行って参りました、池袋リブロ。
「マイナー界のメジャー」なんて異名を取る諸星大二郎。
5月の「不熟」発売記念原画展からこんなに短期間でまた観ることができるとは。
伝説は数知れず、巨匠・手塚治虫が「諸星大二郎の絵だけは真似できない」と言ったとか、
「生物都市」が手塚賞を受賞したとき、新人としてはあまりのレベルの高さに盗作疑惑があったとか。
特集を組めば、萩尾望都、山岸涼子、高橋留美子、江口寿史、
吾妻ひでお等、名立たる漫画家さんたちが寄稿する。
きっと同業者さんたちからの憧れや尊敬も集めるのだろうな。

5月のときよりずっと規模が大きくて、
カラー原画はもちろん、切り絵も!(「西遊妖猿伝」の見返しのイラストは本当に切り絵だったのね)。
「西遊妖猿伝」を初め多数の作品の生原稿を思ったよりたくさん見ることができました。
↓ 「マッドメン」のこのカラー絵の原画は印刷のベッタリした感じと違って
いい感じに靄がかかっていて綺麗でした。
やっぱり原画は違うなー。
5月に見た「陋巷に在り」の挿絵の雨のイラストもそうだったけど、
あのモヤッと煙る良い味は印刷してしまうと出ないのですね。

そして、予想通り物販で迷う。
まだ読んでいないのもあるし、そして、そして、
「マッドメン」をすごく久々に読みたかったんですよねー。
何度も版を変えて6版目で「これが最終」という(本当か?)
最近のコミック本は高いよなあと思いつつ、それはともかく
400ページもある漫画を一冊にまとめてくれなくても‥。
お、重いよ、辞書みたい。
この厚さ、絶対真ん中からバリッて割れるんだよね、と思いながら、
あと迷いに迷って「私家版鳥類図譜」と短編集「彼方より」を買いました。
重かった‥。

宮崎駿「天空の城ラピュタ」の滅びの呪文「バルス」は、
諸星氏の「マッドメン」の中に出てくる「バルス」(飛行機を意味する)
という言葉から取ったそうです。
日本とパプアニューギニアを舞台に、世界に分布する神話の共通点をリンクさせて、
文明と自然や迷信の対立・共存を描いていますが
(「もののけ姫の元ネタももしかして?)
70年代にこういうのを描いていたのはやっぱ凄いですねえ。
↓ 「西遊妖猿伝」はもちろん西遊記ベースですが、
悟空が魅入られ、悟空に力を与えた無支奇(むしき)は、
決して正義の味方ではなく、悪政に苦しむ民衆の怨念を吸い寄せて大きくなる魔物で
悟空の力は一旦暴走すると止まらない、敵味方もなく皆殺し。

行く先々で偶然関わる僧・玄奘。悟空から見ると邪魔な坊主、
玄奘から見れば禍の種、互いに避けたい相手であるのに、
玄奘の経がなぜか悟空の意識をコントロールすることができる。
冒険活劇と言ってしまうと軽い感じがするけれど、おどろおどろしさ満載の大活劇。

不気味だけど憎めない妖怪・通臂公(つうひこう)、
孤独に戦う美少女・竜児女(りゅうじしょ)、
虫を操る七仙姑(しちせんこ)、
男狂いの地湧(ちよう)夫人、
茶目っ気と明るさを添える色と欲の悟能(猪八戒)など、
登場人物もみんな魅力的なんですよね。

↓ お恥ずかしいことに「カオカオ様が通る」を今まで読んだことがなくて、今回初めて読んで、またしても新たな衝撃。
(短編集「彼方より」収録)

カオカオ様という存在は謎で、
カオカオ様に対する人々の反応は土地や民族によって様々なのですが、
何より印象に残るのは、
「あまりに美しいものを見ると感動して死んでしまう」タパリ人であります。
タパリ人の少年シュム曰く、
「感動しているときが一番幸せだから、幸せなまま死にたいから」
シュムと一緒に来たお父さんもカツリ山の景色があまりに美しいので
その場で飛び降りて死んでしまったそうです。
ガイドとして雇ったシュム少年と一緒に旅する「私」。
シュムの故郷タパリ村へ戻り、シュム少年のお父さんがカツリ山で死んだというと
みんな心から「そりゃあ良かったねえ」と言ってくれるのです。
美しさには感動したけれど、死ぬほどではなかった「私」は
死ぬほど感動できるタパリ人がちょっと羨ましいのです。

「塔に飛ぶ鳥」(「私家版鳥類図譜」収録)は
確か雑誌に掲載時一度読んだ記憶が。
管理された平和で幸福な世界。
外側には見てはいけない「虚空」。
禁じられた外の世界へ、どうしても惹かれる気持ちを抑えられず
禁忌を犯して飛び出してゆく主人公というのは
諸星作品で度々登場するモチーフですが、
その中ではこの「塔に飛ぶ鳥」が特に好きかもです。
世界が球体ではなく円筒形で、世界や光はその内側にあり、
外側の空と、空を飛ぶ鳥は忌むべきもの。
外へつながる壁の穴が女性器のような割れ目の形をしているのは
「異界録」の洞窟の入り口などにも見られます。

そういや、私が「
花緑青と猩々緋」という、
時代設定がまるで不明(いいかげん)な話の中で書いた
猩々緋のモデルは
「西遊妖猿伝」に登場する百花羞(ひゃっかしゅう)姐さんでした。
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