「害悪」扱いの風潮、もうやめませんか?
同氏(と見られるID)は、むしろピーチの対応こそ問題であると主張しており、ピーチの言い分、そしてNHK等の報道に対しても納得していない。これについては私は男性にエールを送りたい。マジで日本人のこの「長いものに巻かれろ」的姿勢って何なの?
いちいち「自粛命令出してください!」みたいにお上に懇願し、遊び歩いている人間がいたら「自粛せよ!」と「自粛警察」が登場するし、「他県ナンバー狩り」なんてものも登場する。東京から山梨の実家に帰省した女性が陽性者だった場合は猛バッシングをし、彼女のことを特定しようとする。青森に帰省した東京の人は「早く帰れ」と貼り紙を家に貼られる。
で、こうした批判をしている皆様方、あなたの周りに陽性者はいましたか? 私はとんでもなく知り合いが多いし、毎晩飲み歩いているけど、感染していません。そして知り合いにも一人も陽性者はいません。
いい加減に陽性者を「悪魔」「害悪」のように扱う風潮、やめませんか? 別に陽性になった人だってなりたくてなったわけでもないし、慎重に生きていたと思うんですよ。でも、日本社会を覆う「空気」ってヤツがこの方々を「ふしだら」「バカ」「クズ」「カス」「死んでお詫びしろ」のように扱ってしまう。
「面倒臭い人」かもしれないけれど…
今回の騒動の渦中の男性に対しては、他にも「機長に直談判すべくコックピットに乗り込んだ。これではハイジャック犯ではないか」といった説も登場したが、本人のツイートによると「あくまでも前方の客質乗務員の詰所で話すために行った」とのことだ。また「大声をあげた」などと報じられたことについては、「元々私は声が大きい」と説明している。他にも同氏はこうツイートしている。
〈「エチケットを守らない」「空気を読まない」人を過剰に追いやる風潮が問題です。〉
〈我々の社会が長年に渡って築き上げてきた自由や尊厳や寛容が、コロナ禍で過度の全体利益の蜃気楼の下に、いとも簡単に手放されそうとしている現状は大変残念です。アフターコロナの時代に禍根を残すと思います。〉
同氏に対しては「時計が安物」といったどうでもいい批判まで書き込まれ、どんだけお前らマスクが好きなんだよ、と思う次第である。マスクをしない人間はいちいち持ち物までdisられなくてはいけないってどんだけ世紀末だ。
常に敬語でツイートをし、冷静な分析をする同氏は多少は「面倒臭い人」かもしれない。ただ、同氏の理路整然とした言い分を見ていると「あなた、いいこと言うじゃん」と思ってしまったのだ。むしろ彼を批判する人々が完全に飼いならされた家畜のごとき「人畜」になっているとさえ思うようになった。
マスクは局部を隠すのと同じレベルになった
実際、コロナの陽性者については日本の人口の0.06%でしかない。それなのに飛行機の中ではマスク着用率100%を求められるし、路上でも9割方は着用している。しかも、死者も1412人(9月11日現在、厚生労働省調べ)で、高齢者が多いだけに「コロナで死んだ」というよりは「肺炎で死んだ」ことである。それなのに「コロナ関連死」と扱われてしまう。年齢階級別の陽性者は20代が突出して多いが、20代の死者は2人だけだ。
今回の男性の行為は決してホメられたものではないが、「皆さん、コロナごとき過剰に騒ぎ過ぎていませんか? そして、暑いのにマスクをつける人生って理不尽じゃないですか?」という「正義感」から行った行為だと私は解釈している。もはや今の時代、マスクで口と鼻をおおうことは、パンツとズボンやスカートをはいて局部を隠すのと同じレベルになってしまったのだ。
リスクが少ないにもかかわらず、鼻と口を隠すような人生はおかしい。
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中川 淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
ネットニュース編集者/PRプランナー
1973年東京都生まれ。ネットニュース編集者/PRプランナー。1997年一橋大学商学部卒業後、博報堂入社。博報堂ではCC局(現PR戦略局)に配属され、企業のPR業務に携わる。2001年に退社後、雑誌ライター、「TVブロス」編集者などを経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』『バカざんまい』など多数。
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(ネットニュース編集者/PRプランナー 中川 淳一郎)