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即死チートが最強すぎて、異世界のやつらがまるで相手にならないんですが。 作者:藤孝剛志

第5章 ACT2

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10話 こんなサービスシーンは誰得なんでござるけど!?

 花川たちは、東の島国にある帝国、エントの港町に辿り着いていた。


「ああ……もしかして、拙者は逃げ出さないほうがよかったのでござろうか……そうしたら今頃は、温泉とかできゃっきゃっうふふなことがあったやもしれぬではないですか! あわよくばラッキースケベ的なことが起こったりとか!」


 その港町にある宿屋の一室。

 花川は部屋の隅にうずくまり、ぶつくさと言っていた。


「豚くん、うるさいよ?」


 丸藤彰伸がやってきて、呆れ気味に言った。なんど痛めつけても花川が懲りないからだろう。


「はい、すまんでござる!」

「作戦会議やるからさ、豚くんもきなよ」

「へ? 拙者ごとき豚が参加させていただいてもよろしいのですか?」

「なんなんだろ、へりくだってるくせになんだか馬鹿にされてるような気がするのは……まあいいよ。ラグナくんの手前、お前だけほっとくわけにもいかないだろ。一応は仲間なんだからさ」

「はあ、そういうことでござるか。ではお言葉に甘えて」


 結局、花川はござる口調に戻っていた。

 パーティメンバーも一々咎め立てるのも面倒になってきたのか、もう何も言ってこない。

 彰伸に付いていき、花川はテーブルについた。

 重人、彰伸、玲、ラグナ、花川の五名でテーブルを囲むことになる。


「とうとう東の国、エントまでやってきたけど、どうしたらいいのかな?」


 リーダーのラグナが聞く。彼自身には特に何かをしなければという理由はない。彼は、彰伸たちにのせられているだけなのだ。


「まあ、俺のオラクルに任せといてもらえば間違いはないですよ」


 そう言って、預言者オラクルマスターの重人が一冊の本をテーブルに置いた。


「……なんか、大丈夫? 攻略本だよ? みたいな感じの本ですな」

「ま、その通りこれはこの世界の攻略本だよ」

「しかし、なにを攻略するのでござるか? そもそも丸藤殿たちの目的が見えぬのでござるが……」

「賢者をどうにかしないと俺たちに未来はない。ラグナくんも悪の賢者たちがこの世界で好き放題やってるのはもちろん知ってるよね」

「そうなの? 賢者たちはこの世界を守ってるって聞いたけど」

「そうなのよ、ラグナくんは悪の賢者を倒して世界を救うの」


 ラグナの隣にいた少女、九嶋玲がラグナに抱きつきこれ見よがしに胸を押しつける。


「わかったよ。賢者を倒せば世界は平和になるんだね!」


 ――うん。あからさまに操られてる感じでござるな!


 玲のクラスは運命の女。男を籠絡するギフトの持ち主だった。


「しかし、賢者なんかほっといてもいいかと思うのでござるが。丸藤殿たちはそれぞれとんでもない力の持ち主でござろう? 好き勝手生きていけるのでは?」

「そうはいかないんだよ」


 そういって重人が攻略本を花川に押しつけた。読んでみろということらしい。


『賢者を倒すには世界剣オメガブレイドが必要だ! エントでの最重要目標が世界剣の取得なんだけど、ここには賢者ヨシフミがいるぞ! 剣を入手する前に遭遇エンカウントすると全滅は必至! けれどヨシフミは賢者にしては珍しく皇帝なんてやってるので居場所は限定されている。慎重に立ち回れば回避できるはずだ!』


「ぶはっ! 世界剣オメガブレイドって!」

「そこじゃねーよ」


『ワンポイントアドバイス:あまり強くなりすぎるとはぐれ賢者に認定されて刺客がやってくるぞ! 今の君たちでは絶対に賢者には勝てないから、目立つ行動は控えよう!』


 花川は賢者アオイのことを思いだした。

 はぐれ賢者とは、賢者並の力を持ちながら賢者になろうとしない者のことであり、アオイはそういったはぐれ賢者を狩る役目をしていたのだ。


「ははぁ。しかし、びっくりマークの多い本ですなぁ」


 花川はどうでもいい部分に注目していた。


「そういうわけでだ。明日は首都に向いつつ、オメガブレイドの素材も入手する」


 彰伸が花川の肩を叩いた。


「へ? なんでござる?」

「お前にも重要な役割があるんだ」


 彰伸は、妙に優しかった。


  *****


「こんなサービスシーンは誰得なんでござるけど!?」


 花川は裸だった。

 正確に言うならばパンツだけは身につけているのだが、だからと言ってなんの慰めにもならない。

 花川は、白旗を精一杯掲げて山頂にある砦へと嫌々ながら歩いていた。


「正面から、一人で、丸腰で行ってもらう」


 そう言ったのは預言者の三田寺重人だ。

 なんでも無血開城をする条件がそれらしく、無血開城イベントがオメガブレイドの素材を入手する条件の一つになっているらしい。

 なので、花川は一人だった。

 パーティメンバーたちは、砦から少し離れた場所で待機しているのだ。


「うう……なんで拙者がこんなことを……誰でもいいというか、こーゆーのはチョーすげえ武装をしてる勇者様がやるからこそ意味があるんでしょうが! 拙者が裸になったところで特に戦力が下がったりはせんのでござるが!」


 ぐちぐち言いながらも花川は進んでいく。

 重人たちが花川を仲間にしたのは、こんな時に使うためのようだった。

 多少は打ち解けたような雰囲気になっていたが、そんなことはまるでないらしい。

 花川が向かっている砦は難攻不落として知られていた。

 それもそうだろう。山頂にあるその砦からは周囲一帯が丸見えなのだ。

 当然、裸で白旗をひらひらさせながら近づいてくる怪しげな奴のことなどすでに察知されており、警戒されているはずだった。


「まあ、でもあれですよ。無血開城イベントとわかっておるわけですから、攻撃されたりはせんのでござるよね? そう考えればおいしいイベントとも捉えられますな。見方によっては一騎で砦を落とすとも言えるわけでござるからして! するとですよ、結果的に拙者が勇者ということになるのでは?」


 なんの根拠もない妄想をしながら花川が山を登っていると、砦の見張り台らしき塔の上に人影が見えた。

 メイド服を着た少女で、手には大きな弓を手にしている。


「なんといいますか、実にありがちですな。なんで誰もかれもメイドに戦わせたがるのか? まあ、そうは言いつつも、拙者も嫌いではないでござるがね。ドゥフフ」


 少女が弓に矢をつがえ引いていく。その矢も弓に劣らず巨大なものだ。

 狙いは花川以外にありえなかった。なにせここには花川以外には誰もいないのだ。


「えーと? 無血開城……でござるよね? 威嚇的なものでござろうか? まあそうでござるよね。何か敵っぽい奴が近づいてきたらとりあえずは警戒するでござるよね。そして、拙者が丸腰どころか服も着ていないことに気付いて、その豪胆さに感心して門が開かれると、こういう筋書きで――」


 矢の先端が光輝いていた。

 明らかにただ矢を放つだけではない。そう気付いた花川は斜め前へと飛んだ。

 なぜなら、停止と後退は禁じられていて、その禁を破れば殺されるからだ。


「おうふ!」


 矢がすぐ側を通り抜け、花川はよろめいた。直撃こそしなかったものの、矢が纏う暴風が周囲を攪乱していったのだ。


『トマッタナ?』


 耳元からの声に花川は凍り付いた。ほんの数秒のことではあるが、よろめいて足を止めてしまっていたのだ。


「と、止まってないでござる! 気のせいでござるよ!」


 そして、背後からの轟音と共に、花川は前方へと吹き飛ばされた。矢が大地を抉り、爆裂したのだ。

 顔面から派手に地面にぶつかった花川だが、慌てて起き上がり前へと進んだ。


『チッ!』


 謎の声が悔しそうにしているので、どうやらルールは守れたらしい。


「何が無血開城なんでござるか! 少なくとも拙者の血は流れるのでござるが!?」


 そして、花川は見た。

 矢を放ったメイドの隣に、もうひとりのメイドがあらわれたのだ。


「えーっと……」


 戸惑いつつも花川は歩みを止めない。止めることができなかった。

 そして、見る間にメイド少女たちは数を増やしていった。

 砦の至る所にあらわれるそれらはメイド軍団とでも呼ぶに相応しい偉容だ。


「なるほど、なるほど。盗賊が占拠している砦とぐらいしか聞かされてはおりませんでしたが、どうやらメイド盗賊団ということなんでござろうか? というかですよ? そもそも盗賊相手に無血開城ってありえるんでござるかね?」


 今さらながら、大前提に疑問を抱く花川だったが、そんなことはどうでもいいような光景が眼前に展開されはじめていた。

 メイドたちが一斉に矢をつがえたのだ。

 先程と同じく矢の先端が輝いている。見応えのある光景ではあるが、のんきに楽しんでいる余裕などありはしなかった。


「……ちなみに、止まったり、退がったりすると死ぬと聞かされてるのでござるが、具体的にはどうなるんでござるかね?」

『貴様ノ耳ノ中ニイル俺ガ爆発スル』

「あんたも死ぬでしょうが!」

『ソノタメニ産ミ出サレタノダ。何モ問題ハナイ』


 創造主クリエイターの丸藤彰伸が創り出した生き物に、死の恐怖はなさそうだった。

 何千という矢が向けられる中、止まることのできない花川は、できるだけゆっくりと歩いていた。

 何かできることはないかと考え、メイドたちを鑑定する。

 戦闘バトルメイド。

 平均レベルは200程。基本となるメイドスキルに加え、様々な格闘技、武器術、魔法術をも持ち合わせているオールラウンダーだ。


「一人が相手でも勝てる気はしませんな! ……そうでござる! 拙者が以前から集めているアイテムでなにか……って、アイツらに根こそぎ持っていかれたのでござった!」


 花川はアイテムを大量に格納できるアイテムボックスのスキルを持っている。だが、中身は全て重人たちに奪われていた。


「いや、落ち着くのでござる。なにか手があるかもしれませんしな。降り注ぐ矢を全て回避しきるとか、耐えきるとか……ってできるわけがないでござるよ!」


 花川のレベルは99だが、近接戦闘系ジョブではないので身体能力はたかがしれていた。

 回復能力だけは一人前だが、あの矢をまともに食らっては跡形も残らないだろう。どんな重傷でも生きてさえいれば回復できるが、即死ではどうしようもない。

 ではこちらから攻撃するという手を考えるも、花川にはろくな攻撃手段がなかった。

 使える攻撃手段として呪弾があるが、これは威力、射程ともに拳銃程度のものだ。

 ここからでは届くはずもないし、高レベル戦士に通用するものではないだろう。

 花川の能力は回復に特化しているのだ。


「あれ? もしかして、本当に拙者、詰んでいるのではござらんか?」


 逃げれば頭が爆発するし、このまま進めば尋常ではない威力を秘めた矢が雨のように降り注いでくる。


『終ワッタナ』

「お前が言ってる場合じゃないでござるよ! 一蓮托生ではござらんか!」


 耳の中にいる何かに死の恐怖はないのだろう。どこか他人事のような物言いだった。


「……ああ……種付けおじさんになりたいだけの人生でござった……拙者のモブっぽいビジュアルなら案外いけそうな気がしていたのでござるが!」

『……オ前……何ヲ言ッテ……』

「謎の生物に引かれたくはないのでござるが!」

『俺モドウセナラ、モウ少シマシナヤツに取リ憑キタカッタ』

「自我が芽生えるならもうちょっとましな切っ掛けでやってほしいのですが!?」

『足ガ止マリカケテイルゾ?』

「今さらどうだというのでござる! どうせ死ぬなら、どちらにせよ――」


 そんなどうでもいい会話に時間を費やしているうちに、あっさりと矢は放たれていた。

 それは空を埋め尽くし、文字通り雨のように降り注ごうとしている。

 今さら逃げる場所などどこにもなく、最悪の運命がすぐそこにまで迫っていた。


「ほ、ほら、これはあれでござるよ。有名な三択ですな。ハンサムの拙者は突如反撃のアイデアがひらめいたり……はまったくしないので、現実は非情ですな!」


 花川は立ち止まり、目を閉じた。

 何本もの矢が全身を貫いて穴だらけにするのか、一撃で全身が消し飛んでしまうのか。それとも矢で死ぬ前に頭が爆発するのか。

 目を閉じたまま、花川は最後の瞬間を待ち構える。

 だが。

 いつまで経ってもその瞬間は訪れなかった。


「……気付いてないだけで、もうすでに死んでいる、とかなんでござるかね……」


 ちらりと目をあける。

 目の前に少年の背が見えた。

 重人たちの仲間、ラグナと呼ばれていた少年が、花川をかばうように立っていたのだ。


「おおおぉぅ! あれですか! 仲間がきて助けてくれるっていうあれでござるかぁ! ありえないと思って選択肢から除外しておったのですが!」

「さすがにこれ以上はほっとけないよ」


 ラグナが軽く剣を振る。

 それだけで、天を覆うような矢の雨は消し飛んでいった。

 メイドたちは次々に矢を放っているのだが、ラグナの剣はそれをあっさりと無効化しているのだ。

 ほっとした花川は、先程からずっと立ち止まっているのに死んでいないことに気付いた。


「えーと、これは一体……止まったり退がったりしたら死ぬという話でしたが……」

「僕たちの近くでは爆発しないって言ってたよ?」


 花川を守りながらラグナが言う。


「おおう、拙者が自暴自棄になってツッコんでくるとかまで想定しておったのですか! 用意周到でござるな!」


 そんなことはまるで考えていなかった花川だ。


「しかし、もう無血開城とか無理なのでは?」

「うん。もともと小数点以下の確率でしか成功しないらしいよ」

「それ切り捨てられて、成功確率ゼロってやつではないですかね!?」


 重人の預言書に嘘は書いていないのだろう。だが、まるで信頼はできないようだった。


「で、ラグナ殿が、守ってくれているのはいいとしてどうしたものでござろう? いつまでもこうしていられませんし」

「そうだね。でも、怪しい奴に攻撃してるだけの相手を、こっちから攻撃するのも気が引けるんだけど」

「あ、やっぱり拙者、攻撃されてもおかしくないぐらいに怪しいでござるか」

「その、裸で迫ってくる不審者だし……」


 純朴な少年にまで不審に思われている花川だった。


「ですよねー!」


 花川がそう言うと同時に、砦に異変が起こり始めた。

 砦が揺れ始めたのだ。

 揺れは次第に大きくなっていき、メイドたちは立っていられなくなった。中には振り落とされるものも出てきたようだ。


「これは……いったい……」


 花川は呆気にとられた。メイドたちは攻撃どころではなくなり、ラグナも一旦は剣を収めている。

 そして、砦が一気に立ち上がった。


「はぁ!?」


 足が生えたのだ。

 巨大な、脈打つ肉の塊が砦の底から何本も生え、その重量を支えている。

 砦自体もどこか生物じみた様相をあらわしていて、表面には血管らしきものが張り巡らされていた。


「これが創造主クリエイターの力なのかな。すごいね」

「無茶苦茶すぎるでしょうが……」


 これほどの力があるなら、攻略情報に従ってイベントを消化する必要などないのではと思う花川だった。

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