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即死チートが最強すぎて、異世界のやつらがまるで相手にならないんですが。 作者:藤孝剛志

第5章 ACT1

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3話 無敵軍団って小学生かよ!

 知千佳の太腿の上で眠る夜霧は実に安らかな様子だった。

 呆れた様子の知千佳だが、その安寧を与えているのが自分だと思えば多少は誇らしく思える部分もある。


 ――けど、どうしたもんかな……。


 ガタガタと揺れる馬車の中は沈黙に包まれていた。

 リズリーたちの事情は一通り聞いたが、肝心な部分は夜霧が起きてからという雰囲気だ。

 諒子とキャロルからすれば、リズリーたちは突然あらわれたよくわからない人物だろうし、特に聞くべき事もないのだろう。


「この馬車ってどこに向かってるんですか?」


 成り行きで馬車に乗りはしたが、目的地を聞いていないことに知千佳は気付いた。


「ああ、とりあえずは王都から離れている。我々も大所帯だからな。避難民と軋轢が生じるようなことは避けたい」

「大所帯?」


 そう言われても目の前にいるのは、リズリーとテオディジアとエウフェミアの三人だけだ。

 他にいても、馬車を操る御者ぐらいだろう。


「仲間を探しながら移動していると言っただろう。存外、多く見つかってな。後続の馬車でついてきているんだ」


 テオディジアたちが暮らしていた半魔の里は橘裕樹に襲われ、見目麗しい女たちは連れ去られたという。

 その後、裕樹が死んで支配からは逃れたはずだが、彼女らの行方は知れなかった。


「そんなに多いんですか?」

「里の者はそれほど見つかっていないんだがな。囚われの同胞が思った以上にいたんだよ」


 テオディジアは複雑な表情を見せた。

 本当に助けたいのは里の者なのだろう。だが、見知らぬ者たちとはいえ同胞を見捨てるわけにもいかないのだ。


「現時点では百名ほどか。この調子ならこれからも増えていくことだろう」

「百って!」


 想像以上の人数に知千佳は驚いた。


「エウフェミアの感知能力は実に優秀でな。見つけてしまう以上助けないわけにはいかないんだよ」


 探すのを止めるのも、見つけておいて見捨てることもできないのだろうが、あまりに増えすぎれば統制は取れなくなる。

 テオディジアはその点で悩んでいるようだった。


「あ、レインが残した財産があるので、私お金持ちなんです。だから物資的な意味では大丈夫なんですけど、さすがに増え過ぎちゃうと、移動も大変っていうか……」


 リズリーも少し困ったように言う。

 ここで問題になるのは、救出しているのが半魔だということだ。

 半魔はこの世界では怖れ、忌み嫌われている。百名規模で徒党を組めば、何をしなくとも危険視されることだろう。


「ここまででも結構襲われているんだ。私とエウフェミアでどうにか撃退はしてきたんだがな」


 半魔は一般の人間に比べれば強いが、圧倒的といえるほどでもない。本格的に討伐を目的とした部隊を差し向けられた場合、太刀打ちできない可能性が高いだろう。


「まあ、高遠殿に会うというリズリーの目的は達成できた。今後のことについてはあらためて考えることになるだろう。とりあえずは野営ができそうな広い場所を探して移動しているところだが――見つけたようだな」


 馬車が減速している。

 知千佳が窓の外を見ると、そこには草原が広がっていた。


  *****


「で。私はなにをすれば?」


 馬車の外に出た知千佳は、ぼんやりとつったっていた。

 テオディジアたち半魔はテントの設営など、野営の準備を始めている。

 キャロルと諒子はそれぞれてきぱきと設営の準備を手伝っていた。

 リズリーは用意されたテーブルについて優雅にお茶を飲んでいる。何もしていないという点では知千佳と同じだが、彼女はこの集団を束ねる立場だ。

 ちなみに、夜霧は膝枕をやめて放り出しても寝続けていたので、馬車の中においてきた。


『そうだな。皆で大掃除をするときに一人手持ち無沙汰になるタイプだったな、お主は』


 知千佳の近くに浮かんでいた、もこもこが言った。

 彼女は背後霊で、見ることのできるものは限られている。知千佳の身近なところでは、夜霧が見られるぐらいだ。


「悪かったね……」


 言い返しつつも、手際と段取りの悪さには自覚のある知千佳だった。


『手伝う義理もないのだから、堂々と暇そうにしておればよい』

「それも、なんだかなーとは思うけど」


 そう言いつつも、知千佳は草原に腰を下ろした。


「ところで、草原って勝手にテント張っていいのかな?」

「さてな。地権者がおるやもしれんが、一時的なことだしかまわんだろ。人除けの結界もあるしな」

「結界かー、ぱっと見はよくわかんないけど」

『外からは我らを認識できぬな。吸血鬼の女がやったようだ。かなりの力だな』

「吸血鬼とか、結界とか、やっぱり異世界なんだよねーここって」


 今さらながらにそう思いつつ、知千佳は空を見上げた。

 かなりの上空に岩の固まりが浮いていて、建物らしきものもかすかに見えている。これまであまり意識していなかったが、空にも人が住む世界があるようなのだ。


『元の世界でも結界ぐらいはあるし、吸血鬼もおったぞ』

「マジで!?」

『家の近くにある中央病院は吸血鬼が運営しておったし、そこの娘は七体の眷属を従える吸血姫だったな』

「何なの!? そのラノベみたいな話は!」

『世の中にはお主の知らんことなどいくらでもあるのだ』

「まあ、背後霊もいるし、高遠くんみたいなのもいるなら、そーゆーのもあるのか」


 何よりも異常な存在が身近にいるのだ。今さら、吸血鬼の存在を疑っても仕方がないのだろう。


『まあ、今後のことについて他者を交えず考えておくのも悪くはないな。お主、成り行き任せで流されておるようだしの』


 あたりには誰もいないので丁度いいともこもこは考えたのだろう。


「流されてって……まあ、そうなのか」


 異世界に転移してからここまで、知千佳が何かを決定したことはそれほどない。

 元の世界に戻るということでさえ、そんなことが本当にできるのかと半信半疑で、夜霧の方針に従っているだけなのだ。


『お主、テオディジアたちや、キャロルたちを馬鹿正直に信じておるだろう? もう少し警戒してはどうだ?』

「え?」


 特に何も考えていなかった知千佳は驚いた。そんなことを言われるとは思ってもいなかったのだ。


『テオディジアたちは小僧を利用するつもりのようだし、キャロルたちは元々小僧の監視役だ。そう易々と信用などできると思うか?』

「うーん、そうかもしれないけど……だったら高遠くんは信用してるの?」

『小僧など疑うだけ無駄だし、疑ったところでどうにもならん』


 これまで見た限りでは夜霧の力に対抗する手段はない。気に入らない相手を即死させるのは造作もないし、その力を十分に知っている相手なら脅迫するのも簡単だ。つまり何か良からぬ事を考えていたとしても、どうしようもないのだ。

 なのに、夜霧はただ知千佳を守って元の世界に帰ろうとしている。確かにこんな相手を疑うなど時間の無駄だ。


「けど、悪い人たちじゃないと思うんだけど」

『悪い悪くないは関係がないな。目的が違えば、道を異にすることもあるということだ』

「ま、気をつけてはおくけどさ」


 そうは言いながらも、知千佳はそれほど深刻にはとらえていなかった。

 少なくとも、夜霧が一緒にいる状況でおかしなことをすることはないだろうと考えたのだ。


「けっこう設営って簡単にできるんだ」

『お主はなんもしておらんがな』

「うっさいな」


 知千佳がのんびりとしているうちに、ちょっとした集落が出来上がりつつあった。

 そして、その集落の向こう側に知千佳は違和感を覚えた。

 なにかが、やってくる。

 知千佳の類いまれな視力は、騎馬の一団をとらえていた。

 軍服の兵士を乗せた十頭ほどの馬が、こちらへとやってきているのだ。


「何か来てるみたいだけど……」

『うむ? だが、こちらの姿は見えておらんはずだから特に関係はないかと思うのだが』


 だが、それはこちらへと真っ直ぐにやってくる。

 ここが目的地としか思えない動きなのだ。

 騎馬が近づいてきて、知千佳は軍服に見覚えがあることに気づいた。

 先ほどまでいた、マニー王国のものだったのだ。


『確かにここへ向かっているな。しかし、軍の一部隊だとしてなんの用なのだ?』


 王都が崩壊しているのだ。軍なら王都周辺でやるべきことはいくらでもあるだろう。


「なんか、追われるようなことしたっけ?」

『暗殺ギルドのなんたらを殺しておるし、大司教とかも殺しておるし、十分に犯罪者だな』

「そうでした……なんか麻痺しちゃってたけど……」

『だが王都があの状態だ。証拠などあるまいし、捜査なんぞしておる場合ではないと思うがな』

「まあ、リックさんからもらったあれがあるから、話ぐらいはできると思うけど」


 マニー王国の第三王子であり、現在の剣聖であるリチャードからもらったアミュレットがある。

 それは、リチャードの関係者であることを示すもので、マニー王国内でなら便利な代物だった。軍の一部隊ぐらいならこれで丸め込めるかもしれない。


『小僧を起こすか?』

「うーん。なんでもかんでも高遠くんに頼りっぱなしってのもね」


 マニー王国の軍隊なら話は通じるだろうというのもあるし、危険なら勝手に起きてくるだろう。

 知千佳が何かがやってくる方へと向かうと、そこにほぼ全員がそろっていた。

 何かが攻めてきたとして、今さら逃げ隠れもできないからだろう。

 その集団の先頭には、テオディジアにエウフェミア、キャロルに諒子が立っている。

 目には見えないが、彼女らがいるあたりが結界の境界近くのようだ。

 知千佳は先頭近くまで駆け寄った。


「私は魔術には疎いのだが、結界は正常に機能しているのか?」

「はい。問題なく作動しています。オリジンブラッドとしての力ですから、そう容易く看破されるものではないはずですが」


 テオディジアの質問にエウフェミアが答える。

 外部からはここに何もないように見えているはずとのことだった。

 だが、騎馬の軍に迷いなく、結界の近くまでやってきて、止まった。

 総勢十名。男女比は半々。年齢は様々だが、少なくとも知千佳よりは上のようだ。

 全員が軍服を着ていて、乗っている馬は装甲に包まれていた。

 そして、先頭にいる大柄な男と知千佳の目が合った。やはり結界は通用していない。


「あの……」

「我々はマニー王国第二王子、ダリアン様率いる無敵軍団である! 貴様等、半魔どもを殲滅するためにやってきた!」

「無敵軍団って小学生かよ!」


 朗々と大声が響き渡り、知千佳は反射的に言い返していた。

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