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即死チートが最強すぎて、異世界のやつらがまるで相手にならないんですが。 作者:藤孝剛志

第5章 ACT1

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8話 お前のような高校生がいるか! という体を張ったツッコミの可能性

 ダリアンは時を止めた。

 厳密に言えば異なるのかもしれないが、ダリアンはこの現象をそのように認識している。

 もちろんダリアンは動けるし、ダリアンの周囲の空気は流動していて呼吸も可能であり、ダリアンが触れることによって任意の物体を動かすことも可能だ。

 任意の対象を即死させるというその力は脅威だ。

 だが、その発動が少年の意思によるものならば対策は単純だ。

 発動させなければいい。

 殺そうと思う前に、殺してしまえばいいのだ。

 仲間たちは攻撃をしようとした段階で殺された。

 攻撃を察知する能力があるのだろう。だが、それも時間を止めてしまえば関係はない。

 ダリアンは、時間停止は大抵の問題は解決できる万能の能力だと自負していた。

 しかし、便利な時間停止ではあるが、多少の弱点はある。

 この時間停止中は他の魔法やスキルを使用することができないのだ。

 そして物を投げた場合、自分の体から少し離れた所で停止してしまう。

 なので、時間停止を利用して敵を倒したいなら、接近して直接攻撃する必要があるのだった。

 ダリアンは少年へと近づいて行った。

 草原の短い草がダリアンに触れると動き、離れると止まる。

 ダリアンは念のため、少年の背後へと回った。

 時間が停止しているので、少年にダリアンの姿は見えていないが、万が一のことを考えたのだ。

 剣の届く距離まできて、ダリアンは足を止めた。

 ダリアンから見て、少年は完全に停止していた。

 その脳内では、どんな精神活動も行われてはいないだろう。

 ダリアンの殺意など感じ取れるはずもなく、ダリアンに殺されてもなんの反応もすることはできない。


 ――問題があるとするなら、僕の剣で斬れないほど頑丈だったらということだけど。


 おそらくそれはないとダリアンは判断した。

 魔道具やスキルや魔法の使用形跡はない。

 ただの人間であり、ダリアンの剣が触れればあっさりと両断できる。それは確実なはずだった。

 何か見落としはないかとダリアンは、詳細に確認した。

 時間停止中は魔力を膨大に消費するとはいえ、一時間程度は停止を続けることができる。

 焦る必要はないのだ。

 十分に観察し、何も問題はないとダリアンは確信した。

 頭部を一撃で破壊し、生命活動を停止させる。反撃の隙など微塵も与えない。即死能力があったところでこれで終わりだ。

 まったく動かない相手となると普段とは勝手が違うため、若干の戸惑いがあったが、すぐにイメージは湧いた。

 頭部を右上から斜めに切断する。そのまま左上から斜めに。真一文字に斬り裂いて、最後に頭頂部から股間までを両断する。

 最初の一撃で死ぬはずだが、念には念をいれた方がいい。

 ダリアンは剣を抜いた。

 そして、目が合った。


「は?」


 何の前触れもなくそれはあらわれたのだ。

 瞳だった。

 ダリアンと少年の間の空間。

 閉じたまぶたが開くように、それは現れたのだ。

 眼球そのものではない。まぶたを備えた切れ長の目がそこにあらわれていた。


 ぞわり。


 と、それは次々とあらわれていく。


「ひっ」


 知らず、ダリアンは悲鳴をもらしていた。

 瞬く間のことだった。

 時間の停止しているこの空間で、それがどれほどの時間をさすのかはわからない。

 だが。気付けば、目は数え切れないほどにあらわれ、空間を占めていた。

 目。眼。瞳。

 様々なそれらが、ダリアンを凝視していた。全ての眼が、ダリアンを見つめているのだ。

 ダリアンの体が恐怖に震えた。

 眼がそれに合わせて小刻みに揺れる。眼は、ダリアンを見ていた。その一挙一動全てをつぶさに観察しているのだ。

 それでも、ダリアンは剣を振りかぶろうとした。眼が剣の切っ先を注視する。

 ダリアンの動きは、完全に捉えられていた。

 振り下ろせばどうなるのか。

 それが、ただ見ているだけなどということはないだろう。

 確実に反撃されるという予感があった。

 ここが分水嶺なのだ。

 ここから少しでも剣を少年に向けて動かせば、殺される。それは確信だった。

 そして、それはただ殺される以上の、おぞましいなにかだ。

 ダリアンは、この異常な状況を理解できてしまったのだ。

 それは眼だけで語る。理解を迫ってくる。

 この状況を把握しろと、暴力的な視線で貫いてくる。

 そして、気付く。

 この少年の本質は、目の前にある肉体になどないのだと。

 ここで少年の頭部を粉微塵に粉砕しようと、それは本質にかすりすらしないのだ。

 それは、人ごときの理解の及ばない、立ち向かおうと考えることすら烏滸がましい、途方もないということしかわからない、真性の化物。


 ――なぜ、こんなものが人間の振りをしてこんなところにいる……!


 それは触れてはならないものだった。

 なのにそれは、触れるまでわからない。

 悪質で、性質の悪い、なにかの冗談のような存在だった。

 こんなもの、どうしようもない。

 ダリアンは、時間の凍結を解除した。


  *****


 背後で音がして、夜霧は振り向いた。


「え? なんで?」

『縮地……ではないな。壇ノ浦がそれを見逃すはずもない』


 目前にいたはずのダリアンが、いつのまにか背後にいる。

 その不思議に知千佳たちが驚いていた。

 ダリアンは跪いていた。

 足に力が入らないという様子で、項垂れている。


「ダリアン様!」


 無敵軍団とやらも驚いていた。

 どうやら誰にとっても、この状況は理解できないものらしい。


「もう一度言う。帰ってくれよ。こっちの要求はそれだけだ」


 ダリアンがゆっくりと顔をあげる。

 憔悴しきったその顔は、別人のようになっていた。


「……何者だ……お前は……」

「そう言われても、ただの高校生としか言いようがないよ」

「は……はははははっ!」


 ダリアンが右手をあげ、人差し指をこめかみに当てる。


「おい、あんた」


 嫌な予感がして夜霧は制止しようとした。

 だが、そもそもどうやってそれを止めればいいのか。

 破裂音とともに、ダリアンの頭部が消し飛ぶ。

 ダリアンの体はどさりと前のめりに倒れ、それを見た無敵軍団は一目散に逃げ出した。


「なんで!? 意味わかんない!」

『うむ。お前のような高校生がいるか! という体を張ったツッコミの可能性は……』

「ないな!」

「この結末は避けたかったな」


 最良の結果とは言いがたい。

 だが、とりあえずの目的は達成したことで良しとするしかなかった。


  *****


 死の衝撃でダリアンは混乱していた。

 いつもこうだった。

 頭の中をかき混ぜられたようになり、感覚が混濁する。

 目の前が極彩色の絵の具をぶちまけたようになり、雑音が聴覚を塗りつぶす。

 吐き気を催すような匂いが鼻腔に広がり、全身を何かが這い回り毛穴から侵入してくるような感触に怖気を震う。

 わけのわからない空間の中で溺れたようになるこれは、時間遡行の副作用だった。


 ――なんだったんだあれは……。


 わからない。

 だが、そういう者がいるというのがわかったのならそれはそれでいい。

 次からは避ければいいだけの話だった。

 あれは、人間が戦いを挑んでいいような存在ではない。

 何度繰り返そうが勝てるわけもないというのが、ダリアンの率直な感想だった。

 次第に感覚の混乱がおさまっていき、気付けばダリアンはベッドの中にいた。

 就寝中だった。

 戻ってきた場合、この状況は都合がよかった。

 朝までに前回の行動と状況を整理すれば混乱は少なくなり、周囲の者に気取られる恐れを最小限にできるからだ。

 ダリアンは目覚めた。まずは今がいつなのかを知る必要がある。


 そして、目が合った。


「うわああああああああ!」


 恥も外聞もかなぐり捨てて絶叫する。

 逃れて来たはずなのに、無数の目がダリアンを見つめていたのだ。


「お、おかしいだろ! ここはあれに出会う前のはずだ!」


 そして気付く。気付かされる。

 確かに過去には戻っている。なのに目が存在する。

 ならば答えは簡単だ。それは最初から、あらゆる空間に存在しているのだ。

 それは呪いなのか、あるいは汚染なのか。

 記憶を継承しての過去への移動。それを認識してしまったという事実は二度と変えることができない。

 いくら過去へと戻ろうと、それが存在していることをダリアンは知ってしまっているのだ。

 もうどこにも逃げることはできない。

 ダリアンが正気を保っていられたのは、それほど長い時間ではなかった。

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