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即死チートが最強すぎて、異世界のやつらがまるで相手にならないんですが。 作者:藤孝剛志

番外編

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番外編 格ゲー(Another EX)

特典SSボツネタを活動報告に載せていたのですが、それだと埋もれるかなと思いましたので、少し拡張して、章の合間に入れておくことにしました。

一応、忘れ去られてそうな設定とかの補間的な意味合いもあります。

あと、店舗特典はこんな感じの話ですので、参考まで。

 夜のガルラ峡谷。

 知千佳たちは、装甲車の荷台にいた。

 王都への道は知ることができたが、峡谷は深く険しい。未だ抜け出ることができていないのだった。

 幸い装甲車の中は快適で、宿泊するにはなんの問題もなかった。トイレもシャワーも完備しているし、簡易的なキッチンまで備えている。短時間でこれほどの改造を施すにはかなり無理をしたのかもしれないが、これもハナブサの技術力の賜だろう。

 食事を終えた二人は、ダイニングテーブルの前に並んで座っていた。

 夜霧はいつものようにゲームをプレイしているし、知千佳はその様子をなんとなく見ているのだ。

 ゲーム画面の中では二人の格闘家が戦いを繰り広げている。いつものように狩りゲーをしていないのは、知千佳が上手くなるには別のもやってみればと勧めたからだ。

 だが、何をプレイしようと夜霧が下手なのは変わりなかった。ろくに間合いを見切れていないし、コンボなどもってのほか。必殺技コマンドの入力すらおぼつかない始末だ。


「ねえ。狩りゲー上達のために、格ゲーやるってあんまり意味ないんじゃ」

「ごめん。私も適当なこと言った気がする」


 間合いを見切るのが下手なようなので、格ゲーをすれば上手くなるかと知千佳は思ったのだが、そんな簡単なことではないらしい。

 そもそも、カメラを自由に動かせる三人称視点のゲームと、サイドビューの格闘ゲームでは前提が違いすぎるだろう。

 夜霧は諦めてゲームをスリープさせた。

 知千佳は少しばかり気まずい気分になった。どうごまかそうかと考えていると、外でコツンと音がするのが聞こえた。

 何かが装甲車にぶつかったような音だ。


「なんだろな」


 夜霧が率先して外に出て行く。知千佳もその後に続いた。

 月が岩と砂だけの世界を蒼白く照らしている。美しくはあるが、寂しくもある景色がそこには広がっていた。


「ホウ」


 岩の上に梟が立っていた。

 梟は夜霧たちに気付くと、すぐに飛び立ってしまい、後には封筒が残されていた。

 夜霧がそれを拾い上げる。

 二人は装甲車に戻り、テーブルの前に座った。

 封筒を確認する。宛先には、二人の名前が日本語で書かれていた。


「手紙だよね」

「だとすると俺たちの居場所が何者かに把握されてるってことになるね」

「え? それってまずくない?」


 知千佳が焦っていると、夜霧は手紙の差出人を確認していた。


「なんか納得した」


 差出人は以前に世話になった、コンシェルジュのセレスティーナだった。


「ああ……あの人ならそれぐらいできそうな気がする……」


 夜霧が封を開け、手紙を読み上げる。

 知千佳は初っぱなから驚かされることになった。


「騎士ってどういうこと!」

「ああ、そういやリックさんがそんなことを言ってたよ」


 手紙は、騎士叙勲の祝辞からはじまっていたのだ。

 夜霧が言うには、塔の一階に到達した時点で試練は達成したこととなったらしい。そして、試練の達成者は聖王の騎士の資格を得るらしいのだ。


「人殺し大好き! な人たちが集まってただけじゃなかったんだね……」


 知千佳は、今さら試練に十分な実利があったことを知ることになった。


「けど、それどうやって知ったの?」


 峡谷で塔に立ち寄ったのはたまたまだし、そこで騎士になってしまったのもつい最近のことだ。遠く離れた街にいるセレスティーナにわかるはずがないと知千佳は思ったのだ。


「コンシェルジュマジック?」

「だからコンシェルジュ万能すぎんだろ!」


 なんでもコンシェルジュって言葉で済ませるのはどうかと思う知千佳だった。

 夜霧が手紙の続きを読む。主文は運用している資産についての報告だった。ざっくりと言えばほぼ倍になっているらしい。


「倍って……こんな短期間で?」

「それが、ちょっと妙なんだ。この報告によると、二週間ほど経ってることになる」

「へ? さすがにそんなには経ってないはずだけど?」

『それなのだがな。どうやら、あの塔周辺では結界の影響のためか時間の流れが他とは異なっておったらしい』


 すると、もこもこがしゃしゃり出てきた。


「時間を遅くする結界の周囲ならそんなこともあるのか?」

「まあ、魔法だとか結界だとかって言われると、もうそれ以上考えても無駄かって気にはなるけどね……って! 確か一ヶ月が期限だったと思うんだけど!」


 召喚直後、賢者シオンに一ヶ月で賢者になれと言われたことを知千佳は思い出した。


「だからって無理に急いでも仕方がないよ。今だって、できるだけ早く行こうとはしてるんだから」


 手紙を読み終えた夜霧は、再びゲームをプレイしはじめた。格闘ゲームに再挑戦するようだ。


「そういや格ゲーやってて思い出したけど、壇ノ浦さんは結構な残虐ファイターだよね」

「唐突にひどい言いぐさだね!?」

「ほら、人形をやっつけてたでしょ。ちょっと引いたんだけど」

「うん。でも、高遠くんにだけは言われたくないかな!」

「でも、俺、人の目に指を入れるなんてできそうにないよ?」


 確かに、敵の眼窩に指を突き入れてそのまま掴み、脳天から床に叩き付けるという技は残虐としか言いようがない。


『まあ、当たり前の話ではあるな。殺人の忌避は本能的なもの。ましてや近接戦闘においてその忌避感は最大化する。目玉に指を突っ込むなど常人には出来ぬのだ!』

「いや、私だってできないけど、なんか呪文を唱えたからでしょ!」


 壇ノ浦流には、殺人忌避本能を抑制する術があり、それを成すための呪文が存在していた。知千佳は戦いの前にあらかじめそれを唱えていたのだ。


『あれは逆なのだよ。壇ノ浦の血は攻撃的気質を獲得しておるし、普段から殺しへの心理的抵抗をなくすための修業をしておる。が、普段からそのように殺伐としておっては日常生活が成りたたん。そこで、暗示による封印を施しておるのだ!』

「それってどんな修業をしてるの?」


 興味本位のようだが夜霧が聞いてきた。


『ほう、興味があるのか? 人を殺すなど息を吸うようにするお主が?』

「人をサイコパスみたいに言わないでよ。俺は直接手を下したことはないし、できる気もしないから」


 確かに夜霧の能力は死の感触からは切り離されている。殺戮の実感は薄くなるだろう。


『ふむ。基本的なところでは人型を使って修業するというものがある。そこそこの効果はあるが限界はあるな』

「だよね。そんなんで済むなら誰にだってできるようになる」

『犬猫を殺すというのも定番だ。とある流派では四日ほど食事を与えずに飢えさせた荒ぶる猫と一緒に部屋に閉じ込められ、その首を一撃で落とさねば皆伝を得られなかったりするのだ』

「いやいやいや、私そんなことした覚えないから! 犬とか猫とか大好きだから! 動物愛護精神にあふれてますから!」

『が、まあそれでは日常的とは言いがたい。そこで壇ノ浦では豚や牛を殺しておる。ちょっと前なら死刑囚を調達するなどもできたし、もっと前ならフリーダムに殺し放題だったのだが、昨今ではそれも中々に難しいのでな』

「ちょっと待って! あれ修業だったの!?」


 それに関しては確かに覚えがある。弓矢で食用動物の頭部を射貫くのだ。だが、牛や豚は食料だろうという思いが知千佳にはあった。


『なんだと思っておったのだ? 命を奪う手応えを日々感じ取る修業だが?』

「食育だと思ってた……お母さんも慈悲をもって、苦痛なく一撃で仕留めなさいとか言ってたし……」


 知千佳は呆気にとられた。まさかそんなことだとは夢にも思っていなかったのだ。


「ああ! だから血まみれの死体とか見てもそれほど拒否反応がなかったのか」


 夜霧は妙に感心していた。

 そんな納得のされ方も困るが、うまい言い訳を知千佳は思いつけなかった。

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