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即死チートが最強すぎて、異世界のやつらがまるで相手にならないんですが。 作者:藤孝剛志

第3章 ACT1

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6話 悪い人じゃないかもしれないけど、なんだか鬱陶しい感じの人だった

「そりゃ君の実力を認めないということは、僕自身の努力を自ら踏みにじることに他ならないだろう? ここであれこれと言い訳をするなんてことこそ、僕のプライドが許さないのさ!」

「うわぁ……悪い人じゃないかもしれないけど、なんだか鬱陶しい感じの人だった……」


 三人は並んで王都の町並みを歩いていた。

 ゴロゴロと大きなトランクケースを引きずる知千佳を中心に、右側に夜霧、左側にデイヴィッドという並びだ。

 デイヴィッドがあれこれと話しかけてきて、知千佳が相づちを打つ。夜霧はといえばたいして興味が無いのか素知らぬ風だった。


「何か言ったかい?」

「いえ、がんばって修業に励んでくださいね」


 適当に答え、知千佳は前方を見た。歴史を感じさせる、趣のある町並みだ。

 石造りの建物が多いが、城壁のように魔法はかかっていないらしい。大魔導師イグレイシアが主に活動していたのは千年前ということなので、その頃にこの街は作られたはずだ。もっとも老朽化すれば修復されているはずなので、千年前の建物がそのまま残っているわけでもないだろう。

 そして、正面にはこの街でもっとも大きく、もっとも高い建物がそびえ立っていた。

 王城だ。

 そこが知千佳たちが向かう先であり、クラスメイトたちがいる場所だった。彼らは今日、王に謁見するというのだ。

 王城は王都の中心部にあり、王都のどこからでもその偉容を目にすることができる。

 ならば案内の必要などなさそうだが、そうもいかなかった。都市計画など考えもしていないのか、街は複雑に入り組んでいたのだ。


「さっきから気になってたんですけど、妙に武装してる人多くないですか?」


 知千佳には、通りを歩く人々が買い物を楽しむ一般庶民とはとても思えなかった。

 鎧を着込み、腰に剣を差し、背に槍や弓を背負っているといった戦士風情の者たちが数多く歩いている。

 街を警備している兵士にしては多すぎるし、だいいち装備が統一されていない。


探索者エクスプローラーたちだね。魔界に挑む戦士たちだよ。この王都はもともとそのために作られたものだ」

「はい?」


 魔界。唐突なその言葉に現実味を感じられず知千佳は戸惑った。


「魔界って?」


 戸惑う知千佳をよそに、夜霧が聞く。


「魔界はこの王都の地下にある魔神の領域だよ。ま、とにかく地下には魔神が封じられていて、眷属どもが出てこようとしている。魔界を探索し、眷属どもを押しとどめるのが探索者なのさ」

「魔神って峡谷だけじゃないの!?  って、何匹いるっての!」


 つい先日、夜霧が魔神を殺してしまったばかりだが、知千佳はまさか他にもいるとは思いもしていなかった。


「峡谷? それは知らないけど、魔神や眷属についてなら聖王の騎士である君たちの方が詳しいのじゃないのかい?」


 再び怪しいと思ったのか、デイヴィッドが疑いの眼で見つめてきた。


「眷属と闘うとは聞いてるけどね。どこに何匹いるとかまでは知らないな」


 すると夜霧がしれっと答えた。こんな場面でまったく動じないのが夜霧の強みだ。


「聖王の騎士でもそういうものなのか。ま、魔神は内なる脅威とはされているけど、対峙する当事者以外に知られることはあまりないからね。むしろ、魔神がいることが公になっているこの街の方が珍しいぐらいさ」

「ここまで来たらあとはまっすぐ行くだけだろ? 案内はここまででいいよ」


 夜霧が話をごまかした。これ以上話すとボロが出ると思ったのだろう。


「そうかい。まあ、王城まで僕がついていったところであまり意味はないからね」


 デイヴィッドはそう言って、あっさりと去って行った。


「せっかく案内してくれてたのに、ちょっと冷たくない?」

「ずっと一緒だと、今後のことについて話しづらいだろ」

「今後って?」


 よくわからず知千佳は首をかしげた。


「あのさ。俺たちはこれから、クラスの奴らに会いに行くわけだよね」


 呆れたように夜霧が言う。


「あ、そうだよね。ドラゴンからどうやって逃げたのかとか、ここまでどうやって来たかとか聞かれるよね。言い訳を考えとかないと!」

「それもあるけどさ。まず考えないといけないのは、壇ノ浦さんがあいつらを許すかどうかじゃないの?」

「あ!」


 知千佳はそう言われて始めて、なんだか腹が立ってきた。


  *****


 王城がよく見えると評判の、高級ホテルの一室。知千佳たちは、応接コーナーのソファに向かい合って座っていた。

 大きな荷物を抱えたまま移動するのも面倒だし、夜霧が今後について話があると言うからだ。


「言い訳とかはさ、クラスの奴らを皆殺しにするなら考えるだけ無駄だろ?」


 ソファに座ってすぐに夜霧は淡々と言った。


「むっちゃ黒いな! それじゃサイコパスじゃん!」


 あまりの言い草に知千佳も少し引いてしまった。

 襲ってくる敵だけを殺す方針かと思っていたが、そうでもないらしい。


「俺たちは放っておいたら確実に死ぬような場所に置いていかれたんだ。復讐する資格があるとは思うよ。あいつらは殺そうとしたんだから、殺されたって文句はいえないだろ」

「いや、それはさ……クラスのみんなにむかつく点は多々あるんだけど、それでも殺すってのはさぁ。そこまで恨みに思ってるわけでも……」


 大多数が生き残るためには仕方がなかった。それですまされる問題ではない。

 だが、今こうして無事に生きているし、ここまでそれほど苦労したという感覚もなかった。復讐に値するような、煮えたぎるような怒りを知千佳は持ち合わせていなかったのだ。


「とにかく一旦そう決めておいてくれたらそれでいい。ぶれるのが一番困る。やっぱり殺そうとか、やめようとか、あれこれ悩んでるといざって時に動けなくなるし」

「高遠くんはどうなわけ? 怒ってないの?」

「俺はどうでもいいよ。もともと親しかったわけでもないから、裏切られたとも思ってない。ギフトを持ってないとかそんな条件がなかったとしても、誰かを生贄にしろってことなら俺が選ばれたんじゃないかな」

「まあ……それは……日頃の行いって大事だよね……」


 知千佳はしみじみと言った。


「で、そういう方針なら言い訳を考えるんでしょ」

「そうだな。まず、俺たちの能力をどう説明するか。ステータスは偽装できても実際にできない内容にするわけにもいかないしね」

『うむ。我の解析も進んでおる。なんとかいうコンシェルジュの指輪の設定を変更することは可能だな』


 二人はステータスを偽装するための指輪を持っている。それによりギフトを持っていないことをごまかしているのだ。


「高遠くんは、実際に特殊な力を持ってるからどうにでもなりそうだけど」

「なんでも殺せるって説明しても信じてもらえないだろうし、信じられたとしてもそれはそれで困るしな。けど対象を絞ればいいか」


 なので、夜霧のクラスは、害虫駆除人インセクトハンター。能力は虫殺しとすることになった。

 これならそれほどの脅威を人に与えはしないし、見せてみろと言われてもそこらの虫を殺してみせればそれで済む。


「で、私はどうするの? 特殊な力って言われても、鬱陶しい背後霊が憑いてるぐらいのもんだし」

『いつも思うのだが、先祖を敬う心を持ってほしいものだな!』

「霊能力者って設定はどう?」


 夜霧が提案する。これなら確かに嘘はついていないのだろう。


『うむ。我が他の霊をどつき回して消滅させて、除霊だと言い張るのは可能だが、その結果を人に伝える手段がかなり限定されるな』

「だよね。普通は見えないんだから」

『うむ。だが我によい考えがある! 準備には少々時間がかかるが、大船に乗ったつもりでおるがよい!』

「えぇー! ってもうそんなに時間ないんだけど?」


 王との謁見はもう始まっているのかもしれない。そうのんびりともしていられないだろう。


『うむ。あれだ。我はこうやってのほほんとしているようであっても、バックグラウンドではマルチタスクで複雑な計算をし続けておるわけだから、あともうちょっとでどうにかなりそうな気がする!』

「最悪は、変な動きをする剣士とかでいいんじゃないの?」


 夜霧が実に適当なことを言った。おそらく何も考えてはいない。


「それ、結局能力なしじゃん!」


 とりあえずはもこもこの考えとやらに期待はするも、不安しかない知千佳だった。

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