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即死チートが最強すぎて、異世界のやつらがまるで相手にならないんですが。 作者:藤孝剛志

第3章 ACT2

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13話 そんなに死にたいならお前一人で死ね

「でも、そのハッピーなタイムのサイドディッシュはどうしてたの?」

「すぐそばにリアルなのがいるわけだから、想像するのは容易いし、特に困ることはなかったかな」

「それなんにも誤魔化せてないからな!」


 キャロルと夜霧の会話に、必死な様子の知千佳が割って入った。


「デリカシー! デリカシーってもんを考えて! なんで高遠くんはそんなあけっぴろげなの!? キャロルも意気投合しないでくれるかな!」

「ま、そんな話はおいとくとして、今の状況について聞かせてもらっていいかな。こっちの事情を知ってるってことなら、話も楽だし」


 夜霧の事情を伏せながら話を聞こうとすると、回りくどい部分がある。その点、この二人になら遠慮無く聞けるだろう。


「おおーい! なに!? この私だけあたふたしてる馬鹿みたいな状況!」

「ごめんねー。知千佳はリアクションが面白いからつい」


 キャロルが笑いながら言う。それ以上反応して喜ばせるのも馬鹿らしくなったのか、知千佳はふくれっ面で口を閉ざした。


「で、聞きたいことってなに?」


 そして、キャロルはあっさりと話を戻した。


「現状の体制についてかな。グループ分けだとか、どんな風にこれまでやってきたのかとか」

「あ、そうそう。そのあたりについて、聞こうとしてたとこだったんだけど」


 知千佳も思い出したように言った。そう長くふて腐れていられる性格でもないらしい。


「どのあたりまで聞いたの?」

「エロゲ三貴族が問題だった、ってあたりぐらい?」

「そうねー。私たちが得たのはとても強力な力で、確かにこの世界で生き抜くためには便利なんだけど、でも、その能力の矛先が自分たちに向いたらどうする? ってのはすぐに誰もが思ったことだったの。で、その槍玉に挙げられたのが、エロゲ三貴族なわけよ。一番問題視されたのは、棟方くんの透明化だったのね」

「あれ? 触手はまあいいとして、時間停止の方が問題なんじゃないの?」


 知千佳がそう言うのは、もっともだろうと夜霧も思った。時間が止められるというのは実に強力な能力だ。


「牛尾くんの時間停止はね。触れた物の時間を止める、その場に固定するってやつなのよ。確かに驚異的な力ではあるんだけど、対処のしようはあるの」

「例えば私のクラスはサムライで、キャロルはニンジャなんですが、戦闘系のクラスですと、牛尾くんより素早く動けますので発動前に殺す事が可能なんです」


 どうにか冷静さを取り戻したのか、諒子も会話に入ってきた。


「で、棟方くんの透明能力ね。これがね、本人を含む任意の物体を透明化できる上に、透視能力まであったわけ。問題になったのはこの透視。いつでもどこでもなんでも透かして見られて、発動してるかどうかも傍目にはわからない……となると」

「ああ……確かに、そんなのと同じ場所にいるのは嫌だ、ってなるよね」


 知千佳がうなずいている。この場合彼女らが気にしているのはプライベートを覗き見されることだろう。

 夜霧は有用な能力なのだから、多少のことには目をつぶればいいのにとも思ったが、それを口にはしなかった。


「なあ。その能力って、自己申告なの?」


 夜霧は、そんな力を持っていたとして、正直に全て公開するものかと思ったのだ。


「はい。棟方くんは当初、過少申告をしていました。武器を見えなくするだけの能力だと偽っていたのです」

「ま、それは鳳くんが暴いちゃったんだけどね」


 諒子が言い、キャロルが付け足した。

 鳳春人という男子がいて、クラスはコンサルタント。

 このクラスは情報分析系のスキルを多く持っていて、他者のスキルを解析することができるとのことだった。


「まずいな」

「まずいね」


 夜霧と知千佳は顔を見合わせた。


「あ、やっぱり、ギフトに目覚めたってのは嘘だった?」

「まあね。偽装してはいるんだけど、これってばれそう?」

「どうかなぁ。その偽装のランクは?」

「ランクって?」

「ああ、ギフトなしだったら、システムのことは知らないんだよね。そんな難しいもんでもないんだけど、スキルだとかアイテムだとか、システムが判定することには全てランクが決まってて、ランクの差って絶対なのよ。例えばランク1の偽装なら、ランク2の鑑定だと看破できる。逆なら無理って感じね」

「ランクが同じ場合は?」

「同じ場合はステータスによるかな。この場合の成功判定は複雑で、ランダム性もでてくるね」


 夜霧は指に付けている指輪を見つめた。装飾のないシンプルな指輪で、見ただけではランクはわかりそうにない。


「もこもこさん。ランクってわかる?」

『うむ。その指輪なら6だな』


 隣にいるもこもこに夜霧は話しかけた。


「6だって」

「今、誰と話してたの?」


 もこもこは知千佳の守護霊で、夜霧にも見えるのだが、普通はその姿を見ることはできない。キャロルが疑問に思うのも当然だろう。


「壇ノ浦さんの背後霊」

「オー! それは凄いね、どこどこー?」

「あ、普通に信じるんだ」


 キョロキョロとあたりを見回すキャロルに、知千佳が言った。


「そりゃねー。異世界があって、魔法があって、高遠くんみたいなのがいて、なんで幽霊だけ信じないの?」

「だよねー。背後霊なんてレア度低いよね。普通コモンって感じだよね」

『なぜ、わざわざ我を見て言うのだ』

「ま、それはともかくとして。6だったら全然大丈夫だよ。クラスの中で最上位でも4だから」


 キャロルが言うにはランクは最大で10とのことだ。

 普通の人間では3が限界らしい。4以上は人外の領域で、7以上で神話級の能力ということだった。


「セレスティーナさん、って何者なんだろ……」


 知千佳がしみじみと言った。

 この指輪を作ったのはホテルでコンシェルジュをやっているセレスティーナだが、この世界を知るにつれてその底知れ無さがわかってくる。


「ちなみにランク4スキルを持つ一人が、深井くんだよ。即死魔法ランク4。4以上の耐性系スキルを持ってる人はうちのクラスにはいないから、危険度でいえば棟方くんの透視よりも深刻な問題だったね」

「即死って……高遠くんのみたいな?」


 知千佳の顔色が変わる。夜霧の力を目の当たりにしてきたのだから、同じ能力を持つ存在に驚くのは当たり前だろう。


「ああ、比較対象にもなんないよ。確実に成功するわけじゃないし、目の前の相手にしか使えないし、即死耐性スキルなんてのもあるし、身代わり系アイテムで対処もできて、蘇生も可能なんだから。とはいえ、私らにしたら脅威であることは変わりないけどさ」


 そうは言うが、キャロルはそれほど深井を恐れていないようだった。


「それで、私たちは困りました。初期能力に差がありすぎて、大半の者は有利なギフトを持つ者の言いなりになるしかない。すると、秋野さんが提案したんです。クラスメイトに対してギフトを使うことを禁止してはどうかと」

「確かにそれができるならいいけど、ただ禁止したって使う奴はいるだろ?」


 諒子の言うことはもっともだったが、透視のように使用実態を把握できないスキルもある。使うなと言ったところで、大した強制力はないだろう。


「ま、普通ならそうなんだけど、秋野さんのクラス、偶像アイドルには願いを叶えるっていうとんでもない力があったのよね」

「じゃあ、クラスメイト同士でギフトを使えないようにしろって願ったらそれがかなうってこと?」

「ちょっと違うかな。『誓願』ってスキルで、誓いを立ててそれを守ることで、力を得られるっていう仕組みなんだけど」

「……誓いを破れば死ぬ、か極めて不利な状態になる?」

「ビンゴ! そう、この場合は願いが叶うって部分はどうでもよくて、この誓いを制約として利用しようってことだったの。誓いを破った場合の代償は願いの規模に応じてるから、クラスで危険視されてる奴らに、クラスメイトにギフトを使わないって誓いを立てさせて、所持スキルのランクアップをさせたわけ。スキルのランクアップって代償で死んじゃうぐらいの願いなわけなのよ」


 だが、それは秋野蒼空がクラスを牛耳るということに他ならない。

 当初の問題は、有利なギフトを持つ者の専横の阻止だったので、これでは解決策になっていないのだが、蒼空がリーダになることを女子のほとんどが支持した。

 クラスをどうまとめるかを考えるこの時期、すでに女子の方が人数が多かったため、なし崩し的に決まってしまったのだ。


「えーと、秋野さんのことはわかったけど、だとすると、やっぱり私たちまずくない?」


 知千佳が言うのはもっともで、そもそもシステムのインストールに失敗している夜霧たちに、システムを介してのスキル適用はされないのだ。

 なので、その誓願を使われた時点で、ギフトを偽っていることがばれてしまう。


「なんだかめんどくさくなってきたな……」

「ひっ!」


 夜霧がぼそりと言うと、諒子があからさまに顔を引きつらせた。


「で、でしたら私が、秋野蒼空を始末してまいりますので!」

「短絡的だな! もうちょっと穏便にいこうよ!」


 諒子が日本刀を抜き放ち、知千佳は慌てて止めた。


「ま、ギフトの偽装が見破られてないなら大丈夫じゃない? 秋野さんも願いを無制限に叶えられるわけじゃなくて、人数に制限があるの。大して脅威を感じない相手に誓願は使わないと思うよ」

「ばれたらばれたでその時考えるか」


 そのあたりは楽観的に考える夜霧だった。


「そういやさ。高遠くんたちは、なんで私たちと合流したの? ここまで二人でこれるぐらいなら、クラスメイトと連まなくても余裕で生きていけるでしょ」

「賢者のシオンて人と話をしたいんだよ。ここに喚んだ張本人なんだから、帰る方法についてなにか知ってないかと思って」

「帰る?」


 キャロルと諒子が呆気に取られた顔になった。その可能性は考えていなかったとでも言いたげだ。


「え……ああ、そうだよね。普通は帰ろうって、帰りたいって思うよね……」

「……私も、もう帰れないという前提で考えていました。賢者になるしか道はないのだと……」

『ふむ。洗脳というほどでもないが、思考誘導のようなものが行われておるようだな』


 システムのインストールで、好戦的になり、暴力への忌避感が減少すると、もこもこが以前に言っていた。そのようなことができるのなら、同様の手口で帰還から意識をそらすのも可能なのかもしれない。


「ねえ、高遠くん。みんなにこのことを教えて、一緒に帰る方法を探せば……」

「いや、それはやめとこう。とりあえずは偉業を達成する道しかないのに、そんなことを知ったところで混乱するだけだろ」


 知千佳の提案を、夜霧は否定した。

 シオンが提示した期限は一ヶ月だ。今さら、帰還方法の探索に力を割いている場合ではないだろう。


「さて。まだ話はあるかもしれないけども、また今度にしない? そろそろリーダー会議が終わるかなって気がするし」


 キャロルが提案する。

 会議が終われば、今後の方針について発表があるだろうし、まずはそれを知る必要があるだろう。


「わかったよ。一応、俺たちは協力関係ってことでいいんだよな?」


 夜霧は念の為に聞いた。


「そうだね。私はそのつもりだけど」

「なんなりとお申し付け下さい!」


 少々面倒な気もする夜霧だったが、あらかじめ事情をわかっている相手なら、気兼ねせずに済む。

 夜霧たちは、一旦屋敷に戻ることにした。


  *****


 夜霧たちが去って行ったのを確認して、諒子は安堵した。

 まだ冷や汗が止まらないが、とにかくこの場はやり過ごすことができたし、明確に許しの言葉も得ることができた。まずは及第点というところだろう。


「けどさ、そこまで無敵の存在って感じもしないよね」

「な、何を言ってるんですか!」


 平然とそう言うキャロルを諒子は信じられなかった。


「だってそうでしょ? 異世界転移に巻き込まれちゃってるじゃない。それに、研究所の地下でずっと暮らしてたんでしょ?」

「それは、そうですが……」

「つまり、殺意がなければ、高遠くんの意図しない形で強制的に移動させることや、隔離は可能ってことだよね。だったら無力化もできるんじゃないの?」

「いいですか? 余計なことは考えないでくださいよ」

「それに、知千佳にご執心なようだし、メンタルはただの高校生って感じ? だとしたら人質作戦なんて有効――」

「黙れよ!」


 途端に諒子は激昂し、キャロルの胸ぐらを掴んだ。


「いいか? それは最悪の手段だ。それをやった奴らがどうなったと思っている!」


 わかっていない。キャロルはまったくわかっていないのだ。

 高遠夜霧がどれほど無害に見えようと、一瞬たりとも油断することなどできないし、してはならなかった。

 高遠夜霧に対しては、一切何もしてはいけない。彼に対して何か対応できるなどと考えることすらが、悪なのだ。

 キャロルたち『機関』も夜霧の脅威を知ってはいるはずだが、その思想は東洋の組織である『研究所』とは異なるのだろう。

『機関』は、どんな不可解な現象であっても何か原因があり、今はわからなくともいずれは人の手で解明でき、対応が可能だと考えている節がある。

 だが『研究所』はそうは考えない。高遠夜霧を禍神まがつかみの類と捉えている。それは人の手にあまるものであり、その災いはただ受け入れるしかなく、鎮まるのをただ伏して願うしかない存在なのだ。


「人質だ? 馬鹿かお前は! 逆なんだよ! 私たちは今後! 命に代えても壇ノ浦知千佳を守らなくちゃならなくなったんだよ!」

「えー? それはちょっと言いすぎじゃ……」


 キャロルが軽くうけながそうとする。諒子はキャロルを掴む手に力を込めて持ち上げた。


「ふざけんな! さっきから見てればへらへらへらへらしやがって! お前だけの問題じゃねーんだよ! 私を、他の人間を! 世界を巻き込むな! そんなに死にたいならお前一人で死ね! 今すぐ腹をかっさばけ! 介錯してやるからよ!」

「……その、ごめん」


 諒子のあまりの剣幕を恐れたのか、滅多に謝ることのないキャロルが素直に謝った。


  *****


 リーダー会議の結果、賢者候補たちは王都の地下にある魔界に挑むことになった。

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