[PR]

 安倍政権は、2回消費増税に踏み切りながら、財政健全化を確かなものにできなかった政権として、歴史に刻まれるのではないか。

 2段階の消費増税法は民主党政権が成立させたが、実施するかどうかは、その時の政権の判断が大きい。増税の結果、国の基礎的財政収支(PB)の赤字は、2012年度の26兆円が19年度は14兆円と、半分近くに減った。財政状況が一定程度改善したのは事実だ。

 だが、コロナ禍までは大きな経済危機がなく、戦後2番目の景気拡大が続いたことは見逃せない。戦後最長の安定政権だったことも考えれば、財政健全化に取り組む姿勢は、不十分だったと言わざるを得ない。

 安倍政権は、民主党政権から「20年度にPB赤字ゼロ」という財政健全化目標も引き継いだ。22年から団塊の世代が75歳になり始め、社会保障費がさらに膨らむと予想される。その前に、赤字まみれの財政を立て直すはずだったが、18年に目標年次を25年度に先送りした。

 もともとこの目標は、2度の増税だけでは達成できないことが明らかだった。政権発足直後の13年夏に内閣府が公表した試算では、20年度に10兆円超のPB赤字が残るとはじいていた。抜本的な歳出削減やさらなる増税が不可避なことを、示していたことになる。

 ところが安倍政権は、景気への懸念を理由に増税を2度延期した。さらに10%への増税に踏み切る際は、赤字削減に使うはずだった増収分の一部を突然、高等教育や保育の無償化などに振り向けた。いずれも国政選挙を有利に戦うための戦略とみられた。10%への増税後は「10%超」の論議を封印した。

 一方で、毎年のように景気対策を繰り返し、歳出削減に本格的に取り組むことはなかった。

 安倍首相は「経済再生なくして財政健全化なし」という。確かに景気に配慮することなく増税や歳出削減を進めれば、景気が落ち込んで税収が減り、逆に財政が悪化しかねない。

 だが、安倍首相が掲げたのは名目3%、実質2%の経済成長だ。人口減で潜在成長率が1%以下に低下したなか、「夢物語」のような成長率を前提に、甘いシナリオを描いたことは、無責任のそしりを免れない。

 高齢化の進展は、政治の判断を待ってくれない。打つ手が遅れるほど、子どもたちの世代が背負う負担は大きくなる。

 コロナ対策で今年度の新規国債の発行額は、空前の90兆円に達する。財政健全化への道のりは、一から練り直さねばならない。次期政権に、重い課題を残してしまった。

連載社説

この連載の一覧を見る
こんなニュースも