コロナと政権 現場の声に耳澄ませて

2020年9月12日 07時35分
 新型コロナウイルス感染症対策のかじ取りは新政権に移るが、安倍晋三政権の対策は、現場の要請とのずれが目立ち、対策を進めるために情報を公開して理解を得るという努力も不十分だった。
 未知のウイルスである新興感染症への対策を取るには、最前線に立つ現場の声をよく聴き、情報を公開し、対策の趣旨を丁寧に説明することが前提になる。安倍政権はそれが決定的に欠けていた。
 最初にそう感じたのは二月に一斉休校を決めた時だ。休校措置が感染の拡大防止に必要だったのか、感染症の専門家から意見を聞かないままでの決定だった。
 急な対応を迫られた教育現場からの意見を事前に聞いたとはとても思えない。休校の間、子どもたちの学ぶ権利をどう保障するのか、準備する間もなかった。学童保育や保育所も開所を続けるのか対応を巡り混乱した。
 休校中の子どもが家で過ごすことになって保護者の就労に支障が出るなど家庭への影響も大きかったが、混乱を想定し、対策を講じたようには見えない。
 一人十万円の現金給付も金額や対象者が唐突に変わった。マスクの配布も必要性に疑問が出た。いずれも現場のニーズを十分にくみ取った決定ではなかろう。指摘される検査体制の不備も、現場の状況をより的確に把握していれば、検査を加速できたのではないか。
 感染状況に危機感を持つ自治体からは、政府の権限が強く、独自の取り組みがしづらいとの声が上がる。八月に首相が公表した新たな対策パッケージに対しても、全国知事会からは地方の意見を聞くよう求める意見が出ている。新政権はもっと地方と連携すべきだ。
 情報公開も不十分だ。専門家会議の議事概要は公開されたが、決定過程が見えてこない。感染症対策分科会に衣替えしても、この状況は変わっていない。
 政府には、国会から求められれば、情報を開示して説明する責任があるが、野党が国会審議を求めても閉じたままだ。安倍首相自身も会見を開かず、積極的に説明しようとする姿勢に欠ける。
 政府のこうした姿勢こそが、新型コロナへの国民の不安をさらに増幅させているのではないか。新政権はまず、不安解消に最優先で取り組むべきだ。
 対策を進めるには自治体や国民の協力が不可欠だ。幅広く意見を聞き、情報を開示し、理解と納得を得る。そうした努力をしなければ感染症の封じ込めは難しい。

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