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ごめんください!
(裕一)はい… はい。
僕を弟子にしてくれねえでしょうか!?うん?
お願いします!
弟子!?
♪~
♪「泣いて 生まれて 響く命」
♪「きっと嬉しくて 笑っているんだ」
♪「僕らはきっと 出逢うでしょう」
♪「手を引き 背を押し 出逢うでしょう」
♪「きっといつか今日の日も意味を持って ほら」
♪「耳をすませば」
♪「星の見えない日々を 超えるたびに」
♪「互い照らすその意味を知るのでしょう」
♪「愛する人よ」
♪「親愛なる友よ」
♪「遠くまで 響くはエール」
♪「朝も昼も夜もずっと そこにある」
♪「暗闇にほら響け 一番星」
♪「愛する人よ 親愛なる友よ」
♪「星影に響くはエール」
(音)田ノ上五郎 21歳 茨城県出身尋常小学校を卒業5人兄弟の末っ子として生まれる。
あ~ 奉公してたんだ。はい。
13から水戸の雑穀問屋に出ておりました。
あっ…。
これ どうぞ。いやいや… もらえない もらえない。
何とぞ!いや…。気持ちですから。
(久志)もらってあげたら?
雑穀?納豆です。名物ですから。フフフ…。ありがとう。
君さ 作曲家になりたいんだよね?はい!
これまで どんな曲 作ってきたの?
ないです。えっ?
あっ… 音楽の勉強は どうやって?
それはもう 小山田先生の「作曲入門」を何度も何度も読み返して。
あっ 僕と一緒だよ!
先生もですか!?うん 小山田先生!
感激です!うん!
いつか 僕も先生のように作曲で身を立てたいと思いまして。
敬愛する古山先生のご指導を是非 賜りたくこうして お願いにあがりました!
いや… う… うれしいよ。 ありがとね。でも… 世の中 作曲家いっぱいいるよ。
何で 僕なの?
「船頭可愛いや」 最高でした。「福島行進曲」は泣きました。
奉公のつらさを救ってくれたのは先生の歌のおかげです!
どうか 弟子にして下さい!
あ… ありがとう…。
うん… うん…。
ち… ちっと待っててね。ちっとだけ待ってて。
どう思う?
裕一さんまだ自分のことで精いっぱいじゃない?
ヒット曲も まだ一曲だし。
いや 最近はそこそこ売れてるのもある…。
そうだね。うん 一応…。
裕一さん お弟子さん とりたいの?
いや 何か… かわいそうでさ見てたら。
住み込みだよね?
う~ん… 家はないだろうね…。
私も 力になってあげたいけど…。
そうだね…。うん。
珍しいな 裕一の弟子になりたいなんて。
先生は日本一の作曲家ですから。
先生の付き人か何かですか?
ハッ… 君の目は節穴か?
コロンブスレコード期待の大型新人スター歌手 佐藤久志だ。
失礼しました。
(せきばらい)
五郎君… あの…申し訳ないけど お引き取り願えますか?
えっ?
うちは まだ お弟子さん預かれるような身分ではないし小さい子もいて 毎日バタバタしてる
し。
わざわざ来て頂いたのに ごめんなさい。
本当に ごめん。
分かりました。
えてして純朴な人間は思い込んだら諦めが悪いのが世の常で次の日も…。
諦めきれずに また来てしまいました!
お願いします!もう一度 先生に会わせて下さい!
ごめんなさいね。
次の日も。
どうしても先生の弟子になりたいんです!お願いします!
次の日も。
先生と もう一度 話をさせて下さい!先生!
次の日も!・(戸が開く音)
・(五郎)ごめんください!
次の日も…。今日も いい天気ですね! 先生は?
・(戸が開く音)・(五郎)お願いします!
お願いします! お願いします!
・(五郎)お願いします!
ねえ 華…。(華)うん?
今日もさ 五郎君 来るかな?
絶対来るよ。うん…。
・(五郎)ごめんください!
ほら来た!本当だ。
・(五郎)ごめんください!
(犬の吠え声)
ぶほっ! うっ…。うう… 臭い!
先生!
どうしたの?この服 これ…。
野犬に襲われました。あっ そう…。
とりあえず 風呂に入って。話は それからだから。 はい あっち。
はい!
・(五郎)♪「エー 船頭可愛いや」普通だね 歌。
ねえ 裕一さん。うん?
そもそも お弟子さんって何するの?
う~ん…。
譜面をきれいに清書したりとか…まあ編曲手伝ってもらったりとかかな?多分。
でも無給で働くんだから裕一さんも 彼に 何か教えてあげないといけないでしょう? できる
?
音楽理論はね 分かってるつもりだから。何で?
いや… いつもバ~ッて降ってきたりとか誰かの話を聞いて 「おお~!」って思いついたりと
かだからそれって 教えてあげられるのかな?と思って。
そうだけどさ… まあ…と… とにかく あの 話してみる。
ギュッ… そう ギュッて引っ張って。
・ごめんください。うん?
この前も聞いたけど どうして僕なの?
♪「紺碧の空 仰ぐ日輪」
つらい時は いつもこの歌に励まされてきました。
レコードを聴いて 書いたもんです。
正確だね。 いい耳してるんだね。
ありがとうございます。
家族だったり奉公先は賛成なの?
家族は… みんな ちりぢりです。
奉公先からは 逃げてきました。
僕 飯 食いません。その辺の葉っぱ 食いますから。
葉っぱ?部屋も布団も要りません。
ここでいいです。 いえ… 庭で寝ます。
野犬がいないから安らかに寝られます。
いや 五郎君 あの…。早くに親に売られた僕にはずっと居場所がありませんでした。
先生のそばに置いて下さい!
ご迷惑かけません! 一生懸命やります!
どうか お願いします!五郎君…。
やめて… やめて ほら ちょっと立って。立って ほら… 五郎君…。
分かった。
君を弟子にする。
先生~!おっとっと…。
ちょっと待った!おっ?
文藝ノ友新人賞!? すごいじゃん!
それは うれしいんだけどうちで執筆活動続けるって言うの。
こ… ここ!?そう。
(梅)これ どうぞ。
ちくわ! 食べていい?
どうぞ。ありがとう 梅叔母さん。
おばさん?
ねえ… 吟義姉さんところは?
あっちは…息が詰まるって。
え~? どうしよう…。
年頃の2人が いきなり同居ってまずいよね~?
え~ 五郎君と?梅。
梅。
五郎さん。
ああっ! ない ない ない。
ないな。じゃあ いい?
こちらも いい?う~ん にぎやかで楽しいんじゃない?
食費はかかるけどね。うん…。
お代わり下さい。また? 五郎ちゃん 食べ過ぎ!
ねっ。こんなうまい飯 久しぶりで。
あっ すいません。葉っぱでいいって言ってたのにね。
裕一さん お弟子さんの分もしっかり稼いで下さいね。
はい… はい。恐縮です。
恐縮です。
(五郎)恐縮です。ハハハ…。
ごちそうさま。
梅は残して行儀が悪い!
僕がもらいます。恐縮です。
恐縮です。(笑い声)
梅は 2階の空いていた部屋に住むことになりました。
(小声で)よっしゃ。(襖が開く音)
何 見とるの~?
別に。え~? 見せりんって~。 うん?
フフッ。 あ~ やっぱり言葉で聞くより実感湧くわ。
「文藝ノ友新人賞 関内 梅」。すごい。
でも… 結ちゃんは これ 16歳で取っとる。
年齢は関係ない。同じ土俵に立ったってことでしょう?
結ちゃんは もう10冊も出しとるんよ。私は まだ1冊。
意識する?
幽霊のお父さん 会った?
うん。
お父さん 言っとった。負けを認めろって。
そこから始まるって。
梅は認めたの?
う~ん… どうかな? 分からん。
認めたんじゃない?
今の梅は全然違う。前の梅は もっと かたくなで自分の殻が固くてどうしようもなかったけど
今は… ひび割れとるというか…。もう いい いい…。
薄くなっとるというか 柔らかく…。いい いい… 自己分析は自分でやる!
まっ ともかく頑張りん。うん。
こうして 梅の東京での新生活が始まりました。