[PR]

 銀行とNTTグループ。おカネや情報の管理で信頼を売りにしていたはずの事業者が、顧客の財産を守れなかった。事態を深刻に受け止めるべきだ。

 NTTドコモの電子決済サービス「d払い」に使われる「ドコモ口座」を通じ、銀行預金が不正に引き出される被害が相次いだ。判明しただけで、11行で66件、1800万円に及ぶ。

 今回の特徴はドコモとの契約もなく、自分ではドコモ口座を使ったことがない人が、被害にあったことだ。手口の詳細は不明だが、知らぬ間に蛇口が取り付けられて、そこからお金が流れ出たようなものだ。被害に気づいていない人がいる懸念も残る。確認を急がねばならない。

 原因究明も急務だ。現時点までの情報では、(1)ドコモの本人確認が甘く、なりすましでドコモ口座を開設できる不備があったことに加え、(2)銀行口座からドコモ口座に引き落とすための本人確認も比較的容易に突破できる水準だった――といった点をつかれた可能性がある。

 (1)はドコモ、(2)は銀行側に一義的責任があるが、連携してサービスを提供していた以上、双方とも責任は重い。ドコモは本人確認が不十分だったと認めて陳謝。被害は両者で全額補償し、今後本人確認も強めるという。確実に実行すべきだ。

 大きな不安を与える事案であるにもかかわらず、情報開示や対応の遅れも目立った。ドコモは昨夕になってようやく会見した。不審な引き出しに気づいた利用者がドコモや銀行に問い合わせても、たらい回しのような対応をされたとの訴えもある。

 ドコモ口座は、昨年5月に、りそな銀行との連携で不正引き出しが発覚していた。その後昨秋からは、回線契約がなくてもドコモ口座を開けるようにした。非契約者も各種サービスの「会員」に取り込み、顧客基盤を広げる戦略の一環で、「どなたでも無料で簡単に開設できる」とうたっている。こうした姿勢が本人確認の甘さを招いたのではないか。経営判断を含め十分検証する必要がある。

 一方、銀行側も安全性を十分点検できないままサービス拡大に走っていなかったかどうか、体制を含めて見直すべきだ。

 金融庁の責任も問われる。銀行とそれ以外の事業者についての規制・監督が十分連携できていなければ、利用者を守れず、ひいては金融サービスのデジタル化の妨げにもなる。

 政府はキャッシュレス振興の旗を振るが、こうした事態が繰り返されれば利用にブレーキがかかる。事業者、監督当局ともに、安全の確保がサービス発展の基盤であることを改めて確認し、徹底してほしい。

こんなニュースも