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即死チートが最強すぎて、異世界のやつらがまるで相手にならないんですが。 作者:藤孝剛志

第3章 ACT1

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5話 異世界の武術が原始的すぎて、高度に発達した壇ノ浦流が魔法のごとく思われているのですが。

「なんだよ、今の動き?」

「あれが剣聖のギフトってやつか? 勇者が使うっていう」

「いえ、私の目は誤魔化せませんよ。魔力を使用した形跡が一切ありません。つまり、あれは体術のみでなしえた動きなのです!」

「早すぎだろ! あんな風に人間が動けるのかよ!」

「あれでギフトを使ったらいったいどんな強さなんだよ……」

「いや、あれぐらいでないと聖王の騎士にはなれねーんだろ」

「てか、あの少年も聖王の騎士なんだから、同じぐらい強いってことだよな?」


 衛兵たちが口々に知千佳を褒め称えている。

 それを見るもこもこは、とても嬉しそうだった。


『うむうむ! この調子なら、この世界で壇ノ浦流を広めるというのもあるいは、という話だな!』

「いや……みんなあの人ほったらかしてるけど大丈夫なの?」


 知千佳と戦っていた男、副隊長のデイヴィッドがうずくまっている。夜霧は男として、多少同情してしまう点もあった。


『我は女故にどれほどかはわからぬが、地獄の苦痛だとは聞くな。まあ、ただ蹴っただけだからな。潰れはしとらんだろう。睾丸は固定されておらんから、潰すのは案外難しいものなのだ。が、潰せぬと思われるのも困るな! 壇ノ浦にはとにかく確実に潰すという技があるのだ!』

「なんだってそんなことにこだわってるんだよ」

『それはもう古今東西不実な輩はどこにでもおるものだ。下の粗相は下であがなってもらうしかなかろう? なんだったら、伝授してやってもよいぞ。なにかの役にたつこともあるやもしれんからな』

「遠慮しとくよ」


 そんなものを具体的に聞きたくはない。そう思っていると知千佳がやってきた。


「まあ、なんとか勝ったけど……あれでよかったのかな」

『これはあれだな「異世界の武術が原始的すぎて、高度に発達した壇ノ浦流が魔法のごとく思われているのですが。」という展開だな!』

「まわりくどいな!」

「で、特に問題はないみたいだね」


 夜霧はあたりの様子を観察した。

 最悪の場合、衛兵たちが全員で襲いかかってくる可能性を夜霧は考えていたのだが、今のところその危険性はなさそうだった。


「これで王都に入ってもいいんだよね?」


 やってきた隊長、トルクスに夜霧は聞いた。


「はい。というかですね、この怪しい車でなければ、特になんの問題もなかったのですが」


 王都に入るには特に検問などはないとのことだった。

 彼らは、怪しい車が王都の外に停まっていたため、確認しにきただけなのだ。


「やっぱり、この車で中に入らない方がいい?」

「そうですね。この車が不死機団のものだと知っている者がいた場合、また面倒なことになるかと」

「じゃあ、置いていくか。けどどうしたものかな」


 そこらに放置するわけにもいかないだろう。

 装甲車なので頑丈ではあるが、セキュリティ面では不安がある。時間さえかければ中に侵入することは可能なのだ。


「もこもこさん、呪いをかけるとかできる?」


 夜霧は聞いたみた。


『呪いか? できんことはないが、この地では、ドアを触ったら静電気が発生するぐらいが関の山だな』

「それ、わざわざ呪わなくても普通になるやつだよね!」

「あの、先程からどなたかと話しておられますか?」


 トルクスが首をかしげる。


「あー、なんていうんだろうな。精霊? みたいなのがいるんだけど」


 がっつり話こんでいたので今さら言い訳も難しい。夜霧は適当にごまかした。


『精霊などと一緒にするでないわ!』

「なるほど。聖王の騎士様ともなれば精霊を使役することも可能なのですね。ですが、そうなりますと少々問題が。王都内では、魔法や神秘的存在がうまく働かないようになっているのです」

「そうなの?」


 知千佳がもこもこに聞く。


『うむ。あの塔と同じような感じじゃな。我ほどになればこの程度でどうこうなりはせんが、弱体化は避けられんな』

「だったら大丈夫じゃない? もこもこさん、基本的に役に立ってないし、ちょっとやそっと弱っても」

『お主、もうちょっと先祖を敬ってもよいと思うのだが?』

「でしたら、我々の部隊でお預かりするのではどうでしょう?」


 知千佳がもこもこと言い合っていると、トルクスが提案してきた。


「いいの?」

「はい。便宜を図れとのことですし、ただ保管しておくだけのことですので」

「じゃあお願いするよ……って、ずっとほっておいてなんだけど、あの人かなりしんどそうなんだけど大丈夫?」


 夜霧は先ほどからずっと気になっていたデイヴィッドを見た。まだうずくまって苦しそうにしている。


「え? そこまで強く蹴ってないけど?」

「思いっきり蹴ってただろ」


 知千佳がごまかすように言い、夜霧は珍しくつっこんだ。


「あ、杖を持ってる人たちって魔法を使うんですよね? 怪我を治すようなことはできないんですか?」


 責任転嫁のためなのか、知千佳がしれっとそんなことを言った。


「ふむ。賢者候補ということは、異世界からやってこられたということで、魔法についてはよくお知りではないですか?」

「だね。普通は杖を使うぐらいしか知らないな」


 それも、魔法使いに襲われた際に少し聞いただけの知識だった。


「まず、魔法使いはどんな魔法でも使えるわけではありません。得手不得手があります。そして、治療に使えるような魔法を使える者はごく少数です」

「じゃあ、回復魔法みたいなのを使える人はいないんですか?」

「我々は軍ですので、衛生兵には治療魔法の使い手が配置されることにはなっているのですが……そう便利な代物でもないのですよ。まず、すでに発生している痛みまでは消すことができません。そして、治療の過程においてもかなりの苦痛が発生するのです。ですので、余程のことでもない限り治療魔法は使わないものなのですよ」

「麻酔みたいなものは?」

「麻酔を使ってしまうと、治療魔法を阻害するとのことですね」


 治療魔法は中々面倒な代物のようで、金的をくらったぐらいで使うものではないらしい。


「あ、でしたら横になってゆっくりしてるのが一番いいですよ。うちのお父さんもよくそうしてましたから」


 知千佳は、いいことを思い出したと言わんばかりだった。


「もこもこさん。それって」


 げんなりとした顔で夜霧は聞いた。


『うむ。壇ノ浦の名誉のために言っておくとだな。金的を警戒し防御するのは当然であり、型はそれを意識したものになっておるわけだが』


 知千佳の構えは敵に正対してはいなかった。これは急所を隠すためのものだろう。


『もちろん、警戒している相手に技を食らわせるための技法もあるにはあるのだが、最大の理由は、こやつの親父がドチャクソに娘に甘くてだな。修行とはいえ本気を出せぬ奴だったからなのだな。ほいほいと吸い込まれるように蹴られておったよ』


 そうなのだろうかと夜霧は考えた。

 いくら甘いとはいえ、実力差があるならそう簡単に食らうものではないだろう。

 であるなら、わざと食らっていたことになる。

 知千佳の父親が特殊な性癖の持ち主でないのなら、それは、知千佳に躊躇なく金的を攻撃していいと叩き込むためだ。

 それは男に対して十分に有効な手段であり、もしものことを考えてのことなのだろう。


 ――ま、それが甘いってことなのかな。


 考えすぎかと頭をふり、夜霧は気を取り直した。


  *****


 守備隊専用の門を通り、夜霧たちは装甲車で王都にのりこんだ。

 そこは南中央門を守るための基地となっている。

 あまり邪魔にならない城壁際に停めて、夜霧たちは車を下りた。

 夜霧は最低限の荷物をすでにバックパックに入れてある。知千佳は、荷台に入り込んで持ち込む物を吟味していた。

 知千佳を待っている間に夜霧は気になっていたものを観察した。

 王都の城壁だ。

 どこまでも高い城壁なのだが、それ自体は建築技術によっては可能なのだろう。だが、この異常なまでに白く見える城壁に違和感を覚えたのだ。

 汚れ一つない。

 それが、巨大な王都全体を囲んでいるようで、見渡すかぎりどこまでも白かった。

 夜霧は城壁に近づきそっと手を伸ばす。すると、城壁に触れる少し手前で何かにぶつかった。

 何も見えはしないが、確かにそこに何かがある。押せば少し奥へと動くが、目一杯力を入れても壁に触れることができない。城壁は透明なゴムで覆われているかのようだった。


「それには魔法がかかっているんだ」


 夜霧が見えない何かの感触を楽しんでいると、背後から声がかけられた。


「もう大丈夫?」

「まあ、なんとかね」


 デイヴィッドだった。普通に歩いてくるので、後遺症はないのだろう。


「この城壁は大魔導師イグレイシア様が大昔に作られたものだ。どんな攻撃にも耐えられるということだよ」

「大魔導師イグレイシア……どこかで聞いたな。ああ、金ぴかの人か」


 峡谷に聳え立つ、魔神を封印する為の塔。

 その塔で行われた試練の最中に、夜霧は大魔導師を名乗る男と出会っていたことを思い出した。

 金色のローブをまとい、じゃらじゃらとたくさんの宝石類を身につけた、とにかく派手な男だ。


「ほう? 知っているのかい。確かに伝承では、金色の衣を身に纏っておられるとのことだが」

「まあ。それはそうと、俺たちは最初険悪な雰囲気になってたと思うんだけど」


 その大魔導師は殺してしまったとも言えず、夜霧は話題を変えた。


「それは……まあ、負けたのは確かだ。素直に認めるしかないさ」

「あ、よかった。大丈夫そうですね!」


 知千佳が荷台から下りてきた。バックパックを背負い、大型のトランクケースを手にしている。


「う、うむ」


 デイヴィッドの顔が少し引きつる。


「それで、何か用ですか?」


 不思議に思ったのか、知千佳が聞く。


「君たちは賢者候補に会いに来たんだろう? よければ僕が案内してやろうかと思ってね」


 デイヴィッドがそんなことを言ってきて、夜霧と知千佳は顔を見合わせた。

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