前橋の高齢者2人強盗殺人 上告を棄却 土屋被告の死刑が確定へ
 

 前橋市で2014年、高齢者2人を相次いで殺害、1人に重傷を負わせたとして強盗殺人罪などに問われた無職、土屋和也被告(31)の上告審判決が8日、最高裁第3小法廷であった。林道晴裁判長は「強固な殺意に基づく執拗しつようかつ残虐な犯行」として、一、二審の死刑判決を支持し、被告の上告を棄却した。死刑が確定する。

 事件をめぐる経緯の詳細はこちら

◎「パーソナリティー障害が背景」退ける
 判決理由で林裁判長は、「生活苦を打開するため強盗を決意し、殺害を実行したことは被告自身の意思で、不遇な生育環境を背景にしたパーソナリティー障害の特性によるものとは言えない」と指摘。「人命軽視の態度は強い非難を免れない。何ら落ち度のない2人の命が奪われ、1人の命が危険にさらされた結果は重大」と断じた。

 弁護側は「パーソナリティー障害が事件に至る経緯や犯行態様に影響している」「死亡した被害者が2人で重大な前科がない今回のケースは、過去に最高裁が示した死刑適用基準(永山基準)に照らして無期懲役が相当」などと主張し、死刑回避を訴えていた。

 上告棄却は裁判官5人の全員一致の意見。

 判決によると、土屋被告は課金ゲームなどで借金を抱え生活苦に陥ったことから、14年11月10日、金品を奪う目的で、前橋市日吉町の女性=当時(93)=宅に侵入して女性をバールや包丁で殺害し、現金約7000円を強奪。同年12月16日には同市三俣町の男性=当時(81)=宅で男性を包丁で刺殺し、妻に重傷を負わせた。同年12月21日には、飲食店から食品を盗んだ。

◎「思いがかなった裁判」「支えた皆さまに感謝」
 群馬県内を震撼しんかんさせた事件から約6年―。強盗殺人の罪などに問われた土屋被告の上告が最高裁で棄却され、死刑が確定することになった8日、遺族や家族は「願い、思いがかなった」「支えてくれた人に感謝したい」と思いを語った。

 「これで姉も少しは浮かばれるはず」。殺害された女性の弟(93)は上毛新聞の取材に、こう語った。土屋被告に対しては、「ずっと怒りを持ってきた。今までのことを反省して過ごしていってほしい」とし、「支えてくれた皆さんに感謝している」と穏やかな表情で語った。

 女性の長女は「被害者の命は戻らないけれども、私たち遺族の願い、思いがかなった裁判だと思います」、息子は「上告棄却となってホッとしました」と、弁護士を通じてそれぞれコメントを出した。

 事件を巡っては、男性も殺害され、妻=当時(80)=も重傷を負った。男性の遺族は弁護士を通じて、「理不尽な被害を受けてから本日の判決までの日々は重く、長いものでした。これまで私たち遺族を支えていただいた多くの皆さまに感謝を申し上げます」とのコメントを出した。

 群馬県警で当時捜査を指揮した大場健一・元捜査一課長は「何ら落ち度のない穏やかな生活をしていた高齢者を狙った事件で、その手段、方法も残虐であり、極刑は免れない事件だと思う」と語った。

 現場となった前橋市の地元住民からもさまざまな声が聞かれた。被害者の女性と近所付き合いがあったという男性(47)は「親しみやすい人だった。自分勝手な理由で尊い命を奪っているので死刑判決は妥当だ」。殺害された男性の自宅近くに住む女性(59)は「同じように平屋だったので、狙われていてもおかしくなかった。一区切りが付いたけれど、事件を忘れないでいたい」と語った。

◎「信頼結べていたら」…情状証人で出廷の男性
 前橋市内の自立支援施設で当時19~20歳だった土屋被告と約10カ月にわたって関わり、一審で情状証人を務めた男性(67)=同市=が8日までに取材に応じた。土屋被告について「家庭や児童養護施設、学校でいじめられ、孤独だった」とし、「誰かと信頼関係を結べていたら事件は起きなかったのではないか」と語った。

 土屋被告は幼少期から中学卒業まで太田市内の児童養護施設で生活。高校卒業後、男性が働く前橋市内の自立支援ホームに移り住んだ。当時の印象を「話し掛けても返事をしない。自ら他人に壁をつくっていた」と表現する。

 これまで、青少年を支援する事業に携わりながら、事件から何を教訓とすべきかを考えてきた男性は「どんな時も、困っている子どもを一人にさせないこと。第二、第三の『和也』を生まないことが大切だ」と訴えている。

関連記事