第197話 中央大陸の要塞①
アレン達は今、ティアモの街の少し開けた広場にいる。
今日はここからアレンだけが分かれて行動する。
「ねえ、結構置いていってくれるのは助かるけど、そっちは大丈夫なの?」
「多分いけると思う。というか、せっかくの新スキルなんで、置いていかないと勿体ない。海上ではアリポンは戦えないし」
「そ、そう」
アレンはこれからラポルカ要塞に召喚獣を配置しに行く。
残りの枠を使って、南進して来る魔王軍を打ち滅ぼそうと思っている。
(魔王軍は本気みたいだからな。残った軍もラポルカ要塞攻略に動かすみたいだし)
ラポルカ要塞の北側には100万ほどの魔王軍がいる。
アレン達がローゼンヘイムにやって来てから200万近い魔獣を倒してきたが、まだ100万体ほどの魔獣は健在だ。
どうやらその100万の軍勢もラポルカ要塞攻略に当てるようで、続々と集結しつつある。予備部隊のうち300万の軍勢とタイミングを合わせて攻めて来ると予想される。
アレンは最近元気のないドゴラを見る。
クレナも凹んでいたが、ドゴラもグラスターとの戦いでエクストラスキルを発動できず悔やんでいるように見える。
「ドゴラ」
「ん?」
「俺はドゴラのエクストラスキルに期待しかしていないからな」
「な!? お、おまえ」
ドゴラは何故さらにプレッシャーを与えるようなことを言うのかと思い、驚きの声を上げる。
「ドゴラのエクストラスキルは、多分名前的に魔力を全消費して攻撃する技だと思っている。前にも言ったが多分その一撃はパーティー最強の一撃になると思う。それはセシルのプチメテオを超えた一撃になるぞ」
「あ? セシルのプチメテオを超えるってマジか?」
皆が黙って聞いている。
アレンは更に説明をする。
魔力消費が多ければ多いほど、1回の攻撃は強くなる。
ドゴラは武器と指輪を合わせて8000近い攻撃力がある。
この数字はセシルの知力に確かに劣る。
しかし、セシルの小隕石はあくまでも全体攻撃だ。
同じ魔力消費なら、単体攻撃と全体攻撃で比較すると、単体攻撃の方が威力が高くなることが多いとアレンは経験で知っている。
「そうだ。全ての魔力を使い、全身全霊で相手を叩きのめすドゴラらしい技だ。ぜひこの戦争で体得してくれ。俺はエクストラスキル使えないし、お前らが思っているほど強くないからな。皆の力が大事なんだ」
少しでもエクストラスキルのイメージをつかんでほしいと説明する。
「強くないだって? あんだけ魔獣を倒しまくってそれはないだろ?」
「そうだ。言い方を変えると、強さの方向が皆と違うと言ったところだ。俺の召喚獣は1撃がドゴラやクレナより軽いんだ。数が多いから魔獣をたくさん倒せて強く見えるけどな」
アレンは決して自らも召喚獣も強いと思っていない。
グラスターを倒したのは結局エクストラスキルを発動したクレナの攻撃だ。
アレンの召喚獣の攻撃では、あまりダメージを受けていなかったように見える。
攻撃力8000のドゴラの攻撃は竜Bや獣Bの攻撃力を超える。
仮にノーマルモードの星1の職業でも、アダマンタイトの武器と防具で揃え、ステータスを1000増やす指輪を2つ着ければ、強化と指揮化をしたBランクの召喚獣を超えた力を手にできる。
「これから別行動するけど、その辺りを意識して戦ってくれ」
(まあ、エクストラスキルは人によって体得まで2、3年かかるらしいからな)
ドゴラとは6歳のころからの仲だ。
言いたいことはガンガン言うようにしている。
そして、学園で習ったが、エクストラスキルの覚えの良さは人によって違う。
中には体得に2、3年かかる者もいるという話を担任から聞いた。
アレンはそこまで言うと、体長が倍になった鳥Bの召喚獣を出す。
そして、4体の鳥Bの召喚獣をここに置いていく。
アレンはこれから1人で、ラポルカ要塞に召喚獣を一部配置してから海洋を目指す。
アレンの仲間はこの4体の召喚獣に乗って、魔導船でラポルカ要塞に移動するエルフ軍の手助けをする。その後ラポルカ要塞での攻防戦に備える。
仲間達が見つめる中、アレンは北へ飛び立って行く。
アレンは1人でラポルカ要塞に飛び立ちながら、霊Bの召喚獣のうちの1体に意識を傾ける。
(さて、もう余裕がほとんどないな。これから100万の敵と戦わないといけないからな。エリー、そろそろやってくるか?)
そう共有した意識でアレンが問いかけると、霊Bの召喚獣から応答がある。
『そろそろかと。個室に呼び出しましたがよろしいデスか?』
(問題ない)
霊Bの召喚獣を通して、とある個室の中の様子を確認する。
木造で、蝋燭の灯りがともったその場所は、6畳ほどの狭い部屋だ。
「ごめんごめん、遅れちゃったよ」
すると、個室の扉が開き、水色の髪の青年がへらへらしながら中に入ってくる。
そして、その後ろから青年と同い年くらいの鎧を着た女性も入って来る。
『いえ、それは問題ありません。しかし、ヘルミオス様。お一人で来ていただくようお願いしたつもりデスが?』
霊Bの召喚獣が、部屋に入ってきた勇者ヘルミオスに対して明らかに不満げな声を上げる。
「ごめんよ。多分僕1人で聞くより、シルビアが一緒に聞いた方が、話が早いと思ってね。彼女は僕のパーティーメンバーなんだ。安心してほしい」
(シルビアって誰だっけ? 見たことあるぞ。ああ、ドベルグと一緒にやって来た帝国の剣聖か。そうなのか勇者と一緒にパーティーを組んでいるのか。エリー、来たものはしょうがない)
アレンは霊Bの召喚獣に、ヘルミオスと話があるので呼び出すようにお願いをした。
あまり公に行動を明かしたくないのでヘルミオスだけを呼んだのだが、同じパーティーの剣聖シルビアも部屋にやって来た。
『分かりました。アレン様も別に構わないと言っています』
「そっか。アレンもこの会話を聞いているんだっけ? ローゼンヘイムはどう?」
(相変わらず軽いな。まあ、俺も重たい会話よりこっちの方が助かるけど。エルフの将軍との会話は、年のせいか重たすぎるからな)
『ローゼンヘイムの状況デスが……』
アレンは霊Bの召喚獣を通して、ローゼンヘイムの現状を勇者たちと共有する。
ローゼンヘイムにやって来て20日ほど、魔王軍との戦いが続いている。
エルフ軍も持ち直し、現在200万体ほどの魔獣を倒したこと。
ラポルカ要塞を奪還し、戦線を押し戻したこと。
これから海路と陸路合わせて500万の軍勢が攻めて来ること。
「たった20日で200万の軍勢を……」
シルビアが、霊Bの召喚獣の話に信じられないという風な感想を漏らしてしまう。
勇者とパーティーを組む剣聖であっても考えられない規模の数字のようだ。
「それだけ倒せるなら、中央大陸にアレン君が来てくれれば、ほぼ勝利は決まったようなもんだね。それにしても、魔王軍の予備部隊は全て移動したっていう話は本当だったんだ」
『そのとおりデス。よって、中央大陸には予備隊が来ませんので、今やって来ている魔王軍を倒したら勝利デス』
(まあ、中央大陸も結構厳しい戦いをしているからな。俺が渡した回復薬じゃ魔力は回復しないし)
「確かに。ただ魔王軍はしぶといからね。今回の戦いは少し長引きそうだ。それにしても、戦っている時、急に回復するのはアレン君のお陰なんだね」
(まあ、中央大陸は結構苦労しているからな)
アレンは60万個にも及ぶEランクの魔石から作った命の葉を渡した。
お陰で魔王軍との戦いにおいて、回復役であるエルフの部隊がいなくなっても、5大陸同盟軍の要塞は、今のところ1つも落とされずに持ち堪えている。
命の葉は半径50メートルの範囲で体力1000回復するが、魔力は回復しない。
魔力は回復しないとなると、どうしても魔王軍との戦いで、魔力消費を抑えて戦うことになる。
この辺りが、中央大陸で苦戦している原因だとアレンは思っている。
アレンは、命の葉以外にも召喚獣達を中央大陸北部に向かわせた。
魔王軍との戦いで少しでも力になるためだが、そんな召喚獣も1体、また1体と倒され、現在霊Bの召喚獣4体と鳥Eの召喚獣1体のみとなった。
霊Bの召喚獣には要塞の壁の中に潜んでもらい、タイミングを見計らって持たせておいた天の恵みを使わせている。
エルフ軍が使用する天の恵みに比べてとても少ないが、どうしてもというときに使い、要塞の崩壊と兵達が死ぬことを防いでいる。
そんなことを10日ほど繰り返しているので、5大陸同盟軍の中では、何か分からない奇跡の回復として結構な騒ぎになっている。
呼び出す時に、このあたりの話もしている。
『エルフの霊薬を使っているだけデスので。上層部には上手に説明をしておいてください。その上で、ヘルミオス様にお願いしたいことと確認したいことがございますデス』
「もちろんだよ。何だい?」
簡単に現状を確認したので、話の本題に入る。ヘルミオスと霊Bの召喚獣の会話が続いていく。