【安倍政権を振り返る】米国の言いなりにならず、同盟の基盤強固に ジョン・ニルソン=ライト氏
海外で起きるさまざまな事象に受け身で、米政府におとなしく従うことが大半だった日本の過去の首相と、安倍晋三首相の外交政策は大きく異なっていた。
在日米軍の駐留経費の負担増などを求めるトランプ米政権の圧力を緩和しつつ、日米同盟関係の基盤を強固にした。「自由で開かれたインド太平洋」構想を推進し、米国とともに地域の連携強化を進めたのも功績の一つだ。
トランプ大統領との協力関係を築いた安倍首相の努力は立派なものだ。
例えば、2016年にトランプ氏が大統領選に当選した直後、外国の首脳としていち早くトランプ氏に面会した素早い行動は正しかった。会談は、両首脳間の親密な関係を発展させるための基礎を築いた。
安全保障政策でも、国家安全保障会議(NSC)創設や国家機密の漏(ろう)洩(えい)を厳罰に処す特定秘密保護法の成立など、重要分野で成果を上げた。
河野太郎防衛相が英語圏5カ国の機密情報共有枠組み「ファイブアイズ」の参加に前向な姿勢を示したのは、安倍首相の「積極的な平和の追求」というアプローチが日本の外交政策で通常の状態になっていることの表れだ。
安倍首相は欧州でも非常に活発な外交に取り組んできた。19年6月に大阪市で開催した主要20カ国・地域首脳会議(G20サミット)を前に同年4月、フランスやイタリア、スロバキアなどを訪れた。その欧州歴訪で安倍首相は、中国による欧州への投資の増大や、特定の欧州諸国による経済的な中国依存への警告を目的の一つにしていた。これは賢明だったと思う。
また、トランプ氏は環境問題や多国間の貿易協定に消極的だったが、安倍首相は欧州諸国と自由貿易の推進で一致し、気候変動や海洋プラスチックごみなど地球規模の課題で緊密な協力を確認した。
安倍首相の後継者は、英仏独などの欧州諸国との協力関係を継続して発展させ、政治や安全保障面での協力を促進すべきだ。米欧間の緊張を最小限に抑える方法を見つけることは非常に難しく、日本の指導者はこの問題に容易に対処できないのも事実だ。
しかし、日欧関係を強化することは、トランプ政権が世界的な責任から後退したことで生じた「リーダーシップの空白」を埋める重要な方法となる。(聞き手 板東和正)
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【プロフィル】
ジョン・ニルソン=ライト氏 1965年、ストックホルム生まれ。京都大客員研究員などを経て、96年に英ケンブリッジ大の上級講師に就任。英王立国際問題研究所(通称チャタムハウス)の北東アジア担当上級研究員なども兼任し、日本の政治や外交政策などの専門家として活躍している。55歳。