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「子育て不安世代」リアル年収計算してみた。世帯の6割が第1子を“産めない”現実

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子ども

子ども一人育てるのに必要な「額面年収」は?32歳のコンサル男子が計算してみた。

撮影:今村拓馬

産ませることしか考えていないのか —— 。

9月9日、安倍晋三首相の後継を決める総裁選に出馬する岸田文雄政調会長が「出産費用ゼロ」を目指す考えを示した。前日の9月8日には菅義偉官房長官が不妊治療への保険適用に言及。

2019年についに90万人を割り込み、「86万人ショック」と呼ばれる史上最低の出生数となった少子化対策は、次期政権が真っ先に取り組まなければならない課題だ。

一方でその政策の方向性には、SNS上で疑問の声が多く上がっている。不妊治療費や出産費の補助も必要だが、まず大きな負担となっているのは、子育て費用では?

そんな中、筆者に「子育て費用のリアルな数字」について話しませんか?と持ちかけてくれたのが、複数の企業を運営するコンサルタントのタカシさん(32、仮名)だった。

タカシさんは1歳になる子どもが一人いるが、ある日子育てに必要な経費をざっくりと計算してみて、その負担の大きさに衝撃を受けたという。

オンライン上で対面したタカシさんは、スプレッドシートで作られた自作の表を、おもむろに画面共有してくれた。

子育て費用

タカシさんが計算した、子育てに必要な経費と、そこから算出した必要年収(タップすると拡大表示します)。

図:取材者提供

子育てスタートは「世帯年収・584万円」から

子育て世帯に必要な年収

図:複数情報をもとにBusiness Insider Japanが作成

タカシさんが自作した表にはまず、子どもが0歳から22歳になるまでの、子育てと生活に必要な経費を合わせた「必要手取り」と「必要年収」が示されている。

子育てに必要な経費は、未就園児の年間が85万円、保育所・幼稚園児と小学生が120万円、中学・高校生は160万円。大学生は「バイトしてもらう」として年間120万円に設定されている。子育ての細かな支出先は小学館の子育てサイト「HugKum(はぐくむ)」を参考にしたという。例えば、HugKumに示されている未就園児の内訳は以下だ。

未就園児(年間):合計843225円

1位:子どものための預貯金・保険(199402円)
2位:食費(166387円)
3位:生活用品費(149425円)
4位:レジャー・旅行費(97127円)
5位:衣類・服飾雑貨費(68754円)
6位:保育費(62790円)
7位:お祝い行事関係費(59882円)
8位:学校外教育費(15635円)
9位:医療費(11867円)
10位:学校外活動費(11449円)
11位:おこづかい(487円)
12位:子どもの携帯電話料金(21円)
13位:学校教育費(0円)

HugKum「調査から判明!年齢別「子育て費用」シミュレーションで月々の総額を計算しよう」より

なお、この内訳は2009年に内閣府が実施した『インターネットによる子育て費用に関する調査』を参考にしているため、児童手当、幼児保育無償化(2019年10月施行)、高等教育無償化(2020年4月施行)などは含まれていない。

タカシさんも「あくまで思考を整理するための、ざっとした概算」だと言い添える。

ここに家賃や外食費など、夫婦に必要な生活支出を足し合わせ、必要な年収(シンプルにするため、必要な手取りの2割増しとした)を算出した。

タカシさんの試算では、子ども1人を育てるために必要な額面での世帯年収は、0歳時点で584万円。第2子が3年後に生まれると想定した場合、必要な世帯年収は829万円。さらに3年後に第3子を……と考えると、その額は1002万円へと跳ね上がるという。

子育て費用

子ども3人を育てると想定した場合の必要な手取りと、額面で必要な金額。

図:取材者提供

一番お金がかかる時期が、3人の子どもが中学生から大学生となる6年間。タカシさんの試算では、その6年は世帯年収が1140万円必要、と算出している。なお、これは子ども全員が小学校から大学まで公立へ通う想定だ。

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共働きでも給与額面35万円は必要

子ども二人が中学から高校の時必要な年収

図:複数情報をもとにBusiness Insider Japanが作成

さらにタカシさんの解説は続く。夫婦が共働きとして、それぞれがいくら稼がなければならないか?

フルタイムかつ、妻より夫の方が稼いでいるモデルを仮定する(女性の方が平均約3割低いという、日本の男女間賃金格差を考慮した)。

ScreenShot91

3人の子どもを育てるための必要額面年収を夫婦で割ったもの。緑の部分が、共働き・フルタイムの場合の必要年収(タップすると拡大表示します)。

図:取材者提供

先ほどの必要世帯年収を夫婦で割ると、最初の第1子誕生の時こそ351万円(夫)、234万円(妻)だが、その負担は年々大きくなっていき、子どもが中学から高校の時期にかけては600万円台(夫)400万円台(妻)の収入を維持しなければならない。

子どもが3人いると仮定すると、彼らが中学から大学の時にかかる期間は、最高で夫が684万円、妻が456万円の額面年収が必要になることがわかった。額面月収に直すと53万円(夫)35万円(妻)だ。子どもが2人の場合でも、最高で必要な年収は598万円(夫)398万円(妻)。あくまでタカシさん個人の理想に基づく試算ではあるが、45歳から50歳にかけてこの年収に達していないと「ゆとりある子育て」は厳しいということになる。

子育て費用

子ども3人を育てると想定した場合の、夫婦に必要な年収分担。一番高い6年間は684万円と456万円だ。

図:取材者提供

この現実を直視できている人って、どれくらいいるんですかね?

タカシさんは、自嘲気味に笑う。

年収551万円以下の世帯が約6割

出生率

平均所得金額である551万円以下の世帯は約6割だ。

出典:平成29年国民生活基礎調査(厚生労働省)より

実際にどれだけの人がこのタカシさんによる“想定年収”に達しているのだろうか?

厚生労働省が2018年に発表した「国民生活基礎調査」によると、日本の世帯当たりの平均所得金額は551万6000円だが、それ以下の人口の割合は61.5%となっている。つまり、先ほどタカシさんによって試算された第1子を産むために必要な世帯年収「580万円」に達している世帯は、少なくとも4割以下しかいないことになる。

さらに細かく数字を追っていくと、男性にとって厳しい現実が見えてきた。

30歳から34歳の男性の賃金分布。

図:厚生労働省「賃金構造基本統計調査」を元にBusiness Insider Japan作成

2019年に厚生労働省が発表した「賃金構造基本統計調査」によると、30歳時点で先ほどの夫婦共働き・フルタイムの場合の、夫側の必要年収(タカシさん試算、351万円)に達している男性の割合は約2割。この状況では、多くの男性が子どもを持つことを躊躇してしまうのも頷ける。

ちなみに、男性でこの年収に達する割合が半分を超えるのは、45〜49歳以降だ。

女性は、最初こそ必要年収(タカシさん試算、234万円)に達している30歳の割合は約6割だが(それでも自分より稼ぎの良いパートナーを探さなければならないというハードルはある)、子どもが育つに連れ、上がっていく必要年収に達する割合は小さくなっていき、45歳時点で必要な年収(タカシさん試算、456万円)に達している割合はたった6.3%しかいない

30歳から34歳の女性の賃金分布。

図:厚生労働省「賃金構造基本統計調査」を元にBusiness Insider Japan作成

もちろん、政府が子育て支援に、何の手も打っていないわけではない。

安倍政権は、消費税率10%への引き上げ分を財源に、幼保無償化、高等教育の一部無償化に踏み切った。また、9月14日に投開票される自民党の時期総裁選では、女性活躍・子育て政策が一つの争点になっている。

それでもタカシさんの試算からは、子育て環境と経済状況に、決して安心感を持てない子育て現役世代の不安が、ありありと伝わってくる。

タカシさんは取材の最後をこう締めくくった。

出生率が上がらないのは、子育て世代が(ゆとりを持って)子育てするのに必要なお金を手にしていないからだということは、統計を見れば明らか。僕は投資も貯金もして準備していますが、それでも“2人目の壁”を感じるくらいには不安です。政権には誰も、この必要経費を計算してる人はいないんですかね?

(文・西山里緒)

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