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即死チートが最強すぎて、異世界のやつらがまるで相手にならないんですが。 作者:藤孝剛志

第5章 ACT2

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11話 魅了でどうにかなりました。

 無敵軍団をやり過ごした夜霧たちは再び移動を開始していた。

 逃げた彼らがまたもや襲ってくることはないはずだが、距離をおいて冷静になれば、今度は大軍を率いてやってくることもあるかもしれない。

 そこで、せめて国境を越えようということになった。

 それで安全というわけではないが、そう簡単に他国に干渉もできないだろうと考えたのだ。

 向かっているのは、マニー王国の東にあるリンディー王国だった。

 二国の境には結構な大きさの川があり、そこに橋がかかっている。

 橋の両端にはそれぞれの国の関所があるとのことだった。


「国境ってのに馴染みがないんだけど、通してくれるものなの?」


 馬車の中。夜霧が、テオディジアに尋ねた。


「そうですね。そのまま通ることは難しいでしょう」


 この世界での国境はそれほど明示的なものではないらしく、国境を越えることそのものを問題視されることはないらしい。

 だが、この川のような場所は別だった。

 他に通れる場所がなく、橋で交通に制限をかけられるのだから、通行税を取れるのだ。

 なので関所が設けられ、検問が行われている。

 そこには国境警備兵が詰めているので、半魔が通ろうとすればたちまち捕らえられてしまうとのことだった。

 だが、馬車の列はすんなりとマニー王国の関所である砦を通過した。

 長い橋を渡り、リンディ王国の砦も越え、あっさりと国境越えを成し得ていた。


「どういうことなの!?」


 成り行きを見守っていた知千佳は驚いた。何か一悶着あるかと思っていたのだ。


魅了チャームでどうにかなりました」


 エウフェミアがしれっと言った。

 エウフェミアはオリジンブラッドと呼ばれる吸血鬼で、強力な能力をいくつも有しているとのことだった。


「すごいな、魅了! あれ? でもだったらなんで追われてたの?」


 半魔を救出する際も、魅了を使えば犯罪と認識されることすらなかっただろうと知千佳は思ったのだ。


「魅了は一時的なものですからいずれは解けます。人除けの結界があれば追跡されても問題ないかと思っていたのですが、油断がすぎましたね」


 本来なら見つかることなどないはずだったが、ダリアンの超常的な索敵能力が、人除けの結界の効果を上回ったのだろう。

 一度あったなら二度あるかもしれない。

 今後、人除けの結界を過信することはできないだろう。


「で、隣の国にきたけれど、どうするつもりなわけ?」


 キャロルが聞く。

 本来、半魔たちの里はマニー王国内にある原生林の中にあった。

 逃げつづけるのはいいが、それでどこまでいけばいいのかと思ったのだろう。


「あの、ですね。なんとなく成り行きで半魔の方を助ける形にはなってるんですが、本来の目的は違うんですよね」


 申し訳なさそうに、リズリーが言う。

 彼女は、頼みたいことがあって、夜霧を探していたのだ。

 そして、夜霧は寝てばかりいるので、彼女のお願いをろくに聞いてはいなかった。


「ですけど、まあ、この大所帯をどうにかしないことには先に進めませんよね……」


 リズリーは少し後悔しているようだが、今さら放り出せる性格でもないらしい。


「なにか、具体的な方策ってあるの?」

「どこか、人目につかないような拠点を見つけられればとは思うのですが」


 夜霧が問いかけるも、テオディジアにも答えはなさそうだった。

 知千佳も何かいい場所はないかと考えてみたが、異世界の事情にも詳しくないし、大したアイデアも思いつかない。


「森とか山とかがいいのでしょうか。自給自足できそうですし」


 知千佳が考え込んでいると、諒子が多少はましなことを言った。


「そうですね。人と交流するのは難しいですので、必要なものは自分たちでどうにかする必要があります。なので、人の寄りつかないようなところで、ある程度の広さを確保できれば」

「心当たりはあるのですか?」

「この辺りには詳しくないので、さっぱりですね」

「おおう、なんなんだ、この行き当たりばったり感!」


 仕方がなかったのかもしれないが、これでは先行きが不安すぎる。

 知千佳は頭を抱えたくなってきた。


『どれ。我が上空から見てきてやろうではないか!』

「そうだった! 上にならいくらでも行けるんだよね」

『いくらでもというわけではないが、水平方向よりはましだな』


 もこもこは知千佳の守護霊なのであまり側を離れることができない。

 だが、平面座標上で離れていなければさほど問題はないらしい。


「仕組みがいい加減だなぁ……」

『まあ、所詮は我の認識によるものだしな』


 そう言ってもこもこが馬車の天井を抜けて空へと飛んでいく。

 そしてすぐに戻ってきた。


「どうだった?」

『近くの山は鉱物資源はありそうだが、あまり豊かとはいえんな。森はあったが、そう大きなものではない。近くの街のものたちが利用しているようなので、隠れ潜むには不向きであろう』

「駄目かぁ」

『このあたりに都合のよさそうな場所はなさそうだな。他に目立っていたのは、かなり遠くではあるが巨大な街があった。この国の首都やもしれぬ』

「とりあえず、その巨大な街ってのに行って話を聞いてみようか」


 なので、とりあえずはそこに向かうことになった。


  *****


 その街は、闘神都市とうじんとしと呼ばれている。

 誰がいつそう呼び始めたのかは定かではないが、その理由ははっきりとしていた。

 この街の支配者であるライザという男が闘神を名乗っているからだ。

 ライザも馬鹿馬鹿しい名乗りであることは自覚している。

 だがこれはあえてのことだった。

 ライザが闘神を名乗ることを馬鹿にする者もいるだろう。だが、闘神であることを否定するならば戦って勝つ以外の方法はない。ライザを闘神だと認めないならば挑んでこい。そういった思惑があるからだ。

 ライザは強すぎた。

 故に挑戦者がいない。

 なので闘神の名を広めている。そうすれば無鉄砲な挑戦者が現われる可能性が多少なりとも上がるだろうと考えたのだ。

 ライザは戦いを求めていた。そのために強くなり続けたのだが、あげくの果てに戦う者がいなくなった。

 まさに本末転倒の話だ。

 今さら弱くなることもできないし、手加減をするなどもっての他だ。彼は、今の自分が全力で戦える相手を欲していたのだ。

 なので街を作った。

 この街には大きく分けて二つの役割がある。

 一つは、ここにライザありと知らしめることだ。ここにくればライザと戦うことができると周知する。そうすれば挑戦者がやってくることもあるだろう。

 そして、もう一つが修業場としての役割だ。見込みのあるものを無理矢理に集めて、手ずから修業をつける。ただ、この方法にはそうそうに見切りを付けていた。多少出来がよかろうと、修業の課程でその底の程は知れてしまうからだ。

 なので、最近ではこの都市に幾多の強者を閉じ込め、戦わせ、強制的な成長を促していた。

 このやり方はそこそこうまくいってはいるようだった。

 挑戦者を待つよりはいくらかましではあったが、それでも今の所はライザの暇つぶしにもなってはいない。

 しかし、このような話を聞くとこの世界を知る者なら疑問に思うことがあるだろう。

 賢者の存在だ。

 この世界で強者といえば賢者だ。ならば賢者に挑めばいい。

 だが、それだけはライザに許されていなかった。

 ライザも賢者だからだ。

 賢者同士の戦いは大賢者が許していない。いくら強かろうが、この掟だけは破ることができなかった。


  *****


 ライザは朱に染まっていた。

 普段なら返り血を浴びることなどないのだが、今回は相手が相手だった。

 とにかく巨大だったのだ。

 それは見上げるばかりに大きな巨人だった。

 その巨人は、侵略者アグレッサーと呼ばれるものの一種だ。何が目的なのかもさっぱりわからないが、不定期に外世界からやってくる敵性存在だった。

 ライザは飛び上がり、拳を振るい、山ほどもある巨人の巨大な顔面を吹き飛ばした。

 それがどのような生き物なのか、果たして生き物であるのかは定かではないが、心臓のようなものがあり、体内には血液のようなものが循環していたのだろう。

 その返り血は盛大なもので、あたり一面は文字通り血の海となった。

 ライザはそれをまともに浴びてしまったのだ。

 賢者同士の争いが禁止されている中、ライザが多少でも手応えを感じられるのは侵略者アグレッサーとの闘争ぐらいなのだが、今回も大したことがなく落胆は大きかった。


「こいつもつまんなかったな」


 もともと大して期待していたわけでもない。それでも、侵略者ぐらいしか相手のいないライザだ。もしかして今回こそ好敵手たり得る相手なのではないかと期待してしまうのは仕方のないことだろう。

 ライザは地を蹴った。

 一瞬で宙へと舞い上がり、一息に本拠地である闘神都市へと向かう。

 瞬くまもなく、ライザは拠点へと帰り着いていた。


「お帰りなさいませ」


 街の中心部に聳え立つ巨大な塔。その屋上にライザが着地すると、女が駆け寄ってきた。


「様子はどうだ」

「ポットAは膠着状態です。ポットBは全滅しました。ポットCは……」

「そーゆーこまけーことはいいよ。何か出てきそうか?」

「今のところはポットに見込みはありません。しかし、タワーBの通過者があらわれました」

「会おう」


 この都市ではいくつもの強者を作り出す方法、選別する方法を試している。

 ポットと呼んでいるのが、強者たちを閉じ込めて競い合わせる方法だ。

 そしてタワーは、強者が配置された塔を登りゴールに辿り着く者を選別する方法だった。

 挑戦者は大歓迎ではあるのだが、最低限の実力にも達していない者と戦っても時間の無駄だ。なのでこのような方式を取っていた。


「タワーBということは、無刃のアレスタがてっぺんだったよな」

「瞬殺とのことです。アレスタは何をすることもできずに食われたと報告が」

「食ったのか。いいねぇ。まともじゃねー感じがいい」

「お待ち下さい」


 ライザはさっそくタワーBへと飛んで行こうとしたが、それを女が止めた。


「まずは身を清められてはいかがでしょうか。そのお姿ではお相手も面食らうことでしょう」

「ああ、まあそうか。血まみれの姿で威嚇しようってことでもねーしな」


 ライザは素直に身なりを整えてから向かうことにした。


  *****


 タワーBの頂上で待っていたのは異形だった。


「ひとついいか?」


 挑戦者の姿を見るなりライザは聞いた。


「なんだ?」

「どうも人間の気配じゃねぇ。どっちかつーと侵略者アグレッサーっぽいんだが、そこんところどうなんだ?」

「人間じゃねーと挑戦しちゃいけねーのかよ?」

「そうじゃねーが、このまま戦ってうっかり殺しちまったら、俺のこの好奇心の行き場がねーだろうがよ」


 挑戦者は、おおまかには人間だ。だが、余計な部分が多すぎた。

 脇腹からは小さな女の上半身が生えていた。

 右肩からは片翼が生えており、右肘には、蹄の付いた足が生えている。

 胸から飛び出した腕はライザの見覚えのあるもので、それは無刃のアレスタの右腕のようだ。

 身体の様々な場所に、様々な生き物のパーツを無理矢理付け加えたような、挑戦者はそんな奇妙な姿をしていた。


「俺は食ったものの力を取り込むことができる。何を食ったかなんて一々覚えてねーが、その侵略者ってのも食っちまったんだろうよ」

「その姿は副作用ってことか?」

「どんな姿になろうが知ったことか! てめえが殺せるならそれでいい!」

「ああ、そうだな。姿なんざどうだっていい。じゃあはじめるか」


 ライザは腰を落とし、身構えた。

 構えなど特に必要はないのだが、ぼうっと突っ立っていても相手がやりにくいだろうという配慮だ。

 次の瞬間、挑戦者はライザの目の前にいた。


「ほう? どうやったんだ?」

「空間を食った。俺に食えないもんはねぇ」


 挑戦者は瞬間移動してきたようだ。

 余裕を見せているつもりなのか、攻撃はしてこない。

 そして、それはライザも同じだった。何をしてくるのか興味があったのだ。


「それと俺が食えるのは生き物だとか、空間だとかだけじゃねぇ。たとえば……因果なんてものもな! この俺は! 過程をも食い尽くし、結果だけを求めることができる!」


 再び挑戦者の姿が消え、ライザは拳を床へと叩き付けた。


「萎えたわ。異形となろうとも強さだけを求めるなんてやつは俺好みなんだけどよ。小賢しいこと言い出すから台無しだ」


 ライザの拳は挑戦者を捉えていた。挑戦者は拳と床に挟まれ、頭部が消し飛んでいる。

 挑戦者は何かをしようとしたようだが、ライザの拳はそれごと打ち砕いたのだ。

 ライザにとって、事象改変、因果律操作、次元跳躍、空間断絶などをしてくる相手など珍しくもなく、この程度の相手は感覚的に叩きつぶすことができるのだった。


「そーいや、こいつ俺に似てなかったか?」


 異形ぶりにばかりに目を奪われていたが、思い返してみると面影があった気がしなくもない。

 ライザは、適当に撰んだ街で暴れまわり、女を孕ませるのを日課としていた。

 これは暴力衝動の発散や、性欲の解消の為ではない。

 ライザを心底憎み、憎悪に燃えたぎる復讐者を作り出そうと思ってのことだった。


「俺のガキだとしたらふがいねーな……」


 自分の子供だったとしても弱い者には興味がない。

 ライザの虚しさは募るばかりだった。

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