ヨシマサは同意を得るべくリムレットを見た。


「そんな……」


 彼女の顔は青ざめていた。

 ヨシマサには魔法がどのようなものかはわからない。

 だが、リムレットは自らが行使した魔法の効果をわかっていて、それが芳しいものではないと伝わってくる。

 炎が薄れていき、人影が現れる。

 やはりその姿には何の変わりもありはしなかった。

 少女の姿をしたそれは、なんの傷も負ってはいなかったのだ。


「ふむ。大した物だ。一瞬とはいえ我を防御に集中させるとはな。だが、その後がいかんな。我は身動きが取れなかったのだ。追撃をせずにどうするのだ?」


 だが、リムレットは持ちうる力を全て振り絞っており、ヨシマサも連続して力を使うことはできなかった。


「ではお返しといこうか。我もやられっぱなしは癪なのでな。相応のものをくれてやろう」


 魔王が宙に浮かび、掌を勇者たちへと向ける。

 その掌に力が集まっていくのがわかった。

 掌前に炎が生じ、それは次第に大きさを増していく。


「なんだよこれ……どこまで大きくなるんだよ……」


 ヨシマサは、自然とそう口にしていた。


「ただの炎の塊じゃない……あれは膨大な魔力を圧縮し、それでもなお、あの大きさ……」


 リムレットが言う。それがただならぬ力を秘めていることは、素人のヨシマサにでもわかることだった。


「そんな……こんなの勝てっこないよ……」


 大神官のミミルがつぶやくように言う。

 彼らはもう諦めているのか、何をするでもなく巨大な炎球を見つめていた。

 それは力の塊だった。

 圧縮に圧縮を重ねたそれは、一度解き放てばこの一帯を焼き尽くすことだろう。


「くそっ! 聞いてないぞ、こんなの! 俺が力を使えば魔王を倒せるって話じゃなかったのかよ!」


 そして、炎球は空へと放たれた。


「なんだ?」


 それは余裕のあらわれなのか、ただの脅しだったのか。

 わけがわからず、ヨシマサは魔王を見つめた。

 魔王は体勢を崩していた。

 掌は空へと向けられ、魔王の身体はまっすぐに落ちていく。

 地面に激突し、鈍い音がし、少し跳ねて、魔王は動かなくなった。


「なんだ!? いきなり魔王が……俺たちが勝ったのか!」

「やりましたね、勇者様!」


 ミミルが褒め称えるが、ヨシマサにはよくわからなかった。

 落ち着きを取り戻したリムレットが小規模な火炎を放つ。

 魔王の身体はそれだけであっさりと燃え尽きて消え去った。

 なんだかわからないが、魔王は死んだようだった。


  *****


 魔王が死んだ。

 なのに、ヨシマサはまだその場におり、リムレットは訝しんだ。

 ヨシマサとは、魔王が死ぬまでの契約なのだ。

 魔王が死ねば即座に帰還する。そう設定しているはずなのに、ヨシマサにはなんの変化も訪れない。

 そうなると、今倒したのが本当に魔王なのかが疑わしくなってくる。


「へぇ? あんたもそんな顔するんだな」


 リムレットは反射的に呪いを発動した。

 右腕を肘のあたりで粉砕。そんなイメージを送りつける。

 だが、ヨシマサはにやついた顔をしたままだった。


「おいおい。忘れてんのかよ。呪いは魔王を倒すまでの話だぜ?」


 ヨシマサを支配する呪いは召喚契約に付随するものだ。

 契約が終了したのなら効き目はない。当たり前の話だが、ではなぜ彼は帰還しないのか。


「彼にはこちら側についてもらいましたので、契約が終わった瞬間に元の世界との縁は切らせていただきました」

「はぁ?」


 ヨシマサの隣には、いつのまにか男が立っていた。

 頭部には角が生えている。それは魔族の証だった。


「テスラを始末することを条件に、こちらで受け入れるとお約束したのです」

「そうそう。魔王をここまでおびきだせたのは、この人のおかげなんだよ」

「そ、そう? それで、どうするというわけ?」

「そりゃーもちろん、好き勝手にやらせてもらうぜ。これまでは散々な目にあったわけだからな」


 そして、ミミルまでもがヨシマサの隣に立っていた。


「あなた……」

「ごめんなさい。魔族を手引きしたのは私なんです。これからも勇者様と一緒にいたかったから……」


 ヨシマサがミミルの肩に手を置いた。


「そういうわけだ。さて。好き勝手やるにしても最初にやるのはあんたへの復讐からってわけだが。寿命、三十年分は償ってもらわなきゃなぁ?」

「奉仕者のあなたになにができるというんです?」

「ああ。実は元の世界との縁が切れて、本来の力を発揮できるようになったんだよ」


 リムレットの背に怖気が走った。

 何かをされた。

 そして、それが何かはすぐにわかった。

 ヨシマサの掌に光球が生まれていたのだ。寿命を魔力に変換することによって生じる塊。

 それが自分の寿命であることをリムレットは即座に悟った。


「奉仕っつーけどさ。別に自分の寿命を捧げる必要はまったくないわけで。人の寿命を勝手に変換できるようになっちゃったんだよな、これが」

「返して!」

「これで七十年ぐらいかな? 別に死んでもいいと思ってやったけど、あんた結構長生きするんだな」


 あっというまに立場は入れ替わり、リムレットは絶望の淵に立たされていた。


  *****


「と、まあこんなことが行われているわけだが」

「ややっこしいな! わけわかんないんだけど!」


 馬車の中、もこもこが操る槐が、勇者たちの様子を語っていた。


「うむ。我も途中からしかわからんが、いろいろとややこしいことになっているようだ」


 そんな一言ですませていいのかと知千佳は思った。かなり複雑な事態になっているようだからだ。


「勇者は召喚されてきてる人? 日本人かな?」

「見た目はそうだな」

「縁を切ったって言ったのか。それが元の世界との繋がりってやつかな」


 元の世界に自分の一部が残されていて、何かが命綱のように繋がっている。

 以前に出会った侵略者のロボットはそんなことを語っていた。

 その勇者についても同じような状態だったのだろう。


「だろうな。だとすると、もうその日本人は帰還のヒントにはならんのだろう」

「じゃあ、勇者はほっといていいか。見つかるとめんどくさいから、さっさと馬に乗って先に行こう」

「いやいやいや! 本当にこれほっといていいの!?」

「だって、どう考えても面倒な話になりそうだろ?」

「そうだけどさぁ」


 確かにわざわざ首を突っ込むような話ではないのかも知れなかった。


「うむ。それなのだがな。我、捕まってしまったのだが!」

「なんで!?」


 まさかの発言に知千佳は戸惑った。


「こう、がしっとだな」

「……もこもこさん……高位神霊だなんだって普段からえらそうにしといてそれは……」

「普段ならこんなことは無い! ないのだが、今は槐の操縦にかかりっきりだったのだ! それにまさか我の存在に気付かれているなどと思わんだろうが!」

「仕方ないな」


 夜霧が馬車を出たので、知千佳も後に続いた。

 さすがに見捨てるわけにもいかなかった。

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