機獣戦記ZOIDS カース・オブ・ニカイドス   作:羽なし

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いまどきゾイドインフィニティなんてものを覚えている人はいないんだろうなぁ

時代ですなぁ


第六話 月下の疾走

  

 悲鳴と絶望の夜に終わりを告げる朝焼けが、マリネリスの遺跡達を照らしている。

 東から降り注ぐ陽光を背に、それは揺るぐこともなく立っていた。

 

 「待たせて悪かった」

 

 静かに告げるのは男の声。かすかに振り向いて見せるのは、血のように赤い双眸。

 

 「もう、泣かせない……っ!」

 

 決意の声とともに、それは疾走を開始する。

 

 

 

 時刻は深夜にさかのぼる。

 島に住む人々どころか、獣たちすら避けて通る険しい地形があった。起伏が激しい上に、太い木が多くまたその間隔も狭い。夜の闇を抱いて沈黙するそこを、強引に突っ切っていく二つの機影があった。

 先を行き森に道を造るのは赤い機影、エナジーライガー。それに続くのは黒い機影、ジェノザウラーだ。

 追随するジェノザウラーから、ロイが声を飛ばす。

 

 「なぁ! 本当にこのルートでたどりつけるのか!?」

 「間違いありません、最短ルートです!」

 

 エナジーライガーを駆る少女、カナンが声を張り上げる。自信に満ちた声だったが、しかしロイはそれを信用できずにいた。

 ことの発端は十数分前。すり鉢遺跡で正規軍のエナジーライガーを粉砕した少女カナンは、ロイに対し彼も知らない身の上と、仲間の危機を伝えてきた。そして有無を言わさず、ロイを連れてこの密林に飛び込んだのだ。

 

 「あなたの仲間がいるマリネリス遺跡への近道です!」

 

 そうは言ったが、しかしカナンの言う『近道』は『目的地に早く着ける』という意味ではなく『物理的に最短距離』という意味だった。その結果がこの道無き道を行く強行軍だ。

 

 (ゲリラ戦隊でよかったぜ……並のパイロットなら何かに引っかかって大惨事だ)

 

 まるで悪意ある何者かによって設置されたかのような岩を飛び越えつつ、ロイはそんな風に思考を走らせていた。常日頃から障害物だらけの地形を駆けめぐっている者だからこそできる芸当だった。

 

 (しかし……呪いだと?)

 

 思い出すのはカナンが告げた単語。軍隊に入って八年になるロイだが、ここ最近呪いなど、思い浮かべたこともなかった。

 

 (いや、どうだかな)

 

 『思い浮かべたこともなかった』か? どうだろう。仲間を失うたびに嘆いた自分は、本当に呪いなど思い浮かべなかったか? そんなはずはない。

 

 (現に今の俺はあいつ、カナンの言葉にほとんど納得してるしな)

 

 前を行くエナジーライガーを見つめ、ロイはそう合点した。と、正面スクリーンの端に再び通信ウインドウが開き、カナンが映る。

 

 「ロイさん、飛びますよ」

 「……あ?」

 

 次の瞬間、二機は高さ百メートルはあろうかという崖の上から跳躍していた。

 

 「……ったく、俺の反応が人並み以上に良くて、しかも乗ってたのがジェノザウラーでよかったよ」

 

 息も絶え絶えに、ロイは何とかそう告げた。振り向くと、遙か後方に先程の断崖がそびえている。あの上から飛び降りたと思うと、寒気がした。

 

 「でも、さっきシドニアではもっと高いところから落っことされてたじゃないですか」

 「移動速度が違うわ! さっきと今のじゃ保有する運動エネルギーがだなぁ……!」

 

 詳しく説明しようとして、やめた。カナンの年齢は本人曰く十四歳で、まだこの話の主題となる『水平投射』は知らないはずだからだ。いや、それだけではない。

 

 「しかしどーするよ。これ」

 

 視線を戻すと、目の前には木々を切り開きプレハブとテントを並べた簡易拠点があった。突き立つ国旗は共和国のそれであり、歩哨のゴドスが黙然と突っ立っている。

 

 「大した基地じゃないです。突っ切りましょう」

 「バァカ。よく見ろ」

 

 そう言うと同時、ジェノザウラーが視線を動かす。その先には待機姿勢のケーニッヒウルフが五機。全機がミサイルポッドとDSR……デュアル・スナイパー・ライフルを装備している。

 

 「……あれがどうかしましたか?」

 「ケーニッヒのがジェノザウラーよか優速だ。追撃かけられたら振り切れないし、しかも向こうは狙撃し放題だ。見つかるわけにはいかないぞ」

 「でも、迂回してたら間に合いませんよ?」

 

 ロイは右腕の腕時計に視線を落とした。午前四時七分。シドニアを脱出してから相当に時間が経過している。

 

 「急がないと、手遅れになってしまいますよ」

 

 手遅れ……それが示すことはロイにとって明白だ。それはつまり、ウェイン達を失うと言うことだ。

 そう思った途端、血が沸騰したかのような感覚がロイを襲う。汗が、吹き出した。

 

 「手遅れは……ダメだ」

 

 自分の声とは思えない震えた声に、ロイは内心驚いていた。だがそれとは別に、言葉は続いている。

 

 「やむを得ないか……突っ切る」

 「はい」

 「だがケーニッヒも潰すぞ。アレを倒さないことには、マリネリスにもたどり着けない」

 「わかりました。手伝います」

 

 待ちくたびれたようにジェノザウラーが低く唸り、そして二機は飛び出した。

 

 

 

 こんな夜中になんだってんだ……それが真夜中にたたき起こされた共和国軍陸軍大尉、スティブ・ボーンの第一声だった。だがそんな彼の尻を蹴飛ばし、上官は彼を愛機、ケーニッヒウルフのコクピットへ押し込んだ。

 

 「……なんだあれは」

 

 スティブの視線の先、彼のいる『第三三一補給基地』の中央、本来なら物資の納められたコンテナがあるべき場所で荒れ狂っている黒い機影があった。見慣れた機影だ。ジェノザウラー。装備が多少異なるが、ジェノザウラーであることは間違いない。

 

 「単機……いや、二機か」

 

 ろくに状況説明も受けていないので自分で確認するしかない。補給基地内にはもう一機敵がいた。エナジーライガーだ。ヘリック・ネオゼネバス戦争後期に猛威を振るった機体だが、それだけに共和国軍では対応策は考えられた相手だ。

 

 「よし、二機なら……」

 

 ZAC二一〇五年、ゴジュラスギガにまつわるあれこれのころから乗り続けている愛機は静かに起動し、排熱ファンを作動させながら起きあがった。途端、ジェノザウラーの視線がこちらに向く。

 ほう、と思わずため息が出た。やたらいい反応だ。ジェノザウラーは振り回していたゴドスの残骸を放り捨てると、一直線に向かってくる。どうやら敵の本来の目標はこの自分たちが繰るケーニッヒウルフだったらしい。そんな名の知れた部隊でもないが、なぜだろう。

 知ったことか、敵がいる事実があるなら戦うまでだ。スティブは冷静にDSRを起動する。折り畳み式の砲身が展開し、巨大なスライドが作動し初弾を薬室に叩き込む。スコープを起こす時間は無いし、この距離では必要がない。

 

 「悪いが一発で終わらせて……ゆっくり寝かせてもらおう」

 

 呟きながら、照準と同時にスティブはトリガーを引いた。頭上で鈍い砲声。

 だが信じがたいことにジェノザウラーは放たれた高初速の砲弾を、体を傾がせただけでかわしてみせた。最小限の挙動しかしなかったので前進は止まらない。ジェノザウラーはケーニッヒウルフを間合いに捉えた。

 

 「っ……」

 

 もうこの距離でスナイパーライフルなど使用できない。飛び退こうとして、それより先に真横から衝撃が入った。視界の端にはのたうつワイヤー。

 

 「リーチが長いな」

 

 だが、圧搾空気で射出されるハイパーキラークローの一撃は軽い。念のためダメージコントロールを参照しても、装甲に爪が突き刺さってこそいるものの、このまま格闘戦に持ち込む分にはなんら問題ない。強靱な尾と脚にさえ注意すれば懐に潜られたジェノザウラーは怖くない。

 そのはずだった。だが不意に、スティブは後頭部を背もたれにしこたまぶつけるハメになった。ジェノザウラーがハイパーキラークローを突き刺したままワイヤーを引き戻したのだ。

 

 「な……!?」

 

 自分から接近させるのか? 武装を追加してこそいるが、こちらはあのケーニッヒウルフだというのに。混乱するスティブに反応する暇も与えずジェノザウラーは小さく跳躍、その足の裏でケーニッヒウルフの右顔面に回し蹴りを叩き込んだ。

 新たな運動エネルギーを与えられ転がっていくケーニッヒウルフのコクピットで、スティブは気を失う。その間際、視界の片隅に映るジェノザウラーは闇の中にその双眸だけを怪しげに輝かせていた。

 

 

 

 「どっかで見たようなパーソナルマークだったな」

 

 呟きつつ背後に転がしたケーニッヒウルフから視線を外したロイは、周囲を見渡していた。所々から煙の上がる中、動く機影はエナジーライガー以外見当たらなかった。

 

 「七分か、時間かかっちまったな」

 「…………」

 

 不満げに呟くロイに、エナジーライガーのコクピットに収まるカナンは戦慄を覚えていた。この共和国軍の補給基地は事実上物資集積所程度の規模しかないが、しかし警備する部隊が多めだった。正直な話、ここを突っ切るというカナンの判断は間違いで、実行の段階でカナン自身もそのことに気付いた。

 しかしロイは、二体程度では何もできないはずの戦力を相手に、巧みな戦術でこれを正面から倒してしまったのだ。しかもたった七分で、だ。

 

 「あなたは……」

 「ん?」

 

 次の瞬間には「どうかしたのかね?」とでも言いそうな様子でジェノザウラーが振り向いた。ジェノザウラー自身と、ロイとの間だの同調が深いのだろうか。ロイのジェノザウラーの動きはやたら人間くさく、とても兵器らしくない。

 

 「どうしたよ。早く行かないとまずいんだぜ? 案内してくれないと」

 「え、あ、は、はい」

 

 促され、カナンは我に返った。急がねばロイの仲間、つまりウェイン達が危ないし、そもそもこの拠点を壊滅に追い込んだことで周囲の共和国部隊が動き出していることも考えられる。

 

 「飛ばしますが、ついてきて下さいね」

 「ぬかせ。さっきと違ってこの手の森は慣れっこだ」

 

 次の瞬間、駆け出すエナジーライガーを追って、ジェノザウラーのスラスターが火を噴く。

 

 

 

 夜明けが近い。

 そんな時刻のマリネリス遺跡を、散発的な銃声が駆け抜けていく。

 遺跡の一角、石で舗装された古代の街並みに四機のゾイドが隠れていた。ウェイン達の機体だ。不安げなうなり声を上げ、ゲーターなどはがくがくと震えている。

 

 「もうやだぁ……」

 

 ウェインがかすれた声で呟いた。そしてそれは全員の意思を代弁した言葉だった。

 

 「何でこんな目に遭わなきゃいけないの……?」

 

 その疑問には、誰も答えられない。誰もが俯いたその時、突如として近くで遺跡の崩れる音がした。

 

 「ッ!」

 「え!?」

 

 途端、身を寄せていた古代建築の上に何かが着地した。夜空を背景にこちらを見下ろすのはバーサークフューラー。周囲にはコクピットをキャノピー式に換装したディロフォースも展開している。

 

 「う……わぁっ!」

 

 咄嗟に飛び退いたスィート機に一瞬遅れて、バスタークローが地面に突き刺さる。フューラーはバスタークローを引き抜くと、ゆったりとした動作で降りてきた。

 

 「う、うわぁ……っ」

 

 思わず後ずさるウェイン達。周囲のディロフォースがたてがみ状のシールドユニットを展開し吠え、バーサークフューラーは静かにバスタークローを展開する。まさに獲物を狩る肉食獣の群れ。

 

 「うぅ……負けない!」

 

 瞬間、弾けるようにリンのライガーゼロがバーサークフューラーへ飛び掛かった。体ごとぶつかっていき、何とかその巨体を遺跡の壁に押し付ける。が、すぐさま相手のバスタークローが襲いかかってくる。

 

 「リン!」

 

 ウェインが機転をきかせハイパーキラークローを射出し、バスタークローをむりやり握り込んだ。回転こそ封じたが、しかし相手はそのままバスタークローをライガーゼロに叩き付ける。

 

 「う……ああっ!」

 

 リンが悲鳴を上げ、それを合図にしたかのように周囲のディロフォースが一斉に動いた。その口内に備えた小型荷電粒子砲に光が灯る。

 

 「させるかぁっ!」

 「うあああっ!」

 

 スィートがディロフォースをハイパーキラークローで薙ぎ払い、ミレルはガトリングで弾幕を張る。何機かは射撃を中止し跳躍し飛び退いたが、一部は逆にシールドを展開し突っ込んできた。反発力を持つシールドでぶちかまされ、スィートとミレルは弾き飛ばされる。

 

 「スィート! ミレル! ……うああっ!」

 

 その時、ウェインのジェノザウラーはバランスを崩したたらを踏んでいた。ワイヤーを巻き取りバスタークローの動きを封じようとしたのだが、しかしパワー負けしてしまったのだ。バスタークローの奥に設置された照射口径一八五ミリの高出力レーザー発信器が、正確にジェノザウラーのコクピットを照準していた。

 

 「ウェインさん、逃げて!」

 

 バーサークフューラーを押さえ込むリンが叫ぶ。彼女のライガーゼロも、四方からディロフォースに取り押さえられ、フューラーから引き剥がされようとしていた。

 そして、ウェインは何とかバスタークローの向きを変えようとするが、できない。明らかに出力負けしているのだ。

 

 「う、うああ……」

 

 バスタークローの奥にて光が集束していく。だが、次の瞬間、突如として飛来した閃光がバスタークローを飲み込んだ。

 

 「まぶしっ……って、集束荷電粒子砲……?」

 

 何とか持ち直し、ハイパーキラークローを巻き戻したウェインが振り向く。遺跡の外、切り立った崖の上に夜の闇のように黒い機影がある。それは伸ばしていた首をもたげると、次の瞬間夜空へ跳躍した。

 

 

 

 その数分前、ロイとカナンは徐々に濃くなっていく木立の間を駆け抜けていた。

 

 「もうだいぶ近くです! あと少し、頑張って下さい!」

 「言うのは楽だがな……」

 

 長時間に及ぶオーガノイドシステムによる負荷のためか、ロイは顔色が悪かった。何とか不敵な笑みを浮かべているが、しかし浮かぶ脂汗を拭うことすら出来ない。

 と、突然ジェノザウラーの機載AIが警告音を発する。

 

 『警告・ネオゼネバス軍機を捕捉。距離二〇〇〇。ダークスパイナーと推測』

 「ネガティブジャミング」

 『了解』

 

 ジェノザウラーに搭載された対ジャミングウェーブ用ソフトウェアが起動。猛威を振るったジャミングウェーブも、所詮は電子攻撃であり、ソフトウェア側の対策さえ出来てしまえば大した問題ではなかった。

 

 『警告・捕捉した敵機が移動を開始。接近中』

 「私が行きましょう」

 

 カナンがそう言い、エナジーライガーに急制動をかけた。

 

 「ロイさん、頑張って下さいね。きっと、大丈夫です」

 「ふん。きっとじゃねぇ、間違いなく、だ。お前こそくたばるんじゃねーぞ」

 「……はい。間違いなく、くたばりません!」

 

 そう言うと、カナンの駆るエナジーライガーは一瞬で木々の彼方へ消えた。

 

 「……は、言うじゃねえか」

 

 ロイは歯を剥いて笑うと、ジェノザウラーをさらに加速する。すでに踵のスラスターは燃料も連続稼動時間も限界に近い。が、そんなことに構っていられる状況でもなかった。

 森を抜ける。切り立った崖の上に出た。

 

 「マリネリスか……っ!」

 

 最大望遠にした視界のまさに中央。バーサークフューラーをブルースタイルのライガーゼロとジェノザウラーが取り押さえていた。その周囲には弾き飛ばされるジェノザウラーとゲーターの姿もある。

 バーサークフューラーはバスタークローをジェノザウラーへ向けていた。

 

 「ちぃっ! 間に合え!」

 

 ロイの指がせわしなく動き、操縦レバーに装備された安全装置を解除する。滅多に使わない、通常とは違い中指で操作するトリガーを引いた。

 

 『粒子加速器接続開始』

 『アンカー射出、固定確認』

 『放熱機構展開中』

 「マニュアル照準!」

 『了解』

 

 望遠状態のモニターにクモの巣のような照準円が出現する。操縦レバーで角度を微調整し、ロイは人差し指のトリガーを左右同時に引く。

 

 『集束荷電粒子砲、作動開始』

 

 淡々とした通達の直後、夜明けが近いマリネリスの空を閃光が駆けた。

 

 

 

 突如としてバスタークローを失ったバーサークフューラーは、明らかに狼狽していた。その周囲のディロフォースもだ。その隙を突きリンはバーサークフューラーを突き飛ばし、そこへウェインがパルスレーザーライフルを叩き込む。バーサークフューラーの右腕が肩口から吹っ飛び、フューラーは思わず逃走を開始した。

 だが、それに合わせ周囲からはネオゼネバス仕様の量産型ジェノザウラーが五機、一個小隊分出現した。後詰めに控えていた部隊か。

 

 「隊長、なんでここに……!?」

 

 ウェインの声に応えることなく、跳躍したロイのジェノザウラーは遺跡の通路へ舞い降りると、一直線に飛び込んでくる。その眼前に、二機のネオゼネバス仕様ジェノザウラーが割り込む。

 が、

 

 「失せろ、この野郎……!」

 

 二機の間を一瞬でロイ機が駆け抜ける。追撃すべく二機は振り向くが、しかしその動きの勢いのまま首が回転し続け、落ちた。一瞬の内に切断されていたのだ。一瞬遅れて、二機はその場に崩れ落ちる。

 その場にいた全ての機体がその動きに目を奪われている間に、ロイ機はウェイン達の間もすり抜け、逃走を続けるバーサークフューラーに追いついた。射出したハイパーキラークローで動きを封じ、ロイは相手を地面に押し付け、その腹に蹴りを叩き込んだ。ゾイドコアへ衝撃が抜け、バーサークフューラーは『気絶』した。

 力なく横たわるフューラーを踏みつけ、ジェノザウラーが吠える。その時、地平線から光が夜空へ放たれた。夜明けだ。

 東から降り注ぐ陽光を背に、ジェノザウラーは揺るぐこともなく立っていた。

 

 「待たせて悪かった」

 

 静かに告げるのはロイの声。かすかに振り向いて見せるのは、血のように赤い双眸。

 

 「もう、泣かせない……っ!」

 

 決意の声とともに、ジェノザウラーは疾走を開始する。

 周囲に視線を走らせ、ロイはまず手近なネオゼネバス仕様ジェノザウラーに狙いを定める。勝負は敵のジェノザウラーを全滅させれば決まる。すでに二機倒し、残り三体。

 標的にされた相手は、我に返りロイ機にむけて身構えた。対するロイは正面からそれへ向けて突っ込んでいく。相手のパルスレーザーライフルを銃口の動きを読んでかわし、すれ違いざまにその頭部を掴む。

 

 「あぁあっ!」

 

 気合いの声と共に、ジェノザウラーは相手の首を背中側へ折り曲げた。耐久力の限界を越え、ネオゼネバス仕様ジェノザウラーの首が破断していた。光を失った頭部を投げ捨てる。

 

 「三機……あと二機!」

 

 やっと倒れ始めた相手を蹴り、その反動でロイ機が跳ぶ。高度の無い、地面と平行なその跳躍によりジェノザウラーはカタログスペックを超える加速を得た。

 続いて狙われた相手はミサイルポッドを装備していた。そして若干冷静だった。ロイめがけミサイルの弾幕を張り、回避行動を始めている。

 が、

 

 「無駄ァっ!」

 

 二連装レーザーガンが火を噴く。進路上のミサイルのみを破壊し、その他のミサイルは後方へ置き去りにしてラージ機は標的へ迫る。やむを得ず、相手は格闘戦に身構えた。

 が、その目の前でロイは九〇度真横へ急旋回し視界から消えた。その代わりに、ロイ機を追跡するミサイルが旋回しきれずに発射した母機に降り注ぐ。

 そしてよろめいたネオゼネバス仕様ジェノザウラーの視界に、パルスレーザーライフルを向けるジェノザウラーが映った。発砲。放たれた一撃は正確に首を貫く。一撃必殺。

 

 「あと一機……」

 

 かすれた声で呟き、それに合わせジェノザウラーが振り向く。最後に残ったネオゼネバス仕様ジェノザウラーは一歩後ずさり、その代わりに周囲のディロフォースが一斉にロイめがけ荷電粒子砲を向ける。

 一瞬と待たず、発射。明らかに充填不足だが、至近距離かつ多数の射線が集中したこともありその一撃は明らかにオーバーキルの破壊力だった。

 が、当たらない。ロイ機は上空へ跳んでいる。

 

 「マルチロック……やれ、リッター!」

 

 ジェノザウラーが吠える。その脚部ウェポンラックに装備されたミサイルポッドから、十六発のミサイルが眼下のディロフォースめがけ降り注いだ。爆発、爆煙が上がる。

 そしてその爆煙を貫き、ロイ機が一直線に降下する。右腕を振りかぶり、全力を込めて射出したハイパーキラークローは最後のジェノザウラーの喉笛に食い込んだ。

 肘に内蔵されたワイヤーリールが絶叫を上げ、鋼線を巻き上げる。抵抗空しく引きずり寄せられたジェノザウラーの顔面に蹴りを一発。のけぞった腹に逆の足で一発。とどめに爪を離し尾で土手っ腹を張り飛ばすと、ジェノザウラーは遺跡に埋まって動かなくなった。

 わずかに残ったディロフォースはどこへともなく退散していく。ただ朝日に照らされたロイ機と、ボロボロのウェイン達が遺跡に残る。

 

 「言っただろうが……」

 

 仁王立ちで背を向けていたジェノザウラーが振り向く。

 

 「俺の部下になったからには、いい目見せてやるってな……!」

 

 言い切り、そして力つきたようにジェノザウラーは崩れ落ちた。そして、動かなくなる。

 

 「隊長!?」

 「大丈夫ですか!?」

 「ど、どうしよう!?」

 「基地、基地に運ばないと!」

 

 夜明けのマリネリス。そこにもう絶望は無かった。

 

 

 


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