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即死チートが最強すぎて、異世界のやつらがまるで相手にならないんですが。 作者:藤孝剛志

第3章 ACT2

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14話 自分だけ助かりたい一心で発現したクラスって感じよねー

 賢者候補たちが達成すべき偉業として選んだ魔神討伐。

 これは消極的理由で選択されたものだった。

 帝国の侵略を阻止せよと言われても何をすればいいのかが曖昧だ。国家を相手にどう立ち回ればいいのかもわからないし、戦争に関わるとなれば人を殺すことは避けられない。いくら好戦的な心理になっているといっても、それは躊躇われたのだ。

 対して、魔神討伐はわかりやすかった。この王都の地下、最下層に魔神はいるらしいのだ。そこに行って倒せばいいだけのことであり、やるべきことがはっきりしていて迷う点がない。それに、道中にあらわれるのは魔神が生み出した魔物だけらしいのだ。敵が人でないのなら遠慮をする必要はない。最大限の力を発揮できるだろう。

 リーダー会議の結果、今後の行動方針が決められて発表された。各グループに情報収集や必要な物資の確保などの作業が割り当てられ、まずは準備をすることになったのだ。

 そして、謁見の翌日。

 まずは1から5のグループで偵察を行うことになった。

 そうなると夜霧と知千佳も待機組ということになるのだが、まずは実力を測る必要があるということで、今回は魔界偵察作戦に参加することになっていた。

 知千佳がグループ1、夜霧がグループ2という編成だ。

 魔界内部の環境は様々だが、入り口近辺は大勢で行動できるほどは広くない。そのため、魔界を探索し、魔物を排除する探索者エクスプローラーと呼ばれる者たちは多くても6名程度のグループで行動しており、賢者候補たちもそれに倣うことになっていた。


  *****


 王城の地下にある魔界への入り口は、厳重に管理されていた。

 出入り口は王都の各所にあり、魔界への出入りそのものは制限されていないのだが、ここは王城に直接繋がっているからだ。

 そのため、ぞろぞろと入って行くわけにもいかず、グループごとに順番に入ることになっていた。

 その入り口までは、いくつかの部屋で区切られている。何かあった場合、王城に直接影響が及ばないようにしているのだ。

 まずはグループ1から魔界に入る。集合場所は、入り口直前の部屋となっていて、知千佳は最後にやってきた。


「異世界感ゼロの格好だな!」


 グループ1の面々を見た知千佳は、開口一番そう言った。

 賢者候補を統括する立場であり、このグループのリーダーでもある秋野蒼空は、いかにもアイドルといったステージ衣装のような服を着ていたのだ。


「これはライブで着ていた服とほぼ同じものですね」


 まさに彼女のために誂えたものなのだろう。一般人ではとても着こなせない派手な衣装が実に馴染んでいた。


「そんなのどうやって用意したの……で、キャロルのそれは?」


 キャロル・S・レーンは、赤く派手な忍者装束を着込んでいた。額当てや、忍者刀など装備をしているので、蒼空よりは戦えそうだが防御力があるとはとても思えない。


「ニンジャですから!」

「しのべよ! 闇に溶けこめよ!」

「ふふっ! ありきたりなツッコミね。私がこれまでに何度そう言われたと思ってるんですか?」

「そう思うなら改善してよ! ……で、もうつっこまないけど、二宮さんのそれは?」


 二宮諒子は羽織袴に二本差しといった格好だった。事前にクラスはサムライだと聞いていたが、その通りの格好なのだろう。男装ではあるがとても似合っている。


「すみません。私も、こんなふざけた格好をしてはしゃいでいると思われるのは心外なのですが……衣装補正というものがあるのですよ」


 要はクラスごとに適した装備というものがあるらしく、適正のある装備をすることにより、ステータスやスキルが向上するとのことだった。


「あー、ふざけてるって意味だと私が一番そう思われるかな……」

「アイドルとどっこいかな、って気はするけどね」


 申し訳なさそうに言うのは大谷柚衣だった。彼女はチアガールの格好をしていて、両手にはポンポンまで持っている。

 この4名が現在のグループ1のメンバーであり、今回は知千佳を加えた5名の構成となっていた。


「いや、でもみんな、防御力が紙だよね? 魔物ってのがどんなのか知らないけど、噛まれたりしたら、そのまま穴開いちゃうよね?」


 とてもこれから、魔物の巣窟に挑むような格好とは思えなかった。


「これでも防御力はあるんですよ。まあ、攻撃を食らうことなどほぼないとは思いますけどね」


 アイドルの格好をした蒼空はまるで強そうには見えないのだが、戦闘に関して自信があるようだった。


「知千佳は気合い入ってるよね! それなに? アメコミ? SF?」

「私もしたくてこんな格好してるんじゃないんだけどね……」


 キャロルが興味津々な様子で聞いてきた。

 知千佳の全身は、レオタードのようなぴったりと張り付く服に覆われているのだ。それは黒い、ハニカム構造の材質でできていて、指先までを隙間なくカバーしている。その上に、太腿あたりまである黒いコートを身に付けていた。

 これらは、巨大ロボットの侵略者アグレッサーから入手した物質でできている。形状を自由に設定することができるので、もこもこが防具としてデザインしたのだ。


『本当なら、顔もカバーしたかったのだがな。まあ、髪には一部編み込んであるので、頭部への攻撃もある程度は対応可能だ』

「これで顔までカバーしたら、変質者だと思うよ……」


 自信作なのか、もこもこはふんぞり返っていた。


「なるほど。それがあなたのクラス。利己的な鍛冶屋エゴイスティック・ブラックスミスの力ですか」

「ははは……」


 蒼空が感心しているが、知千佳は力なく笑ってごまかした。

 知千佳はクラスを、利己的な鍛冶屋エゴイスティック・ブラックスミスだと説明したのだ。武器や防具を作り出すことができるがそれは自分専用で、他人に与えることはできない。そのような設定だった。

 実際には、他人に貸すことは可能なのだが、もこもこが側にいないと細かな調整ができない。面倒なので、知千佳専用と言い張ることにしたのだ。


「それはそうと、私のは自分で作れますけど、アイドルだとかニンジャだとかこんなのはどうやって用意したんですか?」

「これはグループ3の、春藤はるふじさんが作ったんです。彼女のクラスは裁縫士ドレスメーカーですから」


 蒼空の説明によれば、裁縫士は材料となる布さえあれば自在に服を作り出すことができるクラスとのことだ。それもただ作るだけではなく、様々な効果を服に付与することができるらしい。クリエイト系クラスとしてはかなり有用だとのことだった。


「なるほどね。春藤さんは裁縫部でそういうの得意だったし、ってなに? そういう関連があるとしたら私のクラスって……」

「そうねー。自分だけ助かりたい一心で発現したクラスって感じよねー」

「むっちゃイメージ悪いな!」


 キャロルが言うように、クラスの皆にはそのように思われているのかもしれなかった。


「まあいいや。私で最後でしょ。さっそく行くわけ?」

「いえ。今回は最初ですから案内役の方が同行するとのことで――こられたようですね」


 蒼空が部屋の入り口を見る。扉が開き、白銀の鎧を纏った男が入ってきた。


「お久しぶりですね。壇ノ浦さん」

「え? リックさん?」


 やってきたのは、峡谷の塔で行動を共にしたことのあるリック。つまり、現在の剣聖だった。


  *****


 グループ2は、鳳春人、矢崎卓、深井聖一、牛尾真也の4名で、そこに夜霧が一時的に参加することになった。

 鳳春人のクラスはコンサルタントで、情報解析を得意としている。その説明だけでは戦闘をこなせるのかは不明だが、グループ2に所属している以上、戦うことはできるのだろう。

 矢崎卓は将軍ジェネラルで戦闘時には、各種の戦術を使いこなすとのことだった。将軍だからなのか、金属製の無骨な鎧を身につけている。ちなみに他の者たちは学校の制服のままだ。

 深井聖一は死神で、即死魔法が使えるらしい。その能力のためなのか、もともと人付き合いが悪かったからなのか、クラスメイトからは距離を置かれているようだ。もっとも、夜霧も人付き合いの悪さでは人のことは言えなかった。

 牛尾真也はエロゲマスターだ。そのクラス名から能力をすぐに連想はできないのだが、触れた物を停止することができる。人に使うこともでき、使われた側は時間が飛んだように感じるとのことだった。王に挑発的な態度を取っていたことは記憶に新しいが、その際に切られた指は治療済みだ。

 そしてもう一人。案内役として、衛兵のデイヴィッドが同行していた。王都の入り口で揉めて、知千佳と戦った副隊長だ。

 デイヴィッドも魔界に入るのは初めてとのことだったが、内部環境について知識はあるらしい。そんな頼りない人物がなぜ案内役なのかといえば、彼が王族に連なる人物だからだ。


「王族には封印の力があるんだよ。これこそが王の血族がこの国を治め続けることのできる最大の理由なのさ」


 王族にはギフトを弱体化する力があり、その力は魔界にいる魔物にも通用するとのことだった。

 もちろん力の大小や、有効範囲には個人差があり、最も強力な力を有している者が王になるということらしい。


「なので、大船に乗ったつもりでいなよ。低階層の魔物なら、僕の力で完封できるだろうさ」

「いえ、それはそれで困るのですが。僕たちの実力を測る目的もありますので。力を抑えることは可能ですか?」

「それはもちろん。そうなると、魔物がいるところに案内した方がいいのかな」


 自慢げなデイヴィッドに、春人がやんわりと聞く。彼がこのグループのリーダーだった。男子側の代表でもある。

 グループ2は魔界の第一層を歩いていた。ここは岩肌が剥き出しになっている洞窟で、幅、高さともに3メートルほどの通路になっている。それが複雑に枝分かれしているのだ。案内なしではすぐに迷ってしまうことだろう。

 魔界は明るかった。洞窟の上部に灯りが灯っているのだ。そこかしこに金属製の棒が突き刺さっていて、その先端がぼんやりと光っていた。


「あれは周囲に漂う微量なソウルを吸収して発光してるんだ。攻略済みのエリアに、トーチを設置していくのも探索者の仕事の一つさ」


 つまり、灯りがあるところは比較的安全で、攻略済みのエリアは地図も作成されているらしい。

 デイヴィッドの案内に従い黙々と歩いて行く。

 しばらく進むと、唐突に何もない空間が広がっていた。先が見えないほどの広大な空間だ。


「事前に調べているとは思うけど説明しておこうか。この魔界はすり鉢状の構造になっている。つまり今僕らが歩いているのは、魔界のほんの端の部分なのさ」


 どの層も幅は10キロほどの円環状だと予測されていた。一層は直径140キロ、二層は120キロと少しずつ小さくなっていき、最後の七層目は直径20キロほどの円状になるのだろう。

 突然の光景に呆気にとられていた夜霧たちだが、すぐに気を取り直して歩き出した。

 まっすぐに行くと、地面がなくなって崖になっている。デイヴィッドの説明どおりなら、向かい側にも同じような場所があるはずだが、それは120キロのかなただ。見えるはずもなかった。

 崖を見下ろせばそこにはただ闇が広がっている。ほとんど垂直なので、なんの装備もなしにここを下りるのは難しいだろう。


「神曲に登場する地獄がこんな構造だったね。もっとも、あちらは九層からなるらしいけど」


 春人が言うのはイタリアの詩人、ダンテの著作のことだろう。夜霧は、神曲の地獄編をモチーフにしたゲームを思い出した。


「ねえ。すり鉢状ってことはさ、ここを斜めに飛んでいけば中心部に辿り着けるってこと?」

「そう言われているね。実際それをやった命知らずの探索者も結構な数がいるんだけど、戻ってきたものはいない。なので、基本的には次の階層に繋がる入り口を探して下の階層に移動することになる」

「下の階層までの高さは?」

「1キロほどだと言われているね」

「そんなの……辿り着けるわけねーじゃねーか!」


 夜霧がデイヴィッドに確認していると、牛尾ががなりたてた。


「移動だけで馬鹿みたいに時間がかかるじゃねーかよ! こんなのどうやって魔神のとこまでいけってんだ?」

「いけるわけがないだろう? 僕たちも三層までしか到達していないんだから」

「は?」


 牛尾がぽかんとした顔になる。かなり簡単に考えていたようだった。


「牛尾くん。そんなことは魔界の構造を調べた時にわかってたよ。君、話を聞いてなかっただろ」


 春人が呆れたように言う。


「もっとも僕たちは魔界の攻略よりも防衛に重きをおいているからね。基本的には二層ぐらいまでの魔物を間引き続けるので十分だし、魔物退治で収入を得ている者たちもそれで十分に稼げるのさ。だから三層より下に行くメリットがそれほどないんだよ」


 帝国侵略の阻止よりは簡単だと思われた魔神討伐だが、前途は多難なようだった。

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