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即死チートが最強すぎて、異世界のやつらがまるで相手にならないんですが。 作者:藤孝剛志

第1章 ACT3

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29話 対空技があるうちの流派っていったい

「でも、前に見た魔法使いは、杖は持ってなかったけど」


 もう名前を忘れているが、クラスメイトが魔法でバスを破壊したことを夜霧は思い出した。そのクラスメイトは杖らしき物はもっていなかったのだ。


「私は、杖使い(ワンドマスター)です。杖に込められた魔法を引き出して使うことが出来るんですが、杖がなければ魔法を使えません」


 床に座り込んでいるリーザは素直に答えた。

 威力と速攻性のある魔法攻撃が特色だが、杖に設定された数種類の魔法しか使えないというクラスとのことだった。


「武器に依存してる相手なら俺の力で無力化できるな。けど、そううまく条件がそろうかはわからないか」


 今回はたまたまだろう。武器だけに依存している敵が多数を占めるとも思えない。


『こやつとて、杖以外に何か隠し持つ力があるやもしれんぞ? 殺しておいたほうがよいのではないか?』


 隣にいたもこもこが忠告してきたので、夜霧はそちらを向いた。

 リーザにもこもこは見えていないはずなので、会話をすればおかしな様子に見えるだろうが、夜霧はどう思われようと構わなかった。


「潜在的な危険があるってだけで殺してたら、俺の周りには誰もいなくなっちゃうよ」


 夜霧は殺人を好んでいるわけではない。ただ、身を守るために力を使えば相手が死んでしまうというだけだ。殺すことに躊躇いはないが、わざわざ殺そうとは思わなかった。

 夜霧はリーザに向き直った。


「なんとなくわかってると思うけど説明しておくよ。俺は殺そうと思っただけで相手を殺すことができる。何かをしようとしたら即座に殺すからそのつもりで。それをわかってもらえた上で質問がしたい。いい?」

「わかりました」


 リーザが緊張に満ちた声音で答えた。そこには子供を見下すような余裕は欠片もない。選択を間違えれば死ぬ。それを肌で感じ取っているのだ。


「杖使いってことなら、一本だけってことはないだろ? 予備は?」


 リーザは豊満な胸の谷間から、鉛筆サイズの棒を取り出して床においた。


「なんでわざわざそこに隠すかな!? で、高遠くんもマジマジと見ない!」


 こんな状況でも知千佳は相変わらずだった。


「いや、よくそんな所に隠せるな、と思って」

『しかし、そのぐらいの大きさなら、服のどこにでも仕込めそうだな。いっその事むいてしまってはどうだ?』

「やったことはないんだけど、服を殺せば簡単にできそうだな」

「いやいやいや、冗談だよね? それ?」


 信じられないという様子で知千佳が言ってきた。


「これまで殺すことには文句言わなかったのに、裸にするのは駄目なの?」


 なんだか納得はいかなかったが、あえて嫌われようとは思わないので夜霧はやめておくことにした。


「じゃ、次の質問。壇ノ浦さんを連れてこいって命令されたんだよね? 今、それは諦めてるように見えるけど、命令って絶対的なものじゃないの? 前に聞いた話だと、奴隷を死に物狂いで特攻させると言ってたような」

「特攻させるのは他に使い道のない労働奴隷の場合です。私たち上位の奴隷は貴重な人材ですので、基本的には自分の身を守るようにと言われております」

「他の仲間は? 親衛隊ってぐらいだから何人かいるんだろ?」

「うふふ。もちろん、いますよ」


 その言葉と同時に、天井から何かが降ってきた。

 それは知千佳目がけて落ちてきて、そして勢いよく床に激突した。

 知千佳がその何かを捉え、床に叩きつけたのだ。


『うむ。さっそく役に立ったな!』


 床に倒れているのはまだ幼い少女で、その首は致命的な程に折れ曲がっていた。

 知千佳は喉に貫手を打ち込み、眼窩に指を突き入れて体勢を制御し、頭から床に叩き落としたのだ。


「対空技があるうちの流派っていったい何と戦うつもりなのかな……」

『あらゆる局面に対応するのが壇ノ浦流だ!』


 しかしその少女は、折れた首はそのままに身を起こし始めた。

 よく見てみれば少女は人間ではない。精巧に作られた人形だった。

 気が付けば夜霧たちは取り囲まれていた。

 ぬいぐるみ、ブリキの人形、ビスクドール。種類、大きさは様々だが全て人形のようだ。

 それらが通路の前後を封鎖し、壁や天井にまで取り付いている。


「なるほど。やけに素直だと思ったら時間稼ぎをしてたのか」


 自分では勝てないと判断して、仲間の到着を待っていたのだろう。命令遂行を諦めたわけではなかったのだ。


「私一人で事足りると思っていたのですけどね」


 リーザが余裕の笑みを浮かべ、そのまま事切れた。夜霧が力を放ったのだ。

 敵が増えた今、生かしておいても大したメリットはない。


『ふむ。人形遣いといったところか?』


 一つ一つはそう強くもないのだろう。だが、圧倒的な数に物を言わせるつもりのようだった。


  *****


 黒いフリルドレスを着た小柄な少女が、非常階段の踊り場に腰掛けていた。

 その少女趣味を反映してのことか、周囲にはたくさんのぬいぐるみや人形が立ち並んでいる。

 裕樹の親衛隊の一人、チェルシーだった。

 本来彼女の出番はないはずだった。

 無能力者の少女一人を拉致するなど、リーザ一人で十分のはずだったのだ。

 隊長に花を持たせる形で送り出し、念の為に待機していたが、事は意外な方向へ展開してしまった。

 リーザの魔法がまるで通用しなかったのだ。

 呆気に取られたチェルシーだが、すぐに行動を開始した。

 チェルシーは自分の操る人形なら対応可能だと考えたのだ。

 人形を壊されたとしても何も問題はない。チェルシーの人形操りは憑依術のようなものだからだ。

 人形の操作を担当する魂のようなものを人形に宿らせて操る。つまり壊れたなら別の人形を動かせばいいだけだ。たとえ今向かわせている人形が全て壊されたとしても、新たな人形を送り込めばいいだけのことだった。


「いったーい! なんなのよ、あの凶暴女!」

「思ったよりは動けるみたいね」


 チェルシーの隣に立っている、等身大の少女人形がわめいた。

 知千佳に首をへし折られた少女人形を担当していたのだ。人形の系統ごとに親となる魂があり、それらがチェルシーの元に待機していた。

 知千佳を素早くさらえば済むと思って指示を出したが、そううまくはいかないらしい。


「モルー! まずは夜霧ってのを殺すモル!」


 チェルシーが抱き抱えるクマのぬいぐるみが、愛らしい外見に似合わない言葉を吐く。


「そうね。動けるとはいっても大した力はなさそうだし」

「げへへへ、腕の一本や二本、切り落としたってかまわねーんでしょ? 生きてりゃさあ!」


 そう言うのは邪悪な笑みを浮かべ、大ぶりのナイフを振り回す少年の人形だ。


「ええ、問題ない。連れてこいとしか聞いていないし」


 裕樹の意向をわかった上でチェルシーは言った。

 チェルシーは自分の体を見る。

 妖精じみた愛らしい容姿だが、同時に性的魅力に欠けている自覚もある。この体では、裕樹の寵愛を受けることができないのかと思えば、知千佳に嫉妬せずにはいられなかった。思えばエリカの独断専行も嫉妬からなのだろう。


「じゃあやって」

「行くモルー!」


 ぬいぐるみが、人形が、ロボットが。夜霧たちに一斉に飛びかかる。

 すると、空中で人形は身動きがとれなくなり、その勢いのまま夜霧たちを通り過ぎてぼたぼたと床に落下した。

 ここまでは想定通りだ。


「次……え?」


 チェルシーは唐突な違和感から、抱き抱えていたぬいぐるみをまじまじと見つめた。

 そこにあるのはただのぬいぐるみだった。


「モルルン!?」


 チェルシーは慌ててぬいぐるみを揺さぶった。

 だがぬいるぐみは喋らないし、ぴくりとも動かない。


「ジェニファー! ジャッキー!」


 隣にいた少女人形が、がくりと膝をつき、そのまま階段を転げ落ちていく。

 ナイフを振り回す少年の人形はばたりと倒れ、そのまま動かなくなった。


「やだ……やだやだやだ! モルルン! ジェニファー! ジャッキー! 動いてよ! ねえ! ねえったら!」


 人形たちは自分の分身ともいえる、無二の存在だ。その人形たちが次々に動かなくなっていく。

 チェルシーは恐慌状態に陥った。

 まだ動く人形の目を通して、チェルシーは見ていた。

 夜霧はただ歩いているだけだ。

 人形たちは命令通り、夜霧に向かっていく。そして近づくそばから動かなくなっていった。

 非常階段への扉が開き、夜霧たちが姿を見せる。

 まだ動く人形たちが、チェルシーを守るべく迎撃態勢に入った。


「やめて! もうやめて! ひどいことしないで! ごめんなさい! ごめんなさい!」


 ようやくチェルシーは攻撃中止命令を出した。そんなことにも気づけないぐらいに混乱していたのだ。


「高遠くん……なんか凄い悪者みたいになってるんだけど……」

「そう言われてもこっちは身を守ってるだけだし」


 呆れたような声が聞こえてくる。

 夜霧たちがチェルシーの目前にやって来た時点で、残っている人形は数体だけになっていた。



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