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即死チートが最強すぎて、異世界のやつらがまるで相手にならないんですが。 作者:藤孝剛志

第5章 ACT2

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13話 いろんなことを華麗にスルーしてる気がするんだけど!

 もこもこの指先が黒く染まって伸びていき、鋭利な刃物状へと変化する。

 背に生やした翼と同様、これも侵略者アグレッサーから貰った謎の素材によるものだった。

 もこもこは、この素材を自由に変形させることができるのだ。

 もこもこは刃でライザの背を切開した。

「む? なかなか面倒だな」

 刃も通さないほど頑丈ではないが、切っても次々に再生していくのだ。

 だが、もこもこは固定具を作り出し、開いては固定しながら作業を進めていった。

「肺を封じたせいか、弱っておるようだな。それがなければ無理だったやもしれぬ」

 もこもこはライザの中から丸い石を取り出す。それが賢者の石だった。

「ほれ」

 賢者の石を持ったもこもこが、夜霧のもとへ戻ってきた。

「しかしあれだな。塔の中で出会った美少女たちとのフラグを全て叩き折りよって。普通あーゆーのは仲間にしながら、ボスへと挑むものであろうが」

 そう言われても、敵対するなら美少女だろうと関係がないし、仲間など足手まといになるだけだ。


「これで二つ目で、三つ目の当てもあるけど、帰るには足りないのかな」


 シオンとライザの石を入手済みで、レインの石はリズリーが持っていた。


「さてな。一度、侵略者アグレッサーのロボットに会ってみるのもよいかもしれん。あやつはそのあたりのことに詳しそうだった」

「そっちを先に確認しとくべきだったな」


 だが、ここへ来たのは特に計画をしてのことではなかった。

 半魔たちに出会ったことでここまでやってきてしまっただけなのだ。


「後は街の支配権だが……こいつはこんな様子であるし、どうしたものであろうか」


 もこもこが倒れている男を見る。四肢と肺が死に、背中を開かれた状態でもライザは生きていた。

 だが、この状態では意思の疎通は困難だろう。


「まあ、ライザに勝ったって言えばどうにでもなるだろ」


 夜霧たちを遠巻きに見守る者たちがいた。

 この街にいるものでライザの強さと恐怖を知らないものはいないはずだし、そのライザに勝った夜霧に逆らおうなどというものはいないだろう。

 夜霧はそう楽観的に考えた。


「町の人ってどんな扱いなんだろうな。無理矢理戦わされてる人とは違うわけだろ?」

「うむ。都市としての機能を維持するには一般人も必要であろうしな。この都市自体はとても安全ということで人気が高いらしいぞ。居住権は高値でやりとりされておるらしい」


 ただライザと戦える相手を養成するためだけに作られた都市ではあるが、ライザが快適に暮らせるようにもなっていた。

 挑戦者も多数訪れるので、様々な施設とインフラが用意されている。

 ライザは暴君ではあったが、都市の住民には手を出さなかった。

 なので、市民にとってもここはとても快適な都市だったのだ。


「となると、この都市の者からすれば、平穏を脅かす悪者ということになるな」

「そんなの視点の問題だろ」


 ライザはここでは大人しくしていたようだが、周囲の街では暴虐の限りを尽くしていた。

 別の視点に立てば英雄ともいえるだろう。


「ふむ。一つアドバイスしておいてやろう。そーゆーことで悩む方が、より人間らしいぞ?」

「確かにそうか」


 言われればそういうものだとわかる。

 だが、言われなければわからないというのも問題なのだろう。

 しかし、この異世界で悩んでいる場合ではないともいえる。

 人間らしさの追求は夜霧にとって重要な課題だが、悠長に自分探しをしていられる状況でもないのだ。


「こいつら、どけっていったらどっか行くかな?」

「混乱もおさまってきたころではないか?」


 そろそろどうにかしようとしたところで人垣が割れ、身なりのいい男女が姿を見せた。

 それらは列をなしてやってきて、夜霧たちの前で跪く。


「我々は、ライザ様の下僕にございます」


 一人の女が代表して、夜霧に話しかけてきた。

 無様に倒れているライザを無視しているので、見限ったということだろう。


「賢者の石と、街の支配権を賭けての勝負とのこと。我々で協議した結果、あなた様の勝利は疑いないということになりました」

「あんたらの許可を得るのも変な気がするけど、もらっていいってことだよね」

「はい。ライザ様は返答できる状態にありませんので、都市の運営、管理を任されていた市長として返答させていただきます。この都市に関する全てをあなた様に委譲いたします」

「だそうだよ、もこロボさん。エウフェミアさんたちを呼んでよ」

「うむ。今やっておる」


 もこもこの本体は知千佳の側にいる。

 街の外で待機している半魔たちへの指示は簡単だった。


「は、ははは。ライザもこうなっちまうと哀れなもんだよな?」


 遠巻きに見ていた群衆から、一人の男がやってきた。

 混乱していた者たちも落ち着きはじめたのだろう。

 男は、ライザに近づいて行く。


「あ」


 夜霧は止めようとした。

 ライザは死んでいない。そう伝えようとしたのが、一足遅かった。

 男が吹き飛ぶ。

 夜霧にはよくわからなかったが、おそらく身体を振るわせて衝撃波を放ったのだ。

 男は、建物にぶつかり、落ちて動かなくなった。


「その……止めはささないのですか?」

「勝負はついたって認めたんだろ? あとは好きにしてくれよ」


 処置に困る。市長はそう言いたげだったが、夜霧にそこまでしなければならない義理もない。

 目的は達成しているのだから、それ以上する必要はないのだ。

 ライザは夜霧の目から見ても、類いまれない外道だ。

 だが、止めを刺すのが自分でいいとは思えなかった。それをするのは、また別の誰かなのだろう。

 とりあえず、ライザはその場に放置することになった。

 近づかなければ害はない。周知徹底しておけば問題ないだろう。

 しばらくして、半魔の一行がぞろぞろとやってきた。

 もちろん半魔であることはわからないように偽装はしてある。以前テオディジアが術で変装していたことがあったが、同じような方法だろう。


「この都市は、この人たちに譲る。代表者はエウフェミアさんでいい?」

「私でよろしければ」


 半魔たちから異論は出なかった。

 各部族混合の集団なので力関係には複雑なものがあるかもしれないが、もっとも力をもっているのがオリジンブラッドであるエウフェミアだ。

 他にふさわしい者もいないのだろう。


「じゃあ、とりあえず、半魔の拠点探しは一段落ついたってことで」


 ここまでお膳立てしたのだから、後は勝手にやってくれと言わんばかりの夜霧だった。


  *****


 闘神都市陥落から数日が過ぎた。

 多少の混乱はあったが、権限の委譲は概ね順調だった。

 ライザを倒した相手に逆らおうなどという者はいなかったし、謎の集団による支配が気にくわない輩は、都市を出ていったからだ。

 ライザがいないと知れば攻めてくる者もいるかもしれないが、ライザが倒れたと確信するにはまだ時間がかかることだろう。

 つまり、今の闘神都市は比較的平和だった。

 なので、深夜。

 知千佳と夜霧は、馬車で旅立っていた。


「これ、貴族が使うような馬車だよね? 目立たない?」

「どうせなら、乗り心地がいいほうがいいだろ」


 馬車を用意してくれと市長に言ってみると、これが出てきたとのことだった。


「とりあえず東に行こう。そっちになんかいるらしい」


 夜霧の調査によれば、このあたりを支配する賢者は全て死んでしまっているとのことだった。


「って! ちょっと待って!? いろんなことを華麗にスルーしてる気がするんだけど!」

「そう?」

「キャロルや、二宮さんは!?」


 馬車の中には、知千佳と夜霧だけだった。もこもこを無視するなら二人きりだ。


「なんであいつらを連れて行くんだよ?」

「素で言われてびびったわ! クラスメイトでしょ!?」

「勝手についてくるのは仕方がないけど、わざわざ連れて行く理由がないよ」

「えー!?」

「あいつら自身に悪意がなかったとしても、『機関』や『研究所』は信用できない」


 知千佳から見れば、彼女らが何か企んでいるとはまるで思えなかった。

 だが、夜霧にとっては違うのだろう。

 過去に何があったのかはわからないが、彼女らの属する組織をまるで信用していないのだ。


「エウフェミアさんたちは!? 出て行く前に何か言っといた方が!」


 拠点を手に入れた彼女らがついてくることはないだろうが、それでも挨拶ぐらいはしてもいいのではと知千佳は思う。


「めんどくさい」

「それで済ますなよ!」

「堂々と門から出て行ったんだ。事情は察するだろ」

「リズリーちゃんのことは!? 何かお願いがあるって言ったよね?」


 リズリーは、いきなりやってきて夜霧に結婚を申し込んだ少女だ。

 リズリーは、夜霧に頼みごとがあってやってきたのだ。


「賢者の石ならもらっておいたから大丈夫だよ」


 夜霧がリュックサックから透明感のある丸い石を取り出す。

 それが賢者の石だった。

 ただの綺麗な石にしか見えないが、内部に莫大なエネルギーを秘めているらしい。


「じゃあお願いを聞くことにしたの?」


 お願いというのは何者かを殺せという話であり、夜霧は難色を示していたはずだった。


「なんでそんな殺し屋みたいな真似をしなきゃなんないんだよ」

「だったらなんでもらったの?」

「どこかでソレに会うことがあったら、状況に応じて対応するってことでもらっておいた」

「何ひとつ約束してないな! てか、それじゃリズリーちゃんも断れないでしょ、その、高遠くんのこと好きみたいだし……」

「興味のない相手から好意を押しつけられたって鬱陶しいだけだよ」

「もうちょっとこう、なんか柔らかな感じに言い換えようか!」

「そりゃ、俺だって面と向かってそんなことは言わないよ」

「うーん、どうだかなー」


 そのあたりの微妙なニュアンスを、うまく伝えられたとはとても思えなかった。


「賢者の石はどうしても必要だ。けど、妹を殺してくれって言われてはいそうですか、ってわけにもいかないだろ」

「妹?」

「ああ、レインの妹らしい。リズリーからすれば赤の他人ってことだけど」


 リズリーは、レインの複製だが記憶は受け継いでいない。なので、お願いというのはあくまで伝聞で、他人事なのだ。


「だから俺としては会った時に考えるとしかいえない。それでもいいってことだから石はもらったんだ」


 知千佳は、夜霧なりに誠意を見せたのだろうと納得した。


「まあ、もう出発しちゃってるし、何を言っても遅いんだけどさ。こーゆー重要なことは事前に相談してくれる?」

「そうするよ」


 そう言ってから、夜霧と一緒に行動することが当たり前になっていることに知千佳は気づいた。


『お主も図々しくなったものだな』


 もこもこが囁いた。


「で、東に何がいるの?」


 ごまかすように知千佳は聞いた。


「皇帝をやってる賢者がいるらしい。所在がはっきりしてるから、会いに行くのは楽なんじゃないかな」

「闘神の次は皇帝……うさんくささはんぱない……」


 賢者の住み処は謎に包まれている。

 ライザは、挑戦を受けるためにあえて所在地を公開していたが、これは例外だ。

 そして、皇帝とやらもその例外なのだろう。

 知千佳たちは、東にある帝国へと向かうことになった。

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