機獣戦記ZOIDS カース・オブ・ニカイドス   作:羽なし

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久しぶりにパソコンで書くと目が疲れますなぁ。


第一話 「ゲリラ戦隊・第〇一八小隊」

  

 密林。

 そこは鬱蒼と生い茂る背の高い樹木に陽の光が遮られ、昼間でも薄暗い森の中だった。

 その薄闇の中に、うずくまるようにしている影が二つ。片方が、もう片方を踏みつけている。

 踏みつけられている影は、共和国軍高速戦闘用ゾイド、コマンドウルフ。

 そしてソレを踏みつけているのはガイロス帝国軍のゾイド、ジェノザウラーだ。

 頭部の火器が換装され、脚部にミサイルポッドが増設されている以外には特に通常機と違いのない、平凡なジェノザウラーだ。

 

 外見は、だが。

 

 そのジェノザウラーの胸部にあるコックピットハッチが、圧縮空気の漏れる音と共に解放された。

 中から現れたのは、ガイロス帝国機動陸軍の野戦服を着た黒髪の男だ。

 彼は眠たげな三白眼で眼下のコマンドウルフを眺め、コマンドウルフから立ち上がる焦げ臭い煙に顔を顰めつつ、コックピットに備え付けられている無線機を手に取った。

 

 「定時連絡。こちら機動陸軍特殊工作師団、第〇一特殊戦術戦隊所属第八小隊。認識番号1-3833-1、ロイ・ロングストライド中尉」

 「確認しました。どうぞ」

 「本日〇九三三時、事態a61発生。これを解決。

 それ以外に問題はない。以上」

 「確認しました。

 ……中尉、司令から連絡ですレムス基地へ出頭して下さい。補給の人員が到着したようです」

 「了解。

 では第〇一八小隊は本日一〇三〇時をもって撤収、レムス基地へ一時帰投する」

 

 会話を切り上げ、男は無線機をコックピットの定位置へ戻すと、軽く伸びをした。

 

 「補給の人員、ね。……また死ななきゃいいけどよ」

 

 投げやりにそう呟くと、男はコックピットへ戻る。

 やがて、ジェノザウラーは薄暗い森の中で身を翻すと、重苦しい足音を発しながら移動を開始した。

 

 

 

 

 

 機獣戦記ZOIDS

 カース・オブ・ニカイドス

 

 

 第一話 ゲリラ戦隊・第〇一八小隊

 

 

 

 

 

 ZAC二一一三年、去るZAC二一〇九年に和平を結んだヘリック共和国とネオゼネバス帝国との間に再び軍事衝突が発生していた。

 その原因は、中央大陸西側にあるニカイドス諸島の領土問題である。

 いまだにヘリック共和国の軍事施設があるニカイドス諸島に、ネオゼネバス帝国は「旧ゼネバス領であるので撤退せよ」と要求。ヘリック共和国がこれを跳ね除けたために海兵隊による強襲を実行したのが事の発端だ。

 これらの状況にガイロス帝国は親ガイロス国家の多い西方大陸への飛び火、被害を懸念すると同時に両国の行動に遺憾の意を示し、停戦勧告をするも無視され、仕方なく再編後間もない帝国軍をニカイドス本島へ派遣している。

 現在、三ヶ国の戦力は拮抗しており、ニカイドス諸島は戦争状態にある。

 

 

 

 レムス基地。

 

 ニカイドス本島北東に位置するこの基地は、ガイロス帝国軍が使用している軍事拠点だった。

 一つの都市と言っても過言ではない大基地の、中枢である司令センターの中を三人の女性が進んでいた。

 三人揃ってガイロス帝国機動陸軍の軍服に身を包んでいる。

 

 「ねぇ、本当にこっちでいいのかな」

 

 三人組の最後尾、オレンジ色の髪をセミロングに伸ばしている女性が投げやりに訪ねた。すると、先頭を行く青い髪と眼鏡、長身が特徴の女性が振り返る

 

「どうなのかなぁ……どこ行っても何か似たような景色だし、どこがどこだか……」

「案内板も無いしね……」

 

 三人組中央、黒髪を長く伸ばし、サイドは白い布で髪を巻いている女性が困ったように同意する。三人は顔を見合わせると、はぁとため息をついた。

 と、すぐそばの男子トイレから、薄汚れた野戦服の男が歩み出てきた。青い髪の女性が咄嗟に声をかける。

 

「あ、あの!」

「ん?」

 

 薄汚れた黒髪の下で三白眼を動かし、男が振り返った。襟の階級章は中尉だ。

 

 「司令室がどこだかご存知ではないですか? 迷ってしまいまして……」

 「あぁ、すぐそばだな。何なら送ってやるよ」

 

 気の抜けた表情で少尉はそう言うと、猫背で歩き出した。三人は彼に続いて歩き出す。

 

 「いい人で良かったね」

 

 黒髪の女性にオレンジ色の女性が耳打ちする。

 

 「そうだね……でも、なんであんなに汚れてるのかな」

 「どこかに出撃していたんじゃない?」

 「そっか……」

 

 と、オレンジ色の髪をした女性はにやりと微笑んだ。

 

 「ところでさ、私達の配属先、どこになると思う?」

 「どこって、特殊工作師団でしょ?」

 「その中にもいろいろ部署はあるでしょ? やっぱり特務隊かなぁ? あそこはすっごいエリートしか入れないって言うでしょ?」

 「じゃあ私らは関係ないわよ。教官に気に入られてなかったわけだし」

 

 眼鏡の女性がそう言うと、オレンジ髪の女性は不満そうに頬を膨らませた。

 

 「良くて奇襲攻撃隊、運が悪けりゃ特殊戦術戦隊……ゲリラ戦隊も覚悟しなきゃね」

 「え~……ゲリラ戦隊はいやだなぁ……」

 

 黒髪の女性が心から嫌そうな顔でそう言った。

 

 特殊工作師団傘下、特殊戦術戦隊。

 ニクス本土決戦以後の軍再編時に作られたこの部隊は、局地での特殊な奇襲・強襲戦闘を目的として設立された部隊だ。すなわちゲリラ戦を目的としている部隊である。そのため、一般にはゲリラ戦隊と呼ばれていた。

 ゲリラ戦隊は新設の部隊であるため軍内での立場はあまり良くない上に、員数が大隊に満たないが中隊より多いという中途半端な、本来あり得ない部隊サイズである「戦隊」であることもあり、補給などにしばしば混乱が生じ、衛生事情などに問題があることで有名だった。さらに部隊の性質上、長期間基地に戻らずに局地での潜伏、戦闘を行わなければならないために、「配属されたくない部署ランキング」堂々の一位に輝いた部隊なのだった。

 

 「ゲリラ戦隊はさすがに無いと思うけどね。いかにあの教官といえど、ね」

 「そうだといいなぁ……」

 

 そう言って黒髪の女性がため息をつくと、前を歩いていた少尉が振り向いて立ち止まった。

 

 「ほれ、ここが司令室だぜ」

 

 「ありがとうございます中尉。お手数をお掛けして申し訳ありません」

 「いいって、俺もここに用があったしな」

 

 そう言いつつ、少尉は司令室のインターホンを操作した。

 

 「ロングストライドだ。迷子の新人三人を連れて参上しましたよ、と」

 『ご苦労様です。中へどうぞ』

 

 受付担当士官が応対し、司令室の扉が開いた。少尉に手招きされ、三人は中へ入る。

 

 「お前さんたちは司令に挨拶してきな、俺は私用を済ませているから」

 

 そう言い、中尉は通信担当席へと歩いていく。それを見送ると、三人は階段状の司令室の最上段にある司令席へと向かった。

 

 「ゼン・パルス少将。ただいま到着いたしました」

 「ん? やぁ」

 

 三人を代表して眼鏡の女性が敬礼すると、司令席に腰掛けていた穏和そうな壮年男性が振り向いた。ゼン・パルス少将。このレムス基地と、ニカイドスへ派遣されたガイロス帝国軍の司令官だった。

 

 「三人だったね。えーと、名前は……」

 「私はミレル・ハインスです」

 

 眼鏡の女性はそう言うと、残る二人へ視線を向けた。

 

 「あ、ウェイン・ブルーバードです。よろしくお願いします……」

 

 黒髪の女性はそう言うと頭を下げそうになり、間違いに気付いて敬礼した。

 

 「スィート・コーネリアスです。よろしくッス!」

 

 最後にオレンジ髪の女性が敬礼し、パルスは頷いた。

 

 「よろしく。三人は特殊工作師団の~……」

 

 どこだったかな、と呟き、パルスは傍らに置いてあったファイルを手に取り、ページを繰った。

 

 「特殊工作師団……ああ、ここか。うんうん」

 

 何やら納得した様子で、パルスはファイルを置くと笑みを浮かべてこう言った。

 

 「三人は特殊工作師団傘下、第〇一特殊戦術戦隊の第八小隊へ配属となってるね。三人とも階級は軍事教練校を出ているから軍曹だ。よろしく頼むよ」

 

 瞬間、三人が凍り付いた。

 

 「特殊戦術……戦隊ですか?」

 

 数秒間の沈黙の後、ウェインがやっとの思いでそう訊ねると、パルスは力強く頷く。

 

 「この部隊は長い間欠員が多かったからね。今は隊長一人しかいないんだ。まだまだ定員には満たないけど、胸のつかえが取れた感じだよ。うんうん。よろしく」

 

 満足げにそう言うパルスに、ウェインはうなだれ、スィートは沈黙し、ミレルはため息をついた。

 

 「さて、その第八小隊の隊長を呼んでおいたんだけど……あ、おおい! 中尉ーっ、ロングストライド中尉ーっ!」

 

 通信担当官の群れから出てきた先程の中尉に、パルスが声をかける。すると中尉は猫背で歩いてきて、おざなりな敬礼をする。

 

 「どーも、遅くなりました。借金の回収をしてましてね。それで少将、こいつらが俺の部隊の?」

 「そうそう。新しい隊員だ。よかったねぇ少尉」

 「そうですなぁ少将。役に立つかはよく分かりませんがね」

 

 中尉は口の端を吊り上げる笑みを浮かべ、薄く笑っている。

 

 「あ、紹介が遅れたね。彼が第〇一八小隊隊長の、ロイ・ロングストライド中尉だ」

 「おう、そういうことだ」

 

 紹介され、中尉は……ロイは軽く手を振って挨拶する。

 

 「まあなんだ、俺の部下になったからにはそこそこいい目は見させてやる。そう悲痛な面もちをしないで安心しろ。いいな?」

 「は、はぁ……」

 

 あまりにも砕けた喋り方に、ミレルが腰砕けになって曖昧な返事を返す。ウェインとスィートはお互いの顔を見つめ合い、頬をつねりあって夢ではないことを確認していた。

 

 「ま、続きは小隊オフィスで話をしよう。引き続き、俺についてきな」

 

 そう言い、少将に再び敬礼すると、ロイは三人を引き連れた軽い足取りで歩き出すのだった。

 

 司令センターに隣接する各部隊の事務処理用オフィス兼待機室を内蔵する兵舎ビル……にさらに隣接するプレハブが、ゲリラ戦隊のオフィスだった。その隣にはそこだけ何処かの町工場から持ってきたかのようなボロボロの格納庫が用意されている。

 

 「知ってると思うが、うちの部隊は新設だから立場が弱くてな、後付けのプレハブに押し込まれちまった。まあ、雨風は防げるから我慢する方向で」

 「は、はぁ」

 

 立て付けの悪い入口を脚で蹴飛ばして開け、軋む階段を上った二階に〇一八小隊のオフィスはあった。

 

 「さて、ここが我が第〇一八ゲリラ小隊の栄光と挫折の詰まったオフィスルームだ。……ん? 開かないぞ」

 

 鍵を開け、扉を開けようとしたロイはオフィスの扉が押しても引いても開かないことに気が付いた。投げやりに蹴飛ばすが、扉は軋むだけでビクともしない。

 

 「あー……ちょっと待ってろ」

 

 そう断りを入れると、ロイは三人を壁に避けさせた。その上で助走すると、肩口から扉に突っ込む。

 やたら騒がしい音がして、扉が少し開いた。そのままロイが力押しで開けていくと、扉を塞ぐように中で備品棚が倒れていることが分かった。

 

 「この前の地震で崩れたんだな。ったく、オフィスを使う機会が少ない上に、これだもんな?」

 

 困った笑顔を浮かべ三人に顔を向けるロイだが、三人は本当に困った様子で俯いていた。 オフィスの中は、薄く埃が積もっていた。

 簡素な事務机が十個並んでいたが、その内使用されているのは上座の一つだけ、つまり隊長のロイのものだけだった。他にはやたら古いモデルの電気ポットや電子レンジ、いつの時代のだか分からないソファや水道、先程倒れていた備品棚とそこから飛び出したマグカップやらお盆やらぐらいしかない。

 

 「デスクは適当に使ってくれ」

 

 そう言いつつ、ロイは備品棚から分解されたホワイトボードを引っぱり出し、組み上げていく。そんなロイを見つめ、三人はため息をつき、そして言われたとおり適当にデスクへ荷物を置き、腰掛けた。

 

 「んじゃあ、俺達第〇一八ゲリラ小隊の仕事を説明する。簡単に言ってしまえば、密林なんかで敵を待ち伏せし、これを襲撃、撃破する文字通りゲリラ戦を行うのが主な仕事だ。これは知ってるだろう。さらに俺達は各地で苦戦するガイロス帝国軍の救援としてあちこちを転々とすることもあるので、部隊には機動力のある機体を配備している。司令と交渉して、この部隊には量産型ジェノザウラーが支給されている」

 

 そう言い、ロイはホワイトボードにペンを走らせる。

 

 「俺を含めて四人しかいないが、これでも作戦行動は可能だ。一番機、つまり隊長機が俺なのは当然として、二番機と三番機にはブルーバードとコーネリアスに乗ってもらう」

 

 んで、とロイは一呼吸置くと、ミレルへ視線を向ける。 

 

 「ハインスにはゲーターに乗ってもらう。電子戦技能、持ってるよな」

 「はい」

 「ハインスは四番機のゲーターに乗って、陣形指示や敵の増援の確認などを行ってもらう。直接の戦闘はしなくていい」

 

 んで、と言って、ロイはホワイトボードを一度真っ白にすると、ニカイドス島の輪郭を描いてみせた。

 

 「ニカイドス島だ。わかるな? 分からなくても話は続けるが、俺達第〇一八小隊は基本的にニビル市とヘラス台地間に走る森林地帯に展開して、ここを通過する敵国の部隊を奇襲、もしくは強襲し破壊する」

 

 そう言うと、ロイはニカイドス島東海岸から南海岸を繋ぐように伸びる森林地帯を塗りつぶして示した。

 

 「基本的に正面からの撃ち合いはしない。また、場合によっては大きく戦場移動をすることや、特殊任務に就く場合もあるのであしからず……何か質問はあるか?」

 

 三人は沈黙している。ロイはそれを見て、怪訝そうに首をかしげつつ、頭をボリボリと掻いた。

 

 「あ、そう。無いか。まあ何かあったら俺に相談するように……と。この基地への滞在は明日午後三時、つまりは明一五○○時までだから、それまでに必要な荷物や整備班への挨拶、基地の施設の確認なんかを済ませておくように……じゃ、解散」

 

 そう告げ、ついでに「そして俺は貸した金ぶんどりに行くのだ」と呟き、ロイはオフィスから出ていった。その数秒後に隣のオフィスのドアを誰かが蹴破る音と「金返せこの野郎っ!」という声が聞こえてきたりする。

 

 「……特殊戦術戦隊だってえー」

 

 そう言って、スィートが自分のデスクに突っ伏した。ウェインとミレルもため息をつく。

 

 「よりにもよってここかぁ……」

 「そうね……それにあの隊長も何かおかしい人みたいだし」

 

 ミレルに「おかしい人」呼ばわりされたその男は、二つ隣のオフィスへなぐり込みをかけている様子だった。ドアを蹴散らす音と怒号が先程より小さく聞こえる。

 

 

 




ちなみに主人公の名前は本名であって本名ではないです、これ如何に。

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