機獣戦記ZOIDS カース・オブ・ニカイドス   作:羽なし

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今日は続けて二話目ということで。


第二話 「目標捕捉、距離二〇〇〇」

 第二話 目標捕捉、距離二〇〇〇

 

 

 ニカイドス森林地帯。

 日が西に傾いた午後三時の森の中を、四機の機影が移動していた。先頭とその後ろに続く二機はジェノザウラー。最後尾にゲーターだ。

 

 「今回のミッションはこの森を利用して各地の部隊へ送られる補給を止めること。三日間この森に潜み、補給部隊を発見次第叩く。その間はコクピットに缶詰みたいなもんだが、まあそれがこの部隊の特色みたいなもんだ。我慢してくれ」

 

 先頭を行くロイがそう言ったのも、もはや数時間前。隠密行動のためホバー移動も行わずに、部隊は森の奥深くへと移動を続けている。

 と、ロイのジェノザウラーが動きを止めた。

 

 「行軍停止。まずはこれを見てくれ」

 

 そう言うと、ロイのジェノザウラーが彼の意図を読んでか鼻先で地面を指した。そこにはスケールの大きな獣道のようなものが、目の前を横切るように伸びている。

 

 「グスタフの轍だ。草の抜け具合からしてかなりの重量物を載せたキャリアーを引いて、さらに往復している。輸送部隊の補給ルートのようだな」

 「では、ここで待ち伏せですか?」

 

 ウェインが訊ねると、ロイのジェノザウラーが頷いた。

 

 「全員後退。この道から距離一〇〇〇の地点で待機する」

 

 そう言うとロイは今来た道を戻り始めた。狭い木々の合間で、ジェノザウラー同士がすれ違う。と、

 

 「木を倒すなよ。気付かれるからな」

 

 そう言われて、大きく避けて道を空けようとしたスィートのジェノザウラーが固まった。危うくすぐそばに生えている広葉樹をへし折ってしまうところだった。

 

 「敵を待ち伏せするときの鉄則は敵に存在を感づかれないこと。たとえ泥にまみれようと、枯れ葉に埋もれようと、な」

 

 そう言い、模範を見せるようにロイは木々の間を縫って歩く。ウェイン達がそれについて移動すると、濃い茂みの陰にロイは機体を止めた。

 

 「待機ポイントはここにしよう。各機は全力で機体を隠匿するように」

 

 そう指示を出したロイは、コクピットを開くと器用にジェノザウラーの背中へ駆け上がった。ロングレンジパルスレーザーライフルの砲身の下、多目的コンテナから巨大なネットを取り出すと、慣れた手つきでそれを機体へ被せていく。

 

 「同じ装備はお前らのジェノザウラーやゲーターにも用意してある。さっさとやんな」

 

 そう言われ、ウェインらも慌ててロイに習い機体の偽装を行おうとした。

 ところが、ウェインがネットに絡まり、スィートはネットに足を取られ機体から転落し、ミレルは間違えてレーダーまでネットで覆ってしまい、機能不全に陥ってしまった。その手際の悪さに、ロイと彼のジェノザウラーは思わずため息をついたという。

 ロイの手を借りて、彼女らの偽装が終わったとき、すでに日は西の地平線へ沈みかけていた。

 

 「まあ最初は誰だって下手だわな。初回は大目に見てやる。さて夕食だ」

 

 疲れて地面にへばっている三人の前で、ロイは高らかにそう宣言した。

 

 「でも隊長、私達って今戦闘食糧のDタイプしか持ってないですよね……」

 

 スィートが上目遣いに訊ねると、ロイは頷いた。ちなみに戦闘食糧Dタイプは、いわゆる「カロリ○メイト」的な一品なのだが、無闇に大量の糖分と塩分を含んでいる上に水分が足りないので食べづらく、有り体に言って不味いのだった。

 

 「敢えて言おう、あれは間食! オヤツだ」

 「不味いオヤツもあったもんですね……」

 

 呟くミレルに、ロイは一言「慣れろ」と言い放ち、そして背後からなにやら鞄のような物を取り出した。

 

 「よって、今回の夕食は飯盒炊飯を行う! 安心しろ、米は俺が持ってきている……古々米だがな!」

 

 そう言いながらロイは傍らに「古々米 味より値段」と書かれた米袋を置いた。どこに隠していたかは、誰も知らない。

 

 「なお、おかずはみそ汁である! 具はその辺の雑草! 以上だ文句はあっても受け付けない!」

 「雑草って……!」

 

 抗議しようと立ち上がったウェインを無視し、ロイは素早く匍匐前進し、その辺の食べられそうな雑草をむしり始めた。

 

 「おい見ろ! なんとニラが生えているぞ! 今夜はご馳走だな、な!」

 「ニラのみそ汁って……」

 

 肩を落とすウェイン、スィートは何もかもを諦めたかのように地面に寝転がり、ミレルは頭を抱えて天を仰いでいた。

 

 「なんと三つ葉まで生えている。ここは当たりだ、うわはははははっ!」

 

 ただ一人、活き活きとした様子のロイはいつ取り出したのかわからない胴乱に雑草を押し込み続けていた。

 

 不可解な味わいのみそ汁と粥のような飯、そしてロイの持ってきた「お徳用 ビーフジャーキー」による夕食、適当なミーティングの後、就寝となった。

 

 「夜間の見張りは三日とも俺がやる。どうせお前らは慣れてないだろうし、俺は三日徹夜でも平気だ。その後泥のように眠るがな。と言うわけでとっとと寝るがいいさ」

 

 とロイに言われ、ウェインらが眠りについて数時間、日付が変わって午前一時ごろ。

 

 『フィーバーナイトガイロスの時間です。こんな時間まで起きている不良な軍人のみなさん、お元気ですか? 司会のイリス・クロンカイトです。では本日最初のリクエスト、ニカイドスヘラス戦区のペンネーム、ソックスハンターさんより、レミィ×コトナで……』

 「……ん?」

 

 軍のラジオ放送と時折聞こえるジェノザウラーの鼓動を聞きつつ、ゲーターのレーダーから送られてくる画像を眺めていたロイは不意に眉根を寄せた。そして無線機のマイクを掴む。

 

 「〇一八リーダーより各機、レーダーに敵影を捕捉。距離二〇〇〇、グスタフ一機。護衛無しだ。起きやがれ」

 

 だが返事は返ってこなかった。しばし待った後、ロイは一度マイクを口から離し、多きく息を吸い込んだ。そして口を開く。

 

 「エネミオライッ、エニタィムファイッ」

 「何で『フューザーズ』なんですか! ってあれ?」

 

 ミレルの突っ込みが返ってきた。それにつられてウェインとスィートも起きる。

 

 「んー……なんなんですか、折角スパロボにアルベガスが出る夢を見てたのに……」

 「私も折角『劇場版 ヒスイVSメカヒスイ』のクライマックスだったのに……」

 グダグダと不満を述べるウェインとスィートに、ロイはええい、と前置きして告げる。

 

 「敵だっ。分かるか? エネミーだ。接近中だ、距離二〇〇〇!」

 「!」

 

 そう言われて、ウェイン達も一発で目が覚めた様子だ。よし、とロイは呟いてさらに指示を飛ばす。

 

 「ハインス、電子妨害作動。ブルーバードとコーネリアスは射撃姿勢で待機しろ」

 『了解……!』

 

 押し殺したような声で返事が返ってくると、すぐに通信にノイズが混じり始めた。ゲーターによる通信妨害が作動しているのだ。ロイは無線機をいじり、通信方式を電波式からレーザー式に切り替える。

 

 「ハインス、目標の距離は?」

 「現在、一二〇〇」

 

 暗視センサーを作動させると木々の向こう、昼頃に見つけたルートに沿ってゆっくりと走るグスタフが見えた。ジェノザウラーのコンバットシステムはグスタフをターゲットとして認識、自動的にロングレンジパルスレーザーライフルがグスタフを捉える。

 

 「これより戦闘を開始する。俺に続き、敵を鎮圧せよ」

 「了解……」

 

 ウェインの緊張した声に、自分も大昔はこんなだったなぁと思いつつ、ロイはトリガーにかかっている人差し指に力を込めた。

 音もなく発砲。高出力のレーザーは、進路上の葉や枝を容易く蒸発させながら、グスタフの耐弾キャノピーを直撃した。瞬く閃光。深夜の森が一瞬だけ眩い輝きに照らし出される。

 

 「突入」

 

 そう告げ、ロイはジェノザウラーのホバリング機関を始動した。脚部に内蔵された推進装置は、ジェノザウラーの巨体を一メートルほど押し上げ、さらに推進力を与えることで機体を押し出した。偽装ネットを投げ捨て、ラージのジェノザウラーが暗い森の中を這うように飛ぶ。

 遅れて動き出したウェイン達を尻目に、ロイは一足先にグスタフの正面に回り込んでいた。頭部を破壊されたグスタフは惰性で進んでいたので、キックを叩き込んで停止させる。予想通り、そのグスタフは数両のコンテナキャリアーを牽引していた。

 と、グスタフ越しに見るコンテナが動き出した。前後左右、さらに上面のパネルが展開し、内部が露わになる。月光に照らされたシルエットを見て、ロイは顔をしかめた。

 

 「こちら〇一八リーダー。敵グスタフは撃破した。ただ……」

 

 刹那、ロイは機体を大きくジャンプさせる。木々を抜け、夜空へとジェノザウラーが跳ぶ。

 そして、つい先程いた場所で、爆発。

 

 「コンテナ内に敵戦闘ゾイドを確認した……ライガーゼロ三機。いずれもタイプゼロと思われる。気をつけるように」

 

 そう告げ、ロイは操縦桿を握り直す、そしてジェノザウラーは夜空に一際目立つ真紅の双眸を輝かせると、踵のスラスターから噴射炎を吹き出し、森の中へと突入する。

 

「ライガーゼロ……三機?」

 

 ロイに遅れて森の中を突き進むウェインとスィートは、彼からの通信に敏感に反応した。そして次の瞬間、森の中に白い機影を確認する。

 

「っ……!」

 

 それと同時にウェインとスィートは左右へ別れて跳んだ。それと同時、二機の間を噴射炎をたなびかせながら純白の機影が通過する。

 ライガーゼロ。野生の本能色濃いライオン型ゾイド。俊敏にして生粋のパワーファイターであるその敵は、スィート機へ狙いを定め、跳躍する。

 

 「えうっ、私ぃ?」

 

 妙な声を上げ、スィートは機体を反転させた。敵へ振り返りつつ後進し、照準と同時にトリガーを引く。放たれたパルスレーザーはしかし、相手の脇をかすめて木々を貫通していく。

 

 「あわっ、あわわ!」

 「スィート! ……うわっ!」

 

 合流しようと旋回したウェインの真横から、突如としてショックカノンが襲いかかった。咄嗟の跳躍で回避するが、バランスを崩したウェイン機はスィート機から離れるように弧を描き、旋回していく。

 その途中、ウェインは森の中に別のライガーゼロを発見した。

 

 「ぅお前かっ!」

 

 苦しい姿勢ながら、照準、発砲。同時に跳んだライガーゼロを追って、ウェインはジェノザウラーを飛ばす。

 

 森の中へ半ば墜落するように降下したロイは、ウェイン達三人の位置を把握しつつ一機のライガーゼロを相手にしていた。

 

「色が蒼い……最新の型版か」

 

 フェニックス、もしくはジェットファルコンとの合同運用のために生産された最新のライガーゼロ、帝国での通称は『ブルースタイル』と呼ばれるライガーゼロが相手だった。面白い、と声にはせず呟いたロイは鋭く左右へ跳びつつその距離を詰めていく。

 

 「ライガーゼロ相手にジェノザウラーで接近戦を挑むのはただのバカか……」

 

 業を煮やしたのか、突っ込んでくるライガーゼロを見据え、笑みさえ浮かべてロイは言葉を紡ぐ。

 

 「バカを通り越した天才かだな。行くぜ」

 

 その瞬間、ジェノザウラーは両腕の武装、ハイパーキラークローを射出した。ワイヤーで本体の腕と繋がれたジェノザウラーの両手は、急制動をかけて停止するジェノザウラーを置いて、慣性の法則に従い一直線にライガーゼロを目指した。

 ゼロのパイロットは暗闇の中、月光を弾くハイパーキラークローに気付き、飛び退いた。数本の木々を巻き込み、後ろへ跳ぶライガーゼロを追い、ジェノザウラーは体を捻りながら踏み込む。その動きが、まるで鞭のようにワイヤーとハイパーキラークローを振り回す。

 

 「やれ、相棒!」

 

 ロイの呼び掛けにジェノザウラーは低く唸って返答。地面をえぐるような軌道を描き、先程とは逆側のハイパーキラークローがライガーゼロの顎をカチ上げようと迫る。

 ライガーゼロは着地し、その衝撃を吸収中で動けない。低く身構え、顎の下の空間を無くすことで精一杯だった。その鼻面を、ハイパーキラークローの一撃が打ち上げる。

 鈍い衝撃。

 

 「頭部に一撃食らえば、結構くるだろう?」

 

 ハイパーキラークローのワイヤーを巻き戻しつつ、ロイはドリフトのような軌道でライガーゼロへ接近する。そして、その頭部を左足で踏んづけた。

 

 「はっはっはっ。獣王、屈辱の図って奴だ」

 

 そう言って笑った、その瞬間だった。すぐそばの木々を粉砕しながら、取っ組み合った二機のゾイドが現れたのは。

 

 ロイが積極的に接近戦を挑んだのとは異なり、ウェインは意図せずして敵の接近戦に付き合うハメになっていた。そして、押されまくっていたのである。今も背後の木々を豪快にへし折りながら、敵の体当たりを食らって吹っ飛んでいるところだ。

 

 「うぅっ……接近戦なんてできな……いいぃっ!」

 

 泣き言をこぼしながら機体を操作していると、コクピットハッチのすぐ前をストライクレーザークローが通過していく。冷や汗がどっと吹き出し、手がレバーからすっぽ抜けた。

 

 「あっ……!」

 

 一瞬、ウェイン機であるジェノザウラー二号機の動きが止まる。その瞬間を、相手のライガーゼロは見逃さなかった。振り抜かれたストライクレーザークローが、戻ってくる。

 

 「ウェイン危ないッ!」

 

 横手の森からハイパーキラークローが飛び出してきて、ライガーゼロの土手っ腹に食い込んだ。ワイヤーを巻き戻しながら現れるのはスィートの駆るジェノザウラー三号機だ。宙へ跳んだ三号機は、アンカーを展開しながら踵落としをライガーゼロの背に叩き込んだ。その勢いのまま、ライガーゼロは大きく吹っ飛ぶ。

 

 「おっしゃ決まった。必殺の流星キックの破壊力思い知ったか!」

 

 コクピットの中でガッツポーズを決めるスィート。だが、その途端だった。やはりすぐそばの木の陰から最後のライガーゼロが飛び出してくるのは。

 

 「な、なんでーっ!」

 

 悲鳴を上げるスィートの前で、ライガーゼロはストライクレーザークローを振り上げ……顔面にレーザー弾を浴びて頭部を失い、惰性で森の中へ飛んでいった。

 

 「うぁ……?」

 「カッコつけるからそうなるんだ。コーネリアス」

 

 振り向くと、ブルースタイルのライガーゼロを踏んづけているロイのジェノザウラーがいた。その背中に負ったパルスレーザーライフルは、今し方ライガーゼロの頭部があった空間へ向いている。

 

 「隊長! あぁ、助かった~」

 「緊張感の足りない野郎だな……前からこうなのか? ブルーバード」

 「ええ、まあ……」

 

 ロイの問いに歯切れ悪く答えつつ、ウェインは尻餅をついていたジェノザウラーを立ち上がらせる。

 

 「ハインス、周囲はどうだ?」

 「敵影無し。グスタフに動きもないので、敵は今のライガーゼロだけのようです」

 「ふぅん、護衛も無しとは、共和国も苦労してますなぁ」

 

 ロイはそう言って笑う。そしてコクピットハッチを開くと、マグライト片手に飛び降りた。

 

 「ではこれより捕虜を捕縛する。お前らは周辺の様子を見ているように」

 

 そう言って、彼はスィートの踵落としが決まったライガーゼロへ歩み寄った。コクピットハッチ脇のパネルを開き、現れたコンソールのプラグに電子辞書サイズのパソコンを繋ぐ。程なくして、コクピットが開いた。

 

 「……ふん」

 

 中では、共和国のパイロットスーツを着た男が頭から血を流してうなだれていた。ヘルメットは被っておらず、スーツも胸元をはだけている。髪は茶色いが、根本が黒いので脱色しているのだろう。

 

 「死んでるな」

 

 男の顔を覗き込み、瞳孔の様子や脈拍を調べたロイはそう結論する。

 

 「ヘルメットやスーツを適当に着てるからだ」

 「隊長。私達も人のこと言えませんよ」

 

 ミレルからの突っ込み。確かに、ロイらはパイロットスーツもヘルメットも装備していない。

 

 「はっはっは。帝国の衝撃吸収装置の技術は世界一でな。飛行ゾイドなんかは別として俺らには必要無いんだよ。凄いだろう!」

「ライガーゼロも帝国製です……」

 

 ゲーターが軽く身じろぎし、頭を左右に振っている。

 ロイはそれを意に介さずに、自分の愛機の足元へ戻る。ジェノザウラーに踏んづけられているライガーゼロと目があった。

 

 「……足上げてみ」

 

 ジェノザウラーはそうした。途端、自由を得たライガーゼロは立ち上がり、ロイへ爪を振り下ろそうと振りかぶる。

 

 「はい、足下ろす」

 

 轟音と共に、ジェノザウラーの足の裏がライガーゼロの背中を地面に押し付けた。ライガーゼロは再び地面に突っ伏しうなり声を上げるが、ジェノザウラーはその背中を押さえ込んで放さない。

 先程と同じようにコンソールを操作し、ロイはハッチを開けた。その途端、その頬をかすめて銃弾が夜空へ飛んでいく。

 

 「捕虜の扱いは国際協定に乗っ取る。そうカッカするな」

 

 コクピットの中にいる人物へ、ロイはそう言ってニヤリと笑みを浮かべた。

 コクピットの中には、野戦服とヘルメットを装備して拳銃を構える小柄な兵士がいた。髪は短いが、サイドの髪だけが長く、胸元へ伸びている。その胸元は扁平だが、

 

 「っと、女性か」

 

 その言葉に、その兵士は目つきを鋭くする。そして銃を構え直し、今度こそロイの顔に照準した。

 

 「……撃つのか。だがそうしたところでこの偏屈な帝国軍中尉しか道連れに出来ずに、俺の相方のレーザーガンで跡形もなく消え去ることになるぜ?」

 

 そう言ってロイは頭上を指さした。兵士が見上げると、ライガーゼロの背を踏みつけたジェノザウラーと目が合う。ジェノザウラーは「クアーッ」と眠そうに鳴いた。

 その瞬間、ロイが動く。コクピットの縁を乗り越え、兵士の手から拳銃を奪い取りつつ、その手首を掴んで座席に押し付ける。突然のことと、腕を意図しない方向に動かされた痛みからか、兵士は表情に険を含んでロイの目を見据える。

 

 「所属と姓名、階級を告げて保護を要請しろ。それが国際協定による手順だ」

 

 相手に敗北宣言を言わせることを意味するその言葉に、兵士は肩を落とし、うなだれた。しばらく目をそらしていたが、やがて彼女は顔を上げ、口を開く。

 

 「ヘリック共和国機動陸軍、機甲師団高速隊第113小隊所属、リン・チェーンシザー伍長……国際協定に則り、保護を要請します」

 「おう、俺はガイロス帝国機動陸軍特殊工作師団第○一特殊戦術戦隊第八小隊隊長、ロイ・ロングストライド中尉だ」

 

 そう言い、月光を背後に背負ったロイはリンへ向け、ニヤリと微笑む。

 

 「まあ、よろしくな。伍長」

 

 

 


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