退職金、自分に合った受け取り方 一括、分割 試算し見極め

2020年9月10日 07時15分
 定年時などに、会社から支給される退職金。勤続年数が長い場合、まとまったお金が入るとあって、どう使おうか悩む人もいるだろう。ファイナンシャルプランナーで、NPO法人「ら・し・さ」(東京)の終活アドバイザー、山田静江さん(59)=写真=に退職金を受け取る前に考えておきたいポイントを教えてもらった。 (砂本紅年)
 退職間際の会社員から、山田さんがよく相談されるのが受け取り方。多くの会社では、一括で受け取る一時金か、分割で受け取る年金形式、または両者の組み合わせから選べる。
 一般的に年金形式は運用益が上乗せされるため、額面総額は一時金より多いが、ローン返済など今後の支出見込みによっては、一時金でもらう方がいい場合もある。
 受取時の税金や社会保険料の負担も考慮したい。一時金は退職所得の扱いとなり、税負担が軽減される。勤続年数に応じ、二十年以下の部分は年四十万円、二十年超は同七十万円を退職収入から控除できる。
 例えば、勤続三十八年の場合、退職金のうち二千六十万円以下は非課税となる。通常は、国民健康保険などの社会保険料もかからない。
 一方、年金形式は、公的年金などと合計した金額から公的年金等控除を差し引き、雑所得の扱いになる。他の所得と合算され、所得税や住民税の対象となる。
 年金形式は社会保険料にも影響する。退職後の国民健康保険や公的介護保険の保険料は、所得が増えれば保険料も高くなる。年金形式のときの運用利回りにもよるが、税金や社会保険料が増えて手取り額が減る上、自分が公的医療保険や介護保険のサービスを利用した場合の自己負担額が増えることにもなりかねない。
 ただ定期的な入金がある安心感も大きい。「一括で受け取った退職金を趣味や子どもの援助につぎ込み、結果的に年金形式の方がよかったと悔やむ人も」と山田さん。
 公的年金額が少ない人など、合計額が公的年金等控除の範囲内であれば、年金形式でも税負担などを増やさずに受け取れる可能性もある。
 受取期間は十年や二十年などの有期年金のほか、生涯にわたって受け取れる終身年金が選べる場合も。「終身の選択肢があるなら、長寿リスクを考え、年金形式がおすすめ」と山田さん。自治体によって社会保険料の料率は異なる。各自計算して検討したい。

◆一時金の投資運用注意 先々の支出入 リストに

 退職金を一時金で受け取った場合、投資で運用しようと意気込む人もいる。山田さんは「老後、年金の収入だけで生活費がどれだけ不足するか見極めてからにして」と強調する。
 まず、預貯金や不動産などの資産と、住宅ローンなど負債をまとめた貸借対照表を作り、純資産を割り出す。ねんきん定期便などをチェックし、想定寿命までの年単位で、年金収入や生活費など家計の支出入を記入したキャッシュフロー表を作る。
 例えば月五万円の赤字なら、二十年で千二百万円の不足と分かる。他にも住宅ローンの残債、リフォーム代、車の買い替え費用、海外旅行、病気や介護に備えるお金など確実に必要な費用もリストアップしよう。「必要な生活費を積み上げると、金融資産が三千万円あっても、すぐになくなってしまう人もいます」
 確実に必要な費用は、元本割れのない定期預金などへ。余剰資金を投資信託などで運用するときは、長期の分散投資が基本。「退職後、初めて投資を始めると取り返しの付かない失敗を招く恐れがある。老後資金が不足しそうな人も投資は避けて」と呼び掛けている。

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