<例文>
Third, in the new novel approach, the Fed could print money to buy long-term bonds, but restrict how investors and banks use that money by employing new market tools they have designed to better manage cash sloshing around in the financial system. This is known as "sterilized" QE. (中略) The differences between the three approaches involve where the money comes from and where it ends up.
3番目が現在検討されている手法で、国債を購入するものの、この結果増える市場に流通するマネーの量を抑制するための新たな措置を取り入れるものだ。この手法は「不胎化QE(量的緩和)」と呼ばれる。(中略) この3手法の違いは、どこから新資金が出て、最終的にその資金がどこに収まっていくかだ。
【キーワード解説】
今年に入っての雇用の大幅改善に加え、経済の7割を占める消費も緩やかな拡大ペースが続き踊り場脱出の兆しが強まる米国経済。しかし安心は早計、と再び減速し始めたときに備えた緩和策候補として米連邦準備理事会(FRB)が検討しているのが「sterilized QE(quantitative easing)=不胎化QE」という新種の量的緩和策だ。
「不胎化」を意味する「sterilized」は、本来「不毛な」、「無菌の」、「不妊の」などを意味する形容詞の「sterile」が動詞「sterilize」に転用され、その過去分詞でQEを形容している言葉だ。では最終的に長期金利の低下が一つの政策目標である量的緩和のどこを「不妊手術」しているかというと、国債購入で出回るマネー(新札)の量だ。
これは、世界金融危機対応の2009年から11年までの、紙幣を新たに発行して長期国債を購入したQE第1弾の弱点を補う手法として考えられたもの。QE第1弾は、長期国債購入で金利は下がるが、その分マネーサプライが増えて将来のインフレの芽を残していた。しかしこの「不胎化QE」では、放出資金の一部を各地区連銀に短期預金として預けさせるなどして流通量を制限する工夫が施されているため、その後の経済情勢の変化にFRBが対応しやすいのだ。
経済用語の「不胎化」という言葉は、「非不胎化」という反意語の方が日本の読者には馴染み深いはずだ。
「非不胎化介入=non-sterilized currency intervention」がそれで、日本のバブル崩壊後の2000年代前半に経済対策として多用された円安方向への為替介入に際し、欧米諸国から日本の介入を「非不胎化介入」にすべきと注文を付けられたのだ。具体的には財務省の指揮の下、円を売ってドルを買っていた日本銀行が、為替介入後に短期市場の市場操作で介入で放出された円資金を吸い上げる、つまり「不胎化=sterilized」させてしまっているため市場の円金利が上昇、その結果として円買いドル売りを誘発し円安効果がすぐはげ落ちてしまうというもので、日銀は資金を市場にそのまま放置する「non-sterilized intervention」に切り替えるべきとの批判だった。
しかし、「sterile」、「sterilize」は元来経済用語というより、一般的な「不毛な」「不妊の」「(土地が)涸れた」など幅広い意味を持つ便利な単語だ。「消毒された」の意味もあり「Beer glasses have already been sterilized=ビールグラスは消毒済みです」などと使える。また、「涸れた土地=sterile land」の反対は「肥沃な土地=fertile land」だ。
【表現のツボ】
今週は前置詞「between」と「among」の使い分け。中学校では昔「between」は2つで、「among」は3つ以上のモノの「間」を示すと教えられたせいか、英作文をするとこの教え通りに書く人が多いが、上の例文「The differences between the three approaches」にあるように、「3つ」あっても「among」にならないケースが多々ある。
物事の比較や、関係を示す場合がその一つで、例えば「a link BETWEEN cricket, baseball and softball=クリケット、野球、ソフトボールの連関」などとなる。「between」を使う別の言葉では「connection」、「friendship」などがある。また3つ以上でも個別の名前を出すときは「between」で、「an agreement between Japan, China and South Korea=日中韓の合意」となり「among」は使わない。
さらに、例を挙げれば、「埼玉県は西に山梨、東に千葉、北に群馬の各県の間に位置する」との日本語は英語にすると「Saitama Pref. is located BETWEEN Yamanashi Pref. to the west, Chiba Pref. to the east and Gunma Pref. to the north」となる。しかしこれが「埼玉県は4県で最も人口が多い」となると「Saitama Pref. is the most populous AMONG the four prefectures」となる。「among」は3つ以上のモノや人を集合的に捉えて、「その中で」、「その間」を表す時に使うと理解しておけば良いだろう。
【その他の表現】
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■この表現が実際に使用されている記事
FRB、新タイプの量的緩和策「不胎化QE」を模索
Fed Weighs 'Sterilized' Bond Buying if It Acts
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竹内猛(たけうち・たけし) フリー・ジャーナリスト兼翻訳業
1980年より共同通信社の日本語記者として主に経済ニュースを取材。日本のバブル崩壊時に日銀・大蔵省担当を長く担当。米国のジョンズ・ホプキンズ大学高等国際関係大学院(米外交・国際経済学修士取得)を経て、1997年よりダウ・ジョーンズ経済通信で英文記者。東京支局で日本政治・経済のコラムニストを務め、ワシントン支局で国際通貨基金(IMF)などを担当。2004年より東京支局のマクロ経済・政治総括担当副支局長。2010年の退社後、日本翻訳連盟の日本語から英語への1級翻訳士合格(金融・証券分野)。ウォール・ストリート・ジャーナル日本版などでの翻訳と、このコラムの前身である「金融英語」欄を6月より担当。