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即死チートが最強すぎて、異世界のやつらがまるで相手にならないんですが。 作者:藤孝剛志

第5章 ACT2

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14話 上位存在ムーブかましてくる古代なんたら龍

 山頂の砦を壊滅させた後、花川たちは帝都を目指して洞窟の中を歩いていた。

 帝都を目指すだけなら街道をいけば早いし安全なのだが、予言書に従うとこうなってしまうらしい。


「もう、全部こいつ一人でいいでござるよね!」


 魔法の光で照らし出された巨大な地下洞窟。

 中には様々な魔物が潜んでいたのだが、なんの問題もなかった。

 何が出てきても、ラグナがあっさりと片づけてしまうからだ。

 ラグナは、目を見張るような特殊能力を持っているわけではないのだが、とにかく強かった。

 なので、花川が囮として先頭を歩かされていたとしても、なんら危険はなかったのだ。


「あー、あれですよね。なんかオーラっぽいのまとって戦うのむっちゃ主人公ぽいでござるよね」


 オーラで防御し、オーラをまとった剣で攻撃し、たまにはオーラを飛ばしたりもする。それがラグナの戦闘方法だった。


「オーラって?」


 魔物の群を切り伏せたラグナが、花川に近づいてきた。

 他のクラスメイトたちは、少し後ろで待機している。

 あまり意味の無い、花川囮作戦は続行中ということらしい。


「その、身体のまわりのもやっとしてるやつでござる」

「ああ。これはそんなすごいものじゃなくて、健康法だよ。うちの村ならみんなやってるよ? 一定のリズムで呼吸すると、身体がぽかぽかしてくるから、湯気みたいなものじゃないかな?」

「どうみても湯気ごときではないのでござるが……」


 並の魔物なら触れただけで消滅しそうなそれが湯気程度のはずもないのだが、ラグナは本気でそう思っているようだ。


「豚くん。そこ左」


 行く手を阻む魔物の群が全滅したので先に進もうとしたら、預言者オラクルマスターの三田寺重人が指示してきた。


「そう言われましても、道はまっすぐにしか続いておりませんし、壁しかないのでござる。まさか、壁に激突しろというわけではござらんよね?」

「あ、それ面白いからやってみて」


 運命の(ファムファタル)の九嶋玲が楽しそうに言う。


「やぶ蛇だったでござるよ!」

「早くしないと、耳の中の蟲が爆発しちゃうよ?」


 花川の耳の中には、創造主クリエイター丸藤彰伸が作った何かがいる。

 それは、花川が命令に背いた際に爆発するようなっているのだ。


「行けばいいんでしょうが!」


 花川は壁に向かって駆けだした。

 幸い花川には回復魔法があるので、壁にぶつかって怪我をしたところでさほど問題はない。


「けれど、痛いのは痛いのでござるけどね!」


 花川は覚悟を決めて壁に体当たりし、そして、何の手応えもなくそのまま前へと突き進んだ。

 衝撃を覚悟していたのに何もなかったのだ。

 あるはずの壁がなく、走ってきた勢いのまま、派手に転倒する。

 顔面から地面に激突し、そのまま滑っていった。


「隠し通路でござるか?」


 花川の後を付いてきた魔法の光が周囲を照らし出す。

 巨大な空間だった。

 前方には石造りの建物が林立している。

 都市なのだろう。だが、そこに人の気配はまるでない。

 それらはいつからそこにあったのか。苔むし、ひび割れたそれらは幾星霜の年月が経過していることを示すかのようだった。

 見上げてみれば、天井までは光が届かず、どれほどの高さなのかもわからない。

 振り返ると、無機質で平坦な壁になっていて、花川が通ってきたあたりがぼんやりと光っていた。

 その光の中から、重人の声がする。


「古代都市だ。オメガブレイドに必要な素材がここあるんだよ。それとここを抜けたほうが帝都に近いから一石二鳥ってわけだ」


 重人は預言者なので、預言書を参照してそれらを知ったのだろう。

 預言書は異世界の手引書であり、攻略本なのだ。


「その、近道なんでござるよね? では、なぜみなさんはこないので?」


 誰もやってくる気配がなく、嫌な予感がした花川は聞いた。


「その近道にも、素材入手にも一手間いるんだよ」

「は、ははあ。古代遺跡の謎を解いて、道を開通したり、アイテムを入手したりするのですかな? ですが、ノーヒントでやれと言われましても」


 どうやら一人でそれをしろと言われているようだが、もちろん花川に拒否権などありはしない。


「大丈夫だ。向こうからやってくる」

「それはどういう――」


 それの放つ気配に花川は言葉を失った。

 遠くからかすかに、羽ばたくような音が聞こえてくる。

 まだ姿も見えていないのに、花川はそれが絶対的な支配者の気配だと直感したのだ。


「な……なんなんでござるか!」


 花川の動きは速かった。ここにいてはまずいとすぐに理解し、光る壁に突進したのだ。

 だが、壁は当たり前のように壁だった。

 壁に跳ね返された花川は、ぶざまに転がった。


「ちょっ! どうなってるんでござる!」

「わるいな。ここは一方通行なんだ」

「会話はできるって、どんな仕組みでござるかね!」


 立ち上がった花川は、壁をべたべたと触って確認した。

 頑丈な壁だ。ここを通ってきたとはとても思えなかった。


「なんか! なんかきてるんでござるが!」

「そりゃあ、古代遺跡なんだから、番人みたいな奴はいるだろ」


 羽ばたく音がどんどんと大きくなってくる。

 寒気がした。

 それは、ゆっくりと、絶望的な空気をまとってやってくる。

 そして、背後のどこかに降りたった。


「あー、これ、振り向かないほうましな気がするのですが!」


 だが、花川は振り向いた。確認しないのもそれはそれで恐ろしいからだ。

 それは、古びた建物の上から花川を睥睨していた。

 黒い鱗に覆われた巨躯。

 強靱な四肢に、折り畳んでいてもわかるほどの巨大な翼。

 爬虫類じみた頭部には角を備え、その顎には鋭い牙が生え揃っている。


「ひゃ、ひゃう、ド、ドラゴン?」


 花川は尻餅をついた。

 ステータスが隠蔽されているのか、鑑定スキルはなんの反応も返さない。

 だが、それが並大抵ではないバケモノであることは、鑑定するまでもなくわかることだった。

 それは災害のようなものだ。

 人の手の及ばない、戦おうなどとは思ってもならない存在。

 花川は、動けなくなった。

 何をされなくとも、見ているだけで息が出来なくなる。


『定命の者よ、我が聖域になんの――』


 そして、唐突にその首が落ちた。


「はい? おわっ!」


 ドラゴンの頭部がごろごろと転がってきて、花川は尻餅を付いたまま後ずさった。


「ははっ。花川くんは大げさだなー」


 いつの間にか隣にラグナが立っていた。

 周囲を覆っていた威圧的な空気はなくなっていて、動けるようになっている。


「え、あの、もしかしてドラゴンを倒したので?」

「ドラゴンっておおげさだなぁ。これはおっきな蜥蜴だよ。こんなのなら、僕の村の近くにもいっぱいいたよ?」

「え? いや、さっきなんか喋ってたでござるよね? 定命の者よ、的な? 上位存在ムーブかましてくる古代なんたら龍みたいな奴なのでは?」

「ああ、蜥蜴を肉の状態でしか見たことがない都会の人は知らないんだね。喋るのもいるんだよ。偉そうにしてくるのはハッタリなんだ。弱いなりに知恵を働かしてるんじゃないかな」

「喋るのを殺して肉にしてるんでござるか……」


 若干引き気味の花川だった。


「食料だし、高く売れるからね。そりゃ喋るのを殺すのに抵抗がないっていうと嘘になるけど、命をいただくというのはそーゆーことなんだよ」


 ――なるほど。薄々わかってはおりましたが、やはり勘違い田舎勇者系でござるか……。


 ならばいくら常識を指摘したところで、その勘違いが正されることはないだろう。

 面倒なので、花川はそういうものとして扱うことにした。


 ――ま、まあ、この方は素直でまっすぐで、思いやりがありますし、拙者でも守ってくれますからな!


 花川の生命線とでもいえる存在だった。彼がいなければとうの昔に死んでいることだろう。


「ラグナやるじゃん」


 今頃になって、クラスメイトの三人もやってきた。


「黒閃龍の鋭角はこれだな。ラグナくん、切り取れる?」


 重人が指示する。

 ラグナはドラゴンの頭部から角を切り取った。


「その角がオメガブレイドの剣身になるわけでござるよね? それ、いるんでござるかね?」


 オメガブレイドなどなくとも、ラグナのオーラを纏った剣ならなんでもあっさりと切り裂けそうだった。


「あとは、討伐証明で必要な部位か。黒閃龍の宝玉だな。おい、豚! お前が取ってこい」


 次に重人は、花川に指示してきた。


「いや、取ってこいと言われましても、それがどこにあるのやら」

「豚くん。玉なんだからさー、股間でも探してきたら?」


 彰伸はただ嫌がらせで言っているだけだと花川は気付いたが、逆らうわけにもいかなかった。

 ドラゴンの体は建物から落ちて地面に転がっている。

 花川は恐る恐るドラゴンに近づいた。


「なんで嫌そうな顔してんのー? 豚くん、こーゆー時に役に立つためについてきてるんでしょー?」


 ――あんたらが無理矢理つれてきたんでしょうが!


 もちろん、そんなことを言えるわけもない。


「は、ははは! 楽しいでござるなぁ! 汚れ仕事おいしいでござるよー」


 花川はドラゴンの股間を目指した。

 いくら上位存在のような立ち居振る舞いをしていようが、身体的には蜥蜴と似たようなものであり、糞尿は垂れ流しが当たり前だ。

 当然衛生的なわけはなく、近づくにつれ悪臭が漂ってきた。


 ――こいつら……絶対コロスでござるよ! いつの日か! きっと!


 結局、宝玉はドラゴンが手に掴んで持っていた。

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