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即死チートが最強すぎて、異世界のやつらがまるで相手にならないんですが。 作者:藤孝剛志

第5章 ACT2

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12話 これからは我、壇ノ浦もこもこがヒロインを務めようではないか!

 高遠夜霧と、壇ノ浦もこもこは闘神都市とうじんとしへとやってきた。

 それなりの規模の街であり、城壁で囲まれている。

 外部からでも大きな塔がいくつも建っているのが見えた。それらがこの都市の名物であるタワーなのだろう。


「ふはははは! ヒロイン交代のお知らせ! これからは我、壇ノ浦もこもこがヒロインを務めようではないか!」


 もこもこは誰にでも聞こえる声を発していた。

 いつものように人の目には見えない霊体ではないのだ。

 夜霧の隣に立っているのは、赤いドレスと手袋を身に着けた、夜霧よりも少し年下の少女だった。

 もこもこはえんじゅタイプロボットの身体を使用しているのだ。


「唐突に何言ってるんだよ」

「機械の身体で戦闘力があり、しかもその身体を活かすにたる武術の達人で、謎の金属で様々なお役立ちグッズを生成できて、そしてこの愛らしい見た目だ! ヒロインを名乗るに十分であろうが!」

「なるほど。ということは、普段の見た目は愛らしくないと自覚してるってことだな」

「ち、ちがう! あれはあれで、見ようによっては愛らしいはずだ!」

「なんにしろ、胸がないから却下だ」

「お主、すがすがしいほどに、正直じゃな……しかし、あれの胸ぐらい、いくらでも揉み放題かと思うのだが? お主の頼みを無下にはできんだろ」

「この状況で迫るのは駄目だろ」

「そうかの。あれはあれで満更でもないかと思うのだが」

「そういや、もこロボさんのこれは憑依ってやつなの?」

「もこロボとは……その、もう少しどうにかならんのか……」


 槐の姿をしているのにもこもこと呼ぶのは違和感がある。そこで夜霧は呼び方を変えたのだ。


「むう。まあ、呼び方はなんでもよい。これは遠隔操縦のようなものだな」


 演算装置をクラッキングし、電波で操作しているとのことだった。


「さて。これから街に入るのだが、殺してしまってはいかんということは忘れんようにな」

「わかってるよ」


 夜霧は城門へと向かった。

 検問などはやっておらず、夜霧たちはすんなりと街の中へ入ることができた。


「さて、誰でも賢者に会えるってことだから来てみたんだけど、どうしたらいいかな」

「そこらの者をつかまえて聞いてみるしかないな」


 賢者たちは気まぐれで、そう簡単に衆目の前に姿をあらわすことはない。

 だが、この街にいる賢者ライザは例外だった。彼は、この街で挑戦者を待ちかまえているのだ。


「ああ。だったら受付にいけばいい」


 通りがかりの人が教えてくれたので、夜霧は受付と呼ばれる建物へと向かった。


「ねぇ。賢者に会いたいんだけど」

「はい。タワーへの挑戦ということでよろしいですか?」


 中にはカウンターがあり受付嬢がいた。

 暇そうなので、次々に挑戦者があらわれるというほどでもないようだ。


「会えるならそれで。挑戦って何をすれば?」

「はい。タワーは全百フロアからなっていまして、挑戦者の方には一階から挑戦していただきます。そのフロアにいるフロアマスターを倒して鍵を入手すれば、次のフロアに進むことができるのです」

「……それ、やっぱり最上階をめざせってやつだよね?」


 夜霧はうんざりとしてきた。百階はいくらなんでも多過ぎだ。

 だが、やるしかないのだろう。夜霧はタワーに挑戦することにした。


  *****


『おめでとうございます。ライザ様がそちらに参りますので、しばらくお待ちください』


 タワーの屋上に到着すると、そんな声がどこからともなく聞こえてきた。


「ここで会うのか」


 屋上は平坦で、殺風景な場所だった。謁見というからにはもう少し格式ばった場所が用意されるのかと夜霧は思っていたが、ライザという男は形式にはこだわらないようだ。


「即、戦うということかもしれんな」

「それなら話が早くて助かる」


 すると、空から何かが落ちてきて、塔を盛大に揺らした。

 あらわれたのは筋骨隆々の大男だ。

 噂では好戦的なバトルジャンキーとのことだったが、実際にその姿を目にするとその印象は覆された。

 確かに、鍛え上げた肉体は戦いのためだけにあるかのようだが、実に冷めた目をしているのだ。

 その表情にあるのは諦観のようで、ライザは思っていた程には粗野な印象のない男だった。


「……なあ。確かにタワーを勝ち抜いた奴と戦うってルールだけどよ。お前強くないよな?」


 ライザは、くまなく夜霧を見ていた。どこかに見落としはないか、少しでも未知の要素はないかと、期待をこめて観察しているのだ。


「そんなこと言われてもね」

「もしかして、そっちの女か?」

「クリアしたのは俺だよ。戦う気がないなら俺の不戦勝ってことでいい?」

「ほう? おかしなことを言うな。この戦いに報酬なんざはねえ。俺に挑む奴の目的は俺を倒すことのみのはずだが?」

「でも、俺はあんたの持ってる物が欲しくてここまできたんだけどな」

「言ってみろ。俺を楽しませることができるってんなら報酬なんざいくらでもくれてやる」

「一つは賢者の石。持ってるよな?」

「ああ。で? 他にもあるのか?」

「あんたはこの街を作りあげて、完全に支配してるって聞いた。だったらこの街はあんたの物って認識でいいか?」

「そうだな。この街にある物は石ころ一つにいたるまで全て俺のもので、全てが俺と戦える者を産み出すために存在している」

「じゃあ、それも」


 街については、半魔の拠点として使えるのではないかと思ったのだ。


「いいだろう。全てくれてやる。俺を倒せるってならな」


 ふっかけすぎかと夜霧は思ったが、ライザは即答した。


「さあ、はじめようか」


 ライザが構えをとった。落ち着きのある重厚な構えだ。

 格闘技については素人の夜霧だが、それでもこの構えを崩すのは並大抵の技術では無理だろうとわかる。


「じゃあ右足」


 だが、夜霧の並大抵ではない力は、あっさりとライザを崩すことに成功していた。


  *****


 ライザは落胆していた。

 タワーAの攻略者が出たというからやってきたら、そこにいたのはごく普通の少年でしかなかったからだ。

 ライザの鼻息一つで死にかねない脆弱さであり、話しかけるにも気を使う程度の存在だ。

 もしかして何かの力を隠し持っているのかと慎重に観察をしてみたが、付け焼き刃で武術を少し練習してみたぐらいの実力しかなさそうだとライザにはわかってしまった。

 これまで強者を求め続けたライザの観察眼だ。ほぼ間違いはない。

 だが、そうなると少しばかりおかしなことになる。この程度の実力でタワーをクリアできるわけがないからだ。

 この少年に比べれば、隣にいる少女の方が遥かに強いだろう。機械のようだが、立ち居振る舞いに達人の風格がある。

 けれど、聞いてみてもタワーをクリアしたのはやはり少年の方らしい。

 訝しんでいると、勝ったら報酬をよこせと言いだした。

 ライザはこの少年に興味を持った。少年は勝つ気でいるのだ。負けを覚悟の破れかぶれの特攻などをされては拍子抜けなので、その点では好意的に思える。


 ――まあ、いい。なんでもいいから、俺を驚かせてくれよ。


 ライザはこれまで何度も期待しては裏切られてきた。

 なのでもう期待はしていない。だが、それでもこうして強者を求め続けている以上、少しでも目新しい何かがあればと思うだけだ。

 ライザは我流の構えを取った。大して意味のない、形だけの代物だ。


「じゃあ右足」


 少年が言う。

 途端にライザの体勢は崩れた。

 右足に力が入らなくなり、立っていられなくなったのだ。

 ライザは、呆気に取られた。

 まるで意味がわからなかったのだ。

 何をされたのか、何が起こったのかがさっぱりわからない。


「貴様……なにをしやがった!」

「超高速攻撃みたいなもんだよ。あんたには知覚できない速さの攻撃ってことで」


 少年はじつにめんどくさそうに言った。


「ふざけんな! 俺は光速だって捉えることができる! おまえは! 今何もしていなかった!」


 少年は一言つぶやいただけだ。それ以外に何もしていない。

 そして、ライザは自分が激昂していることに気が付いた。

 もう何をされても何も感じないと思い込んでいたライザにとって、それは久々の感覚だった。


「光速って……すごくうさんくさいな」

「小僧の力の方がよっぽどうさんくさいがな」


 少年が少女と顔を見合わせる。


「しかし、皆を連れてこんで正解だったな。こやつの声だけでただの人間なら死んでおるわ」


 少女の言葉で、ライザはなんの配慮もなく大声を出していたことに気付いた。

 そこかしこの床に亀裂が走っている。戦闘の舞台になることを考慮して作られている塔ではあるが、ライザの大声に耐えきれなかったのだろう。


「どうする? 降参して報酬をよこすなら、これぐらいにしとくけど」

「するかよ! これからだろうが!」

「左腕」


 少年がまたもやつぶやくと、ライザの左腕は力をなくし、だらりと落ちた。


「おもしれぇ!」


 ライザは右腕を振り下ろし、床に叩き付けた。

 その一撃は、一瞬で塔を粉砕する。

 当然屋上にいた者たちは落下するしかない。

 ライザは落ちるに任せた。大地を蹴って瞬時に移動するようなことは出来ても、宙に浮かぶような能力は持っていないからだ。

 落ちながらライザは少年を見た。


「お主、自分で落下制御ができるときいたことがあるのだが?」

「こっちの方が楽だから」


 少年は少女の足を傘でもさすかのように掴んでいて、少女は背に生えた黒い翼で大気を捉えていた。


「おらぁ!」


 ライザは右拳をくり出した。普通なら当たる距離ではないが、ライザにとっては関係ない。ただの突きから発生する衝撃波だけでも、人を引き裂き、破壊するには十分なのだ。

 だが。

 少年は無傷だった。

 衝撃波は、少年に到達することなく霧散したのだ。


「このままでは瓦礫に埋もれることになるな」

「じゃあ少し移動しよう」


 少女が羽ばたき、近くの広場を目指す。

 ライザもそれを追った。空中浮遊能力は持っていないが、衝撃波を後方に放てば反動で飛ぶ事は出来る。


「左足」


 両足が動かなくなり、ライザは着地に失敗した。

 体勢を崩し、広場の中央にあった噴水に激突したのだ。

 もちろんこんな程度でダメージはなく、あったとしてもすぐに回復する。だが、左腕と両足に復活の兆しはまるでなかった。


「今回は大ざっぱだな。前は足首だとか、指だとか細かくやっておったろう?」

「あれ結構めんどくさいんだよ。今回は話を聞く必要はないから、とりあえず身動きを封じればいいかなって」


 少女が翼で落下制御を行ったのだろう。挑戦者の二人はふわりと広場に着地していた。


「まだやるの? 今ならまだ取り返しがつくとは思うけど」

「右腕しか動かぬようでは、今後の人生がだいぶヘビーだとは思うがな」

「なんなんだてめぇは! 何をしやがった!」


 ライザの叫びで、周囲の瓦礫が吹き飛んだ。

 瓦礫は少年へも飛んでいくが、当たらない。大きく動いて避けているのだ。その動きは雑だが、瓦礫が飛んでくることを予めわかっているようだった。


「なんで怒ってるんだよ。敗北を知りたかったんだろ? これがあんたの望んだことじゃないのか?」


 ライザは強すぎる自分に嘆き、敗北を知りたいなどと公言していた。

 だが、これが望み通りの敗北なのかと言われると多大な疑問を感じる。

 一方的にやられて、攻撃の正体すらわからない。これは実力差が開きすぎている際にはありえることだろう。

 だが、何もわからなさすぎて、これで敗北感を抱けと言われても納得ができないのだ。

 ライザは力と力のぶつかりあいを望んでいた。

 力負けするのなら納得できたのだ。だが、これは違う。

 ライザの踏み込みは大地を割り、拳撃は大河を逆流させる。その目は光の速さをとらえ、纏うオーラは概念的な攻撃すら無効化する。

 なのに、それらが一切通用しない。なにかをすることすらできていない。

 ただ、淡々と、順に四肢を封じられていくだけのこれは、戦いにすらなっていないのだ。


「ふざけるな! こんなもの認めねぇ!」

「見苦しいな、あんた。もうちょっと武人めいた人かと思ってたよ。右腕」


 ライザの右腕が力をなくす。

 これで四肢はすべて動かなくなり、身動きすらままならなくなった。


「さて。負けを認めてくれないなら、賢者の石は無理矢理奪うしかないな。こいつも胸の中かな」

「さてな。リズリーの元であるレインは外部に保管しておったようだが」

「体内に石がある場合は死んだら力を失うって聞いたけど、まだ喋れる状態だしなんとかなるだろ」


 少女がライザへと近づいてくる。

 ライザは咆哮を放った。ただ叫ぶだけではない、攻撃を意図しての渾身の呼気だ。

 その爆発めいた怒号は、周囲の建物を根こそぎ消し飛ばした。


「うお! これでは近づけんな。口が動くだけでこれほどとは大したものだ」


 少女は咄嗟に飛び退いて、少年の背後に隠れている。その判断力は大したものだった。


「どうしたもんかな。呼吸を封じるなら、横隔膜でいいんだろうか? けどさすがに筋肉を細かく殺すのは無理だし肺の周辺ってことで」


 少年がそう言うと、ライザの呼吸は止まった。

 呼吸関連の筋肉が動きをとめ、肺は酸素を取り入れることをやめたのだ。


「さすがにそれは死ぬのではないか?」

「賢者ならしばらくは死なないんじゃないか? 生きてるうちに中を見てみてよ。外にあるなら後で探せばいいし」

「お主、知千佳の前では猫をかぶっておったろ……」

「自重もするよ。不必要に嫌われたくはないからね」

「まあよい。こやつに遠慮などいらんしな。ろくでもないやつなのはわかっておるわけだし」


 再び少女が近づいてくる。


「……瞬きだけでも衝撃波がくるとは、こやつ本当にバケモンじゃな……」


 ライザは動く箇所を総動員していた。

 目や口はまだ動く。それだけでも、ただの人間なら殺せただろう。だが機械であるこの少女の足を止めることはできなかった。

 少女はライザを蹴ってうつ伏せにする。

 ここまでされてようやく、ライザは恐怖を感じはじめていた。

 もう自分は終わってしまっているのだと、とっくに取り返しがつかなくなっているのだと認識できたのだ。

 もう、命乞いすらできはしない。

 ライザは、敗北の苦さをこれ以上にないほど思い知らされていた。

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