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即死チートが最強すぎて、異世界のやつらがまるで相手にならないんですが。 作者:藤孝剛志

第3章 ACT1

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2話 もうちょっと、きゃーきゃー言っといた方がいいのかなぁ

 ガルラ峡谷を数日かけて抜け、壇ノ浦知千佳と高遠夜霧はメルド平原に辿り着いた。

 二人は装甲車に乗ってここまでやってきたのだ。

 そして、峡谷と平原の狭間で停車し、これから向かう平原を見つめていた。


「なんか思ってたのと違う……」


 運転席から平原を見回し、知千佳はぼやいた。

 緑の絨毯が広がる、風光明媚な平原を知千佳は思い浮かべていたのだ。

 たしかにメルド平原は美しい。だがそれは、異様な美しさだった。

 ここにあるものは、全てが結晶のようになっているのだ。

 地面に生えている草らしきものも、ところどころに生えている木も、地を這う蜥蜴のような生き物も、何かの集落らしき場所にある建物も。全てが鋭利な、結晶のようなもので形作られていた。

 空を見上げれば、そこにも結晶で作られた網のようなものがあるらしく、太陽の光は散乱してしまっていた。

 そして、見通しが悪かった。平原のはずなのに遠くがよくわからないのだ。結晶で光が反射しているためと、薄く靄のようなものがかかっているためだった。


「別名、水晶平原って言うらしい」


 夜霧が知千佳ほど驚いていないのは、この地の様子を知っていたからなのだろう。


「別名の方を先に言ったほうがいいんじゃないかな! ってなんで、高遠くんはそんなこと知ってんの?」

「コンシェルジュの人に地図をもらったときに、そんな説明もしてもらった気がする」


 夜霧が悪びれる様子もなく言う。知千佳もそれほど大したことでもないかと思いなおした。


「村っぽいものがあるってことは人が住んでるのかな?」

「あれに住めるってなら、普通の人間じゃないだろうね」


 何もかもが鋭利にできているのだ。生身の人間が生活することはとてもできないだろう。


「わかった。多分、あそこに住んでるのは結晶人間みたい人なんだよ。ほら、なんか犬っぽいのが歩いてるけど、あれもそうだし」


 集落のあたりで何かが動いているのが見える。それは、結晶で形作られた四足動物だ。形態と動作からすると、犬のように見えた。


「襲ってくるって感じでもなさそうだね。俺、犬だったら極力殺したくないからよかったけど」


 犬らしき生き物は、突然やってきた装甲車と中にいる知千佳たちを意識しているようだが、それはただの好奇心からのようだ。


「犬、好きなの?」

「飼ってるよ。もうじいさんだから、ちょっと心配だけど」

「うちも犬いるよ。お姉ちゃんが動物好きだから、犬以外にも色々飼ってるけど」

『うむ。壇ノ浦家では代々秋田犬を飼っておる。壇ノ浦流には、犬を戦わせる術もあるからな!』


 もこもこが二人の間にあらわれて言った。


「……あの首筋に噛みついてぐるぐる回る技、お姉ちゃんが仕込んだんじゃなかったんだ……」


 てっきり、姉が酔狂からそんな技を教え込んだものとばかり知千佳は思っていたのだが、どうやら家ぐるみでやっていたことらしい。


『でだ。何も犬のことを話にきたわけではない。ここにはそこはかとなくヤバげな雰囲気がただよっておるから気をつけるがいい!』

「ふんわりしすぎで気をつけようがないんだけど?」

『そうだな。呪いの類とでもいうのか。このあたり一帯に充満しておるな。まあ、我が対処できるレベルではあるのだが』

「高遠くん。また、何か勝手に殺してない?」


 夜霧は以前、瘴気に反応してその源をうっかり殺してしまったことがあったのだ。今回も似たケースになりはしないかと、知千佳は不安になっていた。


「あれ以来気をつけてるよ。それにその呪い? 出所がはっきりしないな。ぼんやりとした感じで、今すぐ危険てことはないと思うけど」


 ならば大丈夫なのだろうと知千佳は納得した。


「ま、それはともかく! 進むしかないんだけど、これ、車で通れるのかな」

『装甲車だからな。パンクには強いのではないか?』

「進行方向の障害物を殺しながら進むのは可能かな。まあ、草っぽいものを潰すぐらいならありだと思うけど」


 夜霧は邪魔ならなんでも殺すというほど短慮ではない。一応気を使ってはいるのだ。ただ、その常識は知千佳とは若干異なっている点もあった。


「これが本当に草なんだとしたら、その後二度と生えてこないって感じ?」

「草なんだとしたら、種が根付けばまた生えてくると思うけど。殺すのは草だけだし」

「うーんと、地図で見た感じだと、平原はそれほど広くもなさそうな感じだし、一気にいっちゃえばいいかな。峡谷みたいに入り組んでるわけでもないし」


 峡谷を通っている鉄道路線は、そのままこの平原も縦断している。線路を見つけて並走すれば王都に辿り着けるはずだった。

 平原を避けるなら、かなり遠回りすることになるだろう。


『しかしだ。こういう何かいわくありげな場所を素通りできる気がしないのだがな?』

「まあ、これがゲームなら峡谷の次のステージってことだよね、ここ」

「ここから右の方に行けば線路かな。駅っぽいものもあるみたいだけど」


 夜霧が、知千佳の持つ地図をのぞき込んで言う。平原は東西には広いが南北にはさほどでもない。車でなら一時間も走れば通りぬけることができそうだった。


「じゃあ行ってみますか」


 装甲車のエンジンが始動し、スムーズに動き始める。知千佳の運転は実に手慣れたものとなっていた。

 結晶化している草は、夜霧が対処しているためなのかあっさりと砕け散っていく。パンクの心配はいらないようだ。

 地図を頼りに走っていると、すぐに線路が見えてきた。

 さすがに線路周辺は結晶化していないらしい。駅らしき建物も、一部結晶化の形跡は見られるが原型は留めている。


「駅に寄ってみたほうがいい? このあたりは特殊な感じだし事情を聞けるならそうしたいけど……私たちお尋ね者みたいな扱いなのかな?」


 賢者に狙われているようではあるのだが、賢者の従者であるリョウタは知千佳たちを捕らえようとはしなかった。自分たちがこの世界でどう扱われているのかはよくわからない状態なのだ。


「こそこそしてたって仕方がないよ。これから王都に行くわけだけど、そこでも逃げ隠れするの?」


 夜霧は自分たちが追われる身かもしれないということをあまり気にしていないようだった。

 ならばと知千佳も覚悟を決めた。

 装甲車を駅に寄せて停車する。

 駅舎はこじんまりとした建物だった。こんな場所だ。ここで汽車を乗り降りする者はほとんどいないのだろう。

 二人は車から降りた。


「寒い! 急にどうなってんの!?」


 急激な気温の変化を感じた知千佳は、思わず声を上げた。

 ここにくるまでは温暖な気候だったので、この地の環境によるものなのだろう。

 気候と関係があるのかはわからないが、結晶だらけのこの地はどこか寒々しく見えた。


「氷でできてるってわけでもなさそうだけどな。ま、とりあえず中に入ろう」


 夜霧が駅舎のドアを開ける。

 入ってすぐは待合室になっていた。中央には暖房器具がおいてあり、木製の長椅子が囲むようにおいてあった。

 入り口の向かい側にも扉があるので、そちら側には改札やプラットホームがあるのだろう。


「誰もいないね」

「無人駅……ってことはないのか。暖房が付いてるし」

「じゃあ、中も見てみようよ」


 そう知千佳が思ったところで、奥の扉が開いた。

 入ってきたのは制服を着た青年で、その様子は異常だった。

 蒼白い顔で腹部を押さえているのだが、そんな程度では止まらないほどの出血をしているのだ。

 その足取りは頼りなく、視線はふらふらとして定まっていない。明らかに重傷だ。


「え? って大丈夫ですか!?」


 知千佳は慌てて駆け寄ろうとしたが、夜霧が肩を掴んで制止した。


 パン!


 乾いた破裂音。

 銃声だ。知千佳がすぐにわかったのは、実家で何度も聞いたことがあるからだ。

 青年は倒れ、血が床にあふれ出した。背後から心臓を撃たれたのだろう。即死だった。


「逃げられたと思ったぁ? 残念でしたぁ!」

「くそ! 俺の負けかよ。うぜぇなあ。とっととくたばりゃいいのによ!」

「な? 腹撃ったってすぐには死なねえんだよ」

「けど、お前ひでえよなあ。仲間のところまで案内したら助けるんじゃなかったのかよ?」

「そりゃ生きる希望でもなけりゃ必死にならないし、賭けにならんからな」


 そして、軍服らしきものを着た五人の男が、ずかずかと待合室に入ってきた。

 誰もが拳銃を手にしていた。この世界で開発された武器なのか、知千佳が知らない形の銃だ。


「お? ここにはじじいしかいねーって話だったけどよぉ。俺たちすげー運がいいんじゃね?」


 すぐに男たちは知千佳たちに気付いた。

 男たちの視線が知千佳に集中する。実に下卑た、この世界に来てから何度も向けられたことのある邪な視線だ。


「死ね」


 夜霧がそう口にすると、軍服の男たちは即座に倒れた。にやついた顔をしたまま、何が起こったのかまるでわからずに死んだのだろう。


「えーと、この状況はどうしたら……」


 急な展開についていけなくて、知千佳はぼやいた。


「撃たれた人はもう死んでるし、できることはないよ。別に俺らが原因てわけでもなさそうだし」


 随分と突き放した物言いだが、知千佳はそれを非難できなかった。自分も似たような感覚だからだ。

 冷たいようではあるが、突然出てきた見知らぬ他人が死んでもあまり感情が動かなかった。


「でもこれじゃ、なにがなんだかさっぱりなんだけど。何のつもりかを確認したほうがよかったんじゃない?」

「けどさ、こいつら俺を即座に撃ち殺すつもりだったから、話を聞いてる余裕はなさそうだったけど」


 夜霧は殺意や危険を感知できる。脅威には強弱があるようだが、今の場合は差し迫ったものだと判断したのだろう。


「じゃあさ、前にやったみたいに、一人ずつ殺して脅すとか……って、なんかすごく黒くなってんな、私! 今の話はなしで!」

『この状況で全く動じていないあたり、壇ノ浦の後継者としては頼もしい限りだな!』


 もこもこは腕組みをして、うなずいていた。


「あー……もうちょっと、きゃーきゃー言っといた方がいいのかなぁ……」


 まるで豪傑であるかのような評価をされて、知千佳はやるせなくなってきた。

 夜霧は倒れた男たちを調べていたので、知千佳の発言は聞いていなかったようだ。


「銃はもらっとこう。もこもこさんはこういうのも詳しいんだよね?」

『うむ。仕組みは我が知っているものとそう変わらぬだろうし、使い方も似たようなものだろう』

「見た感じ、荷物はさほど持ってないみたいだから、本隊みたいなのがあるのかもね。まさかここら辺に住んでる人ってことはないと思うんだけど」

「王都の兵隊さんってことはないの?」


 この近くで兵士がいそうな場所となると、すぐに思い付くのは王都だった。


「この国とか王都とかのことをよくわかってないからなんとも言えないな。何にしろ、さっさと移動した方がよさそうだ」


 夜霧はさっさと見切りを付けて駅を出て行こうとしている。

 知千佳は、何かめんどくさい人たちを殺したのではないかと思うと気が気ではなかった。


  *****


 結晶化した地帯を抜ける頃には、巨大な城壁が見えてきた。

 高く長いその壁は見渡す限りどこまでも続いている。その中が王都だというのなら、かなりの広さだろう。


「城塞都市っていうのかな。こういうところって壁際だと日中も暗くて不便そうだよね」


 夜霧が助手席でのんきにそうにしているが、知千佳はそんな気分にはなれなかった。


「ごめん。慣れてきたと思ったけど、これホントどん引きだ……」


 見ないようにしようとは思っていたが、やはり気になって何度もバックミラーを見てしまう。

 そこには、死体の山が築かれていた。


『一人殺せば殺人者、数千人殺せば英雄とは誰の言った言葉だったか。それに則れば、小僧は英雄ということになるのか?』


 数千どころではない数の兵士たちが、平原に倒れていた。

 駅を出た知千佳たちは、線路沿いに装甲車を走らせたのだ。

 すると、駅で殺した兵士と同じ軍服を着た者たちがあらわれて、装甲車に攻撃を仕掛けてきた。

 当然夜霧は迎撃したのだが、いくら殺しても次から次へと兵士たちがあらわれる。

 埒があかないので強引に車を走らせ、結果、どこかの軍隊らしき集団は壊滅したのだ。

 全滅するまで襲ってくるなど異常だが、その理由など知千佳たちにはわからなかった。 


「襲ってくる方が悪い。それにこんなところで時間かけてる場合じゃないよ。クラスの奴らはもう王都についてるかもしれないんだし」


 魔神を封印していた塔の周辺では時間の流れが乱れていたらしいし、ここまで来るのにもけっこうな時間がかかってしまっている。

 汽車は運行を復旧したようで、何度か通り過ぎていくのを知千佳たちは目撃していた。それに乗っていたとすれば、クラスメイトはもう王都に到着しているのかもしれなかった。


「ちょっと眠くなってきたし寝る」


 そう言って夜霧はすぐに寝息を立て始めた。

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