第三王女の婚約者   作:NEW WINDのN

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感激

 

 

 

 

「おおお·····領主様が自らお越しくださるとは·····」

 感激の涙を堪えながら、人の良さそうな村長が、カルネ村を代表して挨拶をしてきた。村長の後ろで跪いている他の村人達も「領主様がいらしてくださるなんて·····」と村長同様にに涙を流し、肩を震わせていた。

 

(なんでここで泣くの? わからない·····)

 悟は戸惑うも、この世界にきてからの数ヶ月·····王宮で鍛えたポーカーフェイスで動揺をみせない。隣のラナーはと言えば当然という顔である。そしてその瞳は、「サトル、決めて!」と語っていた。

 

(いや、決めてって言われましても·····あ、言ってはいないのか。だが、目は口以上に物を言うとか語るとかカタルシスとか·····なんとか言うわけだし、言ってると考えよう)

 悟は、隠れて練習した領主としての態度を実践する。

(どーか上手くいきますよーに)

 祈るような思いである。いや、祈りそのものかもしれない。

 

「暮らしに不自由はないか? 」

 悟は威厳を保ちつつも、出来るだけ優しく訊ねた。軽過ぎず、だからと言って重すぎない。そう·····悟がユグドラシルで磨いた低音ボイスをメインとした魔王ロールとはまったく違う新しい何か。モモンガとも悟とも違う別の何かになる。

 

「はい。豊かとはいえませんが問題なく暮らせております。それも領主様が税を安くして下さっているからです。他の地域では重税に苦しむところもありますのに·····」

 村長はもはや号泣に近い涙を流しながら感謝を述べた。それにつられて村人達も号泣。よく見ると、最初の村娘エンリも泣いている。

(理由はともかく、女の子泣かせたらペロロンチーノがなんて言うだろうか·····)

 ふと懐かしいかつてのギルドメンバー·····金色のバードマンの姿が脳裏に浮かぶ。

 

 もっとも、普段のラナーとの色々の方がよっぽど何か言われそうなのだが、もはや感覚が麻痺している悟にはわからない。

 この時考え事をしたために、悟は視線をそらさず暫しエンリを見つめてしまった。エンリは視線に気づき真っ赤になって俯く。

 これが後にひと騒動の原因となるのだが、まだ誰もそのことは知らない。

 

 ちなみに隣のラナーはちょっとプンプンしていたが、考え事をしている悟は気づかない。

 

「·····あ、ああ。当然だろう。私はそういう苦しみが嫌なんだよそもそも君達が働いて作った作物なんだ。私は少しわけて貰えるだけで十分なんだよ」

 悟は決して高い給料ではなかったし、庶民の事は世界が違えどもわかるつもりだ。むしろ貴族の方がわからない。とにかく税を高くしようという発想は悟の中には微塵もなかった。

 

「なんとお優しいお言葉か·····我々カルネ村一同よりよく作物を領主様にお届けできるようにさらなる努力をいたしますぞ」

「領主様の為に!」

「領主様万歳! ラナー様万歳!」

 あっという間に村人全員から歓声があがる。

 

(な、なんなのコレ!)

 動揺する悟の手をラナーが優しく握り、小さく囁いた。

「サトルの善政の成果ですわね」

 ラナーは誇らしげだった。

 

 ちなみに悟の治めるナザリック領の税率は、江戸時代の日本風に言えば、二公八民である。二割を税としておさめ、残りの八割は平民のものとしている。悟の言葉通りに少し貰っているだけと言えるだろう。

 王国内においてこんなに優しい税率の地域はない。この国は領主の裁量で税率が決められるのだが、七公三民などザラだし、場所によっては、八公二民·····それどころか九公一民ということもあるのだ。生かさず殺さずという領域を超えており、平民などいくら死のうと構わないという状態だった。

 ナザリック領は、そのような重税に苦しむ他の領主の支配地域とは明らかに違う。

 帝国、法国との交易の盛んな支配地域ということもあり、奪うよりもその分を市場に投入し経済を回す事を目的にしている。

 さらに、領都エ・ランテルで、はいわゆる楽市楽座を取り入れ、商人を集めることに成功している。商人が集まることで経済力、安い税で、人が集まり新規開拓を行うことで生産力が高まり、ナザリック領は潤っている。それをよく思わないのが他の領主だ。まともな領土経営をしているレエブンとペスペアとは良好だが、他の貴族·····とくに貴族派閥からは疎まれている。

 王女を娶ったのも彼らからすれば気に入らない。いつ、何が起きても不思議ではない状況である。

 

 しかし、今の悟とラナーは1回しか出来ない新婚旅行の真っ最中だ。そんなことは関係がなかった。

 

 

 

 

 

 


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