育鵬社中学歴史・公民教科書 半数以上が他社版に 反対派の運動背景か
今夏に行われた来年度から中学校で4年間使用される歴史・公民の教科書採択で、いずれかで育鵬(いくほう)社版を使っている全国23市町村のうち、14市町村が他社版に切り替えたことが12日、分かった。
全国最大の採択区である横浜市のほか、大阪市や松山市など大規模自治体も含まれ、同社は大幅に勢力を減らした。一方、山口県下関市は新規で同社版を採択した。
日本の歴史への愛情をはぐくむことなどを目的とした育鵬社版の記載内容をめぐっては、一部の市民団体や教員などが批判を繰り返している。元教育委員や専門家は、そうした反対派による組織的な不採択運動や、批判を恐れて無難な判断に流れがちな採択の実態が、“育鵬社離れ”の背景にあると指摘している。
採択権限は国立と私立は校長、都道府県立と市区町村立は教育委員会にある。そのうち現行で育鵬社版の歴史・公民のいずれかを使用している市町村の結果をみると、神奈川県では、ともに3回連続で育鵬社版を選んできた横浜市と藤沢市が不採択となった。
大阪市は、市を廃止して特別区を設置する「大阪都構想」の区割り案と同じ4区域別に選定し、いずれの区域も他社版に切り替えた。大阪府内では同市や東大阪市など5市が育鵬社版を使っていたが、泉佐野市を除いて全て他社版を採択した。松山市など4市町が育鵬社版を使っていた愛媛県では、いずれも他社版に切り替えた。
一方、石川県内で育鵬社版を使っていた金沢市、加賀市、小松市はいずれも同社版を継続し、栃木県大田原市や山口県岩国市も同社版を維持。尖閣諸島が中国公船の脅威にさらされている沖縄県石垣市(与那国町と共同採択)なども引き続き同社版とした。
勢力を大幅縮小した同社版のほか、日本の歴史をことさら悪く描く自虐史観を排することを目的とする「新しい歴史教科書をつくる会」が主導した自由社の歴史教科書が、今年3月に結果が公表された中学校の教科書検定で、規定の割合を超える数の検定意見が付き、不合格となった。
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教科書採択 学校で使用する教科書を決めること。国立と私立は校長、公立は市区町村や都道府県の教育委員会に権限がある。小中学校は原則4年ごとに実施。教委では教育長と数人の教育委員が協議や採決で決定する。あらかじめ教委事務局が教科書を調査・研究し、指導・助言・援助する。調査員として選ばれた教員による調査結果を基に、校長や教員、教委関係者、保護者、学識経験者らによる教科書選定審議会で答申をまとめ、それをベースに教育委員が可否を検討するケースがほとんど。教育委員が現場の意向を追認する傾向が強いとも指摘されている。