西表島のジャングルでは日夜、食うか食われるかの激しい競争が繰り広げられている。武器を持たない虫たちに与えられた生存の手段はただ一つ。周囲にある葉や枝にそっくりの形になり、天敵の目を騙すことだ。
最近、この森に奇妙な「新種」があらわれた。一見したところ、太さ1センチ程度の枯れ枝である。昆虫に詳しい人なら、ナナフシだと思うだろう。確かに中央の「枝」から、左右に3本ずつの「足」が出ているところはナナフシと変わらない。違うのは、右前足を引っ張ると、口に相当する部分から25口径の銃弾が発射されるということだ。
付近の住民によれば、この奇妙な「虫」が出現したのは、半年ほど前、パンチパーマにサングラスの男性数人が森に足を踏み入れてからだ。彼らはそれ以降も、警察の目を避けて夕暮れ時や早朝に森を訪れ、「虫」を運び込んだり持ち去ったりしているという。
昨年1年間に日本国内で押収された拳銃は1万5628丁。中国、東南アジアとの人的交流の活発化を背景に拳銃の密輸入は急ピッチで拡大していると言われるが、押収量は前年比2%増加にとどまった。拳銃を隠す手段が年々巧妙になっていることが、摘発を難しくしている。
西表島のナナフシ型改造拳銃はその典型的なケース。沖縄県警では何度も捜査官をジャングルの中に派遣し、徹底的な捜索を行ったが、周囲の環境に完全に溶け込んだ改造拳銃を発見するのは至難の業だ。
先月10日には、成田空港の航空貨物ターミナルに、ウイスキーのガラスびんに入った拳銃50丁が到着した。通関書類によれば「置物」だが、外観から判断して、殺傷能力を具えている可能性が高い。輸入業者が広域暴力団の設立したペーパーカンパニーであることも判明した。
しかし、東京税関は押収と輸入業者の検挙を断念した。びんを割って試験を行えば、仮に弾丸発射能力がないことが確認された場合、原状が回復できないためだ。今後、びんが割られた時点で試験を行うことができるが、暴力団員が拳銃をびんに入れたままピンセットや針金を用いて弾丸を発射する技術を習得している場合、摘発は事実上不可能だという。
ワープロ、直腸、仏壇、骨壺、イカ徳利、タイムカプセル、しゃちほこ……。これまでに実際に使われた拳銃の隠し場所だ。全国の警察は拳銃の摘発状況に関する情報を交換している。いったん警察に見破られた隠し場所は、ほかの暴力団にも使えない。このため暴力団は、さらに巧妙で、深く、遠い隠し場所を探し求めることになる。
早稲田大学古代エジプト調査室には、ミイラ発見に威力を発揮したCTスキャン装置を貸して欲しいとの要請が、関西地方の暴力団から相次いで寄せられている。CTスキャン技術を用いれば、地表から発射され、埋蔵物に反射された超音波を分析することにより、地下30メートルに埋められた拳銃でも位置を正確に把握することができるという。関西各府県の警察当局では、暴力団がハイテク技術を拳銃隠しに利用しようとしているとみて警戒を強めているが、埋めた場所が深すぎて行方不明になってしまった拳銃を探し出すのが目的、との情報もある。